第2話 いざ天国へ

目を開く――

どうやら小屋にいるようだ。天井が見える。痛みはなく、視界は良好だ。隣を見ると、花瓶に1輪だけ飾られた、たんぽぽがある。小屋は雑な作りのようで、隙間風がひどい。



「天国のくせに質素ね。」


「天国はお花がいっぱいで、望むものがなんでも手に入ると聞いたのだけど。」



独り言を言いながら、たんぽぽを眺める。それにしても・・・たんぽぽ1輪だけとは。



「何言ってるの?」

「うわっ!?」



突然声を掛けられ驚く。――男の子が上からのぞき込んでいる。


・・・ため息が出るほどの美少年だ。腰には剣を提げている。その剣のつかには、悪魔のような魔物が剣に貫かれている絵が刻まれている。 ――くりくりとした青い瞳が、こちらを心配そうに眺めている。もう片方の目は前髪で隠れて見えない。左耳には緑色のピアスをしており、髪はショートカットで切り揃えられている。身長は私と同程度で、同じ16歳に見える。特筆すべきは、髪の色だ。燃えるように赤く、綺麗だ。前髪は、葉を焼こうとする炎のように、緑一色のピアスに左目を隠しながら伸びている。


―――さすが天国ッ! 居るのは普通の人ではないと思っていたけど、顔面偏差値高すぎッ!!



「でもね?」


ごほん と咳払いをして続ける


「天国にはちゃんと一面にお花を咲かせなくてはダメなのよ?これは皆の夢なの!美少年だろうと、そこだけは譲らないからね!」



少年は真顔でこちらを見つめている。



えーっと? どういう意味かしら。


・・・・・・なるほど。下っ端の者が口出ししたら天使か神様に怒られちゃうのね!



「大丈夫よ!私もついて行ってあげる!」


神様見てみたいし!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



――こいつは何を言ってるんだろうか。


僕がこいつを拾って来て1日が経った。


家の近くの魔物を狩りすぎて、魔物が寄り付かなくなってしまったので、仕方なく遠出したところでこいつを拾った。



森が燃えていたので、興味本位で近づいたら炎の中で倒れていた。

近くにはワイバーンがいたが、今にも少女を殺しそうだったのですぐに処分した。

飛行されたら厄介だったが、既に翼はボロボロだった。少女がやったに違いない。

死にかけだったので、放置するわけにもいかず。かといって回復魔法も使えないので、家に連れ帰ってきた。家になら回復薬があるからね。


そして今。1日僕のベッドを占拠した挙句、『質素ね』だとぉ!?



「あのさ、おまえ何勘違いしてるのか知らないけどさ、お礼とかいらないから出て行ってよ。」

「・・・・」



ぽかん とした表情で少女は双眸を僕に向けている。


おいおい、自分の状況分かってんのか?まさか天国に行ってるとか、本気で思ってないよな?

こんな狂人やっぱ見捨てときゃ良かったかな・・・。


『見捨てる』か・・・

一瞬記憶が蘇る。それは、唯一無二の友との死別の記憶。


やっぱ見捨てられねぇわ。




「・・・・おまえじゃないわ。」


唐突に声がした。


「・・・は?」


え、何言ってんの??


「私はヴァイスよ。ヴァイスお姉ちゃんと呼んでいいわよ。というか呼びなさい。一度でいいから美少年を弟にしてみたかったのよねーー!その夢がここで叶うなんてーー!天国サイコー!いや別に私の弟たちが可愛くないわけじゃないのよ?ただ、それとこれとは話が別なだけでぇ―――」



訳が分からない。なんだこの女は。

とにかく、さっさと帰ってもらおう。



「ソウナンダー。ワーイ。ヴァイスオネーチャーン。ボクイソガシイカラ、マタコンドキテネー。」

「うんうん!もちろん!今度来たらもう帰らないから!じゃあね!」



バタン と扉が閉まる。



「ふう。台風みたいな女だったな・・。」



「あ・・・。」




「帰り道教えるの忘れてたな。」

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