第32話 ペンタゴンの会議場へ
「まさか、二日も・・・」
「ストップ、お母さん話は車に乗ってからにしましょ」
キョサリンが母・ヘレンの愚痴の様な話を止めた。
「何なの、この子は・・・ぶつぶつ」
三人が車の定位置に乗った、キャサリンが運転席も彼が助手席、母・ヘレンが後部座席である。
「さぁ、良いわよ、お母さん、その前に言っとくけど、現代科学は凄いのよ、とても遠くの声も拾えるし、遠くから見て唇の動きで会話の中身も解るのよ、そして、この車の中はいろいろな防衛装置が有って盗聴防止もその一つよ・・・さぁ、どうぞ」
「・・・はい、解りました、あんたの勝ちよ、しかし、キャシー、貴方変わったわね、FBIのせいか、婿さんのせいなのか・・・多分・・・」
「さて出発よ」
キャサリンが車を発進させた。
「一人で4時間も二日続けて、大丈夫なの」
「平気よ、お母さん、私、運転大好きだから・・・全然平気」
三人を乗せた車は家のゲートで挨拶を交わし4日前に通った道を通ってペンタゴンへと向かった。
途中でヘレンが叫んだ。
「キャシー~~お前寝てるんじゃ無いよね」
「もう、煩いわね~今何時・・・ふーん、お母さん、もう30分以上前から私が運転してるんじゃないわ、アダムよ、運転しているのはアダム」
「アダムってそんな事も出来るのぉ」
「アダムに聞いてみたら、この車が出来る事を・・・」
「そうね」
暫くの沈黙の後、ヘレンが彼に言った。
「婿殿、私の車も改造出来ないかしら」
「出来ます、ですが問題があります、運転手、秘書、護衛官などの同乗者たちに私の秘密を打ち明ける事になります、秘密が秘密として保てるでしょうか」
「無理でしょうね・・・諦めます・・・処でキャシーは気持ち良さそうに寝てるわね・・・本当にアダムが運転しているのね・・・キャシーより安全かも知れないわね」
「・・・」
「貴方は本当に無口ね、何て言ったかしら・・・そうそう寡黙ね・・・何か話してくれないかしら・・・そうね~この車の変わった処はどうかしら、これも秘密なの」
「いいえ、お母さんには秘密ではありません、この車の見た目は前と同じです、前後左右上下も同じです、ですが全くの別物です、例えX線で見ても同じです」
「何が出来るのかしら」
「防弾です、水の中にも入れます、今の様に自動運転も出来ます、アダムに行先を言えば連れて行ってくれます、速度は時速350キロ出せます」
「350キロ~凄く早いのね・・・そうね警察に捕まるから出さないのね・・・キャシーは知っているの」
「勿論、伝えてあります、ですが実際に水の中に入った事も350キロを出した事も銃撃を受けた事もありませんので知っているだけです」
「防弾は試してみたくないけれど、水の中へ入ってみたいし350キロも経験したいものね」
「残念ですが、試す事は出来ません、人の眼に点くからです、信じて頂くしかありません」
「そうね、目立つのは良くないわね・・・でも試したいものだわ」
ヘレンも眠くなった様で寝息を立てて眠り出した。
「う~ん、あら私眠っちゃたのね、どの辺かしら」
「し~お母さんも寝ていますから」
キャサリンが後部座席を見た。
「私と同じで昨日の夜も服の登録で寝るのが遅かったのかな~」
「女性は服に拘りますね、どうしてでしょうか」
「・・・男性にも責任があると思うは、男性は外見で女性を選ぶでしょ、だから女性は服に化粧に拘るのじゃないかしら」
「確かに私の選んだ女性はとても美しい人ですね」
「それって私の事・・・嬉しいわ・・・で今どの辺、もう着くかしら」
「アダムの予測では30分です」
「あぁそうですね、アダムに聞けば良いのでしたね、ところで私の選んだ道とは違う様ですね」
「アダムは近道だけでは無く交通状況も考慮して通る道を選んでくれます」
「私は寝てなんかいないわよ」
ヘレンが後から声を掛けた。
「もう少し色っぽい話をするかと遠慮していたけど全然ね、二人は」
「お母さん、寝てたでしょ」
「違うわよ、アダムにいろいろと聞いていたの、この車の事とかね」
母と娘が何だかんだと話を弾ませていた。
「そろそろハンドルを握って下さい」
「もう着くのね」
「いや、もう少し掛かるが車が多くなって来た君が運転している様に見せないとね」
「了解」
彼女はハンドルに手を乗せ運転している様に見せかけた。
無言の時が暫く続き車はペンタゴンのゲートに着いた。
既に連絡があった様で厳しいはずのセキュリティーがすんなりと済みゲートを通った。
広い駐車場の空いた処に車を止め二人と一人の三人は歩いた。
建物に入って持ち物検査を受け受付で要件を伝え待っていると案内人がやって来た。
「ようこそ、随分早いですね」
「私たちランチがまだなの、軽く食べられないかしら」
「そうですか、時間も早いですからご案内します」
彼は中央広場のカフェへ連れて行ってくれた。
「今日は天気も良いのでこちらでサンドウィッチでもいかがですか」
「いいわね、貴方はここに座っていてね、私が買ってくるから」
キャサリンが彼を外のテーブルの椅子に座らせて買いに向かった。
「キャシー私のも一緒にお願いよ」
「はい、お母さん、その代わり文句は無しよ」
「はいな」
二人は英語と日本語を織り交ぜて話していた。
案内人は二人の日本語の会話が解らずにぼ~としていたが。
「上院議員、とても綺麗なお嬢様ですね」
「ありがとう、でももう人妻よ」
「何とも幸運な人がいるものです」
「その幸運な人は貴方の前にいますよ」
「えぇ~彼ですか???」
案内人は彼を上から下へ、下から上へ何度も眺め、信じられないと言う様に首を振った。
「貴方、出世出来ないわよ、彼の魅力が解らないようでわね」
ヘレンは少しカチンと来て語気を強めに嫌味を言った。
「この方の魅力ですか???」
キャサリンが手ぶらで戻って来た。
「何だか知らないけど、出来たら持って来てくれるそうよ」
「キャシー、貴方、色目を使ったんじゃないでしょうね」
「何を馬鹿な事言ってるの」
「あの~失礼ですが・・・本当にヘイウッド上院議員ですね」
「そうですが、何故???」
「失礼ですが、噂では冗談も言わない・・・あの~、その~」
「笑顔を見せない鬼・・・ですか」
「御存じでしたか」
「私も只の女、只の母親ですよ、仕事の時以外はね」
「今見た貴方でしたら、もし大統領選に出馬したなら一票は確実に入ります」
「私に入れてくれると言う事・・・まぁ大統領選に出る事は無いでしょうけどね・・・ありがとう」
その時、店のスタッフが頼んだ物を持って来た。
「お待たせしました、サンドウィッチと珈琲と氷とグラスです」
「ありがとう、これでお願いね」
キャサリンがカードを出して支払いを願った。
「はい、ありがとう御座います」
「4っあるから貴方も座りなさい」
ヘレンが案内人に座る様に言った。
「ありがとう御座います、処でグラスと氷は何に使うのですか」
「あぁそうよね、アメリカ人には馴染みがないわね、彼と私は珈琲をアイスで飲むのよ」
「アイス・・・冷たい珈琲ですか」
「そうよ、何度か飲むうちに病み付きになって止められなくなるわよ」
「このBLT(ベーコン・レタス・トマト)美味しいわね」
三人はサンドウイッチを食べ、ヘレンはブラック珈琲を飲んでいたが、彼とキャサリンは砂糖を入れた珈琲をグラスに注ぎ氷を入れたアイス珈琲を飲んでいた。
三人を見ていた案内人はキャサリンの真似をしてアイス珈琲で飲んだ。
「こりゃ良い、現代では冬でも室内は暖かいので一年中アイスで良いですね」
「また、一人変わり者が増えそうね」
「そんな~たかが珈琲の事で」
「おっと、お話し中申し訳ありません、そろそろお時間です、参りましょう」
「じゃあ、トレイと食器を返さないとね、そう言えばキャシーのカードも返えして貰っていないわね」
丁度その時、店のスタッフが伝票とカードを持ってやって来た。
「お待たせしました、サインをお願いします、処でお帰りですか」
キャサリンが伝票にサインをしながら答えた。
「えぇ、美味しかったわ、ありがとう、丁度、トレイを戻そうとしていたところよ」
「サインありがとう、カードをお返しします、それから食器は私が戻しておきます。ご利用ありがとう御座いました、上院議員ご活躍を楽しみにしています」
「ありがとう、貴方のご期待に応える様に頑張るわ、じゃあ又来ますね」
「はい、お待ちしています」
四人はカフェから建物へと向かった。
案内人はエレベーターに乗せ二階に上り少し歩いて一室に案内した。
案内人は扉を二度叩くと返事を待たずに扉を開けた。
案内人は中に入ると三人を招き入れた。
三人が中に入ると、そこは会議室で大勢の人が集まっていた。
「おぉ、見えられたか、こちらへ参られよ」
案内人は黙って静かに部屋を出て行った。
「上院議員、私はNSA副長官のアレックス・ヘーゲンと申します、どうぞよろしく」
「こちらこそよろしく、ミスター・ヘーゲン」
「ミスター・サクライのご依頼通りに世界中から考古学者に集まって頂きました。守秘義務契約も済んでいます、お隣の方が通訳のお嬢様ですか」
「ええ、娘のキャサリンです」
「通訳のキャサリン・ヘイウッドです、よろしく、ヘーゲン副長官」
「ええ、以前に別の会議室でお会いしています、今日も通訳をお願いします」
「解りました」
副長官は集まった考古学者たちの方を向いて話始めた。
「お待たせ致しました、それでは会議を始めます、再度申し上げますが、この会議の主催者はアメリカ合衆国大統領です、そしてプロジェクト・リーダーはこれからご紹介する、ミスター・サクライです、彼は日本人で日本語しか話せませんので通訳を通してお話しします、では、ミスター・サクライ、どうぞ」
サクライが前に進みマイクの横に立った、そしてマイクの前にはキャサリンを立たせた。
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