第25話 訓練

ヘレンは娘に教えられた通りに素肌にスーツを着た。

「お母さん、これはスーツと言ってとても便利で素晴らしい物なの、これはお母さんの為に作られた物のはずだからピッタリのはずよ、でも着るのは全部、下着も全部脱いで素肌に着てね、私はリビングに居るから着替えたら声を掛けてね」

「全部脱ぐ・・・素肌の必要があるの??? ピッタリって言うけど、これのサイズは少し大きい様な気がするけど」

「心配よね、でもね見てお母さん」

そう言うと娘は着ている服を脱ぎ捨ててスーツ姿を見せた。

赤み掛かった黒いスーツで全身を覆われ首回り、手首の周りに少し膨らみが有った。

「あら、私のは青っぽいのに貴方のは赤なのね」

「えぇ~色の事なの~」

娘は呆れ顔で寝室を出て行った。


キャサリンがリビングでオレンジ・シュースを飲んでいると寝室から「あら~」とか「へぇ~」とか「まぁ~」とかの感嘆の声が幾たびも聞こえた。

暫くすると壁の一部が消え母ヘレンが少し恥ずかしそうにスーツ姿で現れた。

「この服、スーツって言うんだったわね、不思議ね、着た時はブカブカだったのにファスナーを閉めたらピタッと身体に吸い付く様にぴったりになったわ」

「それだけじゃ無いのよ、このスーツは何と防弾・対衝撃なのよ」

「防弾・・・防弾て銃弾を防ぐの、拳銃の玉???」

「そうよ、でも距離にもよるけど50口径のライフルも大丈夫らしいの」

「えぇ~ライフルも~とても信じられないわ、でも顔は頭を狙われたら??? キャシー」

「そうよね、でも大丈夫、見ていて」

キャシーはそう言うと両腕を脇で下にピンと伸ばすと両手の指を開いて後ろに反らした。

するとキャシーの頭と顔を覆う様にヘルメットが現れスッポリと覆ってしまった、そして手にはスーツと同じ素材の手袋をしていた。

少し感じが違うキャシーの声が言った。

「どう、危険を感知するとこうなるの当然スーツと同じく防弾、耐衝撃よ」

そう言うと次の瞬間には元の姿に戻っていた。

「凄い、凄い、私の服もできるの」

「勿論、できるわよ、お母さん、でも只の服じゃなくてスーツ、スーツと呼んでね」

「スーツね、それでどうすれば良いの」

「まず、ヘルメットが出て来るから髪を襟の中に入れる、そうしないとヘルメットの中で髪が凄い事になっちゃうから」

二人は髪を束ねて丸めて襟の中に入れた。

「次に掌を前に向けて腕を下に伸ばす」

キャシーが母が正しく出来ているかを確認して自分も同様にした。

「次に手首から先を後に反らす」

そうした途端に二人のヘルメットが現れ両手に手袋がされ足にはブーツを履いていた。

母のヘレンはヘルメットの中で「うぁお~」と奇声を上げていた。

キャシーは暫く黙って見ていた後に言った。

「戦闘モード・オフ・・・と言ってみて。」

ヘレンが「戦闘モード・オフ」と言うとヘルメットと手袋が消えた。

「あら、ブーツはそのままなのね」

「そんな事よりトレーニングよ、さぁ~行きましょう」

「何処に行くの」

「トレーニング・ルームよ、しかし、お母さんはいちいち煩いわね、黙って居られないの、よく上院議員で居られると思うわ」

「仕事モードだからよ、今は個人・・・パーソナル・モードよ」

「じゃこれからは仕事モードいてね」

「了解」

二人は歩きながら話していた、キャシーは廊下に出ると天井の一部が開き階段が降りて来た。

ヘレンを驚きの声を出そうとしたが口を手で押さえて押し殺した。

階段が下に届くとキャシーは階段を登り始めヘレンが続いた。

ヘレンは上の階に着くと又もや驚きの声を出しそうになったが同様に堪えた。

そこは階の全体に仕切りも無く何十メートルもの広さの円形の体育館の様だった。

「全く、彼と知り合ってから驚く事ばかりでしょ、お母さんも、もうそろそろ慣れたら」

「そうだけど~、お前は驚かなかったの???」

「そうね、彼と初めて会った日に慣れたわ」

「運命だね、ぴったりだよ、普通は驚くと思うけどね~」

「もういいでしょう、さぁ~始めるわよ、戦闘モード、宇宙モード、スペース・モードに成って」

キャシーはそう言うと戦闘モードに成った。

「あぁ宇宙服でもあるのね」

ヘレンは言いながら戦闘モードになった。

「ヘルメットの中のマイクとイアフォンで会話が出来る、力は自分の1.5倍になるわ、さぁ走ってみるから付いて来て」

キャシーが斜めに走り外周を走り、その後をヘレンが付いて行った。

「凄い~早い、早い・・・楽しい、楽しい」

「苦しく無いし疲れ無いでしょう・・・このスーツは身体の疲労を取ってくれるのよ」

「と言う事は何時までも走って居られるのね」

「残念でした、エネルギーが無くなる・・・つまり食べ物がいるの、お腹が空くのよ」

「と言う事はダイエットになると言う事???」

「そう言う事よ」

「いいわね~これ・・・気に入ったわ」

「ありがとう、気に入って頂けて」

何処からとも無く声がして二人の近くの床が突然開き、彼が現れた。

「日本はやはり技術力が凄いわね」

「お母さん、あのね~このスーツは彼の物なの、彼だけの物なの、日本は関係ないの」

「えぇ~、こんなに凄い物が彼だけの物なの~」

「だから前に入ったでしょ、誰にもこのスーツの存在を知られてはいけないの」

「お母さん、貴方ならば、その理由が解りますね」

「ちょっと待って考えさせてね」


「いいわ、秘密にしましょう、でも本当に日本政府とは関係ないのね、貴方って凄いのね、健康に・・・若返る機械と言い、このスーツと言い・・・あぁ~そうそう、秘密にする理由ね、このスーツの存在が知れれば政府・・・何処の政府も欲しがる、勿論、戦争に使う為ね、こんなスーツが幾つかあればどんな戦争にも勝てるでしょうね、そしてもしも悪党に渡ったらそれこそ大変な事になってしまう、この世に存在する事が知られたら世界中の政府と悪党が必至で探すわね、そしてその持ち主、製造者を捉え尋問・拷問、何でもありの手で我物にしようとする・・・残念だけど私の所属する政府が一番危ないわね~」

「やっぱり、お母さんは頭が良いわ、私は判るのに時間が掛かったもの・・・でも納得してくれたの~」

「勿論、当然よ、実情はね、貴方たちの思っているのと違うのよ・・・探すのに政府の全組織が関与するでしょうね・・・でもね実際には一部の兵士が戦争で使い一部の政府高官と一部の大金持ちが護身用に使い世間には好評しない・・・でしょうね、私はそれが許せ無いのよ」

「政府組織ってNSA、FBIと言う事ね・・・あぁ私もか???」

「そうね、でもそれだけじゃ無いでしょうね、CIAに陸海空に海兵隊の情報部にその他、あらゆる組織が探すわね」

「CIA??? CIAって国内での活動は禁止されているでしょう」

「何言ってるの、この子は、貴方FBIの人間でしょ??? CIAの国内活動なんて山程あるわよ、第一こんなスーツがあると知ったら猶更でしょ」

「そうなんだ~、だったら猶更秘密にする方か良いわね」

「辺り前よ、何処の組織が手に入れても結局使うのは上の方だけなんだから」

「処で貴方、どうしてお母さんだけになの~」

「お母さんは上院議員で一番標的になり易いでしょう、それにスーツの秘密を守ってくれると思ったからです」

「お父さん、お兄さん、妹は駄目なの」

「商社の社長と副社長、学生ですからね、但しお母さんを目的とした誘拐は考えられますが」

「じゃあ、必要じゃないですか???」

「考えられるのは誘拐であって暗殺ではありません、お母さんは暗殺もあり得ますので、それにお父さんとお兄さんはスーツの秘密を守れるでしょうが・・・」

「そうね、あの子は駄目ね目立ちたがり屋だから、こんなスーツを手にしたら直ぐにヒーローになりたがるわね」

母ヘレンが下の娘の性格を表現した。

「確かにね、あの子は秘密を守れないわね」

彼は皆に24時間の監視の眼が付いている事は伏せた。

「さて、お腹も空いた事でしょうから昼食にしましょう」

そう言うと彼は下へ降りる階段へ向かい、それを二人が追い掛けた。

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