第56話 マーガレットの生還

警部のエド・ブラウンが病院に呼ばれ、議員への連絡と駆けつけて来るであろう議員の対応をする事なった。

「ヘイウッド上院議員のオフィスでしょうか」

「はい、そうですが、どちら様でどの様なご用件でしょうか、議員はお忙しいかたですので」

「こちらはDC警察の警部・エド・ブラウンです、取り付いて頂けますか、娘さんの事です、無事ですとお伝え下さい」

「議員に変わります」

秘書は先程の誘拐の電話から時間が経っていないのにもう解決したのかと怪しんだが取り次いだ。

「議員、警察からで娘さんは無事だと言っています、お繋ぎします」

秘書は大慌てでヘレンに電話を繋いだ。

「ヘイウッドです、娘は無事との事ですが、今どこにおりますか」

「私はDC警察の警部・エド・ブラウンと申します。

娘さんは無事ですが、睡眠薬を飲まされた様でベッドでお休みです、ご安心下さい。

病院はDCセントラル病院です」

「直ぐに向かいます、電話を切っても宜しいですか」

「はい、お待ちして降ります、では、後程」

ヘレンは秘書を呼んで今日の予定を全てキャンセルさせて車の手配を頼んだ。


ヘレンが病院に着き玄関を入ると一目で刑事と思われる男が近づいて来た。

「ヘイウッド議員、お待ちしていました、私は担当のエディ・スタン警部補です。病室にご案内します」

ヘレンとスタン警部補とヘレンの警護官の三人は話ながら歩きだした。

「ありがとう、こちらは私の警護官です、失礼ですが誘拐事件だからFBIが担当かと思いました」

スタンと警護官は歩きながら目礼した。

「通報又は発覚から24時間後にはFBIに連絡する事になっています」

「私は脅迫電話を受けて警察かFBIかUSSSか通報先に悩みました」

「マダム、詳細は後程お聞きしたいと思います」

「承知しました」

三人はエレベーターに乗ると5階で降り廊下を歩いて警官二人が出入口に立つ部屋に着いた。

スタン警部補が二人の見張り警官に挨拶しドアを開けてヘレンを中に通した。

ヘレンの警護官は一度内部を覗くと廊下に残り警備の二人の警官の向かいの壁際に立った。

部屋にはベッドに横たわるマーガレットと二人の警官がいた。

スタン警部補が二人の警官を紹介した。

「こちらは私の上司のエド・ブラウン警部と私の部下です」

「エド・ブラウン警部です、この度は大変でした、無事で何よりでした」

「ありがとう御座います、顔を見て宜しいですか」

「どうぞ、意識が戻りましたら事情聴取をお願いしたいのですが」

スタンの部下がビデオの準備をしていた。

ヘレンはベッドの横に置かれた椅子に事掛けマーガレットの手を握った。

「ええ、良いですよ、それで直ぐに眼を覚ましそうですか」

「睡眠薬のハルシオンが検出されました、眠っているだけです、ご安心下さい」

「目覚めるまで此処にいて良いでしょうか」

「はい、構いません」


マーガレットが目覚めると目に母・ヘレンの顔が映り手を握っていた。

「あら、お母さん、どうしたの・・・私・・・誘拐されたのね」

「全く、あんたって子は呑気な子だね~」

「だって~」

「貴方の意識が回復するのを警察の方が待っているのよ」

「事情聴取って言うやつね、一度経験したかったの」

「全くも~」

「刑事さん、こんな病室で事情聴取して良いのですか、取調室じゃ無くて良いのですか」

「お嬢さん、私はエド・ブラウン警部です、貴方の事件の捜査責任者です。

聴取は早い方が良いのです、貴方の気分が良ければですが」

「残念だわ、私、取調室にも入って見たかったのになぁ~」

「全くも~、申し訳ありません、警部さん」

「これだけ会話ができれば大丈夫です、お嬢さん、取調室が見たければ、後日何時でもどうぞ、では始めます」

警部はそう言って、ビデオをスタートさせ年月日と時間と場所を言った。

「では、誘拐被害者のミス・マーガレット・ヘイウッドの聴取を始めます。

貴方はミス・マーガレット・ヘイウッドですね」

「はい、マーガレット・ヘイウッドです」

「今朝、経緯を詳細にお話し下さい」

「家からタクシーで街に出かけました、ぶらぶらのウインドーを覗きながら歩いて道路を横断しようとした時に車、バンが近づいて来てあっと言う間に口を塞がれて後ろの席に乗せられました。そして直ぐに鼻を摘ままれて何か液体を飲まされました、その時は只の水と思ったのですが、飲んだ後、直ぐに眠くなったので何か薬が入っていたのでしょうね、後は全く覚えていません、次に目覚めたのは、この病院です」

「ありがとう、それで、何処に囚われていたか、犯人の姿、声、何でも他に情報はありませんか」

「・・・バンが黒と言う事だけです、後は眠っていましたので覚えていません、残念です」

「情報が無い事は確かに残念ですが無事で何よりでした、では、議員、貴方のお話をお願いします」

「今朝、10時頃でしょうか、秘書が慌てて私の部屋に入って来て誘拐だと言いました、私が電話に出ると、相手は明日の昼までに100万ドルを用意しろ、又連絡すると言いました、私は娘の無事を確認する為に娘の声を聞きたいと言いました、すると娘は眠っていると言うので、娘には手を出さない様にお願いしました、それで電話が切れました」

「声に聞き覚えはありましたか」

「声を変える・・・ボイス・チェンジャーですか、あれを使っていました」

「本来ならもっとお聞きする処ですが、今回は既に犯人を逮捕していますので聴取はこれでおしまいです、最後に議員は電話の直後に捜査機関に連絡していませんがどうしてですか、犯人に連絡するなと言われたからですか」

「いいえ、確か相手は警察へ知らせるなとは言っていないと思います、私が直ぐに何処にも連絡しなかったのは誘拐事件はFBIの担当だからFBIに連絡した方が良い、いや、私はUSSSの保護対象だからそちらの方が良いのでは、と考えを巡らせている内にそちらから救出したとの知らせを受けたのです、ありがとう」

「そう言う事ですか、では聴取は終了です、ありがとうこざいました。おい、ビデオを止めろ」

警部は録画ビデオを止めさせると間を置き再度話始めた。

「正直に申しますと、娘さんを救出したのは確かに我々DC警察なのですが、垂れ込み、あぁ市民からの知らせがありましてね、場所と犯人と被害者がガスで意識を失っていると言う物だったのですが、うちの者が行ってみると通報の通りでしてね、何の抵抗も無く犯人三人を確保しました、ですがガスでは無く誰かにスタンガンの電気ショックを受けた様なのです・・・我々警察にはこれ程楽な事件は無いのですが、どうもすっきりしません、正直な処」

「そうですか、私はどんな形であれ娘が無傷で無事に戻ったのです、後はどうでも良い事です、DC警察の手柄で良いのではないですか」

「はぁ、ありがとう御座います、その様に発表させて頂きます、では我々は失礼させて頂きます、念の為、外の警備は残します、家に戻られる時も警護させます、では」

ビデオの装置を仕舞って警部、警部補とその部下の三人が部屋から出て行き、廊下から警部が警護の二人に指示する声が聞こえた。

「貴方もこれで少しは懲りたかしら」

「私がこんな目に合うのもお母さんが有名人だからでしょ・・・とは言うものの意識を失う前のあの恐怖は二度と御免だわ、思い出すと今でも怖いわ」

「貴方も何か武術を習った方が良いかもね」

「このアメリカでは無駄でしょ、どんな武術も銃には勝てないわよ」

「それはそうだけど、皆が皆、銃で来るとは限らないでしょ、ナイフなら何とかなるし素手なら勝てる様にすれば良いんじゃ無いの、それに運動は美容にも良いわよ、きっと」

「そうね、でも私よりもお母さんの方が必要なんじゃ無いの」

「ご心配ありがとう、でもね、私はもう初めているのよ」

「えぇ~、何、護身術、空手、合気道、ボクシング、ねぇ~、何、何」

「そ~ね~、総合護身術とでも言うのかしら」

「何処で、誰に???」

「内緒、内緒、国家機密」

「何でお母さんの護身術が国家機密なのよ~」

「私が国家機密と言ったら機密になるの、解った」

「そんなの国家権力の乱用よ、訴えてやる~」

「それだけ元気なら家に帰っても大丈夫ね、先生に確認して来るわね」

ヘレンはそう言って部屋を出て行った。


マーガレットが座る車椅子を看護師が押し、その後をヘレンと護衛官が付いて行った。

ヘレンの護送車の様な仕様の専用車に乗り家へと向かった。

「この車に乗るのは久し振りだわ、前のと少し違うわね」

「兵器も小型化して強力になった様で防弾が強化された車に変わった様ね」

「いたちごっこって言う事ね、永遠に終わらないわね」

「とも言えない・・・と良いけどね」

ヘレンは心の中で<危ない、危ない、秘密を漏らす処だったわ、家族相手だと大変だわ>と思っていた。

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