第6話 勇者カッピー旅に出る。
前回、自己紹介をした私達なんだけども、まだ皆には旅の概要をちゃんと伝えきれていなかったのでこれを機に改めてお話ししようという事になりました。
スーパーカブを他所に撮影してるからね、この動画を見てる皆もいい加減、後ろの原チャリが気になってきてるだろうから、説明しとかなきゃね。
というわけで、気を取り直して皆さんに私からちゃんと説明しよう。
「はい、今回の旅なんですが、私、紆余曲折があって実はあの人気インフルエンサーの魔王ちゃんにコラボしてもらう事になりまして」
「ほうほう、それで?」
「5000km離れた大陸まで行く事になったんですね、なので、今回、このようにパーティーを組んだわけなんですけども」
『5000kmってめっちゃ遠くね?』
『そんな距離あるなら空から行くだろJK』
『コラボって大変なんすね』
『魔王ちゃんとコラボするのか!』
まあ、コメント欄ではこのように妥当な反応が返ってきますね。
そう、場所が遠い、だかしかし、それを楽して行こうとすれば旅費が掛かってしまうのは皆さん、周知の事実だ。
というわけで、今回、私達が考えたのがこちら。
「楽な移動手段はお金かかりますよね? それでですね、あちらのスーパーカブに乗ってね、今回はですね、皆でとりあえず5000km走りきろうと思います」
『(それはひょっとしてギャグで言っているのか)』
『(ファミチキください)』
『(こいつ…!直接脳内に…!)』
はい、視聴者の皆さん、私のあまりにぶっ飛んだ発言に口ではなくついに脳内で話をしはじめました。
なんでだよ、スーパーカブですよ? しかも高性能のやつ! かなり乗り心地は良いんですよ?
そんな中、呆れたようにナッチーはため息を吐くと視聴者の皆さんに話をしはじめる。
「うん、普通はそうだよね、だって原付バイクだよ」
「こんな可愛いデザインなのに!」
『そこじゃないんだよなぁ…』
『ナッチー、涙拭けよ』
『誰だこいつ勇者にしたの』
皆さんの辛辣なコメントが胸に刺さるンゴ。
しかしまあ、キャンプグッズとかもあるし! 皆、寝袋とかも持って来てるからなんの心配もいらないよ! 安心して欲しい。
え? 心配なのはそこじゃない?
「というわけで、原付バイクで魔王とコラボの旅! 5000km大陸横断! 始まりってわけですね」
「先が思いやられるんだが…」
「あ、走行中のカメラの撮影は私がオブジェクトを生成してそちらで皆さんにリアルタイムで映像を届けるのでご安心ください♪」
『ママ助かる』
『聖母リーン様』
『ここに教会を建てよう』
『職業聖女なのでは?』
私の言葉にナッチーと同じように頭を抱えているシーちゃんを他所にカメラに向かって満面の笑みでそう告げるリーンさん。
カメラの向こうでは、リーンさんの計らいに視聴者さん達が大歓喜していました。気遣いができるお姉ちゃんって本当素敵だね。
そして、私は思った、魔法使いって凄いんやな、そんな事思いつかんかった、てっきり片手運転しながら撮影するとばかり。
まあ、これなら安全運転に集中できますからね、だいぶ助かります。
さて、それではスーパーカブに跨りまずは目的地を決める事にしましょう、先は長いですしね。
「じゃあ、まずどういう風に目指す?」
「とりあえず、最初に目指すのは100km離れてるこの街かな? シーランドって街」
「おぉ、港町ですなぁ、魚が旨いぞ!」
『この季節は焼き魚に焼酎だな』
『わかる』
『刺身や焼き貝なんかもオススメやね』
とりあえず、私達は海の街を目指す事にした!
距離は馬鹿みたいに遠いけれども、まあ、着くでしょう頑張れば、のんびりと楽しみながら旅をするのも悪くなかろかうて。
ちなみに、原付バイクはロータリー式変速機、ペダルを踏み込む事で1速、2速、3速、そして、再びニュートラルに戻る仕組みになっている。
逆に踏み込めばいきなり3速になるので注意が必要だ。
しばらく全員が操縦に慣れるまで運転し、スーパーカブの操作をマスターしたところでいよいよ、待ちに待った出発。
「ではいってみよー!」
「おー!」
ブロロンと、エンジンを鳴らして勇者一行、原付バイクで街の門を潜り、冒険の旅へ。
原付バイクで隊列組んでるこの光景はとてもじゃないが勇者パーティーには全く見えない。
しかしながら、リーダーである私は新しいカブの乗り心地に心はルンルン気分である。おそらく、この先、100時間以上運転しなくてはいけない事をこの時、全く理解していなかっただけだろう。
世間知らずとは時に恐ろしい間違いをしてしまうものである。
「さて、運転を始めて1分なんですけども、どうですか? カッピー」
「えー、あのー、そのー、今更なんですがことの重大さに気付いております」
「今気づいたのかオイ!」
『草』
『心配になって来たゾ』
『ナッチーが可哀想でアーナキソ』
そう言って、大体、1分あたりでこれはめちゃくちゃキツくなるなって事を理解しました。
理解するのが遅かったな、もう街出ちゃったよ、ここまで来て後戻りとか出来るわけない。
というわけでこのまましばらく走り続ける事に、皆がしっかりついて来てるか確認しながら、スーパーカブを走らせます。
「いやー、気持ちいいね、とりあえずは」
「風の一部になったみたいだしね」
「みてろよー、その内、尻が悲鳴をあげるからな」
『尻が悲鳴を上げる(意味深)』
『風属性(原付バイク)』
『雨が降ってきたらえらいこっちゃやで』
そう言いながら、コメントの人達との談笑を楽しみつつ運転を続けます。
皆と話しながら原付バイクで走るのってなかなか無い体験ですからね、何というか楽しいです。
引きこもってた時には考えられなかった体験ですよね、原付バイクで皆で旅するなんて。視聴者さんも居ますから心強いです。
「あのーね、見栄え変わんないよねこれ」
「そりゃそうだよだって原付バイクだもの」
「なんていうかね、こうなるのはわかってたじゃん」
『せやね』
『とりあえず、何かが起こる気はする』
『リーナさんめっちゃ座る姿勢よくて草』
「ふふふ、姿勢は大切ですからね♪」
まあ、原付バイク乗って走ってるだけじゃ見栄えはそんなに変わらないですよね。それは仕方ない、そういうものなんですよ、これは。
だが、皆さん忘れてませんか? ここは街の外、何が起こるのかわからないのがファンタジーのお約束みたいなものです。
しばらくすると、道端に何やら馬車のようなものが道を塞ぐようにして置いてあります。
「おや? 事故ですかね?」
「いや、待てカッピー、様子がおかしい」
「不自然ねこんな場所で」
『きな臭いな』
『意図的に置いてるねこれ』
そんな風に皆からのコメントからも明らかに不自然な置かれ方をしているという指摘を頂きました。
カブに乗っていた私達はあたりを警戒し、見渡す。
すると、横の草むらから次から次へと武器を持ったモヒカン頭の男達が現れてきた。間違いない、盗賊だ!
「ヒャッハー! ここは遠さねぇぜ」
「降参しなぁ! へへぇ、女四人か、悪くかねぇぜ!」
ナイフを携えたヒャッハー達はそう言うと取り囲むように私達ににじり寄ってくる。
あまりの出来事に私も顔を真っ青にしていた。
こんなに男の人達に囲まれるのなんてはじめての経験だし、それに向けられてくる悪意が怖い。
「さてと、それじゃやるしかないね!」
「えっ!? な、ナッチー危険だよ!」
「大丈夫、私達ならやれるって!」
「うむ、久々の実戦だが、ようやく真価が発揮できるな」
そう言って、武器を構えるナッチーとシーちゃん。
シーちゃんはすっかり忘れかけてたけど、そういや女騎士だったね。
私達はスーパーカブに乗ったまま、それぞれ武器を構えるというシュールな絵面になっている。よくこの集団を襲おうと思いましたねこの人達。
ちなみに私は武器を持っていない、強いて言えば乗ってるスーパーカブだけである。カメラ入れる際に武器を持ってくるのを忘れておりました。武器の無い勇者、あれ? 私本格的にいらない子なのでは?
斯くして、私達は道を塞ぐ盗賊集団とのバトルに突入するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます