第39話 エリア51への前日

珍しくヘンリーが早く帰宅した。

「どうしたの、貴方、こんなに早く帰るなんて」

「うん、どうもな~いつも息子と二人だったから・・・慣れ過ぎたかね~」

「息子が一緒じゃなくて寂しかったのね」

「・・・かも知れないなぁ~」

「処で、貴方、素晴らしいと言っていた体形の維持は出来ているの」

「・・・それがねぇ~中々難しい、あの体形は相当頑張らないと維持出来ないよ」

「・・・じゃ早く帰った事だし、此れからジョギングしましょ、さぁ、着替えて来て」

「此れからかい」

「そうよ」

「ヘレン、君は変わったなぁ~」

ヘンリーが着替えに部屋に向かうとヘレンは電話を取り警備へジョギングに出ると連絡した。


ヘレンとヘンリーが家を出てゲートへ走って行くとトレーナーを着た警備要員が二人待っていた。

ヘンリーが一緒だと知って少々驚いた様だった。

四人が走り出して40分程経った頃にヘレンを呼ぶ声が聞こえた。

「お母さ~ん、頑張ってるわね、待っててね、私も追いかけるから」

市街へ遊びに行っていた四人がタクシーに乗り戻って来た。


4人と一人の警備員が追い付き9人の集団がジョジングする姿は一種異様な物で皆の注目の的になった。

それから一時間後に3人の警備の人間を連れた六人がゲートを通り地下のプールへ向かった。

「貴方たちも一緒にプールで汗を流しなさいな」

ヘレンが警備の三人に声を掛けゲートで水着を手にし主任の許しを得て9人がプールで汗を流した。

「お母さんてそんなに泳ぎが上手だったかしら、早い、早い」

「これも日々の練習の賜物かしら」

マーガレットの感想をヘレンは柔らかく躱した。

「お母さんが外を走っているのに驚いたけど、お父さんが一緒でもっと驚いたわ、お姉さんが一緒なら解るけど、お姉さんと彼は???」

「それは決まっているでしょ」

「テラスの何時もの処???」

「他に何処にいるって言うの!!!」

「私では無く二人を誘えば良かったろうに」

ヘンリーが少し文句の様に言った。

「二人は体形維持の心配がなさそうだからよ、貴方は危ないでしょ、維持できるの???」

「確かに、維持は難しいがね、あの二人はどうやって維持しているのかなぁ~」

「カリー、この家族は健康的で素晴らしい体形の一家ですね」

「えぇ、でも、こうやって努力しているからじゃないのかしら、ジョナサン」

「私も、少しは意識した方がよさそうだ」

「私の方が必要だわ、貴方は仕事柄、身体を動かすけど私は座ったままの仕事だから・・・今は若いから良いけど、このままだと数年で大変な事になってしまうわね」

「兎に角、二人とも、この一家を見習った方がよさそうですね」

「言うが易し・・・実行する、続けるのはもっと難しいわ」

「ですね」

「でも変よね、キャサリンと彼がいないわ、彼らはどうやってあの体形を維持しているのかしら???」

「・・・」

その時「ビー、ビー」とブザーが鳴った。

「上院議員、ありがとうございました、我々は警備に戻ります」

「いいえ、こちらこそ迷惑を掛けたわね、隊長に泳ぎたい時は何時でも声を掛けて、と伝えて下さい」

「解りました、伝えます。ありがとう御座いました」

「ご苦労様」

警護の三人がプールを去って行った。

その三人の一人が庭に出た処で漏らした。

「彼女、変わりましたね、とても穏やかで優しく・・・でも威厳は増した様に・・・」

「君もそう思うか」

「貴方も感じますか」

「彼が来てから彼女だけでは無く一家全員が変わったと思わないか」

「確かに、その時期からかも知れませんね」

「隊長が言っていたな、あの優しさに甘えると痛い目に合いそうだとな、二人も気を付けろよ」

「はい」

「イエッサー」


プールから上がり着替えた5人が居間に一旦集まりそれぞれが飲み物を持ってテラスに移った。

「二人は朝からこのままですか」

「昼食は食べたわよ」

ジョナサンの感慨深げな問いにヘレンが答えた。

「一日中この態勢で良くあの体形が保てますね」

今度はカリーが疑問を投げかけた。

「其処が不思議なのよねぇ~、これをする様になってからの姉さんは体形が悪くなる処かどんどん良くなるのよね~、不思議~、狡いわよ」

「狡い・・・狡いって何かあるのですか」

「あると私は思っているのだけれど・・・それが何かは解らないわ」

リフレッサーの事は言える訳では無かったがマーガレットの頭には繋がりが無かった。

「処でジョナサンはどの時代が専門なのですか」

マーガレットがジョナサンに尋ねた。

「貴方が私の助手にと言われましたが、貴方の方こそ専門はどの時代ですか」

「私はまだ専門を決める程の知識がありません、今は幅広く勉強中です」

二人は話ながらテーブルを挟んで彼とキャサリンの向いのソファーに座り二人を起こさない様に小声で話しあった。

「そうですか・・・今の考古学の学会では専門を語る時は時代では無く場所で言います、例えばエジプト、中国、メソポタミア、メソアメリカと言った風にです」

「それは失礼しました、貴方は何処の専門ですか」

「いえいえ、攻めた訳では無いのです、逆に嬉しく思ったのです、と言うのも私の専門は場所では無いからです、私は古ければ古い程好きなのです、言うなれば超古代の専門ですね」

「超古代ですか、アトランティス、ムーですか」

「謎の大陸ですね、それも含みますが、4千年、5千年と言われている文明以前の文明の痕跡が数々見つかっています、それを研究しています」

「ロマンを感じますね、私も専門にしようかしら」

「大歓迎しますよ」

「それで超古代の文明・・・」

二人は周りを忘れて話に夢中になっていた。


ヘレンとヘンリーはテラスへの出入り口を挟んで彼とキャサリンの二人の反対側に腰掛けヘンリーの今日の仕事についてヘレンが聞きいっていた。

「今日の観光で何処が一番気に入りましたか」

デビッドがカリーに聞きながら二人はヘレンとヘンリーの向いのソファーに座った。

「そうですね~、話には聞いていたりテレビで見ていた処をこの眼で、実物を見て何処も、どれも現実とは思えなくて・・・一つには絞れません」

「喜んで貰えたなら嬉しいです、物理と天文の施設が良かったのではありませんか」

「其処へは過去に行っていますので大丈夫です」

「あぁ、良かった、安心しました」

「こちらの皆さんは、知っているアメリカ人とちょっとイメージが違います」

「多分、日本に居たので外見はアメリカ人ですが内面は日本人なのでしょう」

「いやではないのですか」

「いいえ、嬉しいですよ、私はアメリカ人やヨーロッパ・・・日本人以外の他人を威圧して自分の意見を通すなんて大嫌いです、優しく論理的に説得したいと思っています」

「私もです・・・」

6人が三組に分かれ腰を下ろし話込んでいた。


どれ程の時間が経ったかカリーが「あぁ」と大きな声を上げた。

「どうしました、ミス・キャロン」

「二人がキャサリンと彼が居ません」

「あ~あ、またですか」

「えぇ~いつもなんですか」

「そう、時々ね」

又三組がそれぞれに話しているとバスローブ姿のキャサリンと彼がテラスに現れ何時もの様に彼が座り何時もの様にキャサリンが彼に凭れ掛かかった。

二人が現れ何も無かったかの様に元の姿に戻るのを茫然と見つめた6人は溜息をついて又それぞれの話に戻った。

「お姉さん、エリア51の話を此処で聞いて良いの???」

6人の眼がキャサリンに注がれた。

「・・・」

「駄目な様ですね」

マーガレットと話ていたジョナサンが言った。

「良いわよ、何が聞きたいの」

「良いのですか」

「良いの、お姉さん・・・じゃ、エリア51のピラミッドはエジプトのと同じなの??? お兄さんが関係しているの??? 大きさはどれ位なの???」

「明日、明後日には実物を見るのですからお話ししましょう」

「此処は盗聴、盗撮の心配はいらないのでしょうね、上院議員の家ですから」

「ええ、大丈夫ですよ、毎日専門家が確認していますよ、キャシー聞かせて」

ヘレンが安全を保障した。

「エジプトの三つの内のクフ王のピラミッドと全く同じ大きさです、方角も建設年代も同じです」

「全く同じ・・・どうしてですか、何故知っているのですか」

ジョナサンが当然の疑問を口にした。

「ジョナサン、それが貴方のお仕事なのですよ」

その間もキャサリンと彼の二人は眼を瞑り、彼に至っては微動だにしなかった。

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