第66話 イギリスの遺跡

後はジョナサンの指揮の元、地道に気長に火炎放射器で氷を溶かして行く事になった。

彼とキャサリンとヘレンとカリーの四人はアラスカからイギリスへ移動する事にした。

アラスカの駐機場に止めてあった飛行機に四人が近づくとタラップが降りて来て四人は乗り込んだ。

四人が乗り込みドアが閉まった途端に四人の姿がスーツ姿に変わりふわりと宙に浮くと管制室に向かって勢い良く移動し直ぐに管制室に着いた。

「まずは食事よね~」

「お母さん、何だか最近、性格変わったんじゃないの」

「変わったんじゃないの、素が出る様になった、直になっただけよ」

「そうか~、無理してたのね」

「そうよ、だから最近は気持ちが楽になったわ、さてと何を食べようかなぁ~」

「私の旦那様は何を食べますか」

「温素麺をお願いします、アダム」

「私もお願い、アダム」

「同じく、よろしく、アダム」

「同じく、アダム」

「それから、デザートはパパナシをよろしく」

「お母さん、直に成り過ぎ~」

「じゃあ、お前はデザート食べないのね」

「それとこれとは別よ、アダム、私はサブァランをよろしく、カリーは」

「私もサブァランにします」


「素麺の暖かいのも美味しいわね、癖になるわ」

「どうして、今まで教えてくれなかったの・・・はアメリカ的な言い方ね、ええと、教えてくれてありがとう」

「そう、美味しかったわ」

「さて、デザート、デザート、アダム、早く、早く」

「お母さん、それじゃ~直じゃ無くて子供よ、子供」


「さて、降りましょうか」

「えぇ、まさか、もうイギリスなの、ストーン・ヘンジなの」

「お母さん、そろそろ彼の言動に慣れたらどうなの」

「着いていると言う事ね、さてとイギリスは寒いけどアラスカよりは暖かいでしょう」

ヘレンの服装が黒いタイツに赤のスカートと白のブラウスに赤のセーターに変わった。

四人が宙に浮き気圧調整室、出入口に向かった。

その間に他の三人の服装もスーツから普通の服に変わっていた。


四人はタラップを降りて行くと迎えの車に乗った。

5分程で眩い光が見えた、見えたと言う表現では足りない、包まれた、が合うであろう。

「皆さん、サングラスを掛けて下さい、バックに入っています」

彼は内ポケットからサングラスを出して掛け、三人の女性たちはそれぞれのバックからサングラスを出し暫くグラスを眺めた後で掛けた。

三人はサングラスを掛けると四方を見渡してグラスの具合を確かめた。

運転手は四人を乗せた車を100メートル程手前で一旦止めた。

止めた理由は聞くまでも無い、これ以上は眩し過ぎて普通のサングラスでは防げないのである。

だが、四人の掛けているサングラスは普通の物では無い、三人はストーン・ヘンジを見ると最初の印象通りに帽子入れの様な形をしているなと思った。

運転手は普通のサングラスを掛けているので眩しさに耐えられず横を向いて遺跡を見ない様にしていた。

「これ以上は近づけません」

運転手がそう言うと彼が車を降りて遺跡に向かって歩き出した。

三人の女性も車を出て彼の後を追い掛けた。

「黄金色にしては輝きが強い、強すぎるわ」

ヘレンの直な感想だった。

「キャサリン、感想または予想または理由または仕組みは」

「黄金をレンズ状に加工し内部に光源」

「大正解」

彼の問いに対してキャサリンが答え、彼が誉めた。

「キャシー、お前、そんなに頭が良かったかしらね」

彼が準備したサングラスでも目の前まで来ると流石に強烈だった。

彼は一度触ると引き返し始めた。

三人も同じ様に触ると彼を追って戻り始めた。

「彼は知っているはずなのにどうして側まで来たのかしらね」

「お母さん、少しは頭を使いなさいよ」

「お前には解るのかい」

「彼は一度触ったでしょう、知識と実物は一緒じゃ無いのよ、彼は表面の温度を確かめたのよ」

「何故・・・」

「普通は強い光は温度の上昇を伴います、ですが、あの遺跡は常温でした、不可解です」

「流石、カリーは議員じゃ無くて学者ね」

「議員で悪かったわね、上院議員を此処まで馬鹿にされたのは初めてよ、其れも実の娘にね」

「お言葉ですが、実の娘以外に何処に何と言う名前の娘をお持ちですか」

「婿殿、貴方の奥さんを何とかしなさい」

当然、彼からの返事は無かった。

「私もいろいろな家庭、家族を見て来ました、表面だけの家庭が殆どですが、それでも、この家庭程仲の良い家庭、家族は初めてです、昔からですか」

「そうね~、やっぱり彼が来てからね」

カリーの感想の後の問いにヘレンが即答した。


横を向いていた運転手は戻って来た彼らが車に乗ると直ぐに発進させた。

「基地へ向かいます、宜しいですね・・・皆さんのサングラスは特別な物の様ですね」

「そうですとしか答えられません」

キャサリンがそれ以上の追及を拒んだ。

15分程走ると車は塀に囲まれた基地に着いた。

ゲートの警備員二人はスピードを緩めた車の運転手と同乗者たちを見てゲートを開けた。

助手席の彼を確認すると二人の警備員は最敬礼しゲートを操作した。

塀の内部には建物が4棟と大きな倉庫があり高い監視塔が一棟立っていた。

駐車場には様々な作業用車両と乗用車が何台か止まっていた。

運転手は駐車場の一角に車を止めた。

「皆さんはあの建物で四人を待っています」

「ありがとう」

「此処からでも強烈な光ね」

ヘレンはそう言いながら先頭に立って指示された建物へ向かった。

三段の階段を登るとドア・ノブを回して押し開けた。

何故か日本では外に開くがアメリカでは内側に開く。

ヘレンの後に続いて三人が中に入った。

部屋の中には21人の考古学者と警備の為の軍人が数人いて、此処は集会場の棟だった。

「ハロー、皆さん、お元気かしら」

突然の有名な上院議員の訪問にアメリカの学者が驚き外国の学者に説明していた。

考古学者の一人が立ち上がった。

「私はこのチームを任されました、ジム・モリソンと申します」

「ジム・モリソンさん・・・何処かで聞いた様な・・・」

「ヘレン上院議員、貴方の好きな昔のグループのボーカルのお名前です」

キャサリンが公式な場での呼び名で母を呼び教えた。

「あぁ、ドアーズのボーカルの人・・・な訳は無いですね、年齢が合いませんね」

「最近は、余り言われ無く成りましたが時々言われます、嬉しい様な何か複雑です、あぁ、此方の席へどうぞ、お座り下さい」

大人数では無いのでテーブルを囲む様に座っていて、その一角に四人は座った。

「では、プロジェクト・リーダーと議会の監査役がお見えに成りましたので初期段階の説明会を行います」

グループ・リーダーが司会役で会が始まった。

「もう、御覧に成りましたか」

「はい、触って来ました」

「ええぇぇぇ~、我々は50メートル圏内までしか行けていません、御覧の通り余りにも光が強烈ですから、どうやって、あの眩しさを防いだのですか、眼を瞑っていても強烈です」

「彼が開発した特殊レンズのお陰でしょうね」

「見せて頂く訳には行きませんか」

三人の女性は彼を見詰めた。

彼が下に手をやると何も持っていなかったはずなのにアタッシュ・ケースが手にあった。

三人の女性の同行者たちは驚いたが、他の者たちは「あれ、何か持っていたかな」と不審を感じる程度だった。

彼はケースを開けると回転させて中身を皆に見せた。

彼は日本語で何か言いキャサリンが英語で言った。

「この中に特殊変更レンズのサングラスが40個入っています、皆さんと警備の方でお使い下さい、残りはゲスト様です、但し回収して下さい、この区域以外では溶解します、他の機器と同様です」

彼女がケースを彼の前からリーダーの前にずらした。

リーダーはケースから箱を一つ取り出しケースを隣の人に回した。

箱を受け取った者が順に「失礼」と言って出入口のドアから覗き次々に人が押し寄せ皆が外に出て驚いていた。

「何だこのグラスは部屋の中では普通のガラス、外に出るとサングラスと言うのは此れまでも有ったが、これ程の偏光率の高い物は初めてだ」

「凄い、此れなら、もっと近づけるだろう」

「彼女は触って来た、と言っていなかったか」

「そう、触ったと言っていた、今すぐに行きたい、リーダーどうですか」

「そうですね、何も報告する事もまだ有りませんから、お願いしましょう、兎に角一旦中に戻りましょう」

メンバーの中には明らかにリーダーよりも年上の人もいたが、統率は取れている様だった。

皆が席に戻った、が、皆はグラスに夢中で話どころでは無かった。

「ミズ・キャサリン、上院議員、正直に申して、今も申した通り、近づく事も出来ていませんでしたので報告しようにも遠くからの電子情報しか有りません、それも非常に遠いものです、ですから、報告会は別の機会にお願い出来ないでしょうか、正直に申しまして、私も含めて皆さんは、この彼のグラスを掛けて近づいて見たいのです、早く」

キャサリンは彼に通訳もせずに即答した。

「解りました、今、手にしている情報を頂いたら我々は去ります、渡して下さい、それから、グラスを警備の方にも配って下さい」

「では、皆さん仕事に掛かって下さい」

皆は待っていたかの様に外に飛び出して行った。

警備の一人が人数分のグラス入りの箱を手に取りキャサリンに眼で許可を求めた。

キャサリンは頷いて許可した。

警備主任と思しき人物が部下に外の部下にも配る様にと指示した様だった。

リーダーは自分も早く見に行きたい気持ちを押さえてデーターを準備しキャサリンに渡した。

「どうぞ、リーダーも行って下さい」

キャサリンのその言葉の途中で「失礼」と言って飛び出して行った。

基地には留守を守る警備員だけが残っていた。

部屋を出る時に持っていたアタッシュ・ケースが彼の手から消えていた。

彼らを送ろうと車の準備をしている警備員に彼女が言った。

「この当たりは景色が良いので飛行機まで歩きます、ご苦労さまです、警備をよろしく」

勿論、キャサリンの言葉は彼の言葉だった。

四人でぶらぶらと回りの景色を本当に楽しみながら歩き、途中で彼が森の方へ進路を変えると三人も付いて行った。

森を少し入り、大きな木の下に来ると彼は立ち止まり、三人が近づくのを待っていた。

三人が近づくと一瞬で丸いガラスの様な物に囲まれ次の瞬間にはスーツ姿で宇宙空間に居た。

四人は眼の前に開いた四角い光の中に入ると勢い良く管制室へ入り床に降りた。

「全く、婿殿のやる事は予想が着かないわ、まぁ飽きなくて楽しいけどね」

「私はキャサリンが羨ましいです」

「カリー、悪いけど彼は私だけの、私だけの者よ、手を出したら・・・殺す」

「本気に聞こえるから怖いのよね」

「当たり前よ、本気だもの」

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