第7話 勇者カッピー戦う?
盗賊団から待ち伏せをされた私達勇者一行。
まさか、街から出て三時間くらいでこんな事に出くわすなんて思わないよね、私も思わなかった。
だけど、ナッチー達はどうやらやる気満々みたいです。あ、私は眺めてます、武器持ってないんで。
『はーつっかえ』
『何のためにその胸があるんや』
『そういうとこやぞ』
「だ、だって仕方ないじゃないですか!? 原付バイクだけでどうしろと!」
そう、勇者なのに無力、こんなざまじゃ皆からこんな風に言われても仕方ないですね。
ナッチーなんか、盗賊三人に対して大立ち回りをしている。凄いよねナッチー、陽キャラで戦えて、しかも、配信もできる。
あー、私もナッチーみたいになれたらなぁ。
「秘技、瞬歩斬り!」
「ぐあぁ!?」
「こいつ! めっちゃ早いぞ!」
そんな風にボーッと眺めてたらもう一人片付けちゃってました。
強すぎワロタ、ちょっと、ステータスを拝見するとナッチーは15レベルくらいだった。意外とレベル高いぞナッチー。
あ、私はレベル1です。下手したら雑魚モンスターも殺せないや。
それで、シルフィアは24レベルくらい、リーンさんも26レベル。あれ? レベル1なのもしかして私だけ?
そっか、シルフィアは元々女騎士として正職についてたらしいし、リーンさんはナッチーのお姉さんだから色々経験豊富そうだもんね。
「フレイムブレイク!」
「ハイスラッシュ!」
そして、二人もナッチーと同じくらいかそれ以上の活躍を見せていた。
凄いな、本当、ビックリするくらい強いや、皆。いや、私が居ることが本当に申し訳ないレベルですね。
陰キャラなんで、ずっと部屋に籠りっぱなしだったのがダメだったな…。
すると、盗賊達は悪知恵を働かせたのか、原付バイクに未だ跨っている私の方へと視線を向けてくる。
うわ、まさかこいつら。
「うぐっ! こ、こいつら手強いぞ!」
「あ、あの背後にいるチビのデカ乳女を狙え!」
声を上げる盗賊達、なんと、標的を私に定めてきやがったのである。
さ、最悪だ! ど、どうすれば! わ、私、戦った事なんて無いし! ましてや、雑魚モンスターならともかく、いきなり人間だなんて!
早くも絶対絶命のピンチ、そんな私のピンチを目撃したナッチーは声を上げる。
「カッピー! 逃げて!」
い、いや、逃げろっていきなり言われても、どうしよう!
と、とりあえず、原付バイクでとりあえず逃げ回るしかない!? あ、アクセル入れないと!
そんな時だった、原付バイクにアクセルを入れようとした私の元に既に盗賊二人が武器を振りかぶり迫ってくる。
もうダメか! そう思った瞬間だった、脳内にある言葉が流れ込んでくる。
『アクセルを逆に踏み込み3速にいれるのです!』
「…!? は、はい!!」
私は咄嗟に原付バイクのアクセルを逆に踏み込み言われるがまま3速に入れた。
すると、原付バイクはブルォンと凄い音を響かせ、ウィリーし、襲い掛かろうとしてくる盗賊の顔面に原付バイクの前輪タイヤが直撃した。
これが後に語り継がれる事になる盗賊顔面ウィリー事件である。
顔面を原付のタイヤで吹き飛ばされた仲間を横目に見ていた盗賊の一人はいきなりの出来事に驚愕の表情を浮かべる。
「な、なんだこいつ!? うわぁ!」
そして、そのままウィリーした原付バイクでもう一人もぶっ飛ばしてしまいました。
あ、わ、わざとじゃないんです! 原付バイクが勝手に!
そして、大人しくなった原付バイクは私は改めて跨ると先程聞こえてきた声に耳を傾ける。
『勇者カッピー、聞こえますか? リヴィアです』
「め、女神様!?」
『はい、私です。ただ今、姉、ラヴィアと共にたった今、貴女に授けた力をレクチャーする為に語りかけています』
そう言って、耳元に語りかけてくる女神様。
何! 私いつの間にそんな凄い力を貰ってたの!? 全く気づかなかったわ!
ていう事はさっき原付バイクがウィリーして盗賊二人を倒したのはこの人達の何かしらの干渉か力が働いたという事かな?
それより女神様、勇者カッピーって…、その呼び方どうなのよ。
それはとりあえず一旦置いておこう、それよりも力とは一体。
『その原付バイクとお前のヘッドホンに私達の力を込めてやっといた、まずはヘッドホンだが…どこにある?』
「い、今、一応、バックにありますけど…」
『よし! でかした! バックから取り出して付けろ』
そう言って、女神、ラヴィアさんは私にヘッドホンを鞄から取り出すように促してくる。
一応、携帯ゲームの動画配信用にとカメラと一緒に持ってきたヘッドホン。
私はバックからそのヘッドホンを取り出すとすかさずそれを身につけた。これで一体どうなるというのだろう?
すると、私の奇妙な行動に気づいたナッチー声を上げる。
「ちょっ!? こんな時にヘッドホン!? なんで!?」
まだ、盗賊達はそれなりの数がいる。そんな中、いきなり自分達のリーダーがヘッドホンなんかを付けはじめたら、何を血迷ったのかと思いたくなるのも仕方ないだろう。
だけど、私は女神様からの啓示に従い、行動している。きっとこれが、何かしら意味がある事だと信じているからだ。
そして、女神様達は私にこう告げてくる。
『急ぎみたいだから、要点だけ教えるぞ、お前が付けてるそのヘッドホンを使えば、この映像を見てる奴らのコメントを選択し、具現化、または実体化させる事ができる』
「つまり…それって…」
『貴女の…いや、貴女達の視聴者全員が貴女達の味方になるって事よ』
その言葉を聞いた私はヘッドホンを付けたまま目を見開く。
という事はつまり、視聴者が私達の映像を見て『剣を提供』ってコメントしたものを私がこのヘッドホンを付けて選択すれば剣を召喚できるって事か。
という事はつまり、なんでもありって事じゃないか! なんだこのチートは!
そんな特典を頂くなんてなんだか申し訳ないというか、何事も皆が書いてくれるコメント次第って事か。
『それと、お前が乗る原付バイクは可変式の魔法を施しておいた。つまり、そのヘッドホンと連動してる、その原付きバイクも視聴者のコメント一つで戦車や馬やドラゴンなんかにもなるって訳だな』
「め、めちゃくちゃな…」
『ちなみに、さっき選ばれたコメントは『ウィリーして倒すんだ! カッピー!』ていうコメントだ。お前はヘッドホンを付けてなかったから今回だけ、私達の方で選んで発動させておいたぞ』
なるほど、だからさっきウィリーして盗賊二人を倒したのか。
いきなり、女神様が逆に踏み込んでアクセルを3速に入れろって言ったのは無理矢理原付バイクをウィリーさせる為って事ね、成る程。
そして、ある程度、私に与えた力の概要を話し終えた女神様達は最後にこう告げ始める。
『後は実戦あるのみです♪ 頑張ってカッピー!』
「ちょっ!? さ、最後投げやりではないですか!?」
というかさっきからカッピーカッピーと、この人達、もしかして、私達の動画を見てるな! 絶対!
成る程、要点はわかりました。
つまり、私には今、ナッチー、リーンさん、そして、私の持っていた視聴者とさらに、この動画に新たに視聴者に加わった人が全員味方になったという事か!
私は早速、ヘッドホンをしたまま、流れてくる皆からのコメントに目を向ける。
「皆! 今、私に必要なモノを分けて欲しい! 武器をください!」
『武器? 武器だって?』
『なんだろ、いきなり』
『武器って言ったら対戦車ライフルとか?』
『ちょw』
『それならボーガンだろ』
よしっ! コメントが湧いて出てきた。つまり、これを選択すれば良いのか!
私はすかさず、コメント欄から出てきたボーガンというコメントを選択してみる事にした。すると、私の手元にボーガンが出現する。
お、成る程、こういう事か、理解したぞ!
「援護射撃ー! 発射ー!」
『おぉ! すげー!』
『どうなってんだ一体』
『これは凄いな』
自分達がコメントしたことが反映され、現実化されるという映像に視聴者さん達からは驚きの声が上がる。
対戦車ライフルなんかは私みたいなクソザコナメクジでは使いこなせる気がしなかったので今回はやめておく事にしておきました。
とはいえ、視聴者の皆さんに自分達のコメントが反映されて私やナッチー達の力になるという事を理解させるには十分だったかと思います。
「え!? カッピー! ボーガンなんていつの間に!」
「なんだと?」
私がボーガンを使い援護してくる事に対して驚きの声を上げるナッチーとシーちゃん。
まあ、さっきまで私、丸腰だったもんね、そりゃいきなりボーガン使って援護射撃してきたらビックリするよね。
ちなみに、出現させた物に関しては出現させた時点でその使い方が私の頭の中にヘッドホンを通じて流れ込んでくるみたいだった。
これなら、さっき、コメントに上がってきた対戦車ライフルなんかも使いこなせたりできるのかな? わからんけど。
この能力、コメントを選べるあたり、ある程度の取捨選択ができるからこちらとしても大助かりだ。
しかしながら、この能力で私が戦えるようになったとしても盗賊団を半分くらい減らしたとはいえ、数ではかなり不利に変わりはない。
どうしたもんか…。
「やっぱり人数的に不利か、このままじゃ…」
『俺を呼べ! 今すぐ駆けつけるぞ!』
『↑いや、場所わからんだろ』
『…数的に厳しいな』
そう言って、呟いているとコメント欄からそんな言葉が飛んでくる。
いや、確かにこの場面でもし助けが来てくれるならそれはありがたいけど、流石にそんな都合良くはいかないだろ。
ナッチー達も流石に敵の多さに疲弊しつつある。何人いるんだあのヒャッハー盗賊団達は…。
「まだやれそう?」
「なんとかね、とりあえずカッピーの援護があるから多少マシ」
「くっ…厳しいな」
疲弊したナッチー達を気遣うようにして訊ねるリーンさん。
そんな中、ナッチー達は先程のように私の元に近寄らせまいとさっきとは戦い方を変えて、私を庇うようにして戦っている。
私も出現させたボーガンで戦ってはいるけど、これではまだ足手纏いだ。
なんとかして手助けしてあげたい、そう、私が考えていると私はさっきの女神様達から話をされていた能力について何か閃いたように何かに気付く。
そうだ! もしかしてこれもやれるかもしれない!
私はコメント欄を見てあるコメントを選択した。そのコメントとは。
『俺を呼べ! 今すぐ駆けつけるぞ!』というコメントであった。
私の選んだコメントを反映させるべく、ヘッドホンが光を放ち始める。
そして、私達の目の前に現れたのは筋肉モリモリマッチョマンの眼鏡を掛けたどデカい大剣を担ぐ視聴者だった。
「あ、本当に来ちゃった」
『え? え?』
『何か駆けつけるって言ってたら呼ばれた件について』
『草』
『おい、ガチじゃねーかw』
眼鏡を掛けた大剣使いの恐らく視聴者さんは携帯端末をポチポチしながら、視聴者さん達とやり取りしていた。
なんと、私は視聴者さんを召喚する事に成功したのである。
マジか、こんな事できるのかこれ! 凄いぞこのヘッドホン!
突然の出来事にナッチー達も盗賊団の連中もポカンとした表情を浮かべていた。
私以外の全員、この筋肉モリモリマッチョマンのメガネの大剣使いを見て、え…誰、このいきなり出てきた人、みたいな感じの反応である。
そんな中、筋肉モリモリマッチョマンの大剣使いのメガネさんは大剣を背中から引き抜くと私にこう告げてくる。
「カッピー氏! 助太刀致す!」
「え!? カッピー知り合い?」
「視聴者さんだよ! 呼んだんだ! たった今!」
「呼んだ!? ど、どういう事だ!」
そう言って、動揺するナッチー達に私はさっき起きた出来事を簡単に説明した。
全ては伝えきれなかったけれど、だいたいの要点は皆、把握できたらしい、助太刀に来てくれた方が視聴者で私が召喚した事を理解してくれた。
そして、それから武器を構えた大剣使いのメガネさんは大きくそれを振りかぶり盗賊団へと突撃していく。
ちなみに呼び出した大剣使いのメガネさんのステータスは…なんと驚愕の50レベル。
盗賊団達のステータスがだいたい10レベルくらい。
それから私達は視聴者さんである大剣使いのメガネさんが残りの盗賊団を蹂躙するのをただただ見つめるだけなのでした。
あれ? これ、私達、もしかしてもう何もすることなんじゃね?
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