第3話 勇者カッピー仲間を集める。



 はい、前回ね、見ていた方はわかっているとは思うんですがなんとボッチの私に仲間ができました。


 しかも、なんと陽キャラの仲間です。パーティー初手にしてはなかなかにハードルが高かったと思うんですがそれは。



「カッピーの危機だもん! そりゃ協力するよ!」

「ナッチーちゃん…」



 私は手を握ったまま真剣な眼差しでこちらを見つめてくるナッチーさんの目を見つめる。


 アカン、眩しい、その目が眩しい、私溶けそう。


 闇属性(自称)の私にはその光は眩しすぎます。巣に帰りたい、そして、視聴者のみんなからチヤホヤされたい。


 すると、ナッチーさんは何かを思い出したかのように、あっ! と声を溢す。



「さて、ちゃんとした自己紹介がまだだったね!」

「あ、言われてみれば…」



 まあ、今更なんだけども。


 確かに互いの本名知りませんからね、ナッチーとカッピーくらいしかわかりませんし、なんならVduberとしてコラボ配信をちょこっとしたくらいの仲でしかないですし。


 ちゃんと自己紹介しとかないと、事故紹介にならないようにしなきゃ(ふんす)。



「私はナツメ、ナツメ・チェンバース! 略してナッチーだよ! まあ、呼び方はナッチーで良いんだけど」

「あっ、あっ、わ、私はキエナ・カピオーレって言います…、み、皆んなからはカピ子とかカッピーって呼ばれてます…」

「あ! じゃあ私とおんなじ感じだ! えへへ…」



 何この娘、めちゃくちゃ可愛い、天使かな?


 陽キャラで天使とかもはや最強ではないですか、強すぎワロタ。もう私じゃなくてナッチーが勇者でいい気がしてきたンゴ。


 顔を赤くしながら私に嬉しそうに告げるナッチーについ恥ずかしくなった私は照れ臭そうに下を向く。


 そして、自己紹介が互いに終わり、ひと段落ついた後、ナッチーは私に向かいこう告げてくる。



「よし、じゃあ、勇者殿、仲間集めしないとね!」

「あ、あの!? えっ! 今からですかっ!!」

「そりゃそうだよ、二人じゃ流石に長旅はしんどいからね」



 あ、やだ、また人が増えるんですか。


 コミュ障の私にはかなり辛い、でも、パーティーは確かにナッチーさんが言う通りもっと必要ではあるんですけども。


 でも、ギルドとか酒場とか怖いなぁ行きたくないなぁ…。



「大丈夫大丈夫! ちょっと賑やかなだけだから! ね! ね!」

「あ、いや、あの…」

「先っちょだけ! 先っちょだけでいいからさ!」

「なんの話!?」



 そして、私は嫌々ギルドの前に連れてこられ、今現在、ナッチーから店の中に入れさせられそうになっているのでした。


 いや、言い方、先っちょだけって…、先っちょだけ入ってもしょうがないでしょう。


 まあ、とはいえ、結局は人を誘わなくてはいけないですからね、非常に不本意なんですけども。


 いや、よく考えたら入らなくても良くない? というわけで私帰りますね、え? 駄目?


 店に渋々、ナッチーに連れられて入る私、中には陽キャラがいっぱいいます。お母さん、怖いです、助けて。


 店をしばらく見渡していたナッチーさんはしばらくして、一人の女性に目をつけた。


 綺麗な長いパツキンを背後に束ねてるチャンネーである。キリッと凛々しい顔つきで髪解いたら腰まであるんじゃなかろうか。


 目元もキリッとしてて、なんだか怖いんだな、私はもう帰りたいんだな。



「とりあえず、ほら、あそこに一人で座ってる女騎士さんとかどうかな?」

「ボッチ騎士…」

「こらこら、そんな事言わないの」



 いかん、またお口が余計なことを口走ってしまった。


 でも、ボッチなのはなんだか共感できる。だって私も基本ボッチだもの!


 あ、自分で言ってて、なんだか悲しくなってきた、もう死のうかな、そしたら勇者じゃなくてアンデットにジョブチェンジできるやん? 素敵やん?


 すると、陽キャラのナッチーさんがなんと見ない間に突撃していた。


 ファッ!? なんだその行動力! たまげたなぁ。



「ヘイ! 彼女! 今暇ー? 良かったらウチらとお話ししなーい?」



 声の掛け方が新手のナンパかな? なんかいろいろ間違ってるような気がするんだけど。


 てか、チャラいよ声の掛け方が! 今時そんなナンパするチャラ男なんていないよ! ナッチー!


 すると、コーヒーを飲んでいた女騎士はカップをテーブルに置くとゆっくりとこう話をし始めた。



「済まない、それについて何か私にメリットはあるのだろうか? あ、つまりはこれから君たちと話すことによって得られる私に対するインセンティブの事なんだが」

「あ、やばいこの人めんどくさい人だったわ」

「ちょっとぉ! ナッチィィ! 本人の前で言っちゃだめぇ!」



 なんと、話しかけたのは意識高い系女騎士だったようだ。


 なるほど、これはボッチになるのも仕方ないな、横文字をやたらと使いたがる女騎士ってどうなの。


 それを一本釣りで釣り上げるナッチーは流石です。だが、意識高い系女騎士は動じてない様子、こいつ強いぞ。


 ボッチでも彼女のような強いメンタルが欲しいものである。


 あと横文字ってなんだか聞いてたらイラッとするよね、ナッチーがそんな顔してるもの。


 話しかけた私達は致し方ないのでこの人と話すことに、めちゃくちゃ美人なのにこの人も残念な類の人かな?



「さて、それではディスカッションを始めようか? それで、君達は私になんの用があってアポも取らずに話をかけて来たのかな?」

「…あ、はい、そのですね、実はパーティーのメンバーを探してまして」

「なるほど、それはジャストタイミングだ、実は私もパーティーを探していてね、互いにシナジーとイノベーションを起こせる仲間を探していたんだよ」



 うわぁ、話してるだけで普通の会話のようで会話でないこの…、なんていうか違和感?


 この人、大丈夫かな、横文字使うたびに何故かキリッとドヤ顔するのは若干、カチンとくる。


 意識高い系だからなるほどボッチだったのか、あ、いや、ほんとなんかいろいろ残念だな。



「あ、あの…それでですね、良かったらパーティーに…」

「なるほど、サマリーはわかった、私も君たちのチームに入ってあげよう。何、結果には必ずコミットするさ、任せて欲しい、それじゃ、全員のコンセンサスが取れたという事でいいな? では、パーティーを組むにあたってディテールを詰めていきたいんだが、レジュメはあるか?」

「だぁー! さっきからその話し方! 話し方を止めいッ!」



 そう言って、バンッ! とテーブルを叩くナッチー。


 ついに言ったー! いや、私も思ってたけど、ついに言ったー! いや、わかるよ! 横文字多すぎやねん!


 日常会話で横文字そんな連呼してたら頭が混乱するわ! てか使わんしな!


 すると、さっきまで意識高い系で話していた女騎士ちゃんはひゃい!? っと可愛らしい声を上げてびっくりしていた。


 うん、テーブルいきなり叩かれたらびっくりするよね。私もビクンってなったもん。



「横文字使いすぎ! もう日常会話に違和感を感じるレベル! コミュニケーションに支障をきたしてる!」

「あ…、だ、だがな…その…やっぱり…私のスタンスはデフォルトでこれだから…あの…」

「いや、わかるよ? でもね? 使いすぎて、皆から干されたんでしょう? 貴女」

「や、やめたげて! ナッチー! 傷口を抉らないであげて! トラウマになっちゃう!」



 私はナッチーを宥めながら、涙目になりつつある意識高い系女騎士さんの頭を撫で撫でしてあげる。


 わかるよ、横文字かっこいいもんね! 使いこなしたいもんね! 気持ちはわかる! うん!


 凛々しい顔つきだった女騎士さんはもはやポンコツ女騎士と化してしまった。



「こ、こんなのコンプラ違反だ…! 私だってナチュラルに話をしてるつもりなんだぞ? 私に対してバイアスがありすぎではないのか!」

「企業じゃないわ! コンプラ無いわ! とりあえずあんたにソリューションを提案しなきゃならないってのは間違いないわ!」

「ナッチー! ナッチーも横文字使い始めてる! 使い始めてるから!」



 頭が痛くなってきた、とりあえず普通の会話に戻って。


 ほら、皆がこっち見てきてるから、なんだか気持ち悪くなってきた。というかまだ、自己紹介すらしてないんだが。


 大体の人は話の内容がわかってるのかな? 何話してんだあいつらみたいな顔でこっち見られてるんですけど。


 恥ずかしい、恥ずかしさのあまり死にたい。



「うぐ…、し、仕方ないな…」

「よし、じゃあ普通の会話に戻すわね? 横文字しばらく禁止」



 そして、事が収まり、ようやく普通の会話に。


 やっと本題に戻れる。うん、今まで、彼女に誰も突っ込んであげなかったのかな?


 多分、そんな言葉もわからないのかとかなんとか言って周りから反感を買ってたに違いない、うぅ…なんだかそう考えたらこの娘も可哀想に思えてきた。



「じゃあ、ようやく自己紹介からね? 私はナツメ・チェンバース、この娘はキエナ・カピオーレ」

「…うむ、私はシルフィア、シルフィア・シャルロットだ、シルフィで良い」



 おぉ、まともだ、ようやく普通の自己紹介が飛び交うようになってきた。


 しかしながらシルフィアというのはまた良い名前である。じゃあ私はシーちゃんと呼ぶ事にしよう。


 意識高い系女騎士シーちゃん、ふむ、なんだか動画配信させたらすぐにファンがつきそうだな、今度やらせてみるのも面白そうだ。



「それで、君達は何故、パーティーを集めてるんだ? そのプロセスを踏むのには何か…」

「コホン…」

「あぅ、…ん、その…理由はなんなんだろうか?」



 ナッチーの咳払いに思わず言葉を言い直すシーちゃん。


 うん、仕方ないね、でも言い直すのは偉い、私はショボンと落ち込むシーちゃんを撫で撫でしてあげる。


 さて、その理由なんだけど、まさか、魔王とコラボ配信するための旅をするからとかなんとも言い出し辛い。


 なんて説明してあげたら良いだろう?



「実はそこにいるカッピーが勇者に選ばれてね、魔王とコラボ配信をしに行かなくてはいけない使命をおってるの」

「はい?」



 いや、そうなるわ、勇者に選ばれて、魔王とコラボ配信する使命を得たなんてどんなぶっ飛んだ理由なんだって話ですよ。


 仕方ないので、私とナッチーとの関係や、私達がVduverである事をカミングアウトした。


 それで、女神の悪戯でダイレクトメッセージを魔王に送ったせいでコラボ配信に誘われた事も全て打ち明けた。


 そして、返ってきたシーちゃんの反応はというと。



「…なるほど、理解した…。物凄いイノベーションを感じる話だ」

「イノベーションとは…?」



 いや、イノベーション要素どこにあった。おかしいでしょう。


 斬新的ではあるかもしれないですけどね、普通は魔王は討伐するもんですし、勇者的な立場としてはさ。


 私は苦笑いを浮かべるしかなかった。大丈夫かな、このパーティー。



「あ、キヌッターで魔王呟いてるよ? ドラゴンからスカイダイビングだって、凄いよね」

「登録者数、凄いなこいつ…」

「…やっぱり…コラボとか無理だよぅ」



 魔王ちゃんやっぱりすごいなぁ、また登録者数増やしてるし。


 こんな娘とコラボってどんな風にしたらいいのかわからない、まあ、Vduverのカッピーとして配信したら良いのかな?わからん。


 コラボした結果、頼むから炎上だけはやめてほしい、マジで。


 こうして、新たなパーティーメンバー、意識高い系騎士ことシルフィアを仲間にした私達。


 勇者カッピーの仲間集めはまだ始まったばかりである。


 あ、ついでに登録者数も増やすようにしておかねば!

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