第8話 企み

リテアがダークドラゴンと対峙していた頃――――





遥か遠くの上空で、1人の魔人が翼を広げ飛んでいた。


「くそっ!聞いてないぞ!なんで生きているんだ!!」


リテアに逃がしてもらった魔人――サクリフィスは吐き捨てるように言う。


「とにかく、帰って皆に知らせなくては! このままでは俺たちが危ない。」


翼を忙しくはためかせる。


「城はまだか! ――俺も『空間転移テレポート』が使えたら・・・!」



城――人間はこう呼ぶ―――魔王城と。



ごく僅かに、人間には見えないほど遠い位置に、城の輪郭が見えた。


「まずは人を集めなくては――!

 ――だが慎重に集めなくては・・・先日のこともある・・・。」


サクリフィスの脳裏にフーシェの顔が浮かぶ。


「三大魔人が大人しくしていてくれるといいのだが・・・。」


さらに飛ぶスピードを上げる。城はもう目と鼻の先だ。


――――――


城に着いた瞬間、サクリフィスは声を掛けられた。


「おおぉ~? 君ぃ、こないだ『美味そうな小娘ガキを見つけた』って言ってた奴だよねえ?」


白い服と対照的な黒い髪と瞳。先日の会議で偉そうに発言していた、青年容姿の魔人だ。

仲良くなったつもりはないが、なれなれしく肩に手を回してきた。


「・・・・でぇ?どーだったぁ?その小娘ガキ、美味かったかよ。」


今はこいつと話している余裕なんてない。一大事なのだ。


「すまないが、その返答は後にさせてくれ。きさま―― ・・・『きさま』じゃあ呼びづらいな。名を教えてくれ。」


「・・・ヘンリだぁ。よろしくなぁ。」


自身の質問に対する答えを得ることが出来ず、不満なのだろうか。――その言葉には何の感情も感じられない。



「ヘンリ。先日、会議に集まっていた魔人たちを集めてくれないか?」

「なんで、俺がそんなことをしなくちゃいけないんだあ?」


――――こいつはまだ現状を分かっていない。

『さっさと言うことを聞け!』と怒鳴りたい気持ちを飲み込み、申し訳なさそうな表情を作る。


「ヘンリ、こんなことを頼んですまないな。だが、とても大切な話をするんだ。頼みを聞いてくれるか?」


我ながら完璧な表情と声音こわねだ。


「いいぜえ。面白そうだしなぁ。」


ヘンリは即答する。


――ようやくこいつも事態を理解してくれたか・・・。

こういった無能が多いと困る。首を飛ばされ死んだ魔人は、魔人どもをまとめるのにさぞかし苦労していたに違いない。


「では頼んだぞ。ヘンリ。俺は疲れた。少し寝る。」

「おい待てよお。」


去ろうとしたその時、ヘンリに声を掛けられる。

疲れでイライラがピークに達していたサクリフィスは、危うくキレそうになる――が、


すんでのところで我に返る。

――危ない危ない。忙しいこの時に、殴りかかられでもしたら大変だ。

・・・まあ、ヘンリの瞳の色は黒。殴りかかられても、俺が勝つ自信がある。


ヘンリに向き合って、真摯しんしに答える。


「なんだ。ヘンリ。用があるなら手短に言ってくれないか。」

「あぁ。俺え、君の名前を知らないんだけどお?」

「だから何だ。」

「『だから何だ』とかいうなよお。魔人らを集めるときに、誰が呼んでるのか――って聞かれた時に答えれないじゃんかよお~~。」


――俺としたことがうっかりしていた。


「サクリフィスだ。」

「お~け~。サクリフィスねぇ~~。1時間後、先日と同じ場所に集めておくよお。」

「ああ。」


手短に返事をして去る。――にしても・・・狩りに出ている魔人もいるだろうに、どうやって1時間で集める気なんだか・・・。


「バカなだけか・・・?まあ、バカを信じて1時間後に顔を出してやるのも悪くはない。」


ヘンリは口角を吊り上げる。


――ヘンリの謝る姿が目に浮かぶようだ。



――――――――――――――――――――――――――――



廊下ですれ違う間際、ヘンリは声を掛ける。


「さ・・・サ・・・?あぁ、思い出した。サクリフィス?ってやつが魔人を集めてるぜえ~。」


「そんだけぇ~。じゃ~なぁ~。」


ヘンリは話しかけた魔人に別れを告げ、再び歩き出す。


「くそう。魔人に声を掛けるだけってのに時間かかりそうぜえ~。」


ヘンリは歩きながらぼやく。


「 ―――そうだあ。」


ヘンリの脳内にとあるひらめきが。


「『悪魔召喚サモン・デーモン』」


黒い魔方陣が地面に浮かび上がり、黒く不気味に輝きだす。

召喚されたのは18体の悪魔。黒い翼とつの、そして黒い身体ボディーは異形の怪物を思わせる。


「あの会議室にいたぁ、魔人たちを連れてこい~」


命令を聞くやいなや悪魔たちは飛び立つ。


「さあて、俺も寝ますかぁ~。」



―――――――――――――――――――――――――――



――――1時間後


「ヘンリの土下座か・・・悪くないな。」


――ヘンリは魔人たちを集めきれてないだろう。

サクリフィスはそう思っていた。


「俺の睡眠を1時間にした罰だ。まぁ、今回は土下座くらいで許してやろう。」


扉を開く。そこにはヘンリしかいない―――――はずだった。


先日集まっていた、魔人――サクリフィスとヘンリを省く――18人全員がそこにいた。


「来たかぁ~?サクリフィス~。約束通り集めてきたぞお~?」

「そ、そうか。助かった。礼を言うぞ。」


――まさか全員を集めているとは・・・。驚いたが、どうせ皆城の付近にいたのだろう。


気を取り直して声を張り上げる。


「みんな聞いてくれ!!―――あいつが生きていた。」



ザワッ


魔人たちのざわめきと動揺が波紋状に広がる。


「そんなまさか――」

「いや我々があいつの魔力を間違えるはずがない―」

「じゃあ生きていたのか――」

「逃げるべきだ!」

「このままでは我らは―」


「落ち着けッ!」

サクリフィスの一声ひとこえで、場はしずまりかえった。

続けて、サクリフィスが落ち着いた声で指示を出す。

「いいか、各自――」


「その話、詳しく聞かせてほしいにゃ~。」


背筋が凍る。

――っ!こんなときに――!

三大魔人――フーシェ!!


フーシェが声を低くして言う。


「もちろん聞かせてくれるよね?」


「は、はい―――フーシェ様。」


正直、三大魔人に話すつもりはなかった。

話せば、千年前の続きを始めようとするだろうから。


―――仕方ない。俺は、まだ死ぬわけにはいかないんだ。話すくらいいいだろう。




俺は、事の経緯を詳細に、始めから話した。





フーシェは、聞き終わると満足げに口を開く。


「皆の者!!聞くがよい!」


口が裂けそうなほど笑って、フーシェは続ける。


「魔王復活の日は近い!再び世界は我々魔人のものとなる。おそれるな!!」


一旦話すのをやめ、周囲を見渡す。


「魔王の側近である―――我ら三大魔人についてこい!」


壮言を言い終えると、フーシェはサクリフィスの方に顔を向ける。


「あなたがサクリフィスなのかにゃ?」

「お、おっしゃる通りです。」


フーシェを刺激しないよう、慎重に言葉を選んで返す。


「どうして逃げれたのかにゃ~~?」


俺があいつから逃げきれたことを不審に思っているようだ。

――それもそうだ。おれとあいつでは、天と地ほどの実力差がある。あいつが手を上げるのが見える前に、俺の首は飛ぶだろう。


「逃がしてもらいました。」


真実を話す。――疑われた時は――


「ふーん。変わってないのにゃ~。」


サクリフィスの予想に反して、フーシェな納得しているようだ。



「ならば・・・あのプランを決行する時にゃ~。」


フーシェが満足そうに独り言をいう。



「にゃあ、サクリフィス。」

「な、なんでしょうか。」


フーシェは不吉に笑い、サクリフィスに話す。


「また後日―――あなたに頼みたい仕事があるんだにゃあ。」

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