記憶を失う三秒前に
山田 ショージ
第1話 プロローグ
「人間」が嫌いだ。
尽きることのない欲望に踊らされ、時には争う。そんな「人間」が、自分を含めて気に食わない。
ーーー
机の上には人の顔がゴロンと転がっている。それは金属質で、光を当てると鮮やかな光沢を放つ。
博士はその顔を両手に抱え、組み立ててある胴体の上に置いた。
「これで、完成だ。」
ガチンという音と共に、人型の機械から青白い光が浮かび上がる。
やがて目に光が灯ると、機械の口が動いた。
起動開始ーーーこれより動作確認に移ります
無機質な声が、狭い部屋に反響する。
室内は、研究資料や工具などが散乱しており到底綺麗な部屋とは言えない。それでも足元は確保しているようで、ドアから机の道は木張りの床が見えていた。
全ての動作確認及び予備電源装置の起動を確認ーーー起動完了します。
「あなたが私の#博士__マスター__#ですか?」
「あぁ、そうだ。」
機械についているチューブ状の装置が外れ、一歩前に出る。
「お前は、私の世話をするために作った。喜べ、死ぬまでこき使ってやる。」
博士は、左足が悪く杖をついていた。自分で作った所々不恰好な松葉杖だ。
「はい、#博士__マスター__#。」
表情は崩さず、透き通るような青色の髪が天井の電球に照らされる。
機械だが、見た目は大人の女性のようだ。控え目な顔立ちで、近くで見ても人と変わらない。しかし、声が無機質である為目を瞑ればすぐに機械と分かる。
こほんと咳払いをし、博士は命令を下す。
「そうだな…、まずは飯と風呂の用意をしろ。」
了解しました。と言って、自然な足取りで台所へ向かう。
家は、広いが一人暮らしだ。大人になって、土地を切り開き山の中に家を建てた。町からは離れているが、趣味のタバコ以外は全て揃っている。水や食べ物は山でとればいいし、家具やパソコン、この機械だって自分で作った。寂しいとか悲しいとかは一切感じてない。一人で生きてきた。
…孤独を好んでいた。
リビングの方からザクッと鈍い音がする。
台所の方で料理をしている機械が、まな板に包丁を突き刺していた。
「どうした。整備不良か。」
「私は、料理の仕方がわかりません。」
思い通りにいかず動作を停止する機械に、博士は彼女が持っている包丁をひったくる。
「やり方を見せるから、目を離すな。明日からは、一人でやれよ。」
仕方なしに杖を壁にかけて、台所に立つ。
ありきたりのビーフシチューを作る様子を、精気の宿っていない目でじっと見つめていた。
ーーー
ゆっくり更新していきます。
記憶を失う三秒前に 山田 ショージ @yamada0120
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