第40話 議長 シーモア博士

「行ってきま~す」

ヘレンが皆を代表して留守番の夫・ヘンリーと息子・デビッドに出発の挨拶をして玄関を後にした。

キャサリンの車に運転するキャサリン、助手席に彼がそして後ろにジョナサンとマーグが乗った。

ヘレンの議員専用車には護衛の運転手と助手席にも護衛が乗り後ろの席にはキャサリンとカリーが乗った。

二台の車はゲートで警備の人達に見送られてダレス空港へ向かって出発した。

暫く走った処でキャサリンが驚愕の声を上げた。

「あぁ、あぁ、貴方、ハンドルが・・・」

<バージニア州・アーリントンのロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港へ向かいます>

彼の声がキャサリンの耳に響いた。

一瞬で悟ったキャサリンはさも自分が運転しているかの様にハンドルの上に軽く手を添え続けた。

キャサリンは母・ヘレンが乗る後ろの車が付いて来るかとバック・ミラーを見た時に再度、彼の声が頭に聞こえた。

<大丈夫です、アダムから連絡が行っています>

キャサリンは安心して運転している風を装った。


二台の車は空港のゲートに着き一旦停止したが何故か無人のゲートが開き車は中へと入って行った。

入ったエリアには人が見かけられず、ただ、今では見慣れた、ほぼ球形の航空機が泊まっていた。

二台の車は地下駐車場に入りエレベーター近くの駐車スペースに止まった。

キャサリンの車からは全員が降り、ヘレンの車からは護衛官と運転手の二人が残り乗客が降りた。

護衛官はエリア51には専任がいる為、ここで役目は終りであった。

全員がエレベーターに乗り2階で降りると彼を先頭に廊下を歩き飛行機の搭乗口に着いた。

彼の先導で中に入り客室を見ると誰も座っていなかった。

「これ専用機なの、婿殿」

「そうよ、お母さん、みんな、好きな処に座って」

彼に変わってキャサリンが答えた。

皆が外周に沿った一番窓際に間隔を空けて座りシートベルトを締めた。

皆は飛行機に乗り慣れていて搭乗してから飛び立つまでの時間が短い事を知っていた。

最後の一人がシートベルトを締めた数秒後には飛び立っていた。

因みにヘレンたちを乗せて来た車は空港の案内アナウンスに従い空港の外へと出され帰路に着いていた。


この飛行機はとても速いのではあるが難点もあった、まるでジェット・コースターに乗っている様な姿勢になるのだ。

地上を離れた飛行機は目的地に少々傾斜しながら上昇し高度12000メートルに達すると水平飛行になる。

座席も飛行機の傾斜に伴い傾斜し常に足が下を向いていた。

重力は常に足元に掛かり加速の力は背に掛かる事になっていた。

只、座席の肘掛に付いたボタンの操作で席の向きが変わり窓に向ける事も出来た。


今回の目的地は米国内と近場の為、水平飛行に要したのは15分だけだった。

丁度、離陸した事の逆の動作をしてエリア51の飛行場に垂直着陸した。

連絡を受けた要員たち3台の車で超極秘国家プロジェクトのリーダーを迎えに来た。

要員達はテレビで見かけるヘレンをリーダーと思ってか上院議員としてか、至極丁寧に迎えた。


エリア51はネバダ州レイチェルにありアメリカ空軍のネリス試験訓練場の中一部でホーミー空港とも言う。

ラスベガスの北北西約200kmにある。

そこには2つの滑走路と未完成の滑走路があり、未完成の一つに彼らは着陸した。


彼らを乗せた三台の車は地下へと続くトンネルへと入り優に1mを超える厚さの扉を通り抜けて奥へと進んだ。

エレベーターの前で車が止まり別の要員が案内を引き継ぎエレベーターを使い10階へ上った。

要員は10階で降りると暫く歩いて一つのドアの前で止まりドアを開けると皆を中へ誘導した。

中には以前合ったはずの大勢の考古学者たちが待っていた。

「改めてご紹介しましょう、彼が今回の米国超極秘国家プロジェクトのリーダー・ミスター・サクライ、そして通訳で彼の奥様のミズ・キャサリン、上院議員のミズ・ヘイウッド、議員はミズ・キャサリンのお母様です、そして、皆様考古学者のリーダーを務めるジョナサン・シーモア博士、もう一人の女性は物理学者でミズ・キャサリンの助手を務めるカトリーヌ・キャロン 博士です、申し遅れましたが、私は進行役のNSA副長官のアレックス・ヘーゲン です、では早速、議長のシーモア博士に進行をお願いします」

檀上のマイクの前からヘーゲンが下がりジョナサンがマイクの前に立った。

「私は君の議長を認めたつもりは無い」

「そうだ、私も認め無い」

最前列に座っていた二人の中年の二人の男が立ち上がり叫んだ。

周りの学者たちは物珍しい物でも見る様に只眺めていた。

大勢の人達の前で話す事に慣れていず、優しい性格のジョナサンは、この第一声に狼狽した。

その時、檀上の椅子に皆と座っていた女性が一人立ち上がりマイクに近寄るとマイクを掴み取ると言った。

「貴方たちは礼儀も恥じらいも常識も知らない失礼な方々ですね、人に話掛ける時は名乗るのが礼儀です、第一前回の集まりで彼が指名された時に反対せず今日は反対とは理解できません、第二に提案、反対する時には代案を持ってが常識です、この場合は議長の席ですから代わりに適任の方がいると言う事ですね、そしてそれは貴方方のどちらかであり、つまりは議長の席を妬んで自分に譲れと言う脅しですね、ですが議長になるにはプロジェクト・リーダーであるミスター・サクライの承認が必要です、がお二人には承認が得られると言う自信が有るのでしょうか・・・因みに私は議長・シーモア博士の助手で秘書のマーガレット・ヘイウッドと申します、ミスター・サクライの義理の妹です、義理の妹の立場で言わせて頂ければ、義理の兄は決して、決して貴方方の議長を承認はしないと思います、貴方方のお名前は???」

綺麗な女性の穏やかながら怒りを込めた物言いに場内は静まり返り、反対を唱えた二人は息をする事も忘れていた。

何時の間にか隣にキャサリンが立っていてマイクを掴むと追従した。

「ミスター・サクライは反対意見は大好きです、大歓迎です、ですが代案の無い反対意見は大嫌いです、そして何よりも嫌うのは人事に関しての自薦です、貴方方を推薦はしません、逆にこのプロジェクトから外されない事を祈る事ですね、どうしますか、ご自分で脱退しますか、但し秘密保持契約は未来永劫続きます、些細な事でも漏らせば全力で訴えます、米国政府の力、彼の力を侮らない事です、ここに居らっしゃる皆さんは同じく秘密保持契約を交わしていますからお伝えします、彼はあの、あの航空機会社のオーナーです、彼のノーの一言で貴方方は飛行機に乗れなくなります、貴方方の国の飛行機も止める事も出来ます、脅しに聞こえますか、脅しではありません、事実です・・・さて、お二人はどうなさいますか、因みに私はミスター・サクライの妻のキャサリン、上院議員の娘です、そしてミスター・サクライの為にFBIから派遣された通訳でもあります、再度、お聞きします、お二人はどうなさいますか」

極めつけの美人からの極めて優しい物言いながら断固とした意思の込められた言葉に内容も相まって場内は物音一つ聞こえない静寂に包まれた。


静寂を破って再度キャサリンが話出した。

「では、最初からやり直しです、シーモア博士に進行をお願いします、念を押しておきますが、彼の後見にはミスター・サクライがいます、但し、彼がその事を良い事に横暴になるならば彼には辞めて頂きます、ではシーモア博士、お願いします」

キャサリンとマーガレットはマイクをジョナサンに戻し後方の椅子へと戻った。

「私はジョナサン・シーモアと言います、イギリスから参りました、32才の若造ですが考古学に掛ける思いは皆さんに負けないつもりです、今回、この貴重に機会を皆さんと一緒に共有したいと思います、地球の歴史、人類の歴史の謎を一つでも多く解明しましょう、今日はまず実物を見て発掘計画を立てたいと思います、係の方、遺跡までは5キロと聞いていますが歩きですか車ですか」

後ろに座って控えていたヘーゲルが答えた。

「バスを10台用意してあります」

「ありがとうございます、では皆さん、まずは実物拝見と行きましょう」

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