第54話 第二回考古学会議

連日カリーの訓練と学習を行っていたある日の夕方、何時もの様にテラスで彼に凭れ掛かっているキャサリンの電話がなった。

「ハロー、イエス・・・・・・」

何時もの様にイエスだけで電話を切った。

「明日はお仕事よ、貴方、エリア51の発掘が終わった様よ、朝9時にここから飛行機で行きましょう、アダムにお母さんとカリーに伝えて貰います」

エリア51のピラミッド発掘開始から一か月が経っていた。


初めてアダムを紹介した時には驚いていたカリーも今では物理・天文に限らず時間があればカリーはアダムにいろいろと質問し知識を吸収していた。

勿論、日本語の習得にも時間を割いていた。

ヘレンは議員としての公務の合間を見つけてはスーツの機能についてアダムに質問し可能性と限界を確認したり、彼・サクライについてアダムが何処まで答えてくれるかを確かめていた。

キャサリンはアダムと世界中の遺跡を研究し関連性を探したり、宇宙から新たな精密衛星写真を撮りまだ見つかっていない遺跡を探したりしていた。

それはキャサリンの一つの仮説に基づく研究で、その仮説とは人類の文明の歴史は現在一般に知られているものよりももっとずっと古いはずだ、と言うものだった、その証拠となる遺跡を探しているのである。


翌日、ヘンリー、ヘレン、デビッド、カリー、キャサリン、彼の五人が何時もの様に朝食を食べた。

「貴方、今日はプロジェクトの仕事で四人で出かけるわ、今日中に終わるか解らないわ、御免なさいね」

「解った、気を付けて行っておいで」

「ありがとう」

「じゃ、仕事に行って来るよ、デビッド、行こうか」

「はい」

ヘンリーとデビッドの二人が仕事に出かけて行った。

「少し、早いけど私たちも行きましょうか、キャサリン」

「良いわよ、カリー準備は良いかしら」

「オーケー」

次の瞬間、四人がスーツ姿になり、その場から消え、一瞬庭に開いたドアから船に乗り込んだ。

船は慣性制御装置が働き一瞬で大気圏外に通常重力のままに到着し、ゆっくりとエリア51へと放物線を描き下降して行った。

飛行場の片隅に降りた船から揃いの黒のビジネス・スーツを着込んだ四人が降り立った。

エリア51のレーダー管制官は突然上空に飛行機が現れた事を不思議に思うが宇宙空間は監視外であるから突然現れたとしか思えないのである。


飛行機の格納庫が開き傾斜路が迫出しキャサリンの愛車がゆっくりと降りて来た。

四人が車に乗り込み入口のある洞窟へと走り出した、運転しているのは勿論キャサリンだった。

キャサリンが運転する車は洞窟に入ると横に空いた下へ向かう脇の洞窟へと入り降りて行った。

地下の広大な駐車場に車を止めた四人は車を降りてエレベーターに乗って上へ向かった。

10階に着くとエレベーターを降り廊下を歩き一つの扉の前に着くと彼が扉を開いた。

ヘレンを先頭に部屋に入り最後に彼が入った。

部屋の中は大勢の人が椅子に座ったり立ったりして話し合い騒めいていた。

正面の壇上にいたヘーゲンが四人に気付き近寄り挨拶を交した。

「いや~、お久ぶりです、お迎えにも行かず申し訳ありません」

「お久ぶりです、お元気そうで安心しました」

その時、騒めく群衆の中からマーガレットとジョナサンが現れ、近寄った。

「お母さん、元気だった???」

「マーグも日焼けして凄く元気そうね」

「お久ぶりです、またお会いできて嬉しいです、皆さん」

「ジョナサンも元気で良かったわ、マーグが迷惑を掛けていなければ良いのだけれど」

「迷惑などとんでもありません、良き助手、良き同僚です」

「それを聞いて安心しました、この子が迷惑を掛けていないとは、ちょっと信じられないわね」

「酷いわ、お母さん」

部屋の中は待ち人が来た事で皆が自分の席へ戻りつつあった。

「挨拶も済んだ処でそろそろ始めたいのですが」

ヘーゲンNSA副長官が皆に言った。

皆が壇上に上がりヘーゲンがマイクの前に立った。

「皆さん、ご苦労様でした、これより第二回目のプロジェクト会議を行います、では司会はプロジェクト・チーフのジョナサン・シーモア博士にお任せします」

「皆さん、お疲れ様でした。

ピラミッド発掘も全容が見える処まで来ました。

我々考古学者の仕事は此れからが本番と言えます。」

ここまで言った処で、突然、彼が立ち上がりジョナサンの隣に歩いて行くとジョナサンを静かに横に退かした。

そして彼が横の壁の大きなテレビ画面を指さした。

画面が明るくなり、金色に輝くピラミッドを上空から眺めた画像が現れた。

暫くするとピラミッドから少し離れた処が輝き出し、その輝きはピラミッドの輝きと同じに見えた。

画面が拡大され新たな輝きが徐々に拡大されて行った。

画面に映る金色はピラミッドのものとは少し違い金色と青の帯に見えた。

会場は静まり返り、皆は只黙って画面を見つめるだけだった。

暫くして、マイクの側に立つジョナサンが独白の様に言った。

「あれはスフィンクスの頭の様だ」

その言葉に会場内に歓声とも悲鳴とも着かない声が響いた。

いつの間にか彼は自分の席に戻って座っていた。

「まだ発掘は終わっていない、もう一か所あると言う事ですか」

ジョナサンは彼の方を向いて聞いた。

その時、助手としてジョナサンと何時も一緒にいるマーガレットがジョナサンの側に来て小声で言った。

「あの新たな輝きがスフィンクスだとするとピラミッドとの位置関係から見ると、もう一体のスフィンクスがある様に見えるのですが私の勘違いでしょうか」

マーガレットは小声で言ったのだがマイクに拾われ会場内の全員に聞こえた。

会場内が騒めいた。

「本当だ」

「ピラミッドの両側にもう一体あるのか」

「じゃ~エジプトにも、もう一体あるんじゃないのか」

暫く騒めきが続いた。

今度はキャサリンがジョナサンの隣にやって来てマイクを手に持った。

「皆さん、皆さんは六つのグループに分かれて頂きます、1班はこれまでのエリア51のピラミッドの研究、2班と3班はエリア51のスフィンクス左、4班と5班はエリア51のスフィンクス右、そして6班はエジプトのスフィンクス右です・・・班分けはシーモア博士にお任せします、長期遠征は慣れている事でしょうし、戻れば詮索されるでしょう、このままの滞在が良い選択と考えます、では皆さんの健闘と健康を祈ります」

キャサリンはマイクを戻すと立ち上がったヘレン、カリー、彼と一緒に壇を降り部屋を出て行った。

「お母さん、ピラミッドを見に行きましょう」

「黄金のですね」

四人は地下駐車場で車に乗りピラミッドへと向かった。


テレビでも上空からの映像は時々見てはいたが実物は別物だった。

遠くからでも日の光を反射し黄金色に光輝いていた。

近づくにつれて輝きが強く感じられ四人は内ポケットからサングラスを取り出し掛けた。

車はピラミッドの側に止まり四人が降りた。

「幅230メートル、高さは160メートルと大きさは聞いていたけど実物は桁違いにでかいわね」

「カリー、どう、これがピラミッドの本来の姿よ」

「凄いですね、これは人の手に寄る物ではありません、あり得ません」

「人で無ければ誰が建てたと思うの」

「そこが問題なんですよね~、私は神様を信じていませんし、宇宙人と言うのもね~」

「その内、学者さん達が答えを見つけてくれる事を祈りましょう」

「私は彼が教えてくれる事の方に期待するわ」

ヘレンの学者期待に対しキャサリンは異論を唱えた。


彼を除く三人は離れて見たり近づいて見たりとうろうろとしたり手で触ったりと時間を掛けた。

彼が車に乗り込んだのを潮に三人も車に戻った。

キャサリンは車を基地にも船にも向かわせずスフィンクスへ向かわせた。


三人が観た物は長さ1メートル、幅50センチ、高さ30センチの黄金と青色に輝く物だった。

「この下に隠れている顔はどんな顔なんでしょうか」

「そうね、楽しみね」

「当然、彼は知っているのよね~」

キャサリンはそう言いながら振り向いて車に残って座っている彼を見つめた。

「一体彼は何者なの??? 何が目的なの???」

「さ~、彼は私たちに何の迷惑も悪さもしていないわ、だから私は付いて行くだけ」

ヘレンの問いにキャサリンは決意を込めてそう言った。


四人が基地に戻ると班分けも終わり、それぞれの班の長も元、今後の計画を練っていた。

ジョナサンは基地に残り統制役に徹する事になった。

助手のマーガレットは大学への論文提出の為に一時帰宅する事になった。

エジプトへの出発準備が出来次第カリーに連絡する様にジョナサンに伝え5人は車に乗り込んだ。

5人が乗り込んだ車は基地の外に出ると船へと向かい、傾斜路を上り船の中に収まった。

暫くすると船は上昇し通常の飛行機の様にヘレンの家へ向かって帰って行った。

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