第31話 出発前の朝食

「おはよう」

「おはよう、貴方」

キャサリンが彼に寄り掛ったまま顔を回して彼にキスした。

これが二人の朝の恒例となっていた。


彼は毎朝4時に静かにベットからテラスのソファーへ移動する。

食事の30前の6時30分にキャシーがテラスにやって来て静かに彼に寄り掛る。

最初の朝、キャシーが「おはよう」と言うと「おはよう」返したが「次回からは無言でお願いします」と願われ、それ以来キャシーは無言で彼に寄り掛り彼の温もりと静寂の中で佇む事で幸福感に満たされる様になっていた。


そのままでいたい思いを断ち切る様に勢い良く立ち上がると彼の手を取り引き起こした。

「今日はお仕事よ、さぁ朝ご飯を食べて出発よ」

「了解」

二人が食堂に行くと既に他の家族が座って待っていた。

「何だか最近、朝晩の食事に皆が揃っている事が多くない???」

「そうね、マーグが朝晩にここに居る事が珍しいわよね」

キャサリンの疑問に母のヘレンが応えた。

「私が居たら可笑しい、まぁ私自身も不思議だけどね」

「息子と娘二人の子供たちが揃って毎日一緒に食事なんて、こんな嬉しい事は無いなぁ」

父親のヘンリーに取ってはとても幸せな事だった。

「でも不思議よね、アメリカ人の私たちの朝食が和食で日本人の彼の朝食がベーコン・エッグなんて・・・可笑しな話よね」

「お母さん、私はアメリカ人で朝食はベーコン・エッグよ」

「姉さんは別よ、唯、彼の真似してるだけでしょ」

皆が話してしる間にシェフのマサトとヨウコがテーブルに食事の皿を並べ終えた。

「ありがとう、マサト、ヨウコ・・・頂きます」

「いただきま~す」

皆が一斉に後に続いた。

「召し上がれ」

シェフ、コックの二人がそう言ってダイニングを去って行った。


「デイブ、それで仕事は上手く行っているの」

「えぇ母さん、とても上手く行っていますよ、最近の日本食の流行りで売り上げが増えていますね」

「それは良かったわ・・・でも何時までも続かないでしょう」

「それも考えて続く様にする方法は無いか、他に商品は無いかと注意してはいるがね、なかなか見つからないね~でも日本食人気は廃れ無い様な気がするけどね」

社長のヘンリーが息子に代わって答えた。

「何があるかなんて解らないものよ、昔みたいに日本製品ボイコットとか輸入制限とかがあるかもしれないわよ」

「えぇ~政府にそんな動きがあるのかい」

「そんな話も噂も聞いていないわよ、世の中、何が起こるか解らないと言う事よ」

「驚かさないでくれよ、上院議員さん」

「はい、はい、御免なさい・・・それでマーグの方はどうなの」

「私、私が何」

「体の調子は良さそうだけど学校の方はどうなの???」

「何だか警察の尋問みたいね、まぁドラマでしか知らないけど・・・大丈夫よ、心配要らないわ、ちょっと最近お酒を飲みすぎていたり夜更かししたりと暴飲暴食が続いていたけど・・・彼のお陰で目が覚めたみたいね」

「凄いじゃない自己分析出来てるなんて」

「まね~・・・でお母さんの方はどうなの」

「私、私は知っての通り仕事の事は家族と言えども言えないわね」

「調子は良いか、悪いか位は良いんじゃないの」

「そうね~頗る(すこぶる)絶好調よ」

「何、そのス・コ・ブ・ル・って」

「そうね~予想を超えて・・・って事かな」

「ふ~ん、絶好調ね・・・これで絶好調が二人になったわね」

「二人とはどう言う意味だ、マーグ」

「兄さん、誰がどう見たって姉さんは絶好調でしょう、こんなに幸せそうな人、見た事無いわ、結婚式の花嫁だって、こんなに幸せオーラは出さないでしょうね・・・きっと」

「ああ~確かに言う通りだね・・・ついでと言っては何だけど僕は彼に取っては義理の兄になる訳だけど彼の方が随分歳も上だし貫禄も違う・・・そこでこれからは僕が兄さんと呼ぶ事にする・・・本人の承諾があればね」

皆の視線が彼に集まった。

「お好きな様に」

彼の返答は即断即決を絵に描いた様だった。

「良し決まりだ、ありがとう、兄さん」

「調子が良いわね、兄さん」

「そう言うマーグも兄貴が二人になったんだよ」

「そうか~、これからは兄さん、て呼んじゃどっちか解らないのね・・・う~ん、そう言えば姉さんから結婚したとは聞いたけど、その時の事を詳しく聞いていないわ」

「そう言われればそうだな」

「ヘレンは聞いているのかい」

「いいえ、皆と同じはずだけど」

「何だか、兄さんがいるのが当たり前過ぎて結婚したのどうのは気にしなかった様だね」

妹の発言で父親、母親、兄が気付かされた。

「じゃ、夕食の時の話題にしましょ、今日は出かけるから・・・ね」

「絶対よ、絶対」

「はい、はい、分りました、そろそろ出かけましょう、お母さん、準備に10分で良い???」

「十分よ」

「じゃ、私たちも準備をしましょう、ね、貴方」

ヘレン、キャシー、彼の三人は出かける準備に自室に戻って行った。

「お父さん、姉さんがどんどん変わって行くわ、見た目だけじゃ無く心も・・・丸くなるってああ言う事なのかなぁ~」

「ああ、母さんまで変わって来ている・・・身体は若返ったが心は反対に成熟して来ている・・・様な気がするな、何か余裕と言うか・・・」

「彼の傍に長くいるとそうなるのかしら」

「僕はそれだけとは思えないけどなぁ~」

「他に何があるの、兄さん」

「それは、まだ分からないんだ」

「まぁ良い方になっているから良いとしようか」

暫く三人で話していると準備に行った三人が揃って戻って来て言った。

「じゃあ、行ってきま~す」

「行ってきます」

「では」

彼がドアを開け二人を通すと彼も出て行きドアを閉めた。

「何だかオーケストラみたい」

「揃っているね~」

「何だかな~、我々も揃っていると言えば言えない事も無い」

「何それ、どっちなの、日本語はほんと難しいわ」

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