第60話 三人の体験
行きが四人で帰りは三人増えて七人になっていた。
七人が駐車場でエレベーターを降りると眼の前に大きなリムジンが横付けされていた。
ヘレンとカトリーヌの二人だけが驚いていた。
三人の新たな者たちは以前を知らないので当然である。
キャサリンは後方のドアを開け続けて運転席のドアも開け乗り込み助手席に当然の様に彼が乗り込んだ。
一瞬たじろいだヘレンとカトリーヌが三人を後部座席に導き自分たちも乗り込んだ。
三人は当然だが二人も初めてなので社内を五人が見渡していた。
大きな車がゆっしりと発進し地上に出てゲートに着いたが警備員は若干の違和感を顔に表したが後部座席の窓が開きヘレンの顔を見るとゲートを開き通してくれた。
キャサリンは車を飛行場へ向けた。
ペンタゴンへ来た時の車は5人乗りの綺麗ではあるが古い製造の車だったが帰りに駐車場で待っていた車は基本は同じだったが8人乗りのリムジンだったのである。
ヘレンとカトリーヌはまずは飛行機に乗って宇宙船に乗り継ぐのだと思い、新たな三人は光が最速では無い証拠が見られるのだと期待の興奮が顔に現れていた。
大きな車はスカイライン専用ゲートを何の検問も無く通り抜け飛行機に横付けされた。
彼が先頭にヘレン、カトリーヌ、新たな三人、最後にキャサリンが飛行機に乗り皆がシートベルトを着ける間にキャサリンが三人の処にやってきて着いてくる様に言い小部屋に案内した、当然ヘレンもキャサリンも着いて行った。
五人が椅子に座ると正面の壁が透明になり、其処には青く輝く地球が映っていた。
飛行機だと思っていた航空機は実は宇宙船だったのである。
5人は窓の外に映る地球の姿に魅了され言葉も無く見惚れて仕舞っていた。
特に3人のゲストは本物かどうかに関心があるとうだった。
キャサリンが前に出て来て3人に言った。
「これから無重力にします、気分が悪くなる方もいらっしゃいます、この袋をお渡しします」
キャサリンは開き方閉じ方と使い方を見せて3人に渡した。
話し終えると直ぐに無重力になりキャサリンの身体が浮き始め床を蹴ると天井に向かった。
ヘレンとカトリーヌも無重力を楽しもうとあちらこちらに漂い始めた。
唖然と見惚れていた三人の身体も徐々に漂い始め、流石に学問を学ぶ者たちで恐怖よりも好奇心が勝っていて無重力を確かめ、その内楽しみ始めていた。
「100人以上の中から貴方がた三人が選ばれました。
アメリカの物理学者・マイク・トレッツキー博士、スミス天文台に勤務するジョアン・ウッドロー博士、カナダの物理学者・マイケル・ヒューストン博士・・・何か言う事はありますか」
「私は飛行機での無重力を体験した事があるんだけど、似ているだけで全然ちがう、第一時間が違う、こんなに長くは無かった」
「急降下の時間だけでしょう、本物は永遠に可能だ」
「でも最初は無重力じゃ無かったのは・・・まさか・・・そんなまさか・・・慣性制御が出来るの???」
「慣性制御ってドラゴン・ボールの訓練ドームの事」
「なんで皆、慣性制御って言うとドラゴン・ボールを思い浮かべるのかしら、まぁ私もだったけど」
「日本のアニメって凄いわね」
三人の学者たちが無重力に慣れると袋を持っている事も忘れて窓に鼻を着ける様にして外の地球に見ほれていた。
ヘレンとカトリーヌとキャサリンも見慣れているはずなのに見惚れて仕舞っていた。
徐々に重力が戻り通常の1Gになっても気付かないらしく映り行く地球の景色を飽きる事無く眺めていた。
「こんなに綺麗な地球を二酸化炭素、フロン、ゴミ・・・何であれ公害で汚すなんて許されるものじゃないわ」
ヘレンが感慨と若干の怒りを込めて言い放った。
「以前にヘレンさんの国は地球温暖化は無いなんて馬鹿な大統領を選びましたよね」
「誰にでも間違いはあるわ、我が国の歴史上最悪の大統領として歴史に刻まれる事でしょうね」
「今の大統領にも見て貰った方が良いわね、時期がまだなのかしら」
「いいえ、大統領は資格十分、国務大臣、ヘーゲン副長官も十分です、が忙しい方達で時間が合わないのです」
「処で、この船、船と呼んで良いのでしょうか、それとも宇宙船??? 飛行機に乗ったつもりでしたが・・・」
「実は今、世界中を飛んでいる飛行機は全て宇宙船です」
「まぁ~そうなんですか、私も何だか速度を落としている様に感じていたのは、そのせいなのだね」
「あら、外が・・・此処は月かしら、全然動いた風には感じなかったけど、これが慣性制御なのね」
「此処は月の裏側です、表のアポロが残した星条旗とアポロの残骸をお見せしたいのですが、月を観測している方が多いですから残念ですがお見せ出来ません、理由はお解りですね、勿論、この船の機密保持の為です」
話している内に窓の外の景色が変わり暗黒が暫く続き突然、恒星が現れた。
「我らが太陽とは違うようですね」
「ケンタウリ、アルファ・ケンタウリじゃないかしら」
アメリカの物理学者・マイク・トレッツキーの指摘に対してスミス天文台に勤務するジョアン・ウッドローが天文学者らしい回答をした。
「4光年を1、2秒で飛んだと言うのですか、ミズ・ウッドロー」
カナダの物理学者・マイケル・ヒューストンが問い質した。
「私達は無重力を体験しました、マジシャンの浮遊とは違います、マジシャンのは被験者は種を知っていると言います、私達は・・・少なくとも私は先程の無重力の種が解りません、本物、つまりは実際に宇宙にいると確信しました、私は天文を専門にしていますが物理も理解しているつもりでした、慣性制御が可能で有れば人が耐えられる8G以上50G、100Gでも1Gのままにする事は可能でしょう、で有れば4光年、10光年でもほんの数秒で到達は可能でしょう、お二人は物理の専門家です、何か間違いがありますか」
「地球上で航空機を使って疑似無重力、0Gを体験した事がありますが高度9千メートルからの降下で得られる0Gの時間はたったの20秒でした、私達が先程経験した0Gは軽く1分を超えていました、もし1分の疑似体験をしようとすれば2万7千メートル、それはもう宇宙です、疑似体験の降下などする必要はありません、ではあの恒星はCGなどの騙しか・・・私には私達を騙す理由、意図が解りません、これは本物です、私は現実を受け入れてこれから光より早い物が存在する事を受け入れて理論を構築します、ミスター・ヒューストン、貴方が信じなくても関係ありません」
「・・・」
「ヒューストン博士、御気分が悪い様でしたら左手にお持ちの袋を使って下さい」
三人が話し合っている間に機内は無重力になっていた。
マイケル・ヒューストンは左手の袋に吐き出した。
「無重力に慣れるまでに時間の掛かる人もいる様です、ウッドロー博士もトレッツキー博士も大丈夫なようですね、因みに幸いにも私も母もカリーも大丈夫でした」
「どうですか、ヒューストン博士、ご自分の身体での実感は・・・」
「まだ、無重力ですね~、私の身体が無重力に対応するとは、感慨深いなぁ~、ウッドロー博士も嬉しいでしょう」
「勿論、只、これから普通の研究が出来るかが心配です、そう言う意味ではヒューストン博士の様に信じない方が良いのでしょうね」
「そんな皆で私ばかりを責めないで下さい、もう私も降参です、ここは宇宙です、ウッドロー博士の言われた様に頭の中はまだ納得していない様ですが身体が納得してしまいました、いや、頭も納得しているのですが此れまでの理論がひっくり返ったので頭の中が混乱しているのが実感です」
「ミス・カトリーヌ、ミス・キャサリン、ミセス・ヘレンは私達の何を見て感じて選んだのてせすか」
「最初に選んだのはカトリーヌです、あぁ些細な事ですが、私はミスでは有りません、ミセスです、カトリーヌの選出理由は何でしたか」
「自分の詩論を持っている人は現実に接すれば現行の理論も捨て易いとの判断です」
「良い判断です、どうお母さんの判定基準は何だったの」
「私に意見を求めないで、二人にと言うか、貴方の旦那様が反対しないから良いと思っただけの事よ」
「ミズ・キャサリンは彼の奥さん・・・聞いた様な・・・私は研究対象以外は疎いので申し訳ありません」
「彼は日本人でしたね、それにしても無口な方ですね」
「彼は確かに口数は少ないですが、頭の中は飛んでもなく早い人ですよ」
皆が話している内に船内の重力が1Gに戻り外の景色ね変わり輪がある惑星が見えていた。
「あぁ~、土星だ~」
「本当だ、土星だ」
「やっぱり映像と実物では違うわね~~、氷の様には見えないわ、汚い氷ね」
「あれ一つでも持って帰りたいなぁ~」
「私もそう思うが、何だ、何処からと聞かれるとなぁ~」
「そうよね」
「実験室に実物がありますよ、この船の中でなら研究は可能ですが」
「・・・興味が無いとは言えないが、貴方がたが既に御存じだ、研究者に取っては無駄な事だ」
「貴方がたは私達に何を望んでいるのですか」
「トレッツキー博士、彼らでは無く彼がでは無いでしょうか」
「ウッドロー博士、ジョアンと呼んで宜しいですか」
「どうぞ」
「ジョアン、まだ一言も言葉を発っしもしない彼がボスだと言うのですね」
「マイケルはどう思うね」
「トレッツキー博士、私をマイケルと呼ぶのは友達だけです、貴方とは知り合ったばかりです、質問にお答えしましょう、あの東洋人がボスかですって、はぁ、馬鹿な事を中国人か韓国人か日本人かは知りませんが所詮は西洋の技術を盗むしか能の無い民族ですよ」
「カトリーヌ、貴方の選択に一つ誤りが有りましたね、キャサリンもね、そう言う私もこれ程とは思いませんでしたがね、白人至上主義者って今でもいるのですね、ある意味貴重な方に会いました」
「人は解らないものですね、ここまでとは困りましたね、こんな人は守秘契約なんて守りはしないでしょう、そう思いませんか、お母さん」
「まぁ、その読みは当たっているでしょうね、はてさてどうしたものですかね、婿殿には何か手があるのでしょうか」
「記憶を消すとか出来るのですか、彼は」
「カリー、幾ら何でもそれは出来ないでしょうね、どうですか、貴方???」
「出来ますよ」
「出来るの、婿殿」
セイジが日本語で言い、聞いたキャサリンが怒りに顔付きが変わり、ヘレンも怒りの顔になっていた。
「お母さんも聞いたでしょう、それに皆さんの読みは当たっているそうよ、既にこの人・・・こいつは情報を売っているそうよ、それも自分の国・カナダでは無く中国へですって」
「何と愛国心も無い卑劣な奴だ、貴様は、金の為に国を売り我々学問仲間も売ったんだぞ」
セイジが言葉を続け、それを聞いたキャサリンとヘレンの顔が般若の様になり身体が怒りで細かく震え始めた。
「こいつは、こいつは厚かましくも時計を無くしたと言ってもう一個手にして、次に携帯電話も落としたと言い、パドを使い始めたいと言い、パソコンも使いたいと言い、それらの全てを中国に売り渡したそうです」
「マイケル・・・いや、ヒューストン博士、今のは本当か嘘だと言ってくれ」
トレッツキー博士がヒューストン博士に詰問した。
「君たちも学者だろう、学者、研究者が新機能の機器を手にすれば分解したくなるのは当然だ、言われた様に分解したら内部が溶解して仕舞った、それで代わりを依頼したんだよ」
「それで懲りずに全ての電子機器の構造を知りたくて分解した訳なのかしら、懲りずに、懲りずに、とても信じられないわねぇ~、マイクは信じられる???」
「彼は契約書を読んでいない様だね、最初の支給は無料だが、故障した場合は現物交換で機密対策の溶解で無ければ次の機器も無償で提供される、と記載がある、ジョアンは読みましたか」
「ええ、当然です、それに私は説明書や契約書を読むのが大好きなんです、保険契約書を読んだ保険会社の社員は居ないでしょうが私は何度も自分の入っている会社の契約書を読みました、あんな内容も文字も小さな契約書は弁護士でも無い限り読まないでしょうねぇ~、我々かサインした機密保持契約書には機器の金額は100万ドル、1台100万ドルと記載がありましたねぇ、故障以外ですけどね、故障の場合も交換ですがね」
「そんな馬鹿な、そんなはずは無い、代わりは何も言わずに貰えたぞ」
「その言葉で契約書を読んでいないと解るわね」
「ジョアン、このやろうをどうしてやろうか、100万ドル、3、4台なら3、400万ドルあるのかねぇ~」
「そうねぇ~私に決定権があるならキューバの基地、何ていったかしら・・・そうそうグアンタナモ、グアンタナモ送りね、マイク」
「テロリスト扱いか、確かにテロリストとも言えるなぁ」
「何でテロリストなんだ」
「お前はテロリストの定義を知っているのか」
「無差別の殺人だ」
「ちょっと違うな、無差別はあっているが殺人だけでは無い、傷害も未遂も入るのだよ」
「何で私が無差別の殺人・傷害の未遂になるのだ」
「彼から支給された電子機器の機密保持機能は傷害、殺人に繋がるからだよ」
「何故だ、私が溶解液を仕掛けた訳では無いんだぞ」
「注意されていたはずだ、それを承知で開けようとすれば契約違反であり犯罪であり、それに寄って誰かが貴方以外の人が死んだり怪我をすれば無差別の殺人であり傷害となる、故にテロリストなのだよ」
「ポールは弁護士なのかしら」
「ジョアン、その通り国際弁護士の資格も持っています」
「何だって国際弁護士だって、そりゃ無いぜ」
彼が又何かを言った。
「彼が何だって??? キャサリン、キャサリンと呼んでしまいました、申し訳ない」
「いいえ、彼が言うには彼はアメリカで中国人が解体した様です、もう一つは中国、もう一つはカナダで解体した様です、勿論全て失敗しています、それから彼の記憶を消す事も出来るそうです、彼を廃人にも出来るそうです、一番のお勧めは宇宙に捨てる事だそうです・・・私も最後のを試してみたいですね、只宇宙ゴミが増えるのは困りものですが」
「ひぇ~~嘘だろう、殺人だ」
「はい、では多数決できめま~す、この人を宇宙に放り出して後悔する人~~」
誰も手を上げなかった、いや、本人一人が両手を上げていた。
「ひぇ~、ひぇ~」
「満場一致です」
「勘弁して下さい、二度と裏切りません、どうか助けて下さい」
その時、彼がヒューストンの前に銃を投げた。
「何だ自殺しろと言うのか、弾が入っていないのだろう」
ヒューストンは手慣れた手付きでカートリッジを外し装填を確かめ薬室の装弾も確かめた。
「何と弾が入っているぜ、彼氏は操縦者だ、生かしてやるぜ、後はあの世へ行きな」
トリッツキー博士とウッドロー博士は驚き恐怖を顔に表していたがキャサリン、ヘレン、カリーは平然とほほ笑んでいた。
「やっぱり、先程の言葉は偽りでしたね、お母さん、カリー」
「貴方、あの銃は本物なの」
「ええ、本物ですよ、二人の前に立ってあげて下さい」
キャサリンとヘレンとカリーの三人がトリッツキー博士とウッドロー博士の前に立った。
その時「ドーン」と銃声が鳴った、だが、何も変化が無く、カリーの前にコロンと潰れた弾丸が落ちた。
続けて「ドン、ドン」と銃声がしたがコロン、コロンと弾丸が床に落ちるだけでヒューストンの持つ銃の弾が尽きた。
変化はキャサリン、ヘレン、カリーの服装がスーツ姿になっただけだった。
そして、銃弾が尽きると三人の服装はスーツから元の姿に戻っていた。
「本当に弾丸も平気なんですね、お二人は経験があるのでしよう」
「いいえ、お母さんだけが経験者で私は初めてだったわ、素晴らしいわね」
三人の女性たちは完全に自分たちの世界に浸っていた。
「ウッド・・・ジョアンとポールと呼んで良いかしら」
「どうぞ」
「ええ」
「二人は今の事も忘れてね」
「さぁ~何の事ですか」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「処で、間違いなく我々が何処へ行ったか聞かれるでしょう、どう答えれば良いでしょうか」
「ジョアン、我々の基本は嘘を付かないと言う事です、極秘です、答えられません、と私は言います」
「政府の情報機関は拷問も辞さないのでは無いでしょうか」
「大丈夫ですよ、彼が守ってくれます」
「彼がですか、彼にそんな力があるのですか」
「皆さんの電子機器もこの船も彼の彼だけの物なのですよ、何処の政府の物ではありません」
「彼は一体何者ですか・・・地球人ですか」
「ポール、飛躍し過ぎですよ」
「凄く頭の良い、ずば抜けて頭の良い地球人ですよ」
「あれ、ヒューストンがいませんが、どうしましたか、まさか本当に宇宙に捨てちゃいましたか」
「さぁ~、あぁ、精神病院に入れたそうです」
「良い考えだ、宇宙に行った、と言っても誰も信じないだろうね、ジョアン、どう思う」
「売国奴の末路としては物足りないわね」
「あぁ、それからね彼が言うにはヒューストンの弁護士はポール、貴方ですって、これってどう思う」
「キャサリン、近年に聞いた中では最高のニュースですよ、ここだけの話、彼が世に出る事は無いし、電話もメールも郵便物も面会人も全て無しです」
「ちょっと可哀そうになっちゃうわね」
「話は変わりますが慣性制御の困る処は何処にいるのか解らない事ですね、今は何処なのですか」
「もう地上に着陸していますよ」
「えぇ~、今日の旅行は終わりですか、また何処かに連れて行って貰えますよね、お願いします」
「ぜひ、私もお願いします」
「それは此れからの二人の行動と思考によりますね」
「う~ん、難しいなぁ~」
「確かにね、でもやり甲斐はあります、特にご褒美を思えばね」
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