第24話 母ヘレンへの贈り物
上院議員の母の安全を危惧していた娘は彼の行動に驚き感謝もした。
何と彼は母に機能は劣るもののスーツをプレゼントしたのだ。
それは彼が彼女の家に住むようになって2週間程たった時だった。
ヘレンが帰宅すると直ぐに何時ものテラスにいるキャサリンたちに質問した。
「貴方たちは政府の極秘プロジェクトのメンバーなの」
「どうしたの、お母さん何があったの」
「どうしたも、こうしたもないわ、今日突然議長に呼ばれて議会監視顧問の要請を受けたのよ、何の監視ですか、と聞くと議長も知らない、知ってはならない極秘プログェクトで詳細は娘に聞いてくれ、と言うのよ、どう言う事なの、娘って貴方、それとも妹・・・どっち」
母の突然の問い掛けにキャサリンは戸惑い何時もの様に身体を預けていた彼を見つめた。
母が上院議員とは言え大統領との秘密のプロジェクトを話す訳にはいかないと感じたからだ。
彼が珍しく答えた。
「まず、お母さん座って下さい」
二人の向かいの椅子を指指した。
ヘレンは言われるがままに椅子に座った。
「貴方に議会監視顧問になって貰ったのは私です」
この答にヘレンも娘のキャサリンも驚いた。
「君にも言っていなかったね、ジェレミーを通じて要請したのですよ」
「ジェレミーって誰なの」
「おかあさん、ジェレミーは彼の通訳、最初の通訳で今は補佐官、貴方、何時頼んだの」
「今日の朝だよ」
「何の為に」
「君のお母さんにスーツを着て貰う為ですよ、でも、訓練の三日の休みを取れないでしょう、だからですよ」
「本当~貴方、ありがとう」
「何、二人で盛り上がっているの、説明しなさい、どんなプロジェクトなの、そのスーツって何」
「お母さん、ここではお話できません、明日別の場所でします」
彼はそう言って目を瞑ってしまった。
「キャシー、どう言う事なの、プロジェクトって何、スーツって何なの」
「お母さん、彼が話さない以上、私も話せないわ」
キャシーもそう言って彼にもたれ掛り目を瞑ってしまった。
「全く、前は私を怖がっていたのに最近は度胸が付いたのか、全然脅しも効かないわ、はぁ~喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか」
ヘレンは諦めて家の中に入って行った。
母へスーツを着させ訓練する為には最低三日を要したが上院議員の身分では三日の自己都合は無理な話だった。
そこで取った彼の手段は彼に関するプロジェクトの議会監視顧問員への就任だったのだ。
要請したその日には議会議長を通じて本人に伝えられた。
連絡を受けたジェレミーは国務長官に連絡し彼が大統領へ報告したのだ。
三人に取って彼、サクライの要請は要求と同じである。
彼にその意図は無くても三人に取っては前大統領の件での恩義を感じていたからである。
何より大臣とジェレミーは彼に好感を持っていた、そして、この要請は的を得たもので妥当なものだったのである。
現在は各機関の機密費を流用しているが何れは正式な予算が必要となり議会に通す事になる、その為には予め議会の誰かに参加して貰う事が最善策なのである。
議長から要請を伝えられたヘレンは当初、拒否していたが要請が大統領からの指名である事、そして詳細は娘に聞く、つまり娘が関わっていると聞かされたので承諾したのである。
翌日の朝、プロジェクトの議会監視顧問員になった母と娘の運転で一旦ペンタゴンに入り、SPの護衛を躱し違う出口からペンタゴンを抜け出し彼の船へと向かった。
「ここは何処なの??? これは何??? これが極秘のプロジェクトなの???」
車が四角い光り中に入り止まった時に放ったヘレンの言葉だった。
「そうよね、私も最初は戸惑ったものね・・・でも今はまだ言えないわ、お母さん」
「まだって、何時かは教えてくれるのね」
「ええ、彼が決めるわ」
彼は車を降りて壁の方へ歩いて行った。
「彼が決めるの・・・貴方、変わったわね」
「私が変わった・・・何処が???」
「貴方が誰かをそんなに信頼するなんて」
「えぇ~私って、そんなに疑り深かったかしら」
「疑り深いって言うか・・・自分の意思が強いと言うか、余り人の言う事は聞かなかったわね」
「そうかな~自分ではそうは思わなかったけど・・・それに彼に従っているとは思わないけど・・・そんな事よりお母さん早く降りて」
「こんな処で~」
「大丈夫よ、娘の私が言うのだから信じなさい」
「最近のお前は娘らしく無い・・・本当に娘のキャシーなの?」
「何を馬鹿な事を言っているの、さぁ~降りなさい」
キャシーは車を降りて母が降りるのを待った。
しぶしぶ車を降りたヘレンは部屋の四方を上下を見渡した。
「大丈夫よ、お母さん・・・ここは格納庫」
「格納庫? 何の?」
「今は気にしないの、その内に・・・ね、早く来て彼が待ってるから」
「彼は何者なの? これもプロジェクトに関係しているの?」
二人は話ながら彼の方へ向かった。
歩み寄る二人を確認した彼は通路を真っすぐに歩きだした。
ヘレンは娘が最初に来た時と同じ様に通路に出る時にまず頭だけを出して左右を眺め次に身体を出し又左右を眺めた。
「お母さん、私が居るのだから安全に決まっているでしょう」
母娘の二人は彼の後を追って中央通路へ歩き出した。
彼は中央通路を突き当たりまで行くと左に曲がった。
二人が角を曲がると彼は彼女の部屋の先の壁の前に立っていた。
二人が近づくと彼の前に部屋への入口が開いていた。
彼が部屋に入り母娘が従った。
彼は壁の方を指差しているので二人が覗くとベットが有り上に服が乗っていた。
「お母さん用のスーツです、着用方法と用途を教えて下さい、上の階を使うと良いでしょう」
彼はそう言うと部屋を出て行った。
「彼は本当に余計な事は話さないのね・・・貴方たち、上手く行っているの???」
「勿論よ、私には無駄なおしゃべりをするよりは無言の方が好きだわ」
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