第9話 勇者カッピー過去を話す


 

 

 さて、前回、港町シーランドに辿り着くことができた我々勇者一行は宿を探し回り、ひとまず、一息つける事ができた。

 

 あ、ちなみに賃金は皆が視聴してくれた視聴回数やコメント、広告収入なんかでインセンティブが入ってくるので非常に切迫しているといつ事は今のところはない。

 

 とはいえ、長旅にはいろいろ入り用になってくるので、いずれは何かしら働いて収入を得なきゃならなくなるだろう。世の中はそんなに甘くはないのだ。

 

 話は逸れてしまったんだけども、二人部屋を二個確保できた私達は一旦集まって話をしているところである。

 

 そう、それは私達のチャンネル名の話だ。

 

 今のところカッピーと愉快な仲間たちっていうチャンネル名にはしているものの、なんだか、これではしっくり来ないので新しく名前を作ろうと皆で集まった訳である。

 

 

「えーとね、じゃあ、どんな名前にする?」

「そうだなぁー…なかなか難しいよね?」

「意識高い名前なんてどうだろう? ザ・クリエイター! とか?」

「可愛くない、却下」

 

 

 シーちゃんが自信満々に言った案を却下するナッチー。

 

 シーちゃんがしょぼんと落ち込んでいるので慰めてあげる様にヨシヨシとリーンさんが頭を撫でてあげている。

 

 流石にね? ほら、私達、女の子四人組だし、もうちょっと可愛い名前とかが良い気がするんだよ。

 

 こういう時は皆の頭文字取るとかで名前を付けるとかって考えたけど、カナリシとか意味わからん名前になってしまうからなぁ…。

 

 うーん、シンプルなのでも良いかもしれない、そんな中、何か考えていたナッチーはこんな案を出し始める。

 

 

「じゃあ! ブレイブガールズってのはどうかな?」

「ブレイブガールズ…、カッコいいけどどうだろう? リーンさん?」

「そうねぇ…カッコいいっていうのがちょっと強いけど…悪くない名前だと思うわ」

「カッピーは? どんな名前が良い?」

 

 

 そう言って、ずいっと私に間合いを詰めてくるナッチー、顔が近い。

 

 私は少し顔を赤くしながら視線をナッチーから逸らし、少し考え始める。そうだなぁ…できれば私達に馴染みやすくて可愛い名前が良いかも…。

 

 ちょっと考えていると私はふと、ある事を思い出した。

 

 そう、それは、私とナッチーが初めてコラボ配信した時のことだった。私達のコンビ名を視聴者の人が考えて付けてくれた事があったのだ。

 

 確か、その時の名前があったはず。えーと確かなんだっけ。

 

 

「ヴァルキュリーアデルだったかな?」

「あーそんなユニット名だったね! そう言えば!」

「ヴァルキュリーアデル…うん、それも悪くない気はする」

 

 

 案はたくさん出るけども、なんだかコンパクト感に欠けるんですよね。

 

 良い名前が出るばかりにどれにするか迷ってしまいますなぁ、こうやって皆でチャンネル名考えるのもちょっと楽しかったりします。

 

 新鮮な体験です。

 

 

「ヴァルキュリオン…とか?」

「おぉ、なんかカッコ良くなったな」

「でもなんかコレジャナイ感」

「わかる」

 

 

 そう言って、皆に確認を取る私。

 

 あ、なんか、一歩間違えたら人型のロボットっぽい名前になって来た気がする。可愛さとはなんだったのか?

 

 名前決めるのって難しいよね? 皆どうやって決めてるんだろうか。

 

 そんな中、考え込んでいたリーンさんは笑みを浮かべて口を開きこう提言しはじめる。

 

 

「ブレイバーズなんてどうかしら?」

「…うん、シンプルイズベストですね」

「流石お姉ちゃん!」

「決まりだな!」

 

 

 リーンさんの鶴の一声、名前はブレイバーズに決まりました。

 

 なるほど、女の子っぽさは無いですが、シンプルで語呂感が良い! ブレイバーズチャンネル! って言っても別にクドくないし、私としては大変満足です。

 

 という事で、私は早速、皆さんに報告しました。いやぁ、今後がこれで楽しみですね。

 

 

 

 それからしばらくして、とりあえず皆さんはそれぞれの部屋で休む事にしました。

 

 私はナッチーと同じ部屋です。なんか、今まで一人だったから落ち着きませんね。

 

 

「…カッピー、寝れないの?」

「…あ…はい」

 

 

 そう言って、私は寝ていたベットから状態を起こして座る。

 

 何というか、今まで事を考えてると落ち着かなくてなかなか寝付けませんでした。

 

 引きこもりだった私がいきなり、勇者にされて魔王ちゃんとコラボ配信をするための旅に出るなんて思いもしなかったですからね。

 

 そんな私の事を不思議と見つめていたナッチーは私のベットに腰掛けてくると、優しい声色でこう問いかけてくる。

 

 

「私さ、実はカッピーにずっと聞きたかった事があったんだ」

「…え?」

 

 

 そう言って、私の目を見つめてくるナッチー。

 

 なんだろう、聞きたかった事って、私が話せる事なんてさほど大した話は無いと思うんだけども。

 

 すると、ナッチーは私の手を握るとこう問いかけてくる。

 

 

「カッピーは…さ…。どうして引きこもりになったの…?」

「…ッ!?」

 

 

 私はそのナッチーの質問に目を見開くと自分の胸元をギュッと握りしめた。

 

 うん、いずれは何かしら聞かれるんじゃないかなって思ってはいたんだ。

 

 ちなみに、私が引きこもりの配信者になった経緯は私の動画を見ている視聴者さん達は知っている。

 

 本当はトラウマだから、あまり話したくはない事ではあるんだけど、ナッチーや仲間の皆には打ち明けても良いかもしれない。

 

 私はその事について、少しばかり深呼吸するとナッチーにその事について語る事にした。

 

 

「…実は……私、虐められていたんです……」

「えっ?」

「元々、養成学校に行ってたんですけど…そこで…」

 

 

 私はそうポツリポツリ話始めると同時に自然と涙が出てきた。

 

 そう、私は前からこうなってしまった訳じゃない、それにはちゃんとした理由があったのである。

 

 私が通っていた養成学校では、お金持ちの人とかの子息も通う学校だった。

 

 貴族制を廃止はしていたものの、貧富の差は激しい世の中だったので、豊かなお金持ちのお嬢様とかお坊ちゃんなんかも普通にいるのが当たり前でした。

 

 私の家庭はどちらかというと貧しい家庭でそれでも幸せな家庭だったのでした。

 

 もちろん、そういう人達とはクラスは別れていたし、関わる事は無いと思っていました。

 

 だが、ある日を境に私は容姿や家庭が気に入らないという理由である女の子を中心に壮絶な虐めを受ける事になったのです。

 

 それは、私がたまたま見かけたその女の子達のイジメの現場に遭遇し、それを止めに入った事がきっかけでした。

 

 その矛先は私に向けられるようになったのです。

 

 それからというもの、私は毎日、毎日、罵声や暴力を振るわれ、奴隷民と蔑まれました。

 

 私は存在する価値の無い人間なのかと自問自答する毎日、だが、それだけならまだ自分が我慢すればどうにかなると思っていました。

 

 しかし、あろうことか、その女の子達は私の家族に濡れ衣を被せ、私の家庭をめちゃくちゃにした挙句、両親は処刑され、妹は…。

 

 

「…い、妹は…その…」

「大丈夫、辛いならその事は話さなくて良いわ」

 

 

 そう言って、ナッチーさんは私の背中をさすりながらそう告げる。

 

 私達家族は何もしていないのにそんな仕打ちを受け、私以外は全員消えてしまいました。

 

 妹も散々弄ばれ、惨殺されたと聞かされた時は気が狂いそうになったのを鮮明に覚えています。

 

 それから私は逃げる様にその学校を辞めて、街から逃げ出し、新たな街で引きこもる様な生活をするようになりました。

 

 その時に出会ったのがPCであり、家族が残してくれたお金や財産をその時持ち出していたので、それを使って必要な機材を集めて動画配信を始めたというわけです。

 

 本当に心を抉るような出来事でした。

 

 私の妹も辛かったはずなのに助ける事が出来なかった事を今でも後悔しています。

 

 私が今まで親しく話していたクラスメイトだった友人が掌を返して虐めて来た経験は忘れたくても忘れられません。

 

 

「…辛かったね…カッピー…」

「うっ…ぐすっ…うあぁぁぁぁ…!!」

 

 

 私を優しく抱きしめるようにそう告げてくるナッチー。

 

 帰る場所さえ奪われ、壮絶ないじめにより私の心が壊れてしまう時に救ってくれたのは視聴者の皆さんでした。

 

 画面の向こう側でも、私の事を真剣に心配してくれたり、優しくしてくれた事を忘れた事はありません。

 

 この経験があったこそ、私は今まで顔出しで動画配信しなかったという経緯もあります。

 

 もし、顔がバレたら、あの人達から何されるかわからない、そんな嫌な記憶がフラッシュバックして辛くて仕方ありませんでした。

 

 だけど、今は、こうしてナッチー達と一緒にいるからまた挑戦することが出来ました。

 

 陰にいる私にナッチー達が手を差し伸べてくれたんです。感謝してもしきれないですね。

 

 私はその日、そのまま溜め込んでいたものを吐き出すようにナッチーの胸元で涙を流しました。

 

 人前で涙を流したのなんて、いつぶりでしょうね?

 

 それから、泣き疲れた私はそのまま眠りについてしまいました。

 

 

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