第57話 マーガレットの帰宅
家に着いたマーガレットは睡眠薬のせいか寝室に直行し眠ってしまった。
ヘレンが一人居間でお茶を飲んでいるとテラスで音が聞こえキャサリンが居間に入って来た。
「キャシー、ありがとう、彼も一緒よね」
「無事で何よりね、勿論、彼と一緒よ、彼に感謝ね」
キャサリンは飲み物を頼みに台所に向かいながら返事をした。
「そう、やっぱり彼が助けてくれたのね」
ヘレンは立ち上がりテラスへ向かった。
「婿殿、マーグを救ってくれてありがとう」
「いいえ」
「あの子にスーツが無くても大丈夫な様ね、凄く早い対応に驚かされました」
「言いました様に家族全員の警護は出来る限りの事はしてあります」
「ありがとう、貴方の警護なら安心よ、間違っても監視などとは思わないわ」
「・・・」
「もう一度、ありがとう、婿殿」
ヘレンは居間へと戻って行き、台所から戻るキャサリンとすれ違った。
すれ違い様にヘレンはキャサリンのお尻を平手で叩いた。
「ピシャリ」と音がして「痛い」とキャツリンが叫んだ。
「ありがとう、キャサリン」珍しくヘレンはキャシーと呼ばずにキャサリンと呼んだ。
<アタ゜ム、どうしてスーツが働か無かったの、痛かったわ>
<おふざけですから、危険を感じませんでした>
<アダム、凄いわ、冗談も解る様になったのね>
<次回からはスーツを働かせますか>
<いいえ、今のままで良いわ、ありがとう>
<どういたしまして>
「貴方、アダムの能力が最近、格段に伸びている様に感じるのは私だけ」
「いいや、彼の記憶容量を増やしてしるし、素子を高速にしているからね」
「前の素子も現代科学の最先端の量子よりも早いでしょ、それよりも早いの」
「そう」
「考えたのは誰って、勿論、貴方よね、凄いわ~」
「慣性駆動の研究過程の成果です、これも私の活力を蘇らせた貴方の力です」
「そこが解らないのよね~、私の何が貴方を蘇らせたのか・・・」
「その内、分るでしょう」
「そうね~今は可愛いからにしておくわ」
「こうやって声に出して言葉を交すのも偶には良いものですね」
「アダムだけでは無くて貴方も進歩しているわね」
キャサリンが彼に軽くキスし、二人はそれぞれが今、課題としている事をアダムと頭で会話し始めた。
ヘンリー、デビッド、カリーも会社から戻り、汗を落とすと言ってシャワーを浴びにそれぞれの部屋へ向かった。
三人が部屋から居間に戻り、ヘレンがカリーの初めての会社の感想を聞いていると昼寝から起きたマーガレットも加わりカリーが中心の話が続いた。
「それでカリーは会社勤めは出来そう」
「私の仕事も机に向かっている事が多いのですがどちらかと言うと納期が有って無い様なものですから、今日見せて頂いた様な納期がきっちりしたものは向いていないと思いました」
「そうだな、私らの仕事は相手、得意先あっての商売だからな、相手に合わせるしか無いからね」
「カリーの仕事は納期とか期限みたいなものは無いのかい」
「学会や論文の発表が決まっている時には納期があります、が、それ以外は只ひたすら机に向かって研究、研究です、デビー」
「テビー??? デビッドの事なの、おやおや、いつの間に」
「お母さん、からかわ無いでよ、カトリーヌがカリーだから僕もデビーと呼んで貰う事にしたのさ」
「まぁ~良いわ、カリー、若いのにじっと机に向かってちゃ身体が訛っちゃうわね、何かスポーツをしているの」
「私もこれじゃいけないとテニスやヨガやテコンドーや空手、ボクササイズといろいろやって見たのですが、どうも合わないと言うかしっくり来なくて、でも自分に合うものを見つけました、合気道と言う武術とも違う護身術です」
「まぁ~、偶然て怖いわね、私もやっているのよ、でも私の場合は公務と言うか業務命令のようなものでけどね」
「何~、ヘレン、何時からなんだね」
「初めたばかりよ、貴方」
「あぁ、お母さん、極秘、国家機密って言ってたじゃ無いの~」
「冗談よ、冗談」
「それで何処で、誰に習っているのかね」
「それが国家機密なのよ、御免なさいね、貴方、みんな」
「確か合気道は日本の武術だろう、カリー、フランスにも道場があるのかい」
「デビー、何を言ってるんですか、日本の武術は今や世界中に支部がありますよ、空手も合気道も剣道もね」
「僕もそう思っていたんだが友達が空手を習いに道場に行ったらテコンドーの道場だったとかでがっかりしたと聞いたのでね」
「他人の気持ちは解りませんが私には合気道が合っている様です」
二人はお互いに秘密を守っているので知らぬ事だが師匠は同じキャサリンである。
勿論、キャサリンの師匠は彼である。
「それで二人の帯の色は何色何だい」
「帯の色、そんなの関係ないわ、護身と健康と美容の為だもの、ね~、カリー」
「はい、そうです、私の場合は運動不足解消も入りますが」
その時、ヨウコが居間に入って来て夕食の支度が出来ました、と知らせた。
夕食にヘンリーの好物の寿司を食べ終わり、皆が又居間に戻り彼とキャサリンは定位置のテラスに向かった。
皆が思い思いの飲み物を飲んでいると何気にヘンリーがテレビを付けた。
ヘンリーは株を少々と金・銀を少々持っていて今日の相場を確認する為だった。
だが、画面はニュースで、その内容にヘンリー、デビッド、カリーが驚いた。
「本日、ヘレン・ヘイウッド上院議員の次女のミス・マーガレットの誘拐事件がありました。幸いにも彼女は無事にDC警察により救出され病院で診察を受け現在は自宅に戻られた模様です、本来なら名前は伏せる処ですが彼女は新聞、雑誌で名前を知られておりますので伏せませんでした・・・」
ヘンリー、デビッド、カリーの顔と眼がマーガレットに向けられた。
「なんだ、なんだ、娘の事件を、災難をテレビで知るなんて馬鹿な話があるか、どう言う事だ」
ヘンリーが戸惑いと怒りの混じった声を上げた。
「テレビで見たでしょう、本当の事よ、でも私は車に乗せられて薬を飲まされて眠って仕舞って目覚めたら病院のベッドに寝ていて眼の前にお母さんがいた、それしか知らないわ」
「何~、ヘレンも知っていたのか」
「貴方、少し落ち着きなさいな、本人がこうして無事にここにいるんだから」
「無事にって、あの、その、眠らされていたんだろ」
「大丈夫よ、何もされていないわよ、安心して」
「なんで、お母さんが知っているんですか」
デビッドが当然の質問をした。
「身代金の要求が私の処に来たからよ」
「み・み・身代金~」
「当然でしょ、テレビで言ってたでしょ、拉致・監禁じゃ無くて誘拐って」
「何の関係があるのかね」
「みんな、この違いが解る~」
「・・・同じじゃ無いのですか」
カリーが問うた。
「ちぃ・ちぃ・ちぃ・おっとちよっと下品だったわね、御免なさい、拉致・監禁は人その者が目的なのね、でも誘拐は人では無く、誘拐された人を餌に金品などの要求が目的なのよ、さっきのニュースははっきりと誘拐と言ったでしょ、要求があったと言う事よ」
「君のオフイスにかね、因みに金額は幾らだったんだね」
「100万ドル」
「安~い」
マーガレットが文句を言った。
「馬鹿、我が家だから良いが普通は大金なんだぞ」
デビッドが当然の反論をした。
「私の家では払えません」
カリーは悲しそうに賛同した。
「マーグ本人が何も知らないと言うのなら、ヘレンに詳細に聞こうかね~」
「はい、はい、私が知る限りを事細かに詳細に話します」
ヘレンは宣誓でもする様に右手を上げて言った。
「オフィスで仕事をしていると秘書が・・・」
ヘレンは知っている事を本当に事細かに話したがキャサリンに連絡した事、多分、彼が解決した事は嘘を付かない様に話をはぐらかした。
議員の彼女に取っては素人二人や三人との会話で話をはぐらかすなど容易い事だった。
人は嘘を付くと自己に疚しさが生まれる、罪悪感が生まれる、これは自己意識に決して良い事では無い、その事を自覚している人は滅多にいない。
キャサリンとヘレンは彼の影響を受け自覚しカリーもその途上にあった。
そこで嘘を着かないで済む様に筋道を作る様な話術になっていた。
「明日にでも警察にお礼に行かねばならんな」
「駄目よ、賄賂になるから、そうね~寄付しましょう、100万ドルは多すぎるから10万ドルをDC警察に寄付しましょう、私の名前では選挙区が違っても駄目だと思うから貴方からお願いね」
「解った、明日やっておくよ」
「キャサリンに知らせなくても良いかな、彼女も気を付けた方が良いと思うのだが」
「マーグとは違うのよ、事務職とは言えFBI職員よ、それに彼女には彼がいつも一緒だから大丈夫よ」
「彼がいると何故大丈夫なんだね」
「何でもかんでも大丈夫なものは大丈夫なのよ」
「ふ~ん」
自信たっぷりなヘレンの物言いにカリー以外が不思議そうな顔をした。
その日のDC警察では事件解決直後から警察幹部が集まり会議が行われていた。
DC警察の所長クラスが集まる会議は毎週行われ場所は市庁舎と決まっていた。
DC警察所長が参加するのは月に一度が通例だった。
ましてDC市長が参加する事などあり得ないと言えた。
だが、その日の会議には各警察署の所長、幹部、DC警察所長、DC市長までもが参加したいた。
正面の被告席の様な処に座らさせているのは担当刑事のエディ・スタン警部補と彼の上司のエド・ブラウン警部だった。
「それでは、君と君の部下が現場に踏み込んだ時には犯人の三人は意識を失い誰かが用意してくれた様に連れて行くだけで良かったと言うのだな、そして被害者の娘も無傷で薬で眠っていたと・・・そんな事を君の部下が報告してきたら君は信じるのかね、どうかね、警部、警部補」
「正直申しまして、とても信じられません、ですが、これは真実です」
「・・・良く考えたまえ、被害者は薬で記憶がない、逮捕して手錠を掛けたのは君たちだ、世間が知る事実は他にあるかね」
「ありません」
「という事は・・・・」
「と言う事は、あとはこちらの自由と言う事ですか」
「やっと話が通じ合えたようだね」
「我々めったに合わない者たちが参加しているのは無事だったとは言え被害者の娘は上院議員の娘だからなのだよ、それも今、人気絶頂の指示を受けているヘイウッド議員の娘なのだ、必ずや記者会見の要求は来る、と言うかもう幾つかのメディアが庁舎の前に集まっているらしい」
当初、担当警察署の所長は記者会見の担当は通常通り警部で良いと思っていたが、詳細を尋ねると何だかはっきりせず所長が怒り出すと正直に真実を話出し警察の手柄では無く通報によるものと知った。
迅速な捜査行動による警察の手柄と記者会見をするつもりでいた所長は急遽、幹部会議を招集し本部長の進言で市長も呼ばれたのである。
「さて、誰が発表しどのような内容にするかだが、誰か妙案はあるかね」
「再度、臨時ニュースを申し上げます。
本日午前、米国上院議員ヘレン・ヘイウッド女子の次女が誘拐される事件が発生しました。
誘拐直後、議員のオフィスに身代金の要求がありました。
早急にDC警察が対応し倉庫に監禁されていた女子の次女を無傷で救出し犯人三人も逮捕しました。
被害者が上院議員の親族と言う事で異例の市長による記者発表がありました」
「マーグ、世間を騒がせたわね」
「こんな事にならない様に名前も顔も伏せているのになぁ」
「貴方が顔を伏せているですって、毎夜、毎夜出かけていたのにですか」
「昔の事よ、昔の、それにお母さんの評判を落とさない様にお友達は皆、お酒を飲んでいたけど、私は飲んでいなかったのよ」
「あら、ありがとう、とお礼を言うべきかしら」
「どちらにしろ、パパラッチがいっぱい写真を撮って顔は知られているなぁ」
「さて、今後どうするか、何か手はあるかねぇ~」
「・・・私に任せて起きなさい、マーグ自身にも解らない様な警護をするわ、任せなさい」
ヘレンは彼に相談し何とかして貰おうと考えていた。
彼は何らかの方法で家族を見守っていてくれるが事が起こって仕舞った、事が起こらない様に事前に災難を止める方法を考えて貰おうとヘレンは思ったのだ。
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