番外編④みんなで買おう、鬼印猟品
※魔界での一幕
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≪オーガの店の品揃え~
最強最強~
竜の爪でも破れない~
しなやかしなやか~
買おう買おう鬼印~
装備に食品、洗剤、薬も~
買うなら鬼印猟品♪≫
魔界攻略にもだいぶ慣れてきたある日、レオンたちの耳に軽快な歌声が聴こえてきた。その覚えのあり過ぎるメロディーに、一斉にお互いの顔を見る一行。
「お、おいこの歌って…」
「イタリアの歌謡曲のように聴こえますね」
「どっちかと言うと鬼の何ちゃら的な……異世界で? 魔界で!?」
「よし、ちょっと行ってみよう」
「ま、待て怪し過ぎる。俺たちを誘き寄せて殺すつもりじゃ…」
「あんな気の抜ける歌詞で、どんな罠だよ!」
などと言いつつも歌声の元を辿っていくと、そこではオーガの一家が屋台を開いていた。歌っていたのは店先に座り込んでいる子供である。何と、拡声器を使わなくても広範囲に届くような特殊な声を出していた。
≪オーガの店の品揃え~♪≫
「これは…何の店なんだ?」
「へい、らっしゃい!!」
「うわっ、オーガが喋った!」
店主がオーガらしからぬ揉み手で挨拶をしたので、レオンたちは肝を潰した。言葉が通じるのは
「ははあ、お客さん地上の人だね? オーガが店やってるってんで驚いたでしょ。魔界では乱暴な輩だけじゃなくて、こうしてあっしらみたいな商売やってる層もいるって事よ。もっとも、ノウハウを伝えたのは数百年前……魔界攻略に来た人間だけどね。そこで坊主が歌ってるのもそうさ」
「人間……もしかして、転生者?」
「もしかしなくても、この歌はそれしかないだろ。それに店名の『鬼印猟品』って……明らかにアレじゃないのか無印的な」
店頭に並べられた商品を見ると、歌の通り様々なジャンルがごっちゃになっている。そしてどれもこれも虎縞模様なので目がチカチカする。
「この薬は?」
「ああ、それは『鬼の霍乱』と言って病気に効く薬だ。うちらオーガも稀に病気になる事もあるが、よく効くよ」
「鬼の霍乱て……普段健康な人が珍しく病気になるって諺だよな?」
「この洗剤は?」
「短時間でサッと洗いたい人にオススメだ。よく落ちるよ」
「鬼の居ぬ間に洗濯、か……」
やはりオーガなだけに、『鬼』と付く諺関連の商品なのだろうか…。歌の元ネタどおり、パンツもある。レオンはここで、物凄く見覚えのある虎縞ビキニを見つけた。
「お、おいサイケ。これ見ろよ」
「アレだな……世代じゃない俺でも知ってる」
「角もあるぞ。まるっきりコスプレ用だろこれ」
「…お前これ、レードラ様に買って行こうなんて思ってないだろうな」
「いや、キャラコスはちょっと……それより店主、そこの子供が歌ってた内容が気になるんだが。『品揃えが最強』『竜の爪でも破れない』ってのは本当か」
手にしたロングブーツを戻すと、真剣な顔で聞くレオン。
「へい、何をお探しでしょう」
「例えば……パンストとかはあるのか?」
「お前何聞いちゃってんの!?」
「ありますよ」
「あるのかよ!!」
店主が奥さんに持って来させた薄手の靴下……虎縞模様だが向こうが透けて見えるそれは、確かにパンストだった。オーガの職人の手製だそうだが、このぶっとい手でどんな作業が行われているかは想像も付かない。
「虎の毛から織って作った、耐久性通気性抜群の最強靴下です。ドラゴンの爪でも伝線一つせず、強盗するために被っても窒息しないとゴブリンの方々からも好評です」
「ゴブリンが強盗すんの!? 何か、ツッコミ処しかないんだけど…」
そして売れるなら何に使おうと止めない店主。もっとも、この店で強盗なんてしようものなら一瞬で返り討ちだろうが。
「よし、百足買おう」
「百足!? 何でそこまでパンストに拘ってんだ、お前は。もうそう言う性癖なのか?」
「何言ってんだ、ストッキングは社会人のマナーだろう。レードラが裸足でうろうろするの、何とかしたかったんだよね」
「いつからレードラ様は社会人に……」
そしてすべて虎柄と言う事を除けば、品揃えが良いと言う宣伝に偽りはなく、レオンたちは様々な商品を買い込んだ。
「後はレードラが履ける靴があればいいんだけどな……ミュールみたいにヒールがあるのは疲れるって言ってたし、ブーツでもいいんだけどもっと楽そうなの…」
店の端から端まで眺めながら歩いていると、【鬼印猟品】の看板の前に、開かれた宝箱が置かれていた。その中には、一見スニーカーのように見える白い靴がある。
「店主、この靴は?」
「おっ、お客さんお目が高いね。だけどそれは、売り物じゃないよ。世界に二つとない、超絶激レアアイテム。天使の羽でできた靴だ」
「天使? やっぱり魔界には天使がいるのか」
幻想の存在は皆、魔界で生まれると聞く。店主に聞いてもその事実だけで、実物は誰も見た事がないそうだ。
「まあ羽が本物かどうかはさておき、価値は靴の性能と作った職人にある。ドワーフの爺さんでもう隠居しているが、著名な魔道具職人なんだよ。靴はフリーサイズでお客さんにも履けますよ」
店主はスニーカーをベリベリ剥がすと(何故かマジックテープ仕様だった)羽の寄せ集めのようになった靴を地面に置き、足を乗せるように言う。羽はレオンの足を包み込み、再びスニーカーの形状に戻った。
「おおぉ!? これはすごい……確かにドラゴンの爪で破るとかじゃないな。店主、これ売ってくれないか?」
「だから売り物じゃないって……」
「頼むよ、どうしても渡したい相手がいるんだ。金で買えないなら、他にどんな事でもするからさ」
「おいレオン、そんな迂闊な事…」
サイケが止めに入るが、その言葉を聞いたオーガの目が光る。
「仕方がないな、ならば……俺と勝負してもらおうか」
「へ??」
オーガは商品の中から金棒を取り出し、ゴオッと一振りする。
「ここは魔界だ。欲しけりゃ力ずくで奪うのはお約束だろう」
「店主、乱暴な輩とは違うって言ってなかった?」
「あーあー…やっぱこれかよ。どうする? 結構手強そうだぞ」
「僕は反対です。魔物とは言え、目の前に子供までいるのに…」
キャトルはレオンを守るために前に出るが、サイケとニルスは逃げの態勢に入っている。しかしオーガはニヤリと笑うと、金棒をズドンと地面に突き刺した。
「あっち向いてホイで勝負だ!!」
「…はい?」
「戦闘じゃないんだ…と言うか、金棒の意味は?」
「金棒はお約束と言うか、商品の宣伝ですよ」
「宣伝って……にしても、あっち向いてホイで決めるとか、野菜の国かよ」
レオンの呟きに首を傾げるサイケ。
「野菜の国? 戦闘民族の故郷の事か?」
「それ野菜の星な。…まあ、そう言うゲームが昔あったって事」
久々にジェネレーションギャップを感じつつも、レオンは挑戦する事にした。何故か渡されたヘルメットを被り、オーガの店主と向かい合ってじゃんけんを始める。
「あんたバカね、大バカね、最低ね、死んで来い! ビームフラッシュ!!」
四回のあっち向いてホイの後、お互いに手をじゃんけんの型にしたビームの構えを取る。レオンはパー、店主はチョキだ。途端、店主の額から本物のビームが飛び出し、レオンにズドンと直撃した。
「レオン!!」
「うぐぐ…大丈夫、じゃねえ! 何だこの威力、ヘルメットがバラバラじゃねえか」
「何でじゃんけんでビームが!? 戦闘じゃなかったんじゃ…」
「お客さん、ここは魔界ですよ。たかがじゃんけんでも命懸けてんですこっちは。さ、どうします?」
「やる!!」
再びヘルメットを被るレオン。奥さんは算盤を弾き出す。
「ちなみに『悪魔のヘルメット』は一個につき魔界金貨千枚。払えない時はツケとくからね」
「高っ!!」
勝負が再開されるが、大金がかかっていると聞き、パーティーに動揺が広がってしまう。
「じゃんけんホイホイどっち引くの~こっち引くの~、あんたバカね、ビームフラッシュ!!」
ズドン!!
またもヘルメットがバラバラになる。これで金貨二千枚の大損だ。オーガたちは今夜はごちそうだと喜びの舞を踊っている。イメージ的にはレオンたちがごちそうにされそうだが、実際は普通に買って食べるそうだ。
「レオン、もう止めとけよ。こんな靴なんてなくてもいいじゃないか」
「いや、まだだ。あと少しで、掴めそうなんだ……」
奥さんがもう一個ヘルメットを差し出すが、今度は受け取るのを断った。
「次はこのまま行く」
「あんた、何だってそこまで…」
「決まってるだろ? 惚れた女の脚のためだよ」
「語弊!!」
サイケたちのツッコミも流し、レオンは三度オーガに立ち向かう。
「死ぬ気か? たかがじゃんけんのために」
「死中にこそ活ありだ」
そしてビームに貫かれたレオンは地面に倒れ……なかった。レオンが懐のお守り袋からレードラの爪を取り出すと、爪は弱々しく光り、ボロボロと崩れ去った。
「そ、それは超絶ハイパー激レア神アイテム!! レッドドラゴンの爪だと!? 一度だけ即死を回避すると言う…」
「やたら長いけど、とにかくレアなんだな……。お前の技は見切った。次が最後だ!」
ビシッと店主を指差すレオン。一方もう片方の手は、仲間たちに向けて催促していた。
「爪もう一個くれ」
「決まんねえな……死中に活ありじゃねえのかよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…と言う経緯があって入手したのが、この『天使の靴』だ」
地上に戻ってきたレオンが『竜の爪痕』にて、梁山泊一同とレードラの前でゲットしたアイテムを披露していた。静かに目を閉じて聞いていたレードラは、組んでいた腕を下ろす。レオン以外の全員が、察して自分の耳を塞いだ。
「アホか――!!」
洞窟の中に怒号が響き渡り、わんわん反響する。レオンは痺れて動けなくなってしまった。そのままくるりと踵を返し、洞窟の奥へ引っ込んでしまうレードラ。
その間に仲間たちは、魔界でしか手に入らないレアアイテムを分ける事にした。
「マチコ先生にはこれ…虎のバターだって。レオンが『こ、これは例の…』って速攻で買ってたから何かあるのかと思って」
「ああ、例のアレね」
「それで分かんの!? 俺等意味分かんないんだけど」
マチコがバターの瓶を手に取り、その蓋を開ける。するとアンモニア臭が漂い、全員は思わず顔を顰めた。
「うえっ、くっさ!!」
「……っまあ、虎の脂だし。でもアンモニアを中和する方法ならあるわよ。お酢とか……ミルクを入れたり色々やってみようかしら」
「わざわざ虎バター買う必要あったのかな…?」
「ハッ、何かトイレ臭が!」
その時、放心していたレオンが我に返った。一同がレードラが行ってしまった方向を指し示したので、慌てて後を追う。そしてレオンが彼女を見つけたのは、だいぶ開拓が進んで造られた小部屋の一角で、レードラはこちらに背を向けて座り込んでいた。
「レードラ、ごめん」
「…儂がお守りを渡したのは、下らん事に無駄遣いさせるためではない。命は、一つなのじゃぞ!」
「うん、ごめん……どうしても、レードラにあの靴を履いて欲しかったんだ」
背中を丸めるレードラを、後ろからぎゅっと抱きしめるレオン。
「何故、そんなにも靴を履かせたがる…儂はドラゴンじゃぞ? いやウエイトレスをやるにしてもじゃ、他の靴じゃダメなのか」
「だって俺は、皇子様だからさ……お姫様には唯一無二の、特別な靴を贈りたいじゃないか」
「ふん……」
耳元で囁かれて、ますます顔を伏せてしまう。拗ねているのか照れているのか。都合の良い方に解釈する事にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「まー、可愛い!」
マチコのデザインしたウエイトレスの制服を着たレードラは、少しもじもじしていた。着心地が悪いのではなく、褒められたせいだろう。
フリルのたっぷり付いたエプロンドレス。後ろが合わせ目になっている膝丈の巻きスカートの下は、尻尾穴のある同色のパニエとドロワーズなので、スカートを左右に開けば全体が捲り上がる事なく尻尾を動かせる。(動かす事前提なのもどうかと思うが)
「いいね! マチコ先生と言えばやっぱり巻きスカートだよなあ。こっちは徹底的にパンチラ防止したけど」
「レオン君? や・め・て・ね?」
「……ハイ」
レオンが死ぬ思い(洒落にならない)で持ち帰ったストッキングと靴は、めでたくレードラの脚を包む事となった。人前で裸足になって欲しくないと言う、レオンの悲願達成である。
「レードラ、靴の履き心地はどうだ?」
「うむ、悪くない……と言うより履いている感じがまったくない。さすが羽でできているだけあるな」
「本物なの、それ?」
「鑑定してみたが、製作者はドラコニア帝国ルティスの森の小屋に住んでおるドワーフ、フンダラ=カンダラじゃな。かつては伝説と呼ばれる魔道具職人であった。仕事に妥協はせん男だから、材料に関しても嘘は言わんだろう」
「え、その人この国にいたの!?」
天使の羽が本物である事、職人の隠居先が意外と近かった事で、欲がむくむくと湧いてきた。唯一無二と言われる激レアアイテム。だがもし、条件が揃うなら…
「何じゃ、もう一つ作ってもらう気か? あやつは頑固じゃから隠居してからどの依頼も断っておるぞ。それに、天使の羽はどうやって入手する」
「ルティスの森って、マサラが修行してた場所なんだよね。ほら、ミドルネームは『ルティシア』だろ? つまりお前のお師匠様の縄張りでもある。レードラ、紹介状書いてもらえないか頼んでくれないか?
あと天使についてはともかく、代用になりそうなのには心当たりがあるんだ。マチコ先生んとこの領主様が、天使の分身と呼ばれる聖獣を飼ってるって聞いたんだけど」
どうせ無理だろうと決めてかかったのを即座に切り返され、しかもその内容の不穏さにレードラはぎょっとする。
「お主、他国が国教で天使と崇めている希少動物の毛を毟るのか!? そんな悪徳ハンター紛いをやらかせば国際問題じゃぞ、宗教戦争でも起こすつもりか!」
「お、落ち着けって毟らねえから! 生え変わりの時期を狙って、分けてもらうだけだから。なあ、マチコ先生?」
「そうなのよね…私もそこでお料理教室をさせてもらっているのだけど、毛が抜けちゃって毎年掃除が大変だって使用人が愚痴ってたわ」
「そ、そうかそれなら……いや同じ効力があるかは知らんが。どの宗教でも天使は基本、生まれ自体は魔界じゃからのう」
こうしてレオンの裏技により、この世に二つとないはずの『天使の靴』は二足目が作られる事になった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ちなみにレオンが何故あっち向いてホイに勝てたかと言うと。
「結局は最後の『ビームフラッシュ』で決まるんだよね。しかも手の動きが大きいから、よく見たら何を出そうとしてるかが分かる。もちろん、フェイクもあるけど」
「お客さんには叶いませんよ…持ってけドロボー!」
「あの殺人ビームにノーヘルで耐えられるあんたも相当だけどな」
「そりゃ腐ってもオーガですから」
…との事だそうだ。
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