第62話 カリーの二度目の宇宙

キャサリンが運転する何時ものクラシック・カーに戻った車に乗って四人は自宅へと向かっていた。

「ヘーゲン副局長はキャシーの説明と証拠に納得はしていたけど完全にでは無いはね、経緯と状況は何も言っていないのだもんね」

「えぇ、解っています、お母さん、ミスター・ヘーゲンは彼を信じている、完全に信じているからです」

「婿殿、ヘーゲン副長官にもそろそろ打ち明け時じゃないかしら」

「お母さん、彼はとっくにそのつもりなのよ、只ね、大統領と元国務大臣と元通訳の彼らも一緒にと考えているのよ」

「キャシー、一度には無理だよ、だって大統領と副大統領は同じ処にいてはいけない決まりになっているからね」

「二度か三度に分ける事になりますね、貴方」

「そのつもりです、お母さんとカリーの練習もありますし、貴方のもね」

「私もカリーも又行けるのね・・・でもどうして私とカリーにスーツを着せるの???」

「ヘレン、貴方はキャサリンのお母さんでカリーはキャサリンの助手だからです」

「何故、私なのですか、助手なら誰でも良いのではありませんか」

「キャサリンが貴方を選んだからです、貴方とキャサリンの相性が良いと言う事です、それに貴方の正直な性格、此れまでの生き方に問題が無いからです」

「私の此れまでの生き方・・・ですか」

その時、カリーは彼が自分の人生の全てを知っているのでは無いだろうか、と思えた。

「そうです、カリー貴方の頭の良さと感の鋭い処も理由の一つです」

カリーが眼を丸くして助手席に座る彼を見つめた。

「そう言えばキャシーとカリーは撃たれたのは初めてだったでしょう、どうだった、どんな感じがしたの」

「何にも感じなかったわ、「バン」と拳銃の音がしたと思ったらスーツ姿になっていて「コン」と音がしたので床を見ると潰れた拳銃の弾が落ちていた、只それだけだったわ、カリーはどうだった」

「感じるも何も博士たち二人の前に立ったら突然スーツ姿に勝手になって驚いている間に元の姿に戻っただけでした、銃撃された感じも何も「あっ」と言う間で何もありませんでした」

「今回は拳銃だったけど前回は大口径の狙撃銃だったんでしょう、何か違いはあったの、お母さん」

「何にも違いは無かったわ、只、コトンと床に銃弾が落ちた音がしたのは同じだったわね」

「撃たれた側は驚いたけれど撃ったヒューストンはもっと驚いていたわね」

「そりゃそうよ、バン、バンと発射の音はするけど平気な顔で立っていて、あの人は空砲と思ったんじゃ無いの 、それも普通の服が突然スーツ姿に変身してあっと言う間に元に戻ったの気が付いたかしらね」

「彼の取り調べで私達の秘密が漏れないかしら」

「大丈夫よ、証言したとしても宇宙船に乗ったとかスーツ姿になったとか拳銃の弾を跳ね返したなんて誰も信じないわ、気が振れたと思われるのが落ちよ」

「そうね、私も信じないでしょうね」

「あ~あ、お腹が空いたとおもったら、お昼ご飯がまだだったわ、帰ったらまず何か食べましょう」

そんな話をしている内に家の玄関に着き守衛に挨拶し庭を走り抜けて玄関の何時もの場所に駐車した。

「やっと着いたわ、何だか長い一日だったわね」

「ただいま~」

「お帰りなさいませ」

「ただいま~」

彼とキャサリンは居間を抜けて定位置のテラスのソファーへ向かい、ヘレンとカリーは居間のソファーに腰かけた。

直ぐに二人のアイス珈琲がテーブルに置かれた。

「ありがとう、ヨウコ」

眼を瞑ったままキャサリンがヨウコに礼を言った。

キャサリンが珈琲を口に含み彼に口移しで珈琲を飲ませた。

「ありがとう、一段と珈琲が美味しい」

「どう致しまして私も美味しいわ」

「お腹が空いているかね、そう、じゃあ船で食事はどうかな」

「これから船に行くの、行くわ、二人だけで行くの」

「二人も呼んで来なさい」

キャサリンが立ち上がると居間へ向かった。

飛ぶ様にしてヘレンがテラスにやって来た。

「婿殿、ありがとう、さぁ早く行きましょう、さぁ、さぁ」

彼が立ち上がり庭に出て三人がその後を追い四人が円を作る様に肩を組むと四人がスーツ姿になり四人の姿が庭から消えた。

4人が星が輝き足元に地球が見える宇宙に出た途端に側に四角く輝く入口が現れ4人が中に入ると扉が閉まり星が輝く何もない空間に戻った。

4人は食堂に直行するとそれぞれに好きな食べ物を注文した、勿論、ヘレンのデザートはサヴァランだった。

当初、ヘレンはサヴァランとパパナシの二つを注文したが一つに変更した。

それを聞いたキャサリンがパパナシを注文し半分づつ交換しようと持ち掛けた。

「キャシー、乗った」

そんな訳でヘレンのデザートはサヴァランでキャサリンのデザートはパパナシとなった。

因みにカリーのデザートはサヴァランとパパナシの一つづつ二つで彼は注文しなかった。

メインの食事はと言えば彼が最初に言ったカレーに皆が乗り4人一緒な物を食べる事となった。

「キャシー、早く食べてよ、早くデザートにしようよ」

「全く~、落ち着きなさい、お母さん」

「だって、久し振りのサヴァランとパパナシだから・・・」

「其れにしたって少しは落ち着きなさいよ、上院議員の肩書が泣くわよ」

「デザートに上院議員も主婦も関係無いでしょう」

「はい、はい、もう少し待って下さいね、処で今日は何処へ行くの、貴方」

「もう着いています」

「えぇ~、何処、何処なの」

「火星の裏側です、皆で火星を歩きませんか」

「えぇ~、歩いても良いの、婿殿、将来、人類が来た時に足跡を見つけて大問題になるわよ」

「そんな事は些細な事です、火星には古代人の地下基地があるのです、遺跡も沢山あります」

「キャシー、知っていたの」

「いいえ、お母さん初耳よ、貴方、遺跡なんて見ていないし、地下基地は何処にあるの」

「沢山の遺跡は砂と塵に埋もれています、地下基地は山の山腹に入口があります」

「遺跡ってまさかピラミッドとスフィンクスじゃ無いでしょうね」

「正解です」

「えぇ~、火星にもピラミッドがあるの? スフィンクスもあるの?」

「映画ではモノリスだけどね」

「違うんじゃ無いの、映画では月にあったんじゃなかったっけ」

「そうだったかしら、でも何処でじゃ無くてモノリスの話よ」

「オベリスクはあります、模様も文字も無い物はありません、私の知る限りですが」

「降りるのは止めましょう、秘密は秘密に、神秘は神秘にしておきましょう」

「管制室に行きましょう、火星の3D画像をお見せします」

皆で管制室へ向かうと丸いテーブルの上に火星の3D画像が映っていた。

「この山がオリンポス山ね、太陽系で一番高い山なのよね、高さは・・・27000メートルでギリシャのオリンポス山は2900メートルなのね、アダム、ありがとう、凄く大きいわね」

「地球も海の水が無ければハワイも大きな山です、マリアナ海溝は10000メートルですが海水が無ければ10000メートル以上の深さの峡谷になります」

「ここの運河の様な割れ目を拡大出来るかしら」

ヘレンの要求通りに画面が変化し渓谷が拡大された。

「これはどうして出来たのかしら、婿殿は御存じ」

「此れは言われている様な水に寄る浸食で出来たのではありません、風に寄る浸食です、火星は地殻変動が有りませんので同じ処を弱い風で何億年もの長い年月を掛けて出来たのです」

「何だ、残念だわ、水では無いのね」

「あの~、遺跡や基地は誰が作ったのですか」

カリーが遠慮深げに尋ねた。

「そうだわ、それを知りたいわ、キャシーは聞いたの」

ヘレンも知りたいと言った。

「遺跡も基地もある何て知らなかったのに知っているはず無いでしょ」

「婿殿、誰が作ったの」

「当然の質問ですね、ですが今は教える訳には行きません」

「時期が来たら教えて貰えると言う事かしら」

「そうですね」

「でも、最初はキャシーに教えるのね」

「当然です」

「まぁ~、はっきりと言うわね、それに秘密と言うと余計に気になるわ、人類はまだ来ていないから宇宙人かしら・・・見えない程に埋もれているって言う事は今はいないのね、埋もれている訳だから随分昔の物ね」

「地殻変動が無くて気流も少ないから相当昔の物ですね、何千年では無くて何万年も前でしょうか」

「どうなの、婿殿、当たっているの」

「さぁ~、どうでしょう」

「まぁ~、婿殿は意地悪ね、良いわ、考えるのも面白いし、教えて貰える日を楽しみにも出来るわ」

「さて、そろそろ二人が会社から戻る時間です、家に戻りましょう」

「あら、本当、お父さんとお兄が戻る頃だわ」

4人がスーツ姿に変身し宙に浮くと管制室から廊下に出ると気密室へ向かった。

「今のこの状況、宙に浮いて移動している方法が解りますか、理論を考えておいて下さい、宿題です」

4人は機密室から宇宙に出ると次の瞬間には自宅に庭に立っていて服装も宇宙に行く前に戻っていた。

彼とキャサリンは定位置のテラスのソファーに座り、ヘレンとカリーは居間へと向かった。

暫くするとテラスのテーブルにアイス珈琲のグラスが二つ並んでいた。

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