第26話 初めての食事

彼が何処へ行くのかと思っているとヘレンの部屋だった。

彼とキャサリンが何も乗っていないダイニングの椅子に座った。

「お母さんも座りなさいよ」

ヘレンは言われるままにキャサリンの隣に座った。

「私は一杯動いたからステーキ150gにご飯と味噌汁をお願い」

「僕も頭を使ったのでハンハーグとクロワッサン、でも最初にオニオン・グラタン・スープ、そしてデザートにサヴァランをよろしく」

「お母さんは何か食べたい物は無いの」

母ヘレンが何も言わないのでキャサリンが催促した。

「ステーキは重いから婿殿と同じで・・・でもサヴァランが本当に食べられるの・・・私の大好きなデザートなのよ・・・日本で初めて食べてあの時は一日に何個も毎日食べたのよ、あの味かしら」

「そうね、あの時のお母さんは凄かったわね、アメリカに持って行けないととても悲しそうだったもの」

「駄目だわ、まず、そのサヴァランが食べたいわ」

ヘレンが言った直後に三人が囲むテーブルの真ん中が丸く浮き上がり中に皿が現れその皿にケーキが乗っていてスプーンが添えられていた。

「うわぁぁぁぁ、サウァランよ、サウァランよ、食べても良いの」

「どうぞ、召し上がれ」

ヘレンは返事の途中で皿を掴みスプーンで一口食べた。

「・・・・・・この味だわ~、私の記憶のよりももっと美味しいわ」

「このサヴァランは私が世界中で探して一番美味しいと思った日本の店の味を基本にしています、私が改良を加えて有ります、一番の違いは乗せてある豆が珈琲豆にしてある処です」

「とても美味しい・・・あの~もう一つ頂けないでしょうか」

「お母さん、デザートなのよ、デザート、食後用よ」

「そんな事は言われ無くっても解っているわよ、食事の替わりにこれだけでも良いわ、私は」

「まぁ~お母さん、食事の後で何個でも食べれば良いでしょ」

「何個でも良いの、在庫は大丈夫なの」

「大丈夫ですよね~貴方」

「はい、大丈夫です、なんなら100個でもどうぞ」

「なら良いわ、婿さんの一緒のでお願いするわ」

ヘレンが言った途端にテーブルの真ん中が又せり上がりお盆に乗った食事が出て来た。

「わぁ~美味しそうなハンバーグじゃないの、和風なのね乗っているのは大根下しでしょ、牛肉はアメリカ、オーストラリア、和牛のどれ???」

「勿論、日本産の黒毛和牛です」

「私のステーキも???」

「勿論ですよ」

その答えの様に中央がせり上がりステーキが現れた。

キャサリンがお盆を自分の前に引くと中央部分が下がり直ぐに上がりヘレンの和風ハンハーグが現れた。

女性二人は十分過ぎる程の運動をしていたので「頂きます」の合唱の後はもくもくと食べる事に集中していた。

「お母さん、そんなに急いで食べてそれ程早くデザートを食べたいの」

「あら~私は何時もと同じく優雅に美味しく戴いているつもりだけど」

「何処が何時もと同じなのよ、第一今の様に口に食べ物を入れたまま話すなんて不謹慎だと言っているのは誰でしたっけ」

「・・・うむ・・・・・・だってサヴァラン・・・美味しいもの」

「・・・確かにあのサヴァランは今までのどのケーキよりも美味しいわね」

と言い合って又もくもくと食べだした。

キャサリンが顔を上げるとにこにこと笑っている彼の顔が見つめていた。

キャサリンは思った。

<私はこの人に会ってとても幸運で幸せだ、もうこの人のいない人生は考えられない・・・でもこの人にとって私は・・・>


食後、待望のデザート・サヴァランをほうばりながら二人は至福の時を過ごしていた。

彼も勿論食べていた。

「お二人にはスーツを戦闘モードにする方法をお教えしましたが、それは戦闘モードの必要性の時を熟慮してほしいからでした、今、本当に戦闘モードになる必要があるのか、他に方法が無いのかをより適切に判断してほしいからです・・・この施設の制御は全て人工頭脳が行っています、つまりコンピューターです、私は「アダム」と呼んでいます、スーツの管理と制御もアダムが行っています、戦闘モードへの移行は「アダム、戦闘モード」と言えば移行できます」

その途端、彼のスーツが戦闘モードになった。

二人が驚いた一瞬後同時に「アダム、戦闘モード」と言い戦闘モードになった。

「解除が口頭でしたから想像はしていたでしょうが」

そう言うと彼は立ち上がり戦闘モードから黒のフォーマル・スーツ、白のフォーマル・スーツ、ビジネス・スーツ、二人が時々見かけるニューヨークの警官の制服、消防士、カウボーイ、ダイバー・スーツと様々な服装になって見せた。

「私はアダムとの会話は口に出していません・・・通信機が体内にあるのです・・・実は貴方方の体内にも既に通信機があります、言わずにいて申し訳ありませんでした、最初に伝えた時の拒否反応を危惧しました・・・今は如何ですか」

彼が新たな情報を開示した。

「口に出さなくてもアダムに伝わるの・・・でも心が読まれるの」

「大丈夫ですよ、深層心理までは読みません、表層心理だけです、但し、例えば誰かに会って「貴方に会えて嬉しい」と言っていながら心では「嫌な人」と思うと、それはアダムに伝わります、但し伝わるだけの事です、便利な処は何か解らない、知りたいと思った時は「アダム」と呼び掛けて聞けば教えてくれます、答えてくれないものもある事はお判りですね」

「本当だわ、今、時間を聞いたの・・・天気も温度も・・・でもこの場所は答えてくれないわ」

「本当、便利ね、婿殿の言う通り以前に聞いていたら怒ったかもね、今は嬉しいわ」

「今日の午後はスーツの運動面の訓練よりも服装の登録をして下さい、自室のモニターで各種ファッション雑誌が見れますので参考にして下さい、但し、商標登録に引っかかる物は登録できません、形を少し変えて登録して下さい、イブニング・ドレスを沢山登録すると何番か解らなくなりますから程々にした方が良いでしょう、アダムが色や形を教えてはくれますが・・・それと警察、消防

などの制服の登録は番号に気を付けて下さい既にある番号は使用できません、顔が解らない特殊消防士は性別・体格の似た人の番号をアダムに選んで貰うと良いでしょう、靴、帽子、装飾品もスーツは模造可能です・・・女性はファッションには目が無いですから半日では足りないでしょうが今回は今日の午後だけで我慢して当座の必要なものを優先して登録して下さい、家に帰れは自室で幾らでも時間は有りますのでね、アダムに頼めば自室のテレビにカタログ表示も可能ですから」

「アダムは凄いのね」

「ありがとうございます」

部屋にアダムのお礼の声が響いた。

「良い声だわ・・・何処かで聞いた様な・・・」

「何処で・・・あぁ私も聴き覚えがあるわ」

「はい、日本の声優の若山源蔵さんの声を基本にしています」

「成程、良い声のはずね」


三人はデザートのサヴァランを食べ終わりそれぞれの自室に散った。

「夕食は19時にこの部屋でメニューは私が決めて有りますので楽しみにしていて下さい」

別れ際に彼が言って二人が顔を見合わせた。

そして、一人になったヘレンがもう一つサヴァランを食べた事は言うまでも無い。


<つづく>

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