第25話 マウント・オーガスタ

二人は翌日、マウント・オーガスタに行った。

ネットで調べるとパースからでは北に1200キロに位置し車で15時間以上も掛かるとあった。

だが二人は既に半分以上もパースより北のシャーク湾にいるのである。

半分以下の時間で行けると予想し出発した。

出かける前に昼食のサンドウィッチと飲み物を十分に用意して出掛けた。

道は途中から舗装が途切れ昔ながらの車の轍が残る道に変わり乗り心地も悪くなった。

二人は運転を何度も代わりドライブと話を楽しみ時を忘れた。

麓に着いたが登る事はしない事にした。

ネットで調べ山頂との往復に6時間以上掛かると解ったからである。

その時、二人の頭に声が聞こえた。

<私に二人を運ばせてもらえますか>

<風の制御が出来る様になりましたか、その前にありがとう、雨と風を防いでくれて>

「あら、ガイアが防いでくれていたの」

<舗装されていない道で雨は困りますからね、大いに助かりました>

<気が付いているとは嬉しいです>

<ありがとう、ガイア>

<それで私達を頂上まで運べますか>

<まだ岩や木の移動しか練習していません>

<では、私で実験して下さい、まずは2メートル浮かせてそのまま維持させて下さい>

<維持ですか、難しいですね、でもやってみます>

<どうぞ>

彼はエマから離れ10メートル程の処で止まった。

暫くすると彼の身体が5メートル程、突然回りの砂を巻き上げ回りながら上昇した。

彼は両手を横に広げキリストの貼り付けの様な姿で回転していた。

回転は徐々に遅くなり遂に止まり、彼も両手を下ろし胸の前で組んで余裕の様に見せた。

其処から上昇し10メートル程の処で止まった。

次に彼の身体が下を向いて横になり前進し始め、彼が片手を前に出したので、その姿はまるで映画で見たスーパーマンの様だった。

その恰好であちらこちらへ飛び回り彼がまるで空を飛べる能力がある様だった。

彼は一度着地すると突然凄い速さで上昇し上へ上へと上がり点になり消えてしまった。

余りにも時間が経ったのでエマが心配になった時、エマは肩を軽く叩かれびっくりして飛び上がって振り返った。

何と其処には彼が立っていた。

彼女は彼を見詰め、彼が消えた空を見詰め、交互に何度か見詰めて漸く言葉が出た。

「何、どうしたの、どうなってるの、何があったの」

彼女は動揺していて言葉がまとまっていなかった。

彼は彼女の両肩を優しく両手で触り何も言わずに彼女が落ち着くのを待った。

暫くして彼女が言った。

「ありがとう、もう大丈夫」

「御免なさい、貴方を驚かそうと思いました、が、度が過ぎた様です、申し訳ありませんでした」

「良いのよ、嬉しいわ、でもね今度から貴方の心配をしての驚きは止めにして下さい、嬉しい驚きは歓迎よ、それと私が貴方を愛しているのが解ったわ」

「・・・今度はこちらが驚かされました、女性から、それも貴方の様な美人から言われるなんて・・・」

「貴方が女性の容姿を言うなんて・・・貴方は気にしない人だと思っていました」

「それは認識不足です、私も普通の男です、貴方の様な超美人は大好きです」

彼女は何故か身震いをした。

「・・・貴方に言われるととても嬉しい、身震いする程、嬉しい」

<あの、セイジ、どうしますか>

「おぉ~、いけない、貴方も一緒に飛びましょう、十分に安全を確認しました、安心して下さい」

「はい、貴方が途中からとても楽しそうだったので解りました、最初はどうなる事かと思いましたが」

「ガイア、まずはこの山の頂上に連れて行って下さい、早く無くても良いです」

「はい、解りました」

突然、二人の回りの音が消えて二人は宙に浮き一瞬止まった後にゆっくりと山の頂上に向かって上がっていった。

頂上の真上の10メートル程の上空に着くとゆっくりと居り始め地面に着地し回りの風の音が戻って来た。

「何だか不思議な感覚ね、バラ・セーリングとも違うし・・・ダイビングで底の見えない深い処に浮いている感覚に似ているかしら」

「そうですね、私もその感覚を思い浮かべました」

「折角だから頂上からの景色を楽しみましょう、記念写真も沢山撮りましょう」

彼女の言葉通りに頂上の至る所を歩き二人の記念写真をタイマーでいっぱい撮った。

「写真をロジャーに見せる時にはきを付けないといけませんね」

「どうして」

「写真の時間が早すぎるのです、登りには3時間、4時間掛かるはずですから、二人で朝早くに出発した事にする事にしましょう、ホテルに問い合わせる事を彼はしないでしょう」

「成程、貴方は本当にとても明晰な頭脳の持ち主ね」

「あのがとう、本当は嘘を誰に対しても付きたくは無いのですが、ガイアについては今の処はしょうがありません」

「そうですね、私も嘘は嫌いです、処で随分上まで行った様ですが、何処までいったのですか」

「宇宙から地球の丸みを確認しました」

「・・・えぇ~」

「ガイアに聞いてのです、私の回りに空気の玉を作れないかと、作れるというので行って来ました、多分、2万メートル位でしょうか」

「私も見て見たいわ」

「ガイア、空気の玉を大きくして二人を上へお願いできますか」

<解りました、遠いので少し早くします>

二人を透明な球が包み凄い速さで上昇して行った。

音速を超える速度で上昇しているのだが球の中は無音で外もさして特別な音を発してはいなかった。

ガイアが音速を超えた時に起こる衝撃波を空気の流れを変える事で消していた。

二人を包んだ球は薄明りの中に入り上を見上げると暗い闇が見え下を見るとどんどん地球が丸く見える様になって行った。

二人は止まった球の中から下に見える地球を感慨深く隅々まで飽きる事も無く見詰めた。

見詰める地球は自転し真下の地形が次々に変わった。

「素晴らしい、素晴らしい眺めですね」

「あぁ~、綺麗です・・・でも・・・人間がこの素晴らしい地球の環境を破壊している・・・許される事じゃ無いですね」

「戦争も飢餓も災害も絶えません、悲しい事です、この素晴らしい眺めを見たら戦争なんて出来ませんね」

「素晴らしい景色ですが、切りがありません、そろそろ戻りましょう、酸素の残量も気になります」

「そうですね、パースにも行かなければ成りませんものね」

「ガイア、ありがとう、山に戻して下さい」

二人を包んだ球はゆっくりと居り始め、二人に眺めを堪能させた。

上空500メートル付近から降りる速度が早くなり地表付近で一旦止まりゆっくりと着地した。

「ガイア、とても私達に気を使った持て成しに感謝します」

「本当にありがとう、素晴らしい体験でした」

<いいえ、どう致しまして、又何時でもどうぞ、今度は最初から大丈夫です、練習もしておきます>


世界一大きな岩を見たと言う思いはあったが草木に覆われ壮観さが無かった。

二人は少しがっかりした気持ちでパースへと向かった。

「でも、あそこでの経験は素晴らしいものでした」

「ガイアの可能性をもっと見つけましょう」

「はい、でも世界二位でもウルルが人気がある訳ですね」

「世界一を見れた事は実に感激でした、彼には感謝です」

「・・・素晴らしい」

「何がですか」

「貴方のそのプラス思考と他人への感謝の気持ちよ、私は貴方に会えて神がいたら感謝するわ」

彼女は道路の脇に車を止めて、涙を流しながら彼に長い長いキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る