第61話 二人の合意

ペンタゴンに降り立った飛行機にヘーゲンが警備兵を連れて駆けつけヒューストンは警備兵が付き添いそのままグアンタナモに飛び立って行った。


「無線で処置は聞きましたが詳しい事情をお聞かせ頂けますね」

「勿論です、貴方の庶務室に行きましょう」

「解りました、どうぞ」

「二人の博士は関係ありませんので、お疲れでしょうから自室へ戻らせて下さい」

「・・・結構です、お二人はお戻り下さい」


飛行場からペンタゴンに戻った彼らの内、トレッツキー博士とウッドロー博士は宿舎に当てが割れた自室に戻り、彼、キャサリン、ヘレン、カリーはヘーゲンの事務所へ向かった。


飛行機を降りた四人はヘーゲンの要請でヘーゲンの事務所へ向かった。

そこで代表してヘレンがヒューストンの仲間と罪状を語り証拠を彼が出した。

その時点でヘーゲンが捜査機関に電話で逮捕の指令を出した。

彼の要請に従い取り調べはグアンタナモに指定されヒューストンの仲間たちも送られる様に決められた。

ヒューストンと仲間たちの罪状の証拠が入ったパッドがヒューストンを連行する部隊の将校がヘーゲンの元に呼ばれて渡された。

「彼はヒューストンたちの尋問が終わった後は弁護士をポール・トレッツキーにして何処かの精神病院に収監してはと言っています」

「助言ありがとう御座います、ですが、それについてはこちらにお任せ下さい、と言うのもグアンタナモには長期収監用の独房があるからです」

「そうですか、それならその方が良いでしょう、婿殿、良いですね」

ヘレンに確認された彼が頷いた。

翌日にはヒューストンが電子機器を分解し溶解させた拠点もFBIとCIAによって捜索され、アメリカとカナダの二か所で中国系アメリカ人とアメリカ人、中国系カナダ人、カナダ人が拘束され同じくグアンタナモに送られた。


学会に集まった学者たちは2泊3日の日程でペンタゴンに滞在していた。

トレッツキー博士とウッドロー博士の部屋に他の学者が詰めかけた。

困ったトレッツキー博士は「会議室で会いましょう」と答えウッドロー博士に声を掛けて会議室へ行った。


会議室で対応した二人の答えは決まっていた。

「世の中には答えられる事と答えられぬ事があり、此れは後者です、何を聞かれても答えるつもりは無い」

「我々は守秘義務契約を交しています、相手も内容も決まっては居ません本人次第です」

ポール・トレッツキー博士とジョアン・ウッドロー博士が答えた。

「では、一つだけお答え頂きたい、二人は光よりも早いものが存在すると認めるのだな」

「光よりも早いものはこの世存在します、此れは間違いありません、言える事はそれだけです」

「我々二人は此れまでの理論を捨て新たな事実に元づいて新たな理論を考えるつもりです。

皆さまが我々の言葉を信じるも信じぬも皆さまの勝手です、ご検討を祈ります、では今日はこれにて失礼親します」

[2021/03/30 13:41]

ポール・トレッツキー博士とジョアン・ウッドロー博士はそう言い切った。

「彼らは此処に戻られたのですか」

「ヘーゲン副長官の庶務室にいますが、その後自宅へ戻られるとの事でした」

「では」

「さようなら」

二人の博士は同僚をも置き去りにして会場を去って行った。

「何なのだ、あの二人の変わり様は、自信に満ちて性格まで変わってしまった様だ」

「あぁ、何があったのでしょうか」

「性格が変わる程の何か・・・」

「光が最速では無い何かの証明を見せられたか、体験したのか・・・それが性格を変える程の何だったのか」

会議室で学者たちが困惑していね中へヘーゲン副長官が入って来た。

「出かけた二人の博士は自宅へ戻ります、キャサリン、ヘレン、カリー、彼の四人は自宅へ戻られます、皆さんは予定通り2泊3日の予定で此処に留まって頂きます」

会場にいた学者たちが騒然となったが静まるのを待ってヘーゲンが続けた。

「出かけた二人と貴方がたの違いは、今の状況です、二人は騒がず自分で理論を考えました、処が貴方たちは彼らが教えてくれないと文句を言う、自分で考え様とはしない・・・この中から二人に続く方が現れる事を期待します、では失礼します」


その後、予定通りの日程が過ぎ学者たちは自宅へと戻って行った。

大半の者は何も新たに知らせられず不満を漏らしたり顔に現れたりしていたが、少数の者の中には物思いにふけり自分の心に問いかけたり疑問に回答を見出そうとしている者もいた。

ヒューストンの件は国家反逆罪で収監されたとマスコミを通じて報道され、他の学者たちの教訓になった。


ポール・トレッツキー博士とジョアン・ウッドロー博士は自室に戻ると言って会議場を出たがウッドロー博士がトレッツキー博士を誘った。

「トレッツキー博士、私の部屋へ来ませんか、博士は理論が浮かびましたか、私は見たり経験した事は理解しているのですが、昔からの理論と研究から離れられないのです、折り合いがまだ゛付かない、まだ捨てきれないのです」

「私も同じです、まだ理論が捨てきれません、一緒に考えを整理させて下さい」

二人はウッドローの部屋に入り珈琲を飲みながら考えを語り合った。

「まず、事実の列挙からはじめましょう」

「まずは、あれがトリックかどうかです、無重力をあれだけ長時間維持する技術は存在しない、私の知る限り、では、あれは無重力だったのか、催眠術か、トリックか、ウッドロー博士はどう思われますか」

「舞台で演じられる空中浮遊のマジックを見た事があります、そのトリックも知っています、最近はそのトリックも知る人が多くなりましたので、別のトリックの種を考えた様です、ですが私にはトリックの種は大体解ります、浮遊している女性はトリックの種を当然知っています、今日の場合はその浮遊した女性が私達と言う事になるのですが私はトリックの種は解らなかった、貴方は解りましたか、それと私の事はジョアンと呼んで下さい」

「解らなかった、催眠術の可能性は無い、二人同時に同じ景色と体験をするなどの催眠術は聞いた事は無い、その線は無い、となるとあの無重力体験は本物だったと言う事になる、では飛行機での疑似体験かと言うと無重力の時間が長すぎた、30分以上でそれも連続だった、そんな事は飛行機では無理だ・・・従って我々の体験した無重力は宇宙での体験しかあり得ないと私は思います、私もポールと呼んで下さい」

「私達が見た月の裏側もアルファー・ケンタウリも土星も本物で私達はそこへ実際に行った」

「ええね行ったのです・・・次の機会があるとしたら何処へ連れて行ってほしいですか」

「選ぶのに困りますね、火星に行って見たい、近くに見たい、木星も近くで見たい、もう一度土星も見たい、銀河系を外から見たい、どれか一つと言われたら・・・選べないな、君はどうですか」

「私はアンドロメダ星雲から見た銀河系を見て見たいですね」

「それは凄いね、でも、幾ら慣性制御が可能でも200万光年以上も離れていますからね、時間が掛かるでしょうね、そう言われると彼らはアンドロメダまで行ったのでしょうか」

「そうねぇ~、私は彼と奥さんのキャサリンはあるんじゃないかと思っているのだけれど」

「二人を見ていて思ったのだけど二人は言葉以外の会話をしている様に感じるんだけど、私の勘違いかな」

「いいえ、私もそれは感じてします、私はテレパシー何て信じていなかったけど二人は・・・」

「それで何か理論は浮かびましたか」

「まだ、既存の理論の欠点、疑問点を思い返している段階です」

「私はブラック・ホールが出来る過程で直前に何かを放出する事が現行の理論では納得出来ませんでした、ですが光よりも早い粒子が存在すると知った今の私は新たな理論が考えられる様な気がします・・・一緒に考えて頂けませんか、ジョアン」

「・・・解りました、一緒に考えましょう、ポール」

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