第4話 仲間が増えるよやったねカッピー!

 


 ナッチーとパーティーメンバーを探し、意識高い系ポンコツ女騎士のシルフィアことシーちゃんを仲間にした私達。


 さて、その後、二人と別れた私は無事に帰宅。


 視聴者の皆にことの経緯と新しい仲間について話すため、またもや動画配信を行うことにしました。


 魔王ちゃんと対峙する時に視聴者数に差がありすぎると誰こいつとか思われかねないですからね。



「皆の衆! 聞いてください! 仲間が2人に増えたぞよ! やったぁ!」


『おめ』

『カッピーやるやん』

『それは…人間ですか?』

『ヒェ…!』


「失礼な! ちゃんと生きた人間ですよ! ぷんすこ!」



 そう言って、私は視聴者からの強烈なツッコミにプンプンと怒りながら答える。


 全く失礼な! 私とてね、やる時はやる女なんですよ!


 伊達に勇者に選ばれたわけではないですからね! 勇者バンザイ! これで、私の陽キャラへの道がちょっと開けてきた気がする。


 ちなみに、私の視聴者は通称、カピオカ民と呼ばれています。


 なかなか今時って感じの名前でしょう? 黒い粒々ってわけじゃないですけども、いい人たちばっかりなのです。



「で、また明日、1人スカウトして、それから旅の支度をしてようやく出発って感じなんですよね」


『足はどうすんだ?』

『車かな? まあ、でも旅だしな徒歩か』

『いや、馬車かもしれんぞ』



 皆は私の旅の足について質問してくる。


 そうですよね、今や近代化した世の中になってしまいましたし、必要な足が入りますよねやっぱり、車や馬車なんて手もあります。


 ふふふ、ですが、そこら辺はもう考えてるんですよね実は。



「あ、それなんですが、原チャリですね」


『ファッ!?』

『魔物蠢く地にわざわざ原チャリで向かうのか(困惑)』

『これは予想外にすごい地味な絵面になりそう』



 既に4人分の原チャリは用意してあります。


 配達の仕事もできますから資金の調達にも便利ですよねー、これは、流行る。


 まあ、引きこもり陰キャラの私が長旅に耐えられるのかというのはかなり不安なところではあるんですけどもそこは成せばなるの精神でやるしかありませんね。



「さて、それじゃその話はさておきゲーム配信いってみよう! 今日はね、ホラゲやるぞー」


『お、久しぶりのまともな配信だな』

『カッピー生き生きしてる』

『揺れる(どこがとは言わない)』



 さて、ようやく気を取り直してまともな配信ができますね。


 ホラゲの内容は洋館から逃げる3Dゲームです。いやぁ、前の続きから全然進んでなかったんだよねこれ。


 まあ、私としても? ここはやるしかねーなって事で、旅立つ前に精算しときたかったゲームでもあります。



「ほほぅ、この暗号…、名探偵カッピーならこんなもん勘で解けますよ」


『名探偵とは?(哲学)』

『おい、推理しろよ』

『思考を放棄してますねぇ』

『やーい! お前の姉ちゃん脳筋勇者ー!』

『カンタァ!』



 そして、案の定、トラップが発動し、私の操っているキャラクターの頭上から幽霊が飛来し、頭を持っていかれ、キャクターが瞬殺されました。


 私は思わず、あっ、と声を溢します。


 まさか、こんな仕掛けになるとは思いもよらなんだ。だって瞬殺ですよ? たかだかトラップ一つ間違ったくらいで、なんたる理不尽。


 それからはもう散々でした、クリーチャーから引きちぎられ、幽霊からはメタメタにされ、私のクソ雑魚プレイが光ります。



「んにゃあー! また死んだぁ!」


『クソ雑魚プレイ(笑)』

『残機が減る減るぅ』

『んにゃー可愛い』


「もう絶対ゆるさねーからな! 見とけよ! 見とけよ!」



 私はそれから、幽霊を神回避していき、ついにラストシーンにまで辿り着くことに成功しました。


 ゴリゴリ死んだけど、最後に勝てばええねん。


 ホラゲごとき怖くないわ! 幽霊よりな! リアルの人間の方が百倍怖いんですよ!(体験談)。


 ふっ、勇者になった私にホラゲの幽霊で敵うやつなんているんですかね? 敗北を知りたい。



『フラグ乙』

『しっかりと建てていくぅ!』

『イキリ始めたら大体死ぬ』

『イキリ予兆』


「なんだと! 見てろよ! 絶対ノーミスでラスボス倒してやるからな! オラー! あっ…」



 はい、しっかりとフラグを回収、ラスボスから即殺されてしまいました。


 それからは長い持久戦に突入、ホラゲのラスボスってこんな強かったでしたっけ?


 四苦八苦しながらも懸命に体力ゲージを削り、なんとか最後の最後でラスボスの打倒に成功しました。やべー、コントローラー投げるとこだったわ。



「どうだー! 勝ったぞー!」


『敗北を重ねまくったんだよなぁ』

『変にイキるから…』

『そういうとこやぞ』


「うぐ…ぐぬぬぬ…か、勝ったらからノーカンです! ノーカン!」



 しかしながら、称賛の言葉でなく、カピオカ民からは辛辣な言葉が飛来してきます。私の頑張りとは一体。


 まあ、積んでた積みゲーも実況が完了できましたし、なんの憂いもないですね、これで心置きなく魔王の元に向かえるというものです。


 いやマジで行きたくないんだが、本当、なんでこんな事になったかな。



「さて、今日の配信はここまで! 次は旅の最中になるかな?」


『カッピー乙!』

『いやぁ、面白かった』

『カッピーママ…』

『気をつけるんやで』

『体調管理は大切やぞ』



 私が動画の締めに入るとカピオカ民の皆から温かいお言葉が投げかけてもらえました。


 まさか、魔王とコラボするために長旅をすることになろうとはね、しかも、それがいつの間にか勇者の使命になってるもんだからどういう事やと言いたい。


 とはいえ、明日の準備もあるから早く寝て備えなきゃね。



「じゃあ! グッバイ! カッピータイム!」



 そう言うと私は動画の配信を終了させる。


 そのあとは、とりあえず旅の準備を始めた。まずはテントとか寝袋とか、長旅に必要な金銭やら道具やら。


 あちらこちらを探して周り、出来るだけ用意できるものは用意しておいた。


 あと、足りないものは明日買い足せば良いだろう。


 それから私は布団の中に入り、ぐっすりと眠りの中に落ちるのであった。




 それから、翌日。


 ナッチーとシーちゃんの2人と合流した私は最後の仲間の1人を勧誘するために昨日訪れたギルドとは別の酒場に足を運んだ。


 うわぁ、陽キャラがいっぱいいる。酔っ払いもちらほら。


 なんでこんな場所に私達がわざわざ足を運んだのか? それにはちゃんとした理由がある。


 実は昨日、ナッチーにお願いをし、知り合いの動画配信者と紹介してもらえるように取り計らい、この酒場で待ち合わせをする事になっているのである。



「賑やかなのは苦手なんだけどなぁ…」

「まあまあ」



 小さく縮こまる私にナッチーは心配しなさんなと優しく肩を撫でてくる。


 対人恐怖症もある意味ここまで来ると、だいぶ重症かもしれないけどね、まあ、私がこうなってしまったのにもちゃんとした理由があるんだけど、それはまたの機会に話そうと思う。


 しばらくすると、大人しそうな綺麗なお姉さんがこちらの席に向かってやってくるのがわかった。


 茶髪のサラサラした綺麗な髪にお淑やかそうな物腰、それでいて、慈母の様な優しげな目は女神の様にも感じられる。



「あ、お姉ちゃん! こっちこっち!」

「あらあら、ナッちゃん」



 そう言って近づいてきたその女性の姿に私とシーちゃんは思わず顔を見合わせた。


 なんだこの美人のお姉さんはと、そして、極め付けはその豊満な胸である。これは母性を感じられた。


 サイズ的には私と同じくらいだけど、身長が高い事もあって美女という言葉がぴったりの女性である。見た感じ、職業は魔法使いといったところだろうか、しかしながら全体的に色気が半端ない格好である。



「紹介するね! この人は私の姉のリーン・チェンバース! 魔法使いなんだ!」

「はじめまして♪ リーンですっ」



 たゆんと目の前で弾むど迫力の胸、隣にいるナッチーと見比べるとその差は一目瞭然であった。


 そんな眼差しをシーちゃんと一緒に向けたものだから、怖い笑みを浮かべたナッチーから、何か言いたいことでも? と顔を詰められてしまった。


 身の危険を感じた私とシーちゃんは全力で首を振り、なんでもないことを必死でアピールした。


 正直、殺されるかと思いました。あれだね、私もそうなんだけど、胸囲の格差社会が生まれてしまってるね。


 本当に申し訳ないと思っている。


 それから私はナッチーの姉であるリーンさんに自己紹介をそれぞれし始めた。



「は、はじめまして!…あ、キエナ・カピオーレって言います!」

「シルフィアだ。シルフィア・シャルロット、どうぞよろしく頼む」

「あらぁ、こちらこそよろしくねぇ」



 そう言って、優しい手で包み込む様に握手をしてくれるリーンさん。何がやばいって? 母性がやばい。


 拝啓、カピオカ民の皆、朗報です。ウチのパーティーにお母さんができました。


 ナッチーよ、これもうお姉ちゃんやない、お母さんや!


 こうして、魔法使いリーンさんを迎えて4人になった私達一行はようやく旅立ちの準備に取り掛かる事ができる状態になった



「よし! じゃあ、自己紹介も終わったし! それじゃ必要なものを買い集めて、噴水前で集合ね! 皆いい?」

「お、おー!」

「了解した」

「わかったわ」



 ナッチーの一声でとりあえず各自、旅に必要な準備に取り掛かる事に。


 これでは誰がリーダーかわからんね? 私はむしろナッチーがこうしてくれて本当に助かってくれてます。やっぱりナッチーを最初に誘っておいて本当によかった。


 私だけだと本当にやばかったと思う、というかもはやこの街どころか自分の家から出なかっただろうな。


 そして、言い忘れていたが、ナッチーのお姉さんであるリーンさん、この人もまた、動画配信者である。


 この人の場合は主にクッキングチャンネルとかお化粧のチャンネルとか主婦向けや若いお姉様方向けの動画を配信しているGduberですね。


 割と有名な方でキヌッターの登録者数は60万人ほど、すごい社交的なお姉さんである。



 さて、話を戻すが、解散から数時間後、各自、準備が終わり噴水前に集合した。


 荷物も整い、準備万全、皆いつでも旅に行ける。


 さあ、そして、そんな彼女達の前に置いてあるものがある。それは今回の移動手段、つまりは足だ。



「カッピー、あのさ」

「うん、どうしたの?」

「聞くけどさ、これ…何?」



 そして、彼女達の目の前にあるもの。


 それは言わずもがな、4台の原付バイクであった。名前をスーパーカブという、動く原動力は魔力というとてもエコなマシーンである。


 こちらを見て訪ねてくるナッチーに私は満面の笑みを浮かべ、そして、サムズアップで答えてあげる事にした。



「スーパーカブ!」

「うん、わかったとりあえず目を瞑れ」

「待って! 暴力はダメ! ちょっと待って!」



 そう言って、目を光らせて拳をパキパキ鳴らしてこちらに向かってきたナッチーを慌てて宥める。


 そうだ、まずは話を聞いてほしい。


 私とて言い分はあるのである。



「私はね、思ったのよ、遠くに行くならね、節約しなきゃと思ったわけですよ」

「はあはあ、なるほどね? …で?」

「これ見た時ね? あ、コイツは安いわってなるじゃない! 気づいた時には四台買ってた」

「おい、コイツ勇者にしたやつ馬鹿だろ」



 そう言って、ナッチーが言う前に厳しい言葉がシーちゃんから飛んでくる。


 四台安かったんだってば! これなら節約になるし!


 そんな馬鹿とか言わないで! 違うの! ただ世間知らずなだけなの! そんな中、リーンさんは私達のやり取りにクスクスと笑いを堪えていた。何笑ろうてんねん。



「これ一つ15万ギルすんだよ! 四つ買ったら60万ギルもすんだよ!?」

「いや、レンタカーでいいでしょうよ、それならさ」



 いや、そうはいうもののもう買ってしまったものね。


 私はとりあえず原付バイクに跨ってみせると、これは良いものだとばかりに頷いてみせる。


 エンジンをつけてみても割と良い音が鳴っていた。ほら見ろ! 良い買い物しただろ! これ!


 この私の勇者にふさわしい勇気ある行動にナッチーも呆れた様に頭を押さえるしかなかった。


 つまり、これが何を意味するのか? 要はこういう事だ。


 勇者四人のパーティーによる、スーパーカブでの大陸横断、魔王コラボへの旅。


 という企画の様な何かになっているのである。


 距離を考えればかなりの距離になるだろう、まあ、乗り物がスーパーカブだからね、仕方ないね!


 そして、私達に立ち塞がるのはスーパーカブでの疲労だけではない、エンカウントするモンスターもいるため、これは、大変危険な旅になる事だろう。


 今、引きこもり陰キャラ勇者パーティーの過酷な旅の火蓋が切って落とされようとしていた!


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