第53話 ある日の散策

発掘報告も無く、物理・天文報告も無く、ホワイト・ハウスからの呼び出しも無いある日。

カリーの訓練も一区切り着き、今はカリーの独学・消化の期間だった。

キャサリンは久しぶりに彼を散歩に誘った。

彼女はまだまだ若い頃によく行った近くの公園を選んだ。


二人が腕組んでぶらぶらと宛ても無く歩いていると彼が突然止まった。

彼女が何事かと彼を見ると彼の視線の先に、若い女性がいて娘が道端の花をじっと見ているのを黙って優しい眼差しで見ていた。

彼女が彼に話そうとすると彼が彼女の口に指を当てて黙らせた。

花を見つめる少女を母親が見つめ、その二人を男女の大人が見つめている、何とも不思議な風景だった。

「あの少女は強い好奇心と良識を持った良い大人になるでしょう、世界中の大人があの母親の様であれば良いのですが・・・」

彼はそう言って娘とその母親に視線を向け続けた。

最初、興味の無かったキャサリンも彼の言葉に娘を見つめる母親と娘の心の中を想像していた。

キャサリンは思った、普通、よく見かけるのは好奇心旺盛な年頃の子供が立ち止まると母親、父親は子供を急き立てて無理やり歩かせる風景だ。

それが当然の風景であり親子の姿だと思っていた、今、彼に其ればかりでは無いと気付かされた。

この母親は何時もそうなのか、今日はたまたま、この後の予定が無いからなのか、が気になった。

彼女に予定があるのに待っているとしたらどう言う気持ちなのか、思いなのか、彼女のそんな態度をさせる御主人、夫はどんな人でどんな職業なのだろう、やはり裕福なのだろうか、などといろいろな疑問がキャサリンの心の中に沸き起こった。


キャサリンは彼と腕を組んだままに彼女に近づくと声を掛けた。

「可愛い娘さんですね、お子さんは御一人ですか」

「はい、あぁ、貴方はキャシー、ヘイウッド議員の娘さんのキャサリンでしょう、私よ、私、ナンシーよ、ナンシー・コンラッドよ、今はナンシー・クラークだけど」

「まぁ~、ナンシー、お久しぶりね、何年になるかしら、え~と、中学以来だから10年以上ね」

「貴方、全然変わらないわね、昔も綺麗だったけど今は磨きが掛かったみたいよ」

ナンシーはキャサリンと話ながらも決して娘から眼を離さなかった。

「ありがとう、貴方、結婚してお子さんもいて幸せそうね、良かったわ、私も結婚したのよ、彼が私の旦那様よ」

「おめでとう、お子さんは???」

「まだなの、だって結婚したばかりだから」

「それは、おめでとう、貴方は式や披露宴はしないと言っていたけど、本当にしなかったの」

「えぇ~、しなかったわ、籍を入れただけよ、私、貴方にそんな話もしたの」

「えぇ、いろいろと将来の話をしたわよ」

「御免なさい、私は全然覚えていないわ」

「良いのよ、私も皆の言った事を覚えている訳じゃ無いわ、貴方だからよ」

「私だから・・・どうして」

「私が貴方を好きだったから、あぁ、でも私ゲイじゃ無いわよ」

「それは子供がいるんだから解るわよ、貴方にそっくりな子供がね」

「そうかな~、皆は旦那に似ているって言うんだけど」

「処でナンシー、此れから何か予定はあるの」

「別に無いわよ、何故???」

「良かったら、少しお話ししたいなぁ~と思って、主婦の先輩に聞きたい事もあるしね」

「良いわよ、何処にする、此処、私の家、貴方の家、それとも何処かのカフェにする???」

その間、彼はナンシーの娘に近づき何か話をしていた。

「あら、まぁ~」

ナンシーが驚きの声を上げ、キャサリンも見るとナンシーの娘がしゃがんだ彼の膝の上に座っていた。

「あの子は凄く人見知りなのに・・・不思議ね~、珍しい」

「彼の魅力に年齢制限は無いのね~」

キャサリンは不思議な独白を言った。

「私のアパートは直ぐ近くだから来ない」

「良いの」

「行きましょう」

「スージー、もう家に帰るけど良いかしら」

「はい、マミー、この人も一緒???」

「そうよ、嬉しい???」

「うん、嬉しい」

「あらあら、貴方の旦那様を取られちゃうかも知れないわよ」

「さぁ~、それはどうかな~逆かもよ」

「どう言う事???」

「貴方の娘が彼に夢中になると言う事よ」

ナンシーはまさか、と言う眼でキャサリンを見て歩きだした。


「さぁ、入って、入って、ようこそ、我が家へ」

ナンシーの家は本当に公園の隣と言っても良い程の近くで部屋はアパートの5階だった。

「うわ~眺めが素晴らしいわね、い~ん、思い出したわ、でも、記憶にある景色と少し違うわ」

「正解、小さい頃の家はこの建物の3階よ、今も両親が住んでいるわよ」

「あぁ、成程ね、でも両親と一緒のアパートに住めるなんて幸運ね」

「本当、私が仕事に行く時にあの子の子守をお願いしているのよ、飲み物は何が良い???」

「それは便利ね、処で貴方のご主人と貴方の仕事は何??? あぁ、私は政府関係よ、珈琲をグラスに入れて氷を入れて貰えるかしら、彼も一緒よ」

「私もね、政府関係なのよ」

「そう、これ以上はお互いに聞けないわね、残念だけど」

「そうね、それがお互いの仕事の困った処よね、処で貴方が言った事が解ったわ」

二人の前で娘・スージーが彼の膝の上に座り彼の顔を手で撫でながら何か話をしていた。

「貴方は何処から来たの???」

と聞いていた。

「彼は何処の国の人、アメリカ人なの???」

母と娘が同じ様な問いを発した。

「彼は日本人よ、私達は国際結婚ね」

「政府職員に外国国籍の人はいないでしょう、家族に外国人も許されるのかな~」

「さぁ~どうかしら、でも私達は大丈夫よ、上司の許可も得ているのよ」

「あぁ、そうか、上院議員の娘だものね、はい、どうぞ冷たい珈琲よ、初めて作ったから上手く出来たか解らないけど」

「ありがとう・・・少し苦いけど美味しいわ、ありがとう、私の結婚に母は関与していないわよ」

その時、彼が上着の内ポケットからストロートと何かをだいた。其れには透明な液体が入っている様だった・

彼が出したカトローを彼女と自分のクラ゛スに差し透明な液体を掛けてカトローでかき回した。

彼が自分の珈琲を飲み満足して娘と遊びだした。

キャサリンは透明な液体が気になって自分の分を試しに飲んで、味に大満足してほほ笑んだ。

「そのビンの中身はシロップよ」

「冷たい珈琲は初めてだけど私にも飲ませて貰える」

キャサリンは自分のグラスをナンシーに渡した。

ナンシーは初めてなので恐る恐る少し飲んだ。

「これ凄く美味しいは初めてで新鮮な味だわ、私も此れにしようかな」

「ねぇ、ねぇ、ナンシー、話は全然違うんだけど、今日、私が声を掛けた時、ナンシーが娘が周りに見惚れている時に早く行くわよ、とか言わずにじっと娘が飽きるまで待っている様な感じだったでしょ、本当に飽きるまで待つつもりだったの」

「えぇ、そうだけど、何が聞きたいの」

「悪く取らないで、批難している様に聞こえたなら御免なさい、逆なのよ、彼が娘の好奇心を黙って見つめる貴方を見て、世界中の人が貴方の様であれば、と言ったのよ、それで私もいろいろと考える内に好奇心が沸いてきて貴方に声を掛けたの」

「彼がそんな事を私って変わっているのかなぁ~」

「えぇ~、良い意味でね、凄く良い意味で変わっていると思うわ」

「そうかなぁ~、私は時々見かける子供が何かに目を止めているのに「早くいらっしゃい」と言う親にはなりたくないと思っているだけよ」

「そう、そこなのよ、なんだ、貴方も気が付いていたんだ、そうよね、結構そう言う風景って見かけるものね、でも私は、あ~あ、と思うだけで貴方の様に私はそんな親にはならない、なんて考えもしなかったわ」

「そうなのか、遺伝なのかな~、私も小さい頃から好奇心が旺盛だったみたいなのよ、母がそう言っていたのを思い出したわ」

「じゃ~、お母さんも今の貴方の様にじっと貴方が飽きるまで待っていたのね、きつと」

「そう見たいよ、でも気付いてくれる人っているのね」

「彼って、そう言う人なのよね~」

「貴方の旦那さんて何している人なの」

「仕事って言う事・・・無職、仕事はしていないのよ」

「・・・変な人、大丈夫、貴方騙されていないの、貴方の家は裕福だから狙われたんじゃないの」

「それは無いわね、だって彼は私の家の全財産よりお金持ちだから」

「人は見かけに寄らないと言うけど、そんなにお金持ちには見えないけどなぁ~、でも話術は達者な様ね、あの子があんなに懐くなんて初めてみたわ、驚きね、大丈夫本当にお金もちなの、騙されていないの」

「大丈夫よ、貴方の旦那様は何をしている人なの???」

「彼も政府職員なの、だからこれ以上は、御免ね」

「そうか、気にしないで私も政府職員だから事情は解っているから」

「ありがたいわ、昔の友達に会っても中々理解して貰えなくて、そこがちょっと辛いわ」

「気にする事無いわよ、日々どれだけの政府職員が国の安全に関与していねか知らないのよ、昔の友達に会う機会は多いのかな、そうね、何人かいるわよ、私の職業し旦那の職業を知りたがるのは困るわね」

「じゃあ、寂しい時は私の家にいらっしゃい歓迎するは、私の家では仕事の話は厳禁でから安心よ」

「ありがとう、そうさせてもらうわ」

「お子さんは4才位かな、一番可愛い年頃でだけど好奇心も強くなる年頃でしょ」

「そうね、貴方はお子さんの予定は」

「さぁ、まだ話していないから解らないけど彼が欲しがったら直ぐに作るつもりよ」

「他人の子供をあれだけ可愛いかせるのだから自分の子供だとどうなるのか楽しみだと思わない」

「舐めて、溶かしちゃうんじゃ無いかしら」

「ふ・ふ・ふ・そうね」


女性二人が昔話に盛り上がり2時間ほど過ごし、携帯の電話番号を知らせあった後、二人は家を去った。

娘のスージーは彼と離れるのを嫌がり、涙顔で「また、会おうね、約束、約束」と言って愚図った。

「本当ね、貴方の旦那さんの心は素晴らしいのね、きっと、子供は内面を見ると言うから、私は余り話さなくて良かったかもね、じゃあまたあいましょう」

アパートの玄関まで見送りに出て来た親子と別れた。


「御免ね、貴方が子供の相手をしてくれたから落ち着いて話が出来ました、疲れたでしょう、ありがとう」

「いいよ、やはり、あの子は感性が素晴らしい子だった、私の方こそ、ありがとう、心が洗われました」

「貴方は本当に不思議な人ね、大好きよ」

今や彼の妻となり心も体も彼と結ばれた彼女は、とても容姿端麗ですれ違う男女が足を止めて見つめる程に幸せを発散させる様になっていた。

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