第19話 ホワイト・ハウス

二人が去った家でそんな会話がされている事も知らずに二人はホワイト・ハウスへ向かっていた。

二人が車に乗ろうとしていると彼女の電話が鳴り、会談の時間が40分後と知らされたのだ。

どちらかと言うと饒舌な彼女が珍しく無言で運転していた。

無論、彼の会社についての事だった。

彼女はその会社が世に知られる様になった時に徹底的に調べた・・・つもりだった。

もし本当なら・・・本当なのだろう事は判っていた、ので自分の調査能力の無さを痛感していた。

何故なら、彼女は宇宙船に乗ったのだから・・・あの技術があれば、いや、あの技術が無ければ出来ない事だったからだ。


二人がホワイト・ハウスの玄関ゲートに着くと待ち構えていた様にゲートが開き中に通された。

ゲートを車が通ると道を塞ぐ様に車が止まっていてその車に乗り換える様に依頼と言うより実質命令された。

車に乗る前に警備所に入れられ所持品を全て出さされ金属探知、身体検査をされた。

彼女が驚いたのは彼が何も持っていない事だった、彼女だけでは無く警備要員も驚いていた。

現代では必需品とも言われる携帯電話、スマホもクレジットなどのカードも家の鍵さえも持っていないのだ。

彼女は不思議に思った、ホテルではブラック・カードを使った・・・はず。

警備要員は逆に厳しくなり別室へ連れて行った。

彼女は服を脱がされての検査を行うのだと想像していた、自分でもそうすると思った。

この時代に全くの手ぶらなど考えられない・・・彼女の場合はカードの使用を見ているだけに余計に不思議でならなかった、が黙っていた。

10分ほどだっただろうか? 彼女が少し不安になった頃、彼が申し訳なさそうな顔をした保安要員二人と隣の部屋から出て来た。

「申し訳ありませんでした」

保安要員の一人がアメリカ人には珍しく詫びた。

それを彼女が訳して彼に伝えた。

「それが貴方の職務です、気にしていません、これからも相手が誰で有ろうと同様にして下さい・・・とお伝え下さい。」

彼が彼女に通訳を願った。

彼女が要員に伝えると要員は感慨深げに彼を見つめた。

それからの保安要員は二人に、特に彼に対する態度がとても丁寧なものへと変化して行った。

警備の一人が二人を塞いでいた車へ案内し乗る様に指示した。

彼女が乗ろうとすると彼が言った。

「ここの庭はとても綺麗ですね、見物しながら歩きたいのですが宜しいですか」

彼女が彼の願いを伝えると全員が驚いた顔をしていたが許可してくれた。

二人は手を繋いで保安要員、警備員に前後左右を囲まれて官邸への道を歩いて行った。

「本当に綺麗ね、貴方の言う通りね、車でなんて勿体ない景色だわ」

日本語が解らないであろう警備隊長が彼女に話掛けた。

「我々は毎日見ていますが、こうして改めて見ると本当に綺麗ですね、だが誰もどのゲストも彼の様に言った人は居ませんでした・・・こんな事を聞いてはいけない事は判っていますが、解っていますが・・・彼は何者ですか」

「貴方の気持ちは理解できます・・・彼の魅力でしょうか・・・彼は不思議な人です、気持ちは解るのですがお伝え出来ません、私の感じではひょっとすると現状の最高国家機密・・・の様な気がします、申し訳ありません」

「いえ、気になさらないで下さい、我々は保安、警備の要員です、ゲストの知らされ無い事を知ってはいけないのです、今の私の発言は忘れて下さい・・・私は余りにも強い欲求に負けてしまいました」

「何の話でしたっけ・・・あの花の名前でしたっけ、私には解りません」

「ありがとうございます」

隊長が礼を言った処で官邸に辿り着き内部の要員に引き継がれた。


官邸は一般人の見学も可能である。

2001年のテロ以前は整理券を貰うだけで簡単に見学できたが、現在は在住する州の議員に申請し審査の上、可能となる。

外国人は自国の大使館で申請し許可が降りれば可能となる。

因みに日本大使館では見学申請の受付を行っていない、つまり日本人は見学できないのである。

その日本人が大使館への申請も無く官邸の中へ入って行った。

以前の様に見学者の居ない玄関ホールに入るとゲートでと同じ事が始まった。

持ち物を全部出し、彼が何も持っていないと解ると別室へと連れて行かれ又彼女一人で待つ事になった。

彼女はまた考えていた。

<ホテルで使ったカードはどうなったのか、船に乗った時に置いてきたのか、車の中に置いて来たのか・・・彼が着ていた宇宙服は隣の部屋で服を脱ぐ時にはどうしているのか・・・これを予想して今日は着ていないのか、先程も考えたが結論は出なかった、後で彼に聞いたら教えてくれるだろうか・・・などと考えていた>

彼女の考えが堂々巡りをしている間に先程と同じ様に彼が出て来た。

今度は四人に前後左右を囲まれて部屋から出て来た。

彼女が訝しんで見ていると危険人物を囲んでいる風では無く重要人物を警護している感じがした。

二人は別の警備の二人に廊下を案内されて歩いた。

二人の警備員が両側に立つ部屋の前に着いた。

一人がドアをノックすると暫くしてドアが開き二人を確認すると内部へ導いた。

二人が部屋に入るとドアを空けた人物は部屋を出て行った。

中には三人の人物が居た。

一人が立ち上がり挨拶をした。

通訳のジェレミーだった、彼の顔は少し引きつっていた。

「あの日以来ですがアメリカを楽しんでいましたか」

「ありがとう、彼女の御蔭で楽しませて貰っています」

大きな机の正面に座った人物が怒った顔で何かを言った。

「何を言っているのだ、どうせ余計な挨拶だろう、そんな東洋人に挨拶など必要無い、早く要件を済ませろ」

現大統領は白人至上主義で有名な人物だった。

ジェレミーとキャシーは彼が英語が解らなくて良かった、と思った。

次の瞬間、全員が驚かされた。

彼が流暢な英語で言葉を返したのだ。

「多人種の国で貴方の様な人物が主導するなど持ってのほかですね、自分の体形を健康に維持管理さえ出来ぬ人物に国の指導など出来るはずが無い、この国も先は長く無い」

内容もさる事ながら発音も完璧で英語が出来ないと聞かされていた大統領と高官がびっしりしていた、何より通訳の二人、ジェレミーとキャシーは只の驚きを通り越して驚愕していた。

「英語が解るのか、話が違うじゃないか」

大統領がジェレミーに詰問した。

「申し訳ありません、今の今まで知りませんでした」

「こんなに流暢なのにか」

「はい」

大統領と隣に座る高官がじっと彼を見つめた。

「人には二種類あります、優しくするとその優しさに付け込んで更なる優しさを要求する者と優しさを優しさで返す者です、信用できる者は勿論後者です、どうも貴方は前者のようですね」

彼が英語で言った。

「何を言う・・・こ・こ・このイエロー・モンキーが・・・」

横にいる高官が大統領の腕に手を掛けてそれ以上の暴言を止めようとした。

だが、一旦火が付いた頭は冷めなかった。

「次官や長官たちが勧めるからしょうがなく合ってやったのに・・・な・な・んだ、その態度は」

「可笑しな人ですね、最初に喧嘩を売ったのは貴方ですよ、私は買ったまでの事です」

「何をこちらが先だと言うのか、違うだろ」

と隣に座る高官と通訳の二人の顔を見た。

意を決した様に高官が言った。

「ミスター・サクライ、私は国務長官をしております、スティーブン・モンローと言います、よろしくお願いします・・・大統領、残念ですが最初に喧嘩を売ったのは貴方です、彼が英語が解らないと思っていたからでしょうが言ってしまいました」

「そりゃそうだろう、こっちは英語が解らないと聞いていたんだぞ、何を言っても良いだろう」

「それを彼は人の本性を知る作戦だと言っているのですよ」

「汚いやり方だ、真珠湾攻撃のような奇襲だ」

「は~」

国務長官が呆れてため息を憑いた。

ここでキャシーが割って入った。

「貴方、許して下さい」

彼に許しを求めた。

彼は彼女が何を言うのかが解っている様に小さく頷いた。

「大統領、貴方の専用機・エア・フォース・ワンは何ですか」

「何を突然聞くのだ、今は関係無いだろう、第一秘書風情の出る幕では無い」

彼女の顔が少し赤く染り少しづつ顔が厳しくなり般若の様になった。

美人なだけにその変化は際立って見えた。

「秘書風情では無く通訳としてここにいます、その通訳は名前をヘイウッドと言います、上院議員の娘です、母が貴方の私に言った言葉を知ったら激怒するでしょうね~、私は言いませんが、それより貴方の乗っている飛行機は今ではレンタルなのを知っていますか、貴方だけでは在りません、世界中の航空機の殆どがレンタルです・・・航空機会社一社のです、そしてこの方がその会社のオーナーなのですよ・・・彼がノーと言えば今から貴方はどの飛行機にも乗れなくなるのですよ、人は見かけに寄らない、見た目で判断してはいけない・・・良い例だと私は大変勉強に成りました、そう言う意味では貴方に感謝しなければなりませんね、それで電車か車でしか移動手段の無い大統領は仕事になるのでしょうか、彼はとても優しい人ですから貴方を許すでしょうが、私は決して許しません・・・移動手段の無い大統領がどうするかを楽しみに観ています・・・貴方、帰りましょう」

彼女はそう言うと彼の腕に自分の腕を絡めてドアの方へ歩き出した。

彼女の言葉に三人の男は茫然としていた。


二人が官邸を出ようとした処で通訳のジェレミーが追い掛けて来た。

「申し訳ありません、戻って頂けませんか、どうかお願いします」

ジェレミーが土下座でもしそうな勢いで願った。

「私はもうあの人、あんな奴とは話もしたく無いし顔も見たく無い・・・けど彼はもう許している様だから貴方の顔を立てて戻るわ、そうでしょう、あ・な・た」

「僕の将来の奥さんは旦那さんの事を良く判っているね」

二人は大統領と大臣が待つ部屋へと戻り出した・・・、二人が気を変えて帰るのを阻止する様に後をジェレミーが警備員を従えて着いて来ていた。


部屋に戻った二人を迎えたのは国務大臣一人だった。

「貴方方には大変不快な思いをさせてしまいました、お詫び致します。大統領は急な病になり療養する事に成りました。これは、一時間以内に官邸から広報が発表する正式なものです」

「あの男がこれくらいで屈服するとは思えないのですが」

彼女の第一声が不振の言葉だった。

「私が直ぐにエアー・フォース・ワンの機長に事情を説明すると直ぐにスカイラインのCEOから連絡が入り国中の飛行機のレンタル契約を破棄するとの連絡が本当に直ぐに途轍もなく直ぐに入りました、機長に説明して電話を置いた直後でした、不思議でした、ですがその御蔭で貴方たちを引き留める事が出来ました、戻ってくれてありがとう。あぁ大統領ですがその返答を聞いた途端に椅子に倒れ込みました・・・私は大統領に引退を勧めました、それ以外に回避する方法は無いと説得しました、嫌がっていましたが、国内の飛行機が全機飛ばなくなった理由が貴方だと知られれば国中を歩けなくなりますよ、海外も駄目、と言うよりもう海外へ行けませんが・・・と言うと納得しました。あの男はもう終りです」

大臣は大統領を最後はあの男と言った。

「そうですか、良かった、私はもう顔も見たく無かったから」

「しかし、どうしてCEOが連絡してくれたのでしょう、それにどうして、どうやって私の携帯の番号を知っていたのでしょうか」

「貴方ね」

彼女が彼に確認した。

「僕の将来の奥様は美人なだけで無く頭も感も良い様ですね」

「貴方と一緒にいると不思議な事も不思議では無くなるわ、それで大臣、副大統領は大丈夫ですか、まともな人ですか」

「まともの内容は人に寄って異なるでしょうが私から見て常識のある方です、そうそう貴方のお母さまとも仲の良い方ですからお聞き下さい」

「母とですか・・・なら大丈夫でしょう、でも母に聞くより私の旦那様に聞いてみたいわ」

「私の計画では一週間後に変わってもらう予定でしたが未来の奥様の短気で少し計画が早まった様です・・・これで答えになっていますか」

「はい、了解です、だそうですよ、大臣」

「何とも風変りなお二人だ、二人は2、3日前に初めて会ったと聞いていたのですがご夫婦ですか、それに今回、大統領との会談の目的は何なのでしょうか、大統領の交代では無いですよね」

「私達は本当に三日前に初めて会いました・・・が今は婚約しています、それと会談の理由は彼に聞いて下さい」

三人が彼の返事を待った。

「二つ在ります、世界中の考古学者を集めて貰いたい、もう一つ世界中の物理学者と天文学者を集めて貰いたい、この二つです、集めて頂く名簿はここに在ります、大統領の要請として頂きたいのです、そしてこれは最重要秘密事項にして下さい、勿論、名簿のメンバーに機密保持契約を結んで貰います、可能ですか・・・不可能でしたら私個人の力で実施します、この場合、米国には何の特も発生しません、政府が関与するならば米国の利益は膨大なものになるでしょう」

「次期大統領との会合は必要ですが私がこのままの職で居られるならば説得をお約束致します」

「貴方たちの役職は私がお約束致します」

彼は何も持っていなかったはずなのに内ポケットから名簿を取り出して渡した。

三人がまたまた驚いて彼を見つめた。

「あぁ~また旦那様に驚かされてしまったわ、まぁ~可能でしょうね・・・彼は嘘は付きません、いえ付けない様です」

「それでは私も嘘つきにならない様に万全を万難を私の全力を尽くします」

「間違え無いで頂きたいのですが、これは私の為では在りません、私にはそれ程の益は在りません、が貴方の国、アメリカ合衆国に取っては大きな大変大きな利益が在ります、そこを心に留めて置いて下さい、宜しいですね」

「はい、解りました、ありがとうございます、いろいろと・・・まずは大統領の事では大変お世話になりました」

「じゃ~後はお願いして会合の日程の連絡をお待ちしましょ・・・あ・な・た~」

「あの~、私の処遇はどうなるのでしょうか・・・通訳の必要は無いのですから」

「あら~何の事、彼は日本人で通訳が必要なのですよ、それに貴方はもう只の通訳では在りませんよ、お忘れですか、大統領補佐官の一人なのですよ」

「あぁ~そうでした、まずは大臣を補佐して会合の準備を致します」

「よろしく、では次回にお会いするまでね~」

彼女が彼の腕に腕を絡めて歩きながら別れの挨拶をして部屋を出て行った。

「凄い二人だね、君は前に合っているから慣れているのだろうが、私にはあんな人達は初めてだ」

「いいえ、彼は殆ど変わっていません・・・が彼女は、う~ん・・・別人ですね、顔もスタイルも少し違いますし何より・・・そうです、身体から漲るエネルギーと言うか自信と言うか恐れが何も無いと言うか・・・最初に合った時にも綺麗な人だなぁ~と思いましたが今日は超超超の超絶美人でした、スタイルも超抜群で見惚れてしまいました」

「うん、私もいろいろな女優やモデルと合ったがあれ程の美形に合った覚えが無い、確かにね」

「たった二、三日で人はそれ程変われるものでしょうか、それとも別人でしょうか」

「官邸警備を通って来ている、特に彼女はFBIの職員と聞いているが、そうならば別人はまず無理だろうな」

「そうですね、無理ですね・・・不思議です、摩訶不思議です」

「貴方とは今後付き合いが長くなりそうです、彼が言っていた様に優しさを優しさで誠意を誠意で返す様な関係を築きたいと思います、よろしくお願いします、私にとって今日と言う日は忘れられないでしょう、貴方だから言いますが大統領、いや、あの男が嫌いでした、あんな男を選んだ全国民を呪いました、何度も辞職を考えました、が誰かが歯止めに成らなければ・・・と考え逃げる様な事が出来ませんでした、此れから新大統領と共に協力して行きましょう」

「こちらこそよろしくお願い致します、ご指導ください」

「では早速、会合の準備をはじめましょう」

二人は彼から渡された用紙の確認から始めた。

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