見送った友へ

薙神田浅

第1話 最後、そして始まり

「諸君! 我々は力をつけてきている――」


初老の人間を想像させる魔人は、顔に笑みをたたえ、魔人らに高らかに宣言する。


「魔王に代わって、世界を牛耳ることも夢ではない!」


「おいおい、よしてくれよお。」


話を聞くのも億劫、とでも言うかのように、のんびりと、白を基調とした服に身を包んだ青年が言葉を発した。


「俺あ、まだ死にたくないぜ。」


白い服とは対照的に、髪や瞳は、あらゆるものを飲み込むブラックホールを想像させるような漆黒。

言葉遣いと、組んでいる足さえなければ、いい家のお坊ちゃんだと誰もが思うような容姿をしている。


「そうとも。魔王に仕えし三大魔人の存在を忘れたのか?」


別の魔人が追随して言う。


自身に反対する魔人らに一瞥いちべつを送り、初めに口を開いた魔人は答えを返す。


「だが我々は700年の間、魔石を喰らい力を付けてきた。――もはや恐るるに足りぬ!」


ここは、魔人たちの住処すみか。『話がある』と言われ、集められた魔人――20人ほどが集結している。


魔人らのざわめきが絶えぬうちに、突然上から声が降りかかる。


「え~~?なんだっていったかにゃあ~~?」


白いレースをアクセントとした、黒のゴスロリに身を包んだ可憐な少女がそこにいた。


「聞き間違いかにゃあ~?」


不気味なほどの満面の笑みで、少女は口を開いた。


「三大魔人は、恐るるに足りぬぅ?」


「と、とんでもございません!三大魔人、『血と影のシャドウブラッド・少女フィーユ』、フーシェ様。」


魔人はみな、地に伏せる――― 一人を除いて。


「情けないぞ? お前等まえら。 俺が目を覚まさせてやろう。―――三大魔人なぞ―――過去の遺物でしかないとなぁッ!」


彼が魔法を打とうと、フーシェに手を向けた瞬間――


――彼の首は飛んだ。


ここにいる誰もが認識できぬスピードだった。


「バカは、こいつだけかにゃ?」


口元を吊り上げながら、フーシェは首を傾げる。


沈黙が訪れる――


フーシェは誰も顔を上げないのを満足げに見て、鼻歌を歌いながら去っていった。


「あ~~~。おっかねえなあ。あの爺さんのせいで、巻き添え食らうとこだったぜえ。」


青年は首のない魔人の死体を蹴り上げる。


ほどなくして、青年の近くにいた、1人の魔人がこの場から離れようとした。


「お~い。どこ行くんだあ?」


青年の声掛けに、魔人は答える。


「飯を食ってくる。」


魔人の口元が緩んだ。


「美味うまそうな小娘ガキを見つけたんだ。」





――――――――――――――――――――――――――――――――





真っ赤に染まる視界――



「ああ、ここで終わりなんだ。」



そう思うと涙が止まらない。



「姉さん、諦めないで下さい。」



アンスリウムの声が聞こえる――

あれは・・・いつだったかな・・・そう、確か薪割りの時に・・・



声に導かれ、自身を奮い立たせる・・が、立ち上がることすら出来ない。



煙が肺に入りせき込む。燃え盛る炎が魔物に受けた傷を焼いていく。激痛が走るが、もはや叫ぶための気力は残されていない。



どうしてこんなことになったんだろう。私はいつもと同じ場所で、いつもと同じ獲物を狩っていただけなのに。


いや、1つ違うことがあった。顔も知らない両親からの・・最初で最後の贈り物である、イヤリングをはめていない。――些細なことだ。


でも、魔除けの加護が働いてるって誰かが言ってたなぁ・・・



激痛に耐えながら思考を巡らせる。考えたところで何かが変わるわけではないが、考えずにはいられなかった。

視界が霞む。

最期に一言だけ残そうと、口を開く。



「今までありが―」



声も出なくなった。なんて不甲斐ない姉なのだろう。死ぬ間際に、兄妹に感謝の言葉すら言えないなんて。せめて・・今まで頑張れたのは兄妹のおかげだと、ありがとう、と感謝の気持ちを伝えてから逝きたかった。




――――最後に私の目に映ったのは、炎のような・・の少年だった。

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