勇者カッピースキーをする。
さて、私たちはマウンテンパレスのスキー場にやっで参りました!
見てください! この広がるゲレンデを! うん、真っ白で目がチカチカする。大自然は感じるけど酸素が少ないような気もしない事はない。
とりあえず、私たちは早速、スノーボードを借りて滑ることにしました。
スキーでもよかったんですけど、やっぱりスノボでしょ! というのはパリピのナッチーの意見です。
「手を離すなよ! 絶対離すなよ! 絶対だぞ!」
「え? カッピーそれ振り?」
「おーい! 早く滑ってこいよー!」
『カッピー芸人枠w』
『身体張る芸人かな?w』
『スノボでビビる勇者w』
下から滑り降りたシーちゃんが手を振ってくる中、私のへっぴり腰に笑いが溢れるコメント欄。
う、煩いよ! だって初めてだし! 私、先日までバリバリの陰キャラだったんだよ!
それをさ! こんな寒い山の中で木の板一枚でクッソ高くて長い坂を降ろうってしてるんだよ! 怖いに決まってるだろ!
足が小鹿みたいにプルプルしてるのを見ているナッチーは何故か微笑ましく生暖かい眼差しで見つめて来ますしね。
やだ! そんな目で見ないで! 私を見ないで!
あ、なんか、それっぽい事を思い浮かべてしまった。
「あっ…」
「あー! ナッチーなんで手を離して! あ、あわわわ! うわー!」
『カッピー!w』
『カッピー暴走モード突入』
『アカン』
ナッチーが気がついたら手を離していたせいで私はそのままズザーっと勢いよく坂をスノーボードで降っていきます。
速い怖い! あー! 誰か止めちくりー!
そんな時だ、私の目の前に巨大な雪だるま人形が出現し、ポヨンッと私の勢いを受け止めるとそのまま私はゲレンデに顔面から転ける。
「ぐぇ」
『ぐぇwww』
『女の子が出したらあかん声出しとるぞw』
『潰れたカエルかな?』
バタンッと倒れた私にツッコミを入れてくる視聴者さん達。
痛い、冷たい、これが自然の厳しさか、鼻が痛いです。鼻血は出てないみたいですけども。
とりあえず、止まるのは止まりました。ふぇ、怖かったよぉ、いや、本当、冗談抜きで。
さっきからズザァっと簡単にシーちゃんとかナッチーとか滑ってるけど本当にどうやって滑ってるんだあの人達。
すると、転けた私の元に心配そうに駆けつけてくれるお方がいらっしゃいました。そう、我らが聖女リーンさんです。
職業、魔法使いなんですけどねこの人。
「大丈夫? カッピーちゃん? 魔法を使って咄嗟に止めたけれど怪我はない?」
「は、はい…助かりました…怖かったですぅ」
「ヨシヨシ」
『リーンママァ』
『あら^~』
『キマシタワー』
『僕も怪我ちたのー』
『↑唾でも付けとけ』
リーンさんの母性に湧くコメント欄。
テメーらには絶対リーンさんはやらないからな! これは私達のお母さんだ! …まあ、ナッチーのお姉さんなんですけども。
何故、皆、母を求めるのか、そんな事言ってると全員、赤いヘルメット被った不審者になりますよ? そんな人は修正されちゃいます。
さて、話がだいぶ逸れちゃいましたけど、リーンさんからナッチーはメッ! と怒られてました。
うん、怒り方も可愛いから全然怖くないんですけどね、ナッチーも謝って来てくれたから許します、可愛いので。
そんなわけで、私はとりあえずリーンさんと一緒に滑ることになりました。
こう見えてリーンさんは私達の中でも群を抜いて滑るのが上手いんですよね、なんでも、ナッチー曰く、昔はスノーボードを趣味でやっていたとか。
なるほど、だからそんなにスイスイ滑れるのか…羨ましい。
「カッピーちゃんは初心者だから仕方ないわよ、でも、私がしっかり教えてあげるから心配しないで? ね?」
「リーンさん、ありがとう…」
「ふふふ、よーし、なら最初から教えるからね…、まずはスノーボードの止め方なんだけど」
そう言って、教えつつも私の手をしっかりと握ってくれるリーンさん。
本当に教え方も優しいですし、丁寧ですね、流石、普段からクッキングチャンネルなどの教えるチャンネルで話をよくしているだけはあります!
私としても頑張ってリーンさんの指導に応えないとと奮起して頑張りました。
ある時は転け、さらに転け、たまに後頭部を強打する様に転け。
「カッピーちゃん、頑張って!」
「ぐ、ぬぬぬ…。こ、コツは掴んできました」
『頑張れ! カッピー!』
『なんか応援したくなる』
『もうすぐで滑れるぞー!』
いつしか、コメント欄の皆も応援してくれるようになりました。
なんだか、暖かいですよねこういうの、昔なら私が頑張っている姿なんて嘲笑れて馬鹿にされて来たのに、こんな風に誰かに自分が応援されるようになるなんて夢にも思っていませんでした。
そして、そんな皆の頑張りに応えようと頑張った数時間後。
「はあ、はあ、や、やった! 滑っても転けなくなりました! 転けずに滑り切りましたよ!」
「凄いわ! カッピーちゃん!」
『よくぞここまで!』
『運動音痴やったのにな…』
『アカン…涙出てきそうや』
皆さん、私が頑張って滑れるようになった事を一緒に喜んでくださいました。
私も思わず、目頭が熱くなります、今まで、こんな風に何かを成し遂げた事がなかったので、とても嬉しかった。
本当は学生時代にこんな風に一緒に喜んでくれる友達に囲まれていたかったのだけど、視聴者の皆さんやリーンさんのおかげでそれを叶える事ができました。
「リーンさんっ…! ありがとうっ…! ぐすっ…! ありがとうございますっ…!」
「ふふふ、いいえ、でも、これはカッピーが頑張った結果よ? 胸を張りなさい?」
「お母さんっ…! うわぁぁぁん…!」
『カッピー大号泣w』
『まあ、…カッピーは昔がね…』
『言ってやるな…』
『せやな…』
そう言って、皆からの温かなコメントが溢れていました。
リーンさんの姿が亡くなったお母さんと重なって、恥ずかしながら、さらに涙が出てきてしまいました。
本当はもっと親孝行したかったなと思っていたんです。けど、もう今となってはそれを叶える事もできません。
リーンさんも私がお母さんと呼んで泣きついてきた事に最初はオロオロしてましたけど、やがて、慈愛に満ちた眼差しで優しく何度も頭を撫でてくださいました。
視聴者の皆さんも私の事情を知ってる方が多数居ますからね、そういった経緯からか、今回ばかりは生暖かい眼差しで見守ってくださってました。
しばらくして落ち着いた私はリーンさんから背中をさすってもらいながら立ち上がります。
「リーンさんありがとうございます、だいぶ落ち着きました」
「カッピーちゃん…」
「すいません、リーンさんが亡くなった母に重なってしまい、取り乱してしまいました。お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」
『ファッ!?』
『カッピー…お母ちゃん亡くなってたんや』
『知らんかった…』
『↑以前、話とったで?』
そう言って、コメント欄からは私の事情を知らない視聴者さんから驚きの声があがります。
新規の方も増えてきてましたからね、私の事を知らない人がいても当然、おかしくはないです。こういう事は私自身も思い出してしまいますからあまり大声で話したくはない事ですし。
リーンさんは優しい眼差しを向けながら、手を重ねて私にこう告げてくる。
「良かったら聞かせてもらえる?」
「…は…はい…ナッチーには…以前、もう話したんですけど」
そこから、私は動画の撮影を切らないままでナッチーに話したように過去についてリーンさんに全てを話した。
正直、何度口に出しても辛い事なんですけど、隠しておく方がなんか余計に辛い気がしましたし、今はどちらかというとナッチーをきっかけに打ち明けたいという気持ちの方が強いですからね。
話し終えた私は出来る限りの作り笑いを浮かべ、リーンさんにこう告げる。
「こんな感じです…重いでしょ?」
「…辛かったわね…」
『泣いた』
『そいつら絶対許さねぇ』
『ほんとひでー話だよな』
そう言って、リーンさんさナッチーと同じように優しく私の頭を抱き寄せるようにして抱き締めてくださいました。
視聴者の皆さんも私の境遇に怒りや同情をしてくれました。その言葉が本当に嬉しいです。
本当なら、シーちゃんにもこのことは打ち明けたいのだけど、なかなかそういった機会も無い…というか、私から言う勇気がないんですけどね。
こうして、抱きしめていた身体をゆっくり離すとリーンさんは満面の笑みを浮かべ私にこう告げる。
「うん、なら、私が今日からカッピーのお母さん役をしてあげるわね! というか、お母さんになってあげます!」
「えっ! …で、でもそれは…」
リーンさんのいきなりの申し出に目を丸くする私。
いや、いきなりそんな、私の事情を知ってくれたのは大変嬉しいのですけど、そこまでリーンさんに求めたら申し訳が無いですよ。
すると、リーンさんは有無を言わせないとばかりに私を抱き寄せ、頭を撫で始めると続けてこう話始める。
「良いわね?」
「…は…はい…」
「よろしい」
『良かったな』
『本格的に聖女』
『ほんまお母さんやで…』
そう言って、撫でてくれるリーンさんの手は手袋越しにも関わらずとても温かいものでした。
それから、私はリーンさんに連れられて、ナッチー達と無事に合流し、その後は一緒に楽しく滑りました。
なんだか、この旅をしているうちに私自身もいろいろ変わってきたのかなと、素直にそう思います。
拝啓、天国にいらっしゃるお母さんへ。
「写真撮るよー!」
「はーい!」
「よーし! 良いぞ!」
私に新しいお母さんと大切な友人たちができました。
ナッチーの掛け声と共に集合する皆、そして、写真を撮る合図を出して、シーちゃんがシャッターを切る。
私達四人は満面の笑みを浮かべ、皆が楽しそうに映る綺麗な写真が出来上がった。
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