第5話 勇者カッピー顔出しする
さて、我々四人はカブで大陸を横断し、魔王さんのところに向かいます。
その距離、何と5000km、そう、めちゃくちゃ遠いのです。
そして、その道中にはモンスターも湧きます。ただ、カブを運転しとけば良いってもんじゃないんですね、はい。
「カッピー、それはキツいよ5000kmだよ? 5000km」
「もう、この際ドラゴンに乗って送って貰った方が良く無いか?」
「それよそれ!」
シーちゃんの提案に便乗するナッチー。
だが、それでは値段が高くつきますし、やはり旅という感じでは無い気がするんですよね。
私は二人に対して、スーパーカブに跨ったままこう告げる。
「馬鹿野郎! 何が起きるかわかんないから旅なんだろう! …それにドラゴン高いし、もうカブ買っちゃったし」
「ぬあー! もうこの娘はなんで変なとこでアグレッシブかなぁ!」
「はぁ…頭痛のあまり、脳のキャパシティがオーバーしそうだ」
そう言って、ふんす! とやる気を出す私に嘆く二人。
スーパーカブを買ってしまった以上はこれで行くしか道はない、逃げ道は無いのである。
そんな中、空いていた一台のスーパーカブにリーンが跨り始めた。
「あら、なかなか良いわねこのスーパーカブ」
「お姉ちゃん!?」
「面白そうじゃない、ナッちゃん。せっかくだからやってみましょう? ね?」
リーンさん、意外とノリノリである。もうこうなるとあと二人がスーパーカブに乗るか乗らないかだけになるんだが、まあ、リーンさんがカブに跨った時点で流れが変わった
ん? 流れ変わったな? って呟く人がたくさん出てきても良いレベル。
ちなみに強そうではなく、私はすでに強いのだ! …ごめんなさい嘘です、調子乗りました。
ナッチーはシーちゃんと顔を見合わせてため息を吐くと仕方ないと諦めたように肩を竦め、スーパーカブに跨った。
「よぉし、じゃあ出発するぞー! 皆! レッツゴー!」
頑張れ! 私のスーパーカブ! ここまできたらやるしかねぇ!
見てください、すごい絵面ですよ、四人の女の子パーティーがスーパーカブに並んで跨ってる絵面なんて、これはなかなか見られませんよ。
すると、ナッチーは、あっ! と何かを思いついた様に私にこう告げ始める。
「あ、待って! それじゃせっかくだからさ! もう動画撮りながら実況しようか! 交代交代で!」
「あ、それならカメラありますよ、カメラ」
「い、今から撮るのか!?」
「あら! 良いわね! 面白そう!」
そう言って、ナッチーの言葉に共感する様に手を叩くリーンさん、そして、戸惑う女騎士、シルフィアちゃんことシーちゃん。
そんな中、私はバッグからカメラを取り出し始める。一応、小型のやつを持ってきてたから良かった。まあ、旅の間にゲーム実況も出来たらやろうかなとか考えてたんだよね。
しかしながら、まさかの実況、まあ、最近はよく増えてるみたいですけど私達みたいな事をしてる人達って多分少ないだろうから需要あるかも?
しかも、リアルタイムだし、これはこれで面白そうだ。
顔出しにはちょっと抵抗はあるんだけど、陽キャラリア充の魔王ちゃんとコラボするにはやっぱりある程度の人気は必要だと思うしね。
そういう事で私達は交代交代で携帯端末や小型カメラを回しながら、この旅路を早速、実況することにしてみた。
「やあ! みんなー! 元気してるかい? 今日から魔王の元にねコラボ動画を撮りに向かおうと思います! あ! 顔出しは初めてかな? 私はナッチー! Vduberをやってるんだけどね! 今日は1回目って事で軽くメンバーの自己紹介をしたいと思ってます!」
そう言って、簡単に冒頭の動画配信を始めるナッチーちゃん。
既に私のチャンネルやナッチーちゃんのチャンネル、そして、リーンさんのチャンネルではこの告知を行なっているので既存のファン達は私達の素顔を見ようと大勢、この動画実況に集まってきていた。
一種のお祭り状態である。けど、嫌いじゃ無いな、司会をナッチーが務めてくれるからだいぶ楽になってるし。
ちなみに司会は交代ずつやる予定、明日は私、次の日はシーちゃん、そして、リーンさんと回しながらやるつもりだ。
シーちゃん動画撮ったことないから大丈夫かな? 不安だから、補助する人も考えとかないと、ナッチーで良いか。
それからナッチーは皆に対して簡単な自己紹介を述べ始めた。
「という事でね、まずは私から、私はナッチーって言います! 知ってる人は知っている。知らない人は覚えてね? 職業は盗賊だよー! ふふん!」
『ハロハロー!』
『お! この娘があのナッチー!』
『めっちゃ可愛いやんけ!』
『動画いつも見てます!』
「あははー! ありがとう! やっぱりリアルの初顔出しは照れるなー」
そう言って、自身の髪を照れ臭そうに掻くナッチー。
ナッチーの実況に対して見に来た視聴者さんからのレスポンスが優しく返ってくる。
視聴者さんからのコメントはカメラから浮き上がってくるデジタル画面から確認できるから安心して欲しい、科学と魔法が加わるとこんな技術も可能なんやね、しかも、読み上げ機能付き、カブ運転してるときは細かい作業とかできないから、この機能は助かるよね。
便利な世の中になったもんだよ、全く。
それに、私達の視聴者さん達は基本的には優しい人ばかりですからね、私の動画視聴者であるカピオカ民の皆さんは特にですから、ある程度は安心して配信できるかなーとは思います。
それから、自己紹介をあらかた終えたナッチーは話題を変えて、次に自分の姉であるリーンさんの紹介に映ることにした。
リーンさんは日頃から顔出しで動画撮ってますからね、こういう類の自己紹介は得意なはずである。
あ、ちなみに今、撮影してるのは私です。誰かカメラマンやらないといけないですからね、これも致し方ない事です。四人しかいませんし。
ナッチーから呼ばれたリーンさんは私が構えてるカメラの前でニコニコ笑いながら登場。
「はじめまして、 ナッチーの姉のリーンです! クッキングチャンネルとお化粧チャンネルを見てる方には馴染み深いかもしれませんね、 職業は魔法使いです♪」
『結婚してください(迫真)』
『奥様は魔法使い』
『ナッチーのお姉ちゃん美人すぎィ!』
『リーンさん相変わらずお綺麗ですね』
「ふふふ、ありがとうございます♪」
「でしょー! 自慢のお姉ちゃんだからね!」
姉妹仲が睦まじいのは羨ましいですね、私にも妹か姉が欲しかったものです。
リーンさんは満面の笑みを浮かべたままカメラに小型カメラに手を振る。いやー、やっぱり慣れてるなぁ、次はいよいよシルフィアちゃんことシーちゃんの番である。
少し緊張してるみたいだけど大丈夫だろうか?
しばらくして、私はシルフィアの方にカメラを向け、ナッチーはそれのフォローに入る構えを取っている。
「…わ! 私の…名前はその! シルフィアという! 一応、職業は騎士をやらせてもらってて…! そのこういうクリエイビティな事をすりゅのは初めてだかりゃ!」
「はいはーい! 落ち着いてねーシーちゃん、皆優しいから大丈夫だよ?」
『可愛い(確信)』
『ポンコツ女騎士って素敵やん』
『あ、この娘、カッピーが言ってた意識高い系女騎士?』
『髪の毛サラサラやんけ!』
『くっ殺セイダー』
そう言って、シーちゃんの初登場に盛り上がる視聴者さん達。
私やナッチーが事前にシーちゃんのことを話してたから、どうやらすんなり受け入れてもらえた様だ。うんうん、デビューするときって緊張するもんね、よくわかるよ。
さて、それからナッチーのフォローもあり、無事に自己紹介を終えたシーちゃん、さてさて、いよいよ私の出番が来てしまいましたか。
やはり、カメラの前でも緊張するのは緊張しますね。仕方ない、ノリと勢いでやるしかないか。
リーンさんにカメラを持ってもらい、とりあえず私はゆっくりと画面外に待機する
「さて! 皆の衆! お待たせした! 我らがリーダー! 勇者殿をお出迎えする準備は大丈夫かな? あ、この場合、なんていうんだろ? お姫様かな?」
『勇者…一体何カッピーなんだ…』
『どんな陰キャラが…』
『暗そう』
『胸がデカそう』
『ポンコツそう』
『女騎士と勇者がポンコツって大丈夫なんか』
この言われようである。そうだったね、君達は私に対してそんな感じだったね、思い返してみたら。
優しい視聴者さんとはどこに行ってしまったんだろう、良ければ誰が教えてほしい。
【悲報】カピオカ民は私に厳しかった。
誰だ!皆に優しいとか言ってた奴は! あ、私だったわ
私は読み上げられるコメント欄に顔を引きつらせながら笑顔を浮かべる。いや、うん、こうやって彼らを訓練してしまったのは私の責任だからなんも言えねぇ。
仕方ないので、私はいつもゲーム実況でやってる挨拶から入ることにした、こうなればやけだ。
「へい! はいはーい! カッピーだよ!」
『ファッ!?』
『可愛すぎて草生え散らかしますよ』
『うせやろ! 胸詐欺やなかったんか!』
『ロリ巨乳勇者とか素敵やん』
皆の反応が手のひらクルックルで草が生えそうなんだけど。
いや、わかるよ、私の実況のイメージってめっちゃ陰キャラみたいな感じだもんね。だけどさ、いや、あのね? もうちょっと優しくしてくれても良いのよ?
私の登場に対する視聴者の反応を見ていたナッチーは苦笑いしながら、私に一言。
「カッピーのとこなかなか辛辣だねぇ扱いが」
「泣けてきますよ、おい! 私をもうちょっと敬え!」
『ほら、カッピー褒めるとすぐ調子乗るから』
『イキりはじめるから』
『お灸が必要なんだよなぁ…』
『イキって自滅するタイプ』
『草』
「なるほど、それには同意だわ」
「ちょっとナッチー!? それはあんまりだよ!?」
そう言って、流れてくる皆からのコメントに反論する私に周りのリーンやシルフィアから笑い声が上がる。
私、どんなポジションやねん! あ、でもスーパーカブを自慢げに四台買って揃えたのはちょっとイキってたな、なるほど、そういうことか(白目)。
こうして旅立つ前に私達はカメラの向こう側にいる視聴者さん達にそれぞれ自己紹介を無事に済ませる事ができました。
まあ、走行距離は5000kmもあるからね、なかなか長い旅になるかもしれませんけど。
あ、後、実況するチャンネル名も決めないとな、皆に後でアンケート取ってみよう! 何か名案が出てくるかも!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます