第58話 物理・天文学会の前日
その日、珍しくヘレンに電話が掛かって来た。
相手は大統領で秘書も通さず本人が掛けて来た。
「ヘレン、今日は大変な事で無事で何よりでした、娘さんは大丈夫ですか」
「ご心配をお掛けしまして申し訳御座いません、幸いにも娘には傷一つありません、DC警察にお礼の言葉も御座いません。お互いの立場上、贈り物も金銭も送る事が出来ません。警察へ寄付をとも考えたのですが」
「貴方のお家はお金持ちなのは知っていますが100万ドルにしろ10万ドルにしろ売名行為と思われるでしょう、同じ売名行為と取られるならば警察署に訪問してお礼を言う事に留めてはいかがですか」
「成程、そうします、処で、今日お電話頂いたのは別の要件があっての事ではないのですか」
「こんな時に申し訳無いのですが、プロジェクト会議を開きます、何時もでしたらお譲さんに連絡するのですが娘さんの事件のお話もしたいと思いましてヘレン、貴方に連絡しました」
「お気遣いありがとう御座います、それで何処へ何日何時に行きましょうか」
「大変、急で申し訳無いのですが明朝9時にペンタゴンでなのです」
「あら、確か明日の朝はイギリスの首相との会談の予定では無いのですか」
「そうなのです、明日は同席出来ないのです、申し訳ありません」
「貴方は大統領です、一議員に謝る事はありません、処で明日のペンタゴンでは何の会議ですか」
「おぉ、これは失礼しました、言っていませんでした、明日は物理学、天文学会議です」
「二回目ですね、何か新事実か理論でも生まれましたか」
「どうもそうでは無いらしいのです、前回の会議での貴方の娘さんの言葉に疑問を・・・疑いを疑念を持った様なのです」
「なんとまぁ~・・・でも会議を開くのに賛成したと言う事は大統領も疑念をお持ちですか」
「申し訳無いが実はそうなのです、これまで信じて来た法則が違うと言われても・・・光がこの世で一番早いと信じて疑わなかったから・・・」
「解ります、正直に言って頂いてありがとう御座います、そうであれば猶更参加して頂きたいですね」
「明日は何か証拠でも見せて頂けるのですか」
「確たる証拠をお見せするには、まだ時期尚早です、他人に証を見せられて論理、信念を変える前に自分自身で理論を熟考する事が大切です、他人に教えられ、見せられたものでは真に理解したとは言えないのです、再び不信、疑念が生まれるのです」
「小さな種を与えたから後は自分で考え抜けと言う事ですか」
「私はアインシュタインの理論を理解していません、が、この世に光よりも早い物がある事を知っています、今の理論ではそれが不可能な事であるならば、その理論が間違っているのです、私が納得出来る理論を考えてほしいのです」
「貴方は何かを体験された・・・その体験を私も出来ないでしょうか、学者達も体験出来ないでしょうか」
「・・・彼に相談して見ましょう、でちらにせよ、貴方は明日参加出来ませんので明日ではありません」
「はい、ありがとう御座います、失礼いたします」
「ありがとう、大統領」
「お二人さん、明朝から仕事よ、ペンタゴンで9時から会議ですって、珍しく大統領からの連絡だったわ、マーグの心配もあったみたいね、会議は物理、天文の学者さんたちがど゛うもまだ光よりも早いものがある事が信じられないみたいなのよ、大統領もそうみたいね、何か確証がほしい見たいだわ、婿殿考えてみてね、よろしく」
二人の定位置・テラスにやって来たヘレンが起きているのか寝ているのか解らない二人に大統領の伝言を言って一旦室内に入り、テラスに戻って来て二人の向かいのソファーに座り二人を見つめた。
<アダム、勿論、二人は聞いていましたよね>
<勿論です、聞いていますよ>
「貴方、何か方法はありますか」
キャサリンが声に出して彼に聞いた。
「ありません、船に乗せれば良いと思うかも知れませんが、現時点では乗せても信じないでしょう」
「私にした様に無重力を長時間体験させれば信じるんじゃないかしら」
「100人の学者達を乗せて無重力ですか・・・う~ん、体育室なら可能かなぁ~」
「あら、婿殿が考え込むなんて珍しい事もあるものね」
「私はまだ時期が早いと思っていました、会議を三回行った後と決めていました」
「私も大統領に証拠を見せるのは早過ぎると伝えたけど、それでどうするの、どうやって宇宙船に大人数を連れて行くの、婿殿」
「お母さん、宇宙船には連れて行きません、飛行機に乗って貰います」
「飛行機に乗っても無重力は短時間しか体験できないわよ」
「はい、実は今、世界中を飛んでいる飛行機は全て宇宙船なのです」
「まぁ~・・・じぁ~ひょっとして飛ぶ速度を抑えているの???」
「そうです」
「世界中で飛んでいる飛行機の全てが宇宙へ行けるの???」
「そうです」
「キャシー、キャシー貴方は知っていたの???」
「えぇ、以前聞きました」
「なんで、私に言わないのよ」
「秘密よ、ひ・み・つ」
「全く~、まだあるの秘密は???」
「ええ、いっぱいあるわ」
「全部言いなさい・・・と言っても無理よね」
「ええ、無理ね、知っているでしょう、物事には時期が有るって、私も知るには時期があるのよ」
「なんだ、お前も全部知っている訳じゃ無いのね」
「当たり前でしょ、お母さんはお父さんの全てを知っているの・・・知らないでしょ、別に浮気をしている訳じゃ無いけれど、逆にお父さんはお母さんの全てを知っている訳じゃ無いでしょ、彼だって私の全てを知っている訳じゃ無いもの」
「そんな事を言ってるんじゃ無いわ、何か世界を揺るがす様な事を秘密にしているのじゃ無いのかと聞いているのよ」
「世界を揺るがすかどうか知らないけど新聞の第一面に乗るネタはいっぱいあるわね」
「それよ、それ、それを言いなさいって言っているのよ」
「お母さんは欲張りね、議員て人には言えない事ばかりでしょ、それに今度のプロジェクトの秘密でしょ、なのにまだ秘密を持ちたいの」
「別に秘密を持ちたい訳じゃ無いのよ、時々不思議だなと思っていた事が、疑問が解けるかもしれないと思ってね、以外かも知れないけど、私は昔から遺跡や考古学って言うか人類学って言うか、人類は何処から広がったのかな、最初の一人、二人は何処に住んでいたのかなぁ~、とか、お猿さんが突然の様に遺跡を作る様になるって不思議だなぁ~と思っていたり、これは誰にも言った事無いんだけど議員になった理由の一つがね、エリア51なのよ、エリア51に本当に宇宙人がいるのかなぁ~なんて思ってね、兵隊さんじゃ何処に配属されるか解らないから議員それも上院議員になったら知らされると考えたのよ、星にも興味があった、ううん今もあるわ、あの輝く星には人類は何時行けるのか、光の速さで行っても何年も掛かる処に行ける様になるのかなぁ~とか考えていたのよ」
「へぇ~以外だわ、結構ロマンチストね、お母さんはもっと現実的な人だと思っていたわ、それでエリア51には宇宙人は居たの」
「キャシーも行ったでしょ、今の処居ないわね」
「あぁ、アダムが回答拒否ですって」
「う~ん、この場合の回答拒否はどちらか解らないわねぇ~、エリア51に宇宙人がいるのか、いないのか」
「時期が来たら彼が教えてくれるでしょ、お母さんの星への願いは近く叶えられるかもよ」
「キャサリン、お母さん、明日の物理・天文会議の仕切りはカリーにお願いします」
「えぇ~、カリーも知っているの???」
「まだ、お母さん程知ってはいないわ、それで先に伝えますか、その場で伝えますか」
「お任せします」
「アダム、カリーをここに呼んで下さい」
「はい、解りました」
直ぐに走る音が聞こえカリーが駆け足でテラスにやって来た。
「御用は何でしょう」
「明日、貴方が参加していた物理・天文会議の二回目があるそうよ、その司会をカリー、貴方にお願いします」
「えぇ~、私が司会ですか、100人以上の人の前でですか、私、私、人前が苦手なんです、ミセス・キャサリンの様に上手に出来ません」
「あら、私って上手だったの、私もね、あんな大人数の前では初めてだったのよ、お母さんは慣れているでしょうけど」
「あぁ、ヘレンさんもお二人の秘密をご存じなのですか」
「そうよ、二人ともスーツを着ているし体術の師匠は私だから二人は兄弟弟子ね」
ヘレンとカリーは見つめ合い握手し次に抱擁した。
「私が司会をするのは平気だけど議会の監査役としての立場だから無理ね」
「カリー、人は自分の行動を想像するけれど実際に起きた時に思っていた通りに行動するとは限らないものよ、例えば事故にあった時に怪我人がいれば皆が助けたいと予想するでしょう、が実際に事故に合うと我先に逃げる人が大半です、人は理想通りに行動するかはその場なって見ないと解りません・・・貴方が100人以上いる会の司会者になってどんな行動をするか自分自身で楽しみではありませんか???」
「・・・以前、大統領の演説をテレビで観ていて、私はあんな大人数の前で話なんて出来ないだろうと思いました、機会もありませんしね・・・はい、良い機会です、自分を試してみます、それで何か言う事はありますか」
「スーツの事は秘密です、宇宙船の持ち主も秘密です、自動調理機も秘密です、ボディー・リフレッサーも秘密です、宇宙船での体験は秘密ではありません」
「解りました、物理学者がまだ理論に縛られて信じられないのですね、気持ちは解ります、全力を尽くします」
「貴方の後ろには私も彼もいますから何時でも援助しますからね」
「はい」
「明日朝9時からペンタゴンで会議です、7時から朝食、8時15分に出発します、よろしく」
キャサリンはそう言うと眼を閉じた。
「ですって、カリー、大丈夫???」
「当たって砕けろです」
「やはり男より女の方が心は強いわね」
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