第7話 細やかな要求

「君が・・・」

「ユー・・・」

「F・・k You」

皆の目がテレビから日本人に向けられ様々な声が一斉に響いた。

当の本人はと言えば無表情にテレビを見つめているだけだった。

最初に発言した正面に座った男が両手を上げて皆を落ち着かせ静かにさせた。

「君がやったのかね」

通訳が日本語に言い換えた。

「・・・」

顔も向けず、そのままテレビを見続けていた。

「こっちを向きなさい、と言っています、君がやったのかと聞いています、桜井さん」

無反応な桜井に通訳が取りなす様に桜井に願った。

「通訳の方、もし、私がやったのであれば、この右手を貴方に向けたらどうなるでしょう・・・と聞いて下さい」

「さ・桜井さん、それは脅しですか」

「いいえ、単なる質問です、自分が何を誰に質問しいるか・・・考えていただきたいだけですよ」

通訳が英語で言うと言った本人だけでなく周りの皆の顔色が変わった。

青ざめた者、怒りに赤くなった者、「おぉ」と声を上げた者、様々だった。

正面の右の男が周りにいた兵士に何かを命じた、途端に兵士が自動小銃を桜井に向けた。

正面の男が叫んだ。

「止せ、銃を降ろせ、もし、この男があれをやったのであれば銃など無意味だ」

「やって見なければ解らんだろう」

「よしんば効いたとしても敵に回すより味方にした方が良いとは思わないかね」

銃を構えさせた男が納得したのか銃が仕舞われた。

その間、当の本人は相変わらずテレビを見ていた。

「私の処遇は決まりましたか、テロリストですか、捕虜ですか、ゲストですか」

通訳から直ぐに返事が返って来た。

「ゲストです」

「VIPですか、並みですか」

「VIPです」

「では、一つ要求があります、FBIのDC支局にキャサリン・ヘイウッドと言う女性がいます、その女性を通訳にして下さい、貴方に不足があるのではありません、貴方一人では休みがありませんからもう一人お願いします、担当も決めます、政府との通訳は貴方に、彼女には政府以外の相手の通訳と私の英語の先生をお願いします」

桜井はそう言って正面の男の右隣の男を見つめた。

「何故、君の要求を飲まなければならないのかね」

桜井は黙って再度右手を伸ばし暫くして下した。

今度は何が起こるのかと皆の視線と感心がテレビに集中した。

「再度、臨時ニュースをお伝えします、バチカンのオベリスクが再度輝き出した模様です、こちらも現地の映像が入り次第お送り致します・・・」

部屋中の全員の視線が桜井に向けられた。

「私は、彼女を人身御供にしろ・・・と言っているのではありません、通訳と先生です、こんな小さな願いが叶えられない・・・私は日本に帰ります」

「帰れるものなら帰ってみろ、この国どころか、この建物からも出られるものか」

右の男が鼻で笑う様に言った。

「彼女の移動には長官の許可がいりますか、貴方の権限でできますか」

「衛兵、この男に手錠と足枷をしろ、早くしろ」

右の男が大声で護衛の兵士に言った。

「いい加減にしなさい、彼は逃げようと思えば何時でも逃げられるでしょう、多分私達の為に説明してくれているし待って居るのでしょう、それが解らないのですか、貴方にはもうウンザリです、黙っていて下さい」

真ん中に座った男が小さな声だが怒りを込めた声で言った。

「何だと、私にそんな事を言って只で済むと思っているのか、君は明日にはクビ・・・」

その時、桜井が静かに右手を上げ煩く騒ぐ男に向けられた。

激怒し話していた男の頭がテーブルに向かい眠ってしまった。

「この人は何時も皆の邪魔をしているのですね、暫く静かにしていただきましょう・・・」

皆が唖然とし驚く中で中央の男が言った。

「ありがとう、これで話がし易くなりました、嫌な奴とは言え死んでは困りますが・・・」

「大丈夫ですよ、2~3時間程寝て貰うだけです、それに、今日の事は忘れて貰います」

「重ね重ねありがとう、では本題に入ります、そのFBIの女性は本当に必要ですか」

「はい、お願いします、今の通訳の彼には政府との話だけの通訳をして貰いたい」

通訳が自分の事を英語に翻訳し言った。

「その女性をこちらに呼びましょう、私の権限の範囲ですので直ぐに手配します」

正面の男は左の男に指示し左の男が壁際に立つ男を側に呼び指示を与えた。

「ありがとう」

「改めて確認ですが、エジプトの現象は貴方が起こしているので間違いないですね」

「はい、間違いありません」

桜井はそう言うと右手を上げ掌を右に向けた。

テレビに映っていた光輝くスフィンクスとピラミッドから輝きが消えてしまった。

「おやおや、もう少し続いた方がエジプトには人集めに良かったのに」

「光が在っても無くてもスフィンクスもピラミッドも素晴らしいものです」

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