第7話 蘇る記憶
——先生って、葉子にぴったりだよ
——葉子が先生になったとき私がが高校生だったら、絶対葉子に教わりたい
高校2年のさくらは、いつもそう言って私を励まし寄り添ってくれていた。
——ごめん、さくら。私はいい先生になれなかった……。
そのままではベンチからも崩れ落ちそうな気持ちのまま右手が触れた何かに抱きつくようにつかまり、ボロボロと涙を流しながら、また盛んにさくらのことを思い出していた。
自分でもわかっていた。さくらとはずっと励ましあいながら大事な友達として長い人生を生きていく、それを放棄したのは私だった。だから、教師になれても、そこに大事なピースが欠けている限り、私はちゃんと先生という職業と向き合えないことを、最初から気がついてはいたのだ。
その私の心の傷を、まだ高校生の桜子に見透かされ、あげく鋭く指摘されて、私は一気に崩れ落ちてしまったのだ。二度と立ち直れないほどに。
「もう泣かないで」
私はその言葉に現実に戻されたと思う。
その時になって初めて気がついた。泣きながら私が必死に掴まっていたのは桜子の腕だったこと。そして桜子が崩れ落ちそうな私をそっと抱いてくれていたことを。
彼女も戸惑っていたらしい。まさか自分の言葉がそれほど強く私に突き刺さってしまったことに。
「ごめん、先生。言いすぎた」
彼女は小さな声で私にささやいた。
「だから、大丈夫だから。先生、大丈夫だから」
そう言いながら、桜子は私の体を優しくなでているのだ。
我に帰った私は、慌てて彼女から掴んでいた腕を離した。
——恥ずかしい…。
大人の私が高校生の女の子に泣きながらすがっていたことに、例えようもない恥ずかしさを覚えた。そして何故か、この場所でさくらとキスしたことが、昨日のことように思い出された。大人になった、今ならキスの方がなんともないかもしれない。そんなことを思った。
それから、桜子という子が本当はとても優しい子だとわかったのだ。
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