陰キャ配信者の私が魔王とコラボ動画を撮る事になりました

伊坂なおき

第1話 無理ゲーの始まり

 


 皆さんは買い物帰り、いきなり女神とか訳の分からない存在に拉致をされ、勇者になれと言われたことはありますか?


 はい、そうですよね、そんな経験なんてないですよね。


 私も普通に生きていればそんな経験に巡り合う事なんてないと思ってました。


 それに、勇ましい者って書いて勇者なんですよ、どこの世界にコミュ障クソザコナメクジの陰キャの私が選ばれる要素あるんでしょうか?


 というわけで、突然なんですけど、女神からの押し売り営業の様な形で拉致をされた私は大変困った状況に陥っております。


 いきなり拉致られた挙句に世界を救うため旅に出ろと言われてる訳なんですね。


 私はどちらかというとインドア派なんですよ、なんでそんな私が旅に出ないといけないんですか。



「勇者よ! 世界の危機を救う為! 頼む!」

「あ、あの、私、これからゲーム配信があるからちょっと…」

「なんと! 引き受けてくれるというのか!」

「話を聞いてくれませんかね?!」 



 だから、この目の前にいるトンチンカンな女神をぶん殴っても文句は言われない筈だ。


 そもそもなんでこうなってしまったのか? それについて少しばかり説明しようと思う。


 引きこもり陰キャラの私は食料を買いに行くため、外に出て買い物に出かけたわけだが、なんと、近くのスーパーに寄ろうとした瞬間、不思議な光に包まれた。


 そして、気づけば何故か知らない家の中で目が覚め、この女神様が前に立っていた。


 そう、早い話が女神様に拉致され、気が付いたらこの場所に連れて来させられたという訳ですね。


 さらに、現在、その女神様から勇者になることを強要され、今に至るという感じですね、だいぶ端折りましたけど。



 陰キャで、引きこもり、そして、もはや17歳になって彼氏が一向にできなかった私にパーティーを組んでこいと! そう言うのかね女神様!


 女神は私の手を取るとわざとらしく目を拭いながら私にこう告げる。



「何という勇敢な方だ…! 是非、世界を救った後は私の妹をやろう!」

「誰か! 救急車呼んできて! 見ればわかるよね! 私、女だよ!」

「性別など些細な壁だ。え? 私と婚約したいだと? ふっ…欲張りだな君は」

「えぇ…」



 私の話を聞かないどころかなんか気持ち悪くウネウネして顔を赤めている女神さん。


 折角、プロポーションが抜群でしっとりとした綺麗な赤い髪に透き通った水色の眼差しなのに言動で全部打ち壊しにきている。


 困惑している私を他所にとんとん拍子で話が進んでいるんだよなぁ…陽キャ怖い。


 皆、こんな大人になったらダメだぞ。



「あっあっあっ…わ、私、勇者とか無理ですっ! 今まで街で引きこもってばかりだったのにいきなり勇者なんて…」

「まあまあまあ」

「いやいや、何、私の服を脱がして装備着せようとしてるんですかっ!」



 私の服を掴んで脱がせようとしてくる女神に抵抗する私。


 やらせはせん! やらせはせんぞ!


 いやだ! 私は引きこもって人気配信者になるんだ! あ! スカートをつかまないで! パンツ見えちゃう!


 あ、自己紹介がまだでしたね、私の名前はキエナ・カピオーレと言います。親しい人は…居ませんが、視聴者の人からはカピ子とか、カッピーとかカッピネキとか呼ばれてます。


 今、女神様にスカートを引っ張られ、ピンクのパンツが見えてる、長い紺髪で髪の先端が青く、身長がちんまりで無駄に胸がデカいのが私です。


 年齢は17歳、職業、引きこもりです。



「いやぁっ! 見えてるっ! 見えてますからぁ」

「クフフ、もうちょっとだな…じゅるり」



 このど変態が! 本当に女神ですかこの人!


 じゅるりとか言ってるんですけど! 誰かー! 誰か助けて! 


 なんなら、私がこの間買った駄菓子もあげます!


 と、その時だった、女神の後頭部からガンッと鈍い音が鳴り、きゅう、と私のスカートを掴んでいた女神は気絶してしまった。



「大丈夫ですか? ごめんなさいウチのお姉ちゃんが…」

「い、いえ…間一髪でしたから…」



 危ない、この人、スカートだけでなく、なんと、私のパンツにまで既に指をかけてましたからね。


 どこまで脱がすつもりだったんでしょうか…、なんと恐ろしいやつなんだ女神。


 私はすかさず助けてくれた方へと視線を向ける。


 そこに立っていたのは綺麗な金髪の髪を後ろに束ね、先程と同じ女神同様に透き通った水色の眼差しをした綺麗な女性だった。


 ただし、勝気な眼をした女神とは違い、トロンとした垂れ目のお淑やかそうな綺麗な女性である。


 フライパンを握りしめている彼女は照れくさそうに笑みを浮かべるとスカートを直している私に話をし始めた。



「私の名は女神、リヴィアと申します。先程はウチの姉であるラヴィアが失礼致しました」



 そう言って頭を下げてくるフライパンの女神様。


 というかなぜフライパンなんだろうか? もっといい手頃なものがあった気がするんだけど、ここは敢えて突っ込まないでおこう、似合ってるし。


 しかしながら、ラヴィアにリヴィアか…確か、人々が信仰している神様の名前にそんなのがあったような気もする。



「さて、勇者様、お願いです、貴女様に是非世界を救っていただきたいのです」

「はぁ…」



 そして、再び最初に戻ると。


 仕方ないね、だって私、勇者じゃなくて陰キャクソザコナメクジだもん。痛いの嫌いだもん。


 こうしている間にすぐに30歳とかになるんだろうな、あーやだやだ、年取るのって怖い。



「今、世界では魔物達が暴れ出し、危機に瀕しております、ある時は街も襲われて…」

「え? でも、この間、街に来た魔物達、砦の波動砲で全滅させられてましたよね?」

「…………」



 そう、そして、私が別に勇者をやらなくていいやと思っているのは近代化しすぎた優秀な街の技術のせいである。


 今や、ソーシャルネットワークが流通し、グローバル化が進みすぎたせいで、魔物とかドラゴンとか、そんなのが街を襲う前に消滅させられてしまうのだ。


 国連軍もいる為、別に勇者とか要らなくね? とかいう感じになってしまってる。


 なんか、ついこの間とかもキヌッターと呼ばれるツールかなんかでダンジョンなう! コボルトやばいンゴ! とか、メントスコーラでゴブリン倒してみたとかわけのわからん動画が上がってたりした。


 そんな世の中なのに、今更、勇者? うん? となる私の気持ちは多分皆ならわかってくれることだろう。


 ちなみによく酒場やギルドで集まってるパーティーとかいうのはサークルみたいな感じなので、つまりは大半、陽キャの集まりである。死ねばいいのに。



「はい、てなわけで私要らない子なのでは?」

「いやいやいや! そんな事はありません! …多分」

「多分?」



 うんなんだろう、雲行きが怪しくなってきましたぞ。


 この女神様達、本当に大丈夫なんだろうか? 大丈夫? 飴ちゃん食べる?


 多分じゃないんだが、多分じゃ困るんですけど、拉致られてるこちらの身としては。


 そんな中、復活してきた女神リヴィアの姉、ラヴィアは赤い髪を靡かせながらため息を吐きこう話をしはじめた。



「いやな、最近、私達もこんな情勢だから色々世知辛くてな…、ほら、数十年くらい前までは勇者をほいほい送り出してたんだが」

「調子に乗って異世界から引っ張って来ちゃったのがダメでしたねぇ、やっぱり…。…まさかこんな風になるなんて」

「あのイノベーション起こすとか言った奴がヤバかった…あれ以来、私は林檎がきらいになったよ」

「いえいえ、それよりメガネ掛けたあの人の方がヤバかったですよ、PCの前でいつもカタカタしてましたけど」



 女神達の話によれば、数百年くらい前までは普通に勇者が必要で世界の危機とかのためによく呼び出していたそうな。


 まあ、女神のお二人のお話の通り、異世界から呼びすぎた結果、人類が技術バーストしすぎて、とんでもなく近代化しすぎてもはや、魔物程度じゃ人類の相手にならなくなったという話ですね。


 ていうか自業自得なのではないだろうか、そのおかげで私はVduberの配信者としてご飯を食べていけてるんですけども。


 いざとなれば、今は国連軍とか出てきますし、比較的安全です。



「まあ、そのだな、異世界人は全部帰して、やっぱり原点回帰という事で自家生産の勇者が1番という結論に至ったわけだ」

「やっぱり、自家製が1番よね♪」

「いやいや、家庭菜園じゃないんだから」



 私は勇者の原点回帰に対してツッコミを入れる。


 というか、散々、自分達が呼び込んだ異世界人にブーブー言っておきながらちゃっかりその恩恵を受けてますからね、いろんな家具とかテレビとかPCとかタブレットとか。


 さっき、林檎嫌いとか言いつつ、あれはなんですかね?林檎のマークがついたPCがあるんですがそれは。


 そんなの置いてたら説得力皆無ですよ、皆無。


 ダメだ、この人達、なんとかしないと。


 というか、そもそも勇者に選ばれた私は何をすれば良いのかすらわからないし。


 そんな中、リヴィアさんが用意してくれたお茶を啜りながらラヴィアさんはこんな事を語り出す。



「欲求不満な女性がわざわざゴブリンに捕まりに行くなんて数百年前なら考えられなかったんだぞ!」

「本当ですよね、今はすぐに救出されますからねぇ」

「全く、何を考えてるんだか」



 いや、まあ、そんな事を言われましてもなんも言えません、あ、ちなみにゴブリンの繁殖方法は他のメスを捕まえてからじゃないとできないらしいです。


 適度なのは人間だとかエルフだとか獣人だそうで、とはいえ、ラヴィアさんが言うように相当なもの好きじゃないとそんな事はしませんけどね。


 さて、それではここから本題なんですけども。



「というか、勇者って何するんですか?」

「それはお前、旅だな、それに冒険、女遊び…とか?」

「だから私、女ですってば!」

「何言ってるんだ、女遊びは女でもできるだろ! なんなら私がお前を抱いてやろうか?」

「何故そうなるんですかね…」



 私はドヤ顔で言い切るラヴィアさんに呆れたようにカクンと頭が落ちる。


 しかもそもそもそれは過程であって目的ではないですからね! 私間違ってないよね! もうやだ、帰りたい。


 しかも、とか? なんて言ってますよ、この人! 実際、なんも考えてないでしょ。


 そんな中、妹の女神リヴィアさんはにこやかな笑みを浮かべこんな事を話し始める。



「あ、なら、魔王を倒すとかどうでしょう?」

「それ今考えついたみたいに言ってませんかね!? おかしくないですかねっ! おい!」

「あ、魔王ならちょうどキヌッターやってるぞ、ほら」



 そう言って、私に携帯端末を見せてくるラヴィアさん。


 そこにはバーベキュー楽しかったなう! めっちゃ盛り上がったわぁ! とか書いてあった。


 ちょっと待て、魔王めっちゃ陽キャやん? え? 嘘、こんなん絶対無理やろ、どう倒せっちゅうねん。



「あっあっ無理、無理ですっ! 魔王半端ないって! こいつ半端ないって! めっちゃ陽キャラアピールしてくるもん! そんなん出来へんやん普通!」

「いや、普通にできると思うぞ、普通のやつは」



 私が涙目になりながら訴えかけるのも虚しく、ラヴィアさんから冷静なツッコミを入れてくる。


 こいつは悪魔か! いや、女神やったな! いやいや、無理や! そんなん無理や! 私にはハードル高すぎンゴ!


 しかも、写ってる魔王ちゃんめっちゃ可愛い、可愛さの権化である。


 なんたって、銀髪の肩まで掛かるほどのショートカット、赤いながらもパッチリとした眼、それに整った顔立ちが本当にふつくしい。


 美しいではなく、ふつくしいですからね、お間違い無く。


 黄色の髪留めとかしてますし、本当にあざとさの権化です。無理、こんなん倒せる気が皆無ですよ。



「じゃあ、早速、送ってみるか」

「は?」



 そう言うと、ラヴィアさんはどこからか携帯端末を取り出して何やらメールを打ち始める。


 ん? それ、どこか見覚えのある機種なんですが、というか私がよく持ち歩いている…。


 何かを把握した瞬間、私の顔から一気に血の気が引いていくのがわかった。



「今度、コラボしましょう、そっちにいきますね、by勇者 送信っと」

「ぬあああああああああああ!? それ私の携帯ィィィ!!」



 何という事でしょう、ラヴィアさんが勝手に私の携帯を使い、キヌッターのダイレクトメッセージを魔王さんに向かって送りやがった。


 女神様女神様女神様!!!困ります!あーっ!!!困ります!!! 送信は困ります!!!あーっ!!!あーっ!


 何ということをしてくれたのでしょう。


 もう時既に遅し、私が止めに入る間もなくメッセージは魔王さんに行ってしまった。



「あっ…あっ…あっ…これやばい、どうしよ、どうしよ」



 ちなみに魔王ちゃんのキヌッターの登録者数なんと驚異のラスボス級である200万人、対して私は50万人くらい。


 そう、魔王ちゃんの4分の1にも満たないし、しかも、これは私自身ではなくVduberのアバターアカウントの登録者数である。


 戦闘力が段違いなのだ、こんなん勝てんよ…。



「お、返信来たみたいだぞ、魔王から」

「え!? う、嘘ぉ!?」



 そんな中、絶望に打ちひしがれているとなんと魔王ちゃんから返信が速攻で返ってきた。


 あばばばは、どうしよ! どうしよ! あっあっ、なんで返していいかわからないんだが!


 そんな中、ラヴィアさんは魔王ちゃんから来たメッセージを読み上げる。



「是非、コラボしましょう! 勇者ちゃんに会いたい! だって」

「うぼぁー!!」

「カピ子ちゃん!? ちょっと!」



 私は魔王なのに天使のようなその返信に思わず吐血した。


 もう私はダメかもしれない、勇者なんかに選ばれていきなり魔王を倒しにいくなんて。しかも、コラボですって、ハードル高すぎるわ!


 薄れゆく意識の中で私はこう思わざるえなかった。というか、思うほかなかった。



 陰キャ配信者の私が陽キャな魔王を倒すなんて無理ゲーすぎる!と

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