第15話 スーツ
15分程してスーツ姿の彼女が管制室に飛び込んで来た。
「このスーツは何、何、何ですか、驚きです・・・この肌触り。」
「落ち着いて下さい、これから説明します、まずは髪を首の周りの内側に入れて下さい」
彼女は言われるがままに背中の中程までの髪を束ねてスーツの内側に入れた。
「では、次に手の指を下に真っすぐ伸ばし指先を逸らせて下さい」
また、彼女は彼の言うままに手と指を動かした。
すると、また彼女が驚く事が起こった。
彼女の頭がヘルメットに覆われ顔の前に透明なガラスに塞がれ手にスーツと同じ素材のグローブがはめられた。
彼女が驚いていると彼の説明が聞こえた、それはヘルメット内部のスピーカーからの様な頭の中からの様に聞こえた。
「そのスーツの本来の役目は宇宙服です、それに加え防弾でもあります、着心地はいかがですか」
驚きの余り彼女の息遣いが早くなり過呼吸になりそうだった。
彼は彼女の両肩に手を置き落ち着かせようとした。
「落ち着いて、まずは一回息を止めて、そう、そのまま、次に息を少しづつ吸って下さい」
彼女は彼の言う通りにして過呼吸から回復し落ち着いた。
「このスーツには空気タンクがありませんが・・・何分息ができるのですか、それに防弾てどう言う事ですか」
「そのスーツの空気がどれだけ持つかは人に寄って違いますが一週間以上は確実に保ちます、防弾についてですが100メートルからの50口径の弾丸も防ぎます、爆弾、爆発でも大抵の物には大丈夫です、それに元々は宇宙服ですから放射線も防ぎます、高温、低温にも対応しています、プラスは500度、マイナスは100度まで気圧は20気圧まで大丈夫です、ですから海中は水深200メートルまでは大丈夫です、気圧調整の必要はありません」
「・・・凄い・・・でもこのヘルメットと手袋はどこから来たのですか」
「ヘルメットは首の周りの小さな膨らみ、手袋も手首の小さな膨らみです」
「そんな膨らみありましたか」
「在りますよ、次にヘルメットと手袋の収納方法を教えます、方法と言っても只こう言うだけです・・・宇宙服モード解除」
彼女が復唱した。
「宇宙服モード解除」
彼女のヘルメットと手袋が消えた。
彼女は首回りと手首の周りに触り膨らみを確認した。
「こんな小さな膨らみが・・・」
「まだまだです、もっと小さくしなければ・・・と考えています」
「これでも十分です・・・日本は技術力が高い国だとは知っていますが、こんな服、スーツやこんな宇宙船も開発していたなんて・・・知りませんでした」
「これは日本の物では・・・いや私は日本人だから日本の物ともいえますか??? でも日本の誰もこれらの存在をしりません」
「えぇ~貴方だけ貴方個人の物と言う事ですか、これを、スーツだけでも売り出せば資産家に成れます」
「お金の問題では在りません、このスーツが悪用されれば何でも思いのままです、そうは思いませんか」
「そうですね、例えば銀行強盗に入って警察に囲まれて撃たれても平気なのですね」
「そうです、貴方はしますか」
「しません、決してしません、バットマンですね、スーパーマンですね・・・あ~飛べないで・す・よね」
「飛べません、ですがそのスーツはアーマード・スーツでもありますので貴方本来の力の二倍の力持ちに成ります、50キロを持ち上げるのが限界なら100キロが限界になります・・・ので70キロは軽々と持ち上げられるでしょう、飛び上がると70センチなら140センチになります」
彼女はその場で飛び上がった。
「全然変わりませんよ」
「これから貴方にスーツの使い方をお教えしますので付いて来て下さい」
彼はそう言うと管制室を出て直ぐ隣の壁の前に立った。
すると壁が消えて目の前に上への階段が現れ彼はその階段を登って行った。
彼女も後に続いて登るとそこは大きな体育館の様に広々としていた。
「今は安全の為アーマード・モードはオフになっています、これからオンにします、くれぐれも気を付けて下さい」
彼女は暫く待って又その場で飛び上がった。
軽く飛んだにも関わらず1メートル以上も上に飛んでいた。
驚いた彼女は暫く佇んでいたが、今度は思いっきり全身を使って上に飛んだ。
「うわ~凄い」
彼女は2メートル近くまで飛んでいた、そして広い体育館を飛び跳ね回った。
彼女が何度か飛んで次も飛ぼうと着地すると宇宙服姿の彼に肩を押さえられジャンプを止められた。
「宇宙服モードでも練習して下さい、それとジャンプ力だけでは無く走る事も合わせて練習して下さい、貴方が100メートルを14秒て走れるならば今は7秒ですから」
彼がそう言った途端に彼女は手を下に伸ばし指を逸らせ宇宙服モードになると走り出しジャンプし前方宙返り後方宙返りを始めた。
暫く飛び跳ねていたが今度は走る事だけを始めた。
この階は約40メートルの円形で高さが15メートルの運動用の物だった、その外周を彼女はオリンピックの優勝者よりも早い速度で走っていた。
途中で彼女は宇宙服モードを解除し襟に仕舞っていた髪を出し止めていたバンドも外し長い髪を後に靡かせてただただ走っていた。
彼女は爽快だった、そして「ふと」気付いた、顔は汗ばんでいたが身体に汗を感じないのだ、出ているはずの汗が感じられなかった、そこで彼女は走りながら又髪を束ねて襟の中に仕舞い宇宙服モードにして走り続けた。
すると直ぐに顔と頭の汗が引き爽快になった。
彼女は思った事を口に出している事に気づかずにいた。
「このスーツは凄い汗を吸収してくれるのね・・・お風呂、シャワーの必要もないのかな~」
そこに彼の声が聞こえた。
「そうです、でも残念ですが、化粧は出来ません、耳の掃除、鼻の掃除も出来ません、爪も切ってはくれません、マニュキュアも出来ません、歯磨きもしてはくれません」
彼女は息も切らさずに答えた。
「貴方はやっぱり男の人ですね、お化粧や爪の手入れは女にとっては苦痛では無く楽しみなのですよ」
「そうなのですか~~歯磨きは出来れば省きたいものですが」
「では、貴方はお風呂が嫌いでこの機能を考えたのですか」
「正解です」
「まぁ~」
「そろそろスーツの他の説明をしましょう」
彼がそう言うと彼の前に彼女が戻って来た。
「モードの機動は口で言っても働きます、ヘルメットのガラスの部分はバイザーに成ります、つまり外から貴方の顔は判りませんが貴方から外は見えます、但し鮮明度は少し落ちます、他に赤外線モードにも成ります、夜も人の居場所が判りますね、それと情報も表示します、ヘルメットもスーツも防弾と言いましたが打撃にも対応しています、殴られてもバットで叩かれても痛くはありません、勿論、防水です・・・が何か質問はありますか」
「スーツは防弾でも宇宙服モードで無い時に頭を狙撃されたら死んじゃいますよね」
「それも大丈夫です、貴方に向かって500メートル以内に入る飛翔物がある時に自動的に宇宙服モードと言うか戦闘モードに成ります、但し残念ですが貴方の隣に立っている人の狙撃は防げません、それと髪の毛は適当にヘルメットの中に入ります」
「それはちょっと残念だけど安心しました、打撃にも対応していると言いましたが・・・」
「では今から普通の男の人のパンチを貴方のお腹に打ちます」
彼は素手でかなりのスピードのパンチを彼女のお腹に放った。
彼女は微動だにせず平気な顔で立っていた。
「どうですか」
「どうも何も全く何も感じません・・・いえお腹に少し圧迫感を感じました、それ位ですね」
「着られそうですか、ずっと着て居られそうですか」
「えぇ~勿論、と言うより着ていたいです、着させて下さい」
「どうぞ、たった今からそのスーツは貴方の物です、お気づきと思いますが汗は吸収します・・・それだけではないのです、代謝皮膚も吸収します・・・のでお風呂もシャワーも必要はありません、但し、一カ月間着続けるとスーツのリフレッシュが必要になります」
「えぇ~そんな機能もあるのですか・・・一日24時間ずっとそのままで良いのですね・・・あれ貴方がスーツの上に着ていた服は何処にあるのですか」
彼女が後を振り向いて彼に向き直って彼を見てビックリした。
彼が元の服を着ていたからだ。
「何処に仕舞ってあったのですか」
彼女が聞いている間に彼はスーツ姿、服、スーツ、服と何度か繰り返した。
「ど・ど・どう言う事ですか」
「このスーツは形状記憶変化機能もあるのです、でも、貴方の物はこの機能は使えません、まだスーツに慣れていないからです、少しづつ機能を追加していきます」
「形状記憶は聞いた事が有りますが棒がバネになるとか、そんな物だと思っていました・・・服に普通の服になるのですか、マスクと手袋とブーツは?」
「この服の襟の部分がヘルメットで手首の袖の部分が少し厚くなっています、ブーツは普通の靴の様に見えますが厚底です・・・一つだけ体感してみますか」
彼がそう言うと彼女の身長が少し高くなった。
驚いてブーツを見ると赤いピンヒールの靴になっていた。
「私のこのスーツには形状記憶変化機能が無いと言いませんでしたか」
「無いとは言っていませんね、使えない・・・と言ったのです、スーツの着心地に慣れて頂く事と基本機能の習得が先決だからです、その後少しづつ機能を追加して行く予定です、先程貴方本来の力の2倍と言いましたが、そのスーツは10倍までが本来の機能です、握手で相手の手を握り潰しては困りますのでね」
「成程、その通りですね、解りました、2倍を無意識に調整できる様になればよいのですね」
「そうです、無意識にです、それが大事な事です、因みに私のスーツは20倍です」
「え~え、20倍・・・50キロとすると1トン・・・ですか、凄い、スーパーマンですね、あぁでも飛べないですね」
彼女が少し残念そうに言うと彼が少し困った様な顔をした。
「えぇ~まさか空も飛べるのですか」
「飛べます」
「飛べるのですか・・・スーパーマンです、アイアンマンです、超人です、スーパー・ヒーローです」
「それは困ります」
「どうしてですか、困っている人を助ける事が出来れば」
「それは良いのです・・・が我々の存在が知られる事が困るのです」
「何故ですか」
「このスーツの存在が知られれば手に入れたいと思う者達が大勢いる事でしょう、誘拐や暗殺が心配な人達、まだこの人達は良い方です・・・世界中の軍隊・・・たった一人で何百人、何千人、何万人でも戦争に勝てます、最悪は犯罪組織、テロ組織です、銀行強盗、アメリカのフォートノックスの金塊も簡単に強奪できます、どんなテロも起こせます・・・そのような大勢の人達に存在が知れれば調査、詮索、誰だと探される事に成ります、もし貴方だと解れば家族に危害が及びます、スーツを手に入れる為に両親、兄弟の誘拐が考えられます、どう思いますか、望みますか」
「考えもしませんでした、例えば私が顔を解らずに火事を消したとします、それでも、そうなりますか」
「誰か解らなくてもニュースの映像に成れば、悪意がある人も報道機関の様に只の好奇心ででも軍隊の調査機関、政府の捜査機関、貴方の所属する機関もですが、スーツの存在が知られれば確実に身元調査が始まります、違いますか」
「う~ん・・・多分仰る通り身元の確認を開始するでしょうね、それも徹底的に何としても探し出そうとするでしょうね、特に先程言っていた犯罪組織やテロ組織に先を越されない様に最優先事項になるでしょう」
「そう言う事です、ヒーローも活躍の場は無いのです、残念ですが」
「人助けが出来るのに・・・見て見ぬ振り・・・力が無いより辛い選択ですね」
「私はそれに耐えてきました・・・貴方が思うよりもずっとずっと長くね」
「何か手は無いのですか、貴方は頭の良い人だから何か考えはあるのでしょ」
「無い事も無いですが・・・スーパーマンに悪事を働かせる、またはアメリカの軍隊の味方にする方法・・・貴方ならどうしますか」
「スーパーマンが悪い事ですか・・・・・・何とかの鉱物に弱かったですね、でも弱っては駄目ね、う~ん、やっぱりロイスを誘拐するわね」
「そうするでしょうね、他には只単に大勢の人質を取るか、ではアイアンマンの場合はどうですか」
「スーツはあの人専用ですから盗んでも駄目ですね、いやそれでも分解して同じ物を作れますね~盗みに入ります、秘書の彼女を誘拐します」
「と言う具合に何とでもなります、成らなくても厄介事は尽きないでしょう、それは悪の組織だけの事です、それに政府機関も追加される訳ですからまともな生活は不可能です、現代は情報化時代です、街のあちこちに監視カメラが有ります、直ぐに正体は知れるでしょうね」
「でしょうね・・・そうなると普通の生活は無理ですね」
「と言う事です」
「でも私には貴方が目の前の人の不幸に手を出さないとは思えないのですが、人助けをした事は無いのですか」
「数えられない程あります、これ程の情報化時代になる前は簡単でした、現代では容易では在りません、火事で逃げ遅れた人を救う時は出動している消防士に扮します、本人は覚えのない功績に成ります、誰かに功績を譲ります、私の存在を知られない様にします」
「凄いですね~それこそ本当のヒーローです・・・人からの賞賛も栄誉も名誉も無しですか・・・私には無理なのかなぁ~」
「私は貴方なら可能だとワシントン記念堂で考え結論を出しここにお連れしたのです」
「私も人に褒められたい、特に両親に褒められたい欲求はあります、それを押さえられるのでしょうか」
「私に人を見る眼があるのか・・・無いのか・・・楽しみですね」
「まぁ~~意地悪な方ね」
「ところで目的地にそろそろ着く様です、展望室に行きましょう」
二人は地球を衛星軌道で見た部屋へ向かった。
「目的地って何処に向かっていたのですか」
彼女がそう言っている内に無重力になり前の壁が上に上がって行った。
「何も無い宇宙ですよ」
「暫くお待ち下さい」
暫く二人は星が輝く宇宙を無言で見つめていた。
彼女が突然叫んだ。
「ボイジャーーーーそ・そ・そんな・・・ボイジャーですよね」
「そうです、ボイジャーです」
「私は私達は太陽系を出たのですか」
「太陽系と言うか星系全体に言える事ですが、何を境に星系内外を決めるかによりますね」
「と言うと・・・意味が解りません、テレビでは確かボイジャーは太陽系を抜けた、出たと言っていました」
「冥王星を含む隕石群のリング帯を過ぎた事は確かですが太陽風の届く範囲を過ぎたかと言えばまだですし太陽の引力圏外に出たかと言えばまだです」
「そんなに太陽の影響力は強いのですか・・・凄いです~」
「宇宙規模から見れば狭い範囲の話です」
「貴方は一体・・・」
彼女は驚きの余り残りの言葉が続かなかった。
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