自称堕天使ちゃん その1
程度の差こそあれ、誰しも一人の時間というものが欲しい時がある。
俺の場合特にそれが必要だ。
例えば読書の時間。そして寝る時間。
だが世の中というものはいたずらが好きなもので、俺はよく邪魔をされる。
「にゃあああああー!! 怖いにゃー!!」
夜の獣達さえ逃げ出しそうな声が外から聞こえ、俺は目を覚ました。
今日はミーニャが初めて夜の警備をする日。
怖いのは分かる。
だが夜の警備と歯そういうものだ。だから俺は寝る。
過保護なのはよくない。むしろつけ放すくらいがちょうどいい。
それに万が一があっても、他のやつが一応ミーニャを見えないところから見張っているらしいから大丈夫だろう。
そう思った矢先のことだ。
外の廊下をなにかがトタトタと走る音が聞こえ、かと思うと部屋の扉が勢いよく開いた。
俺はとっさに身構える。しかし誰かを認識する前に小さな影が俺のベッドに潜り込んでしまった。
その時、その影がすっかり怖がっているミーニャだと俺は理解した。
「……おい。なにやってんだ」
聞いてもミーニャはベッドの中で小さくなっている。
「そんなんじゃ仕事にならねえぞ。さあ戻れ」
だがミーニャは怯えて戻ろうとしない。
……寝る時間が減りそうだ。
♢
「羽の生えた人間が落ちてきただと?」
門についてようやく落ち着きを取り戻したミーニャはこくこくとうなずいた。
そしてこんな感じだといって両手を広げ、体を下に上にと繰り返した。
「見間違いじゃないのか?」
「そんなことありません!」
ミーニャは必死に腕をバタバタさせる。
まあ、こんな嘘を言ったところで何のメリットがあるって話だ。
「とにかくそれが本当だとして」
「本当です! んにゃ!」
「分かった分かった。だとしたらどのあたりに落ちた? この近くか?」
そう言うとミーニャは少し遠くの森の辺りを指して入り口付近に落ちたといった。
「森の中に入る時はこう……。ふわーって感じに落ちてました」
「ずいぶん詳しいな。目が利くのか?」
「それもありますけど、空から光が輝いていたからです」
ミーニャは両手を頭の上にあげ「こんな感じにぶしゃーって」と滝を表すかのように両手を思いきり下げた。
想像がつくようなつかないような……。
「それで怖くなって俺のとこに来たわけか」
ミーニャは「んにゃ~……」と申し訳なさそうに耳を垂らした。
かなり珍しい例だ。今回は多めに見るとして、ミーニャを監視してたやつが何も反応してないのは妙だ。
……まさか居眠りか? あとで確かめよう。
それよりも今はそいつがこっちに来ることを想定しなければ。
ミーニャの話をまとめると、羽の生えた人間みたいなやつが光を浴びながら降りてきたわけか。
まるで天使でも降りてきたようだな。
本当に存在するかは知らないが、そうでなかったとしてもかなりイレギュラーな存在の可能性が高い。
となると俺がここにいなければならないわけだから……。
「……付けたくないが止むを得ん」
夜の警備のためにと以前魔法使いから貰った袋を俺は開けた。
「ん、んにゃー……。すごい宝石ですね」
ミーニャは袋の中を(勝手に)覗き込みそう言った。
俺はミーニャが宝石といった物、もといクリスタルアイを取り出した。
大きさは俺の手より一回り小さいくらい。
色は……虹色。というか常に変化し続けている。
目につけたら暗闇でもよく見えるようになるとあいつは言っていたが……。怪しすぎる。
「それをどうするのですか?」
「目に入れる」
「ふにゃ?! 痛くないのですか?!」
「俺の目は空洞だ。目の中にある光も実体を持ったものでないから問題ない」
多分な。
ミーニャは不安そうに俺の目をまじまじと見つめている。
そんな風にみられると付けにくいが、さっさと付けるか。
俺は手に持ったクリスタルアイをそれぞれの目に入れた。
少し空間が残っているが、宝の鍵穴に見事ささったくらいちょうどよくハマった。
「うにゃあ……。見た目がすごいことになってます」
だろうな。自分でも見てみたいくらいだ。
「でもどうしてそんなものを付けるのです?」
「暗闇でも目が見えるようにするためだ」
「なるほど。それでよく見えてるのですか?」
「いや、最悪だ」
見えるには見えるし物の区別もできる。
しかし視界の色がギラギラとしていて落ち着かない。
見えるだけで十分だというのに、なぜあいつは普通の物を作ってくれないんだ。
まったくあの好奇心の塊は。
まあ……それよりも羽の生えた人間だ。
「ミーニャ。さっき言ってたやつはあの森の辺りだな?」
「そ、そうですけど」
森の方に目を凝らしてみる。
なるほど、クリスタルアイというだけあってかあんなに離れている森でもよく見える。
どころか何が動いているかもはっきりと見える。
肉食動物。昆虫。そして……いた。
ミーニャの言ってた羽の生えた人間。
色の区別はつかないが、間違いなくそうだ。
見た目は10代くらいのガキ。
こっちをなぜか見ているが、どうやら俺達には気づいていない。
おそらく城を見ているな。
何をする気だ。
…………いいや、決まっている。
この城を攻める気だ。
ならばやる事は一つ。
「け、剣なんか抜いてどうしたのです?」
不安げなミーニャが声をかけてくる。
「……ミーニャ。お前狩りが苦手だと言ってたな」
「え? そ、そうですけど」
「ならよく見ておけ」
俺はミーニャの方へ振り返り――
「これが狩りのやり方だ」
ミーニャの返事を聞く前に俺は走り出した。
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