第2話 勇者カッピー勇者になる
さて、女神二人から拉致られてから数日後。
私は動画配信者として、皆の前に顔を出してます。あ、もちろんVduberなのでアバターなんですけども。
流石にね、ほら、陽キャラ魔王ちゃんみたいに素顔出して配信とか出来ませんし、Gduberって言うんですけどね、素顔の配信者さんは。
Gooduberという無料動画配信サービスを使った職業です。私の場合はヴァーチャルなのでVduberというわけですね、陰キャに顔出しを求めてはいけない(戒め)。
というわけで、勇者に選ばれた私は皆に現状報告をしに来たわけです。
「ヘイ! はいはーい! カッピーだぞ!」
『カッピネキ待ってた』
『陰キャの権化』
『イキリ陰キャだー!』
今日は皆に報告があってきたんだが、この仕打ちである。
陰キャなのバレてますしね、なんてこった。誠に遺憾である。まあ、主に私のせいなんですけども。
さて、そんなアホなことを言ってる暇はないですね、本題に入らなければならん。
「さて、皆さんに実はご報告がありまして…」
『お、なんだなんだ?』
『みんなー! カッピーが脱ぐってよ!』
『パンツキボンヌ』
『パンツは燃やした』
「はいはい、パンツは履いてくださいね、燃やした人は…葉っぱでも巻いててください」
なんでこの人達はこんなに欲望に忠実なんですかね。
パンツは燃やさんでも良かったろうに…どうして燃やしてしもうたんや。
まあ、今更言ったところで後の祭りなんですけどね、この際気にしないことにしておきましょう。
さて、報告なんだが。
「私、実は女神から勇者に選ばれたンゴ、どうしましょう…」
『あ、ふーん(ハナホジ)』
『はーい解散』
『つ 診療費』
「ちょっと辛辣すぎじゃないですかねっ! もっと優しくして欲しいなぁ…とほほ」
そう言って、私ががっくりと項垂れるようなモーションを見せると手のひらを返したかのように心配したような声があちこちから上がる。
まあ、冗談というかネタにしか聞こえんかもしれないが、こればかりはマジな話ですからね、というか私だって嘘だと思いたい。
勇者といえば魔王、そして、魔王といえばみんな知ってる人気者である。
『いや無理やろ、カッピーじゃ魔王ちゃんは勝てんて…』
『というか勝てる勝てない以前の問題なんだよなぁ』
『カッピネキ諦めろ』
『カッピネキがカットピングされる模様』
「あ、はい、いや、私もそう思うんですけどね、どうやらコラボすることになりまして…」
そう言って、私のアバターは前から視線を逸らす。
いや、そうなんですよね、まさかのコラボ、しかもあの魔王ちゃんとです。みんな、周りはパリピばっかなんだろうなと予想がついてしまいますよ。
もう、吐きそう、というか、狼の群れに羊を投げ込むかのような暴挙ですよ、これ。
私としてはなんとも言えない状況です。しかも、私は魔王ちゃんの元に赴かなくてはなりません。
「というわけで、私、パーティーを探しに行かなくては行けなくなって…あぅ…どうしよう…」
『うわぁ…何というか…うん』
『勇者部を作るんですね! わかります!』
『おいやめろ』
『無事に帰ってくるんやで』
『勇者部の時点で無事に帰って来れる気がしない』
はい、皆さんも私が勇者であることに対して思わず頭を抱えるような感じになってますね。
いや、その気持ちはよくわかります。引きこもりだった私にはだいぶハードルが高いんですよね、本当。
というか、あの女神二人、私を勇者にしたらなんと街の中にある神殿の祭壇に適当に放り出す始末、またいつでも遊びに来てねーとか言ってましたけどできればもう行きたくない。
ということで、皆さんに報告を終えた私はひとまず配信を終えました。
とりあえずPCは持っていきますし、配信機材は大体旅には持っていけそうなんで問題は無さそうなんですけど。
問題はやっぱり、パーティーですよね、どうやって集めようかな。
あ、でも、一人なら心当たりがあります。とはいえ、以前、コラボした配信者なんですけど…。
どうだろう、とりあえず明日になってまた考えてみようかな。
それから翌日。
私は事前に連絡していたVduber配信者である人物と待ち合わせしていた。
ちなみにコラボしたのは半年前というね、しかも向こうから持ちかけられてですけど、それから私は彼女との連絡をブッチした。
こんなんだから友達できないんですよね、はい、わかってます自覚あります。ですから、先に昨日のうちに謝っておきました。
「うぅ…胃が痛い…周りの視線が怖い…引きこもりたい」
帽子を被りマスクして、顔を隠してサングラスまでしてます。
これでは不審者ですが、背に腹は変えられないです、周りからの視線は痛い、やっぱりお外は怖いですね。
私は噴水前でプルプルしながら、昨日連絡した人物をひたすら待ち合わせ時間まで待ちます。
すると、しばらくして。
「ごめん! 待ったー? あのー…カッピーだよね?」
「ひ、ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられた私は思いもよらない声を上げる。
あっ、あっ、ついにオフで会ってしまった。今までこんなことなかったのに、怖い。
私はビクビクしながら小さく縮こまり、声をかけてきてくれた人物の方へと視線を向ける。
そこに立っていたのは、いかにも活発そうな女の子だった。
オレンジ色の耳に掛かるくらいの短髪に短パン、へそ出しにシルクのチューブトップ、そして、控えめな胸。
スレンダーな体型の彼女は私が可愛らしいと思うほど嬉しそうな笑みを浮かべている。
一言言わしてほしい、めっちゃ陽キャラやんけ!
いやいや無理無理怖い怖い、なんでこの娘が私の前にいるの? あっ、あっ、なんて声かけたら良いんだろう。
「あははは! カッピー! なんでサングラスとマスクしてんのさぁ!」
「あうあう」
「あ、オフでは初対面だから怖かったよね? ごめんね?」
そう言って、心配そうに私の顔色を伺ってくる陽キャラさん、もとい、知り合いの配信者さん。
この人の配信者名はナッチー、割と名が知れた配信者さんだ。キヌッターのアバター登録者数は30万人だけど最近また人気が出てきてるVduberさんである。
ナッチーさんとコラボしたのはさっきも話したが半年前、それからは連絡もしてなかったし、まさかこんな可愛い娘だなんて思いもしてなかった。
「とりあえずお店で話そうか? そこのカフェで良いかね? カッピー殿」
「う、うん」
私は恐る恐る、ナッチーさんから手を引かれ、近くのカフェに座る。
何というか勢いのある人だ、私とは正反対だなぁ、そのコミュ力が羨ましい。
とりあえず、手荷物を置いた私はコーヒーをナッチーさんに頼んで貰うとその間に深呼吸して心を落ち着かせる。
大丈夫だ、私、なんとでもなる。
「あ、カッピー、半年振りかな?」
「は、はい…その、すいません…」
「良いって良いって! ねぇねぇ! 良かったら帽子とサングラスとマスク、とりあえず外して貰えたら嬉しいなって」
そう言って、不安そうな表情でこちらを見つめてくるナッチーさん。
あ、そうだよね…やっぱり顔隠したままだと不安にもなるよね。
私はナッチーさんの言葉に思わずギュッと胸元に手を置く、外は未だ怖いし、できれば外したくないけれど、だけど、私はお願いする立場だし。
「あ、無理なら無理しなくても…」
「あ、いや、大丈夫…です…」
勇気を振り絞れ私、勇者に何故か選ばれたんだ。これくらい頑張らないと。
私はゆっくりと帽子とサングラス、そしてマスクを取り外していき、ナッチーさんに素顔を見せた。
私の顔を見たナッチーさんは目を大きく見開く、なんだろう、やっぱりブサイクだったかな?
女神様とは違いやっぱりリアルの人間だと恐怖を感じてしまう。なんでだろう、女神様と話してた時は妙な安心感があって浮世離れしてた感覚だったからかな?
すると、ナッチーさんは私の手を握ると明るい声でこう告げてきた。
「可愛い! お人形さんみたい! 凄い可愛いよっ! カッピー!」
「あっあっ、あんまりお店の中で騒ぐと…」
「あ、ごめんごめん、でも驚いた! 顔立ち整ってるし、本当に可愛いと思う、あと…」
そう言って、言葉を区切ったナッチーは私の胸元に視線を向けてきた。
あ、う、うん、言わんとしてることはなんとなくわかるよ、わかるけどできれば触れないでほしい。
私とて、胸の成長は不本意なんだ、ナッチーくらいの体型が羨ましいがそれは口に出さない方が良いだろう。
さて、本題を話すかな、うまく話せるかはわからないけど。
「あ、あの、私、ね? 実は女神様から勇者に選ばれて…」
「へ? 女神?」
「う、うん、昨日なんだけど…女神様から拉致されて、勇者になれーって言われて…ね?」
なんか不思議ちゃんみたいな話し方しちゃってるぞ私、大丈夫か?
いやー、引きこもりすぎて外界の人と話してないとコミュ障に拍車がかかるよね、配信はしてたんだけど、やっぱりリアルで話すのは別だから。
すると、話を聞いていたナッチーはしばらく考え込むように顎に手を置き、黙り込むとしばらくして私に続きを話すように促してくる。
「続けて?」
「あ、う、うん、それでね、魔王ちゃん…とね? その…」
「倒さなきゃいけなくなったと?」
「い、いや、あの……実は…コラボする事になって…」
「はい?」
私の言葉に首を傾げるナッチー、うん、そうだよね、勇者といえば魔王を倒すんだけど普通はね?
けど、どういうわけか私はコラボする事になりましてね、えぇ、何でこうなったかわかりません。
私は指をツンツンしながら恥ずかしそうにナッチーに告げる。
それから、足りない部分を補足したり、詳しく話した結果、全容を理解したナッチーは納得したように話を整理して確認しはじめる。
「つまり、カッピーは勇者にされて、女神様の悪戯メールのせいで人気配信者の魔王ちゃんとコラボ配信せざる得なくなったと、魔王ちゃんの元に行く為に旅のパーティーがいるので今集めているところって言う事でいい?」
「うん! うん!」
「はぁ…何というか、うーん…」
頭を抱えるナッチー、気持ちはわかる、気持ちはわかるよ。
私もそんな感じだったもの、パーティー集めるなんて陰キャな私には無理だって言ったもん。
しかも、魔王ちゃんも乗り気だし!
しばらく頭を抱えていたナッチーはバンッと机を叩くと立ち上がり、いきなり私の手を掴んできた。
な、何事!? え? 突然どうしたの?
「私がパーティーに入るよ! カッピー!」
「え、えぇ!?」
そう言って、いきなりの仲間宣言に気圧される私。
いや、もう、そんなふうに迫られたら断れないですよ、いきなりなナッチーさんの言葉に戸惑ってはいたが私は思わず顔を引きつらせるとゆっくりと頷いた。
なんやかんやで、私は勇者としての一歩を踏み出し、新たな仲間を手に入れた!
なる気は全く無かったけれども、成り行きだが仕方ない。
こうなったら、うん、もう諦めて勇者になるか…。
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