第24話 ロジャーとの出会い

日本語を話す男が部屋に戻ろうとロビーに行くと二人が待っていた様に椅子に座っていた。

「バーで少し飲みませんか」

「はい、お願いします」

「貴方の方が年上です、敬語は止めて下さい」

「はい、ありがとう」

三人はバーへと入った。

テーブル席が空いていたのでスタッフに仕草で許可を貰い座った。

途中、三人に目を止める者もいたが近寄っては来なかった。

「私はロジャー・ウチヤマです、元はウイリアムです、日本人になりたくて養子にして貰いました」

「して貰った、なったと言わなかった処が日本人らしいですね、私は・・・」

「必要ありません、知っていますので二人ともね」

「はい、ありがとう」

「きっと何度も聞かれた事を聞きますが許して貰えますか」

「どうぞ、良いわよね、貴方」

「ああ、構わないよ、礼儀の良い人のはね」

「ありがとう、まずは、本当に二人は知り合って間が無いのですか」

「はい、数日前にパースで初めて会いました」

「貴方がプロポーズしたのも本当ですか」

「本当です、町の歩道を歩いていて何故か、彼の前で止まって仕舞ってカフェに誘いました、そして、その数時間後にプロポーズしました」

「彼は大金持ちだったのですか、お金に靡く人には見えませんが、それに貴方の方がお金持ちでしょう」

「彼がお金持ちがどうかは今も知りません、聞いてもいません」

「ほほう~、何が貴方の気持ちを、彼の妻に成りたいと思わせたのですか」

「彼が独身だと聞いて驚きました、こんなに魅力的な人が独身なんて信じられませんでした、だから私だけの人にしたかった」

「彼には失礼ですが見た目は何方かと言うと冴え無い、やはり頭脳ですか」

「正直、多分最初はそうだったのでしょう、今は彼の容姿も大好きです」

「あばたねえくぼ、恋は盲目の典型ですね」

「そうだと思います」

「貴方は本当に直な方ですね、魅力的です、見た目は勿論、中身もです」

「ありがとう、でも性格は彼と会って話をするうちに変わった様な・・・いえ、確実に変わりました」

「ほほう~、その言い方は具体性がありますね」

「はい、私は直でありませんでした、回りを気にしていない素振りをして居ながらとても気にしていましたし、とても我が儘で怒りっぽかったのです、でも全てが変わりました」

「中でも何が一番変わったと実感していますか」

「そうでいね~、気長になった、特に他人に対してでしょうか」

「貴方は何か武術を習得、つまりある程度以上の力、実力がありますね」

「断定的ですね、私も貴方がそうだと解ります、ボクシングの女子の州チャンピオンになった事がありますし、合気道を習っています、貴方も合気道ではありませんか」

「そうです、日本では師範をして居ました、貴方もでは無いですか」

「いいえ、私はまだまだ初心者です」

「彼はどうなのですか、肉体派と言うよりも頭脳派のようですが」

「私も最初はそう思いました、ですが、大きな人も怖がる様子もありません、私の知る限り普通の人は自然と大きな人には怯えが何処かに現れるはずなのですが、彼は全く無いのです」

「彼に聞いていないのですか」

「彼とは話題が尽きません、いろいろな話をしましたが、その話はありませんでした」

「どうなのですか」

「日本で出来る武術は一通りやりました」

「うむ、貴方がやったと言うからには、ある程度のレベル以上になったと言う意味ですね」

「昇段試験は受けていません、合気道では師範を頼まれた処で止めました、空手は二段に勝てる様になった処で止めました、柔道は初段に勝つ様になった処で止めました」

「ご職業を聞いても宜しいですか、その前に私は実家に戻り牧場を手伝っています、オーナーは父で私は次男です、妻が日本人でオーストラリアに一度住みたいとの希望で戻りました、今は妻が実の娘で私がその旦那見たいです、そんなつもりはありませんが離婚したら私が追い出されるでしょうね、間違いない」

「後悔していますか」

「そんなはずが無い事はお解りでしょう、嫁舅の問題が無いのですよ、これ程の幸せはありません、娘二人と息子がいるのですが、孫が可愛くてしょうがない様です、孫たちは、子供たちは毎日祖父たちと馬に乗って幸せそうです」

「一度、お伺いしたいものです」

「これからどうですか、とは行きませんね、飲酒運転は駄目ですから明日の朝食後ではどうですか」

「ても、良いのですか、尋ねなくて良いのですか」

「全然平気です、それに貴方たちなら、きっと大歓迎されますよ、二人の噂は既に届いているでしょうからね」

「えぇ~、そんな~」

「家はパースから150キロ離れていますが噂は光の様に早く伝わる田舎です」

「パースの私達のホテルは御存じですか」

「11時にロビーでいかがですか」

「良いですね~、少し遅くなりますが家で昼飯にしましょう」

「質問を伺っていませんが、良いのですか」

「明日、家で家族と一緒にお願い出来ますか」

「解りました」

それからは三人でオーストラリアの見処の話をした。

彼もダイビングが趣味で彼女と同じクラスのライセンスだった。

日本で妻と一緒にダイビング・ショップに務めていた時期もあったと語った。

「グレート・バリア・リーフは有名な処です、全てが素晴らしいが中でも素晴らしい処が幾つかあります、現地のガイドも荒らされたくは無いので限定している処があるのです」

「ライセンスがマスター以上とかですか、いいえ人柄です、珊瑚を傷付けない人です、魚に気を使う人です、サメだからと言って全てのサメを怖がらない人です」

「海は魚の住処で有って我々が訪問者ですからね」

「・・・貴方はきっと合格者になるでしょう、是非行って下さい」

「やはり、グレート・ロックはお勧めですか」

「クレート・ロック・・・あぁ、エアーズ・ロック、ウルルの事ですね、確かにお勧めです、グレート・ロックと言う人には初めて会いました、でもその名に相応しいのは別にあります、ウルルは二番目に大きな岩なのです、一番はこの近くにあります、名前はマウント・オーガスタスです」

エマが彼のパソコンを借りて直ぐに検索した。

「凄い、ウルルの2.5倍も大きいのですって、ここからなら車でも行けるわ」

「なら、パースでの合流は明後日にしましょう」

「ロジャー、良いのですか」

「一向に構いません」

「ありがとう」

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