第5話 懐かしい並木

 その桜並木は実家から母校へ通う道の途中にあり、ぐるりと公園を回り込むように続いている。この春から通う学校とはひと駅離れていて、私はずいぶん長い間この道を通っていなかった。というより、さくらとのあの日以来できるだけこの道を避けてきた。

 新しい学校に転勤して初めての週末を迎え、所用で実家に帰るついでに、懐かしさもあり久しぶりに桜並木を通ってみる。


 桜の咲き誇る頃はそれは見事なピンク色に染まる桜並木の小径だが、4月に入ってすでに花弁は落ちてしまい、今は緑の鮮やかな葉桜の並木となっていた。


 ——知っている人に見られたのではないか。


 さくらとのキスの後、私はそればかりが気になり、この小径を抜ける必要がある時も足早に下を向きながら走り抜けた。「あの時、女の子同士でキスをしていた子」と思われるのが恥ずかしく、一緒に歩くと指を刺されそうな気がして、いつしか私はさくらと距離を置き、行き先にさくらが待っているのがわかると踵を返して道を変えた。


 あの日以来、初めてゆっくりとこの道を歩く。


 さくらとキスをした、公園との境目にあるベンチがこの先にある。一歩ずつ近づくにつれて胸が高鳴る。思い出して顔が火照るのがわかった。私はまだあの日のことを、さくらの唇の柔らかさを忘れてない。


 ベンチが見えた。髪を金色に染めた女の子が一人座って本を読んでいた。


 初めて会った日、黒髪だったはずの春川桜子だった。

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