第23話 シャーク湾のホテル
一泊一人二万円以下の普通のホテルだった。
チェック・インを済ませ近くのレストランで食事を楽しんだ。
海辺だけに魚とエビと貝の料理で勿論新鮮で美味しかった。
ワインを赤、白と飲みカクテルも飲んだ。
二人は他の人たちとの会話に疲れていたのか、二人だけの時間を大いに楽しんだ。
勿論、話題は多肢に渡り、聞いている人が居たらアベックの会話とは思えないものだった。
二人にはこんな会話が大好きだった。
ストロマトライト、海藻、酸素、二酸化炭素、生物の巨大化、恐竜、生物の定義、元素番号、天体、宇宙、量子力学
物理学など多岐に及んでいた。
二人が話ていた処はホテルのテラス席で気が付くと周りに椅子を引き寄せ二人の会話を輪になって只黙って聞いて居る人たちが20人ほども居た。
気付いた二人は驚いて周りを見渡していると一人が拍手し全員の拍手になった。
中でも一番年上と思われる男性が言った。
「私は日本に長らく住んで居ました、失礼を承知で聞かせて頂き、皆に小声で英語に訳していました、私を含め皆が日頃から不思議、不可思議、疑問に思っていた事の幾つもが理解出来ました、お礼を申します」
彼は日本語で言った後、同じ事を英語で言った。
それを聞いた周りの皆が「サンキュウ」と言った。
「もしやして、お二人は昨夜ホテルで講演会を開かれた二人ですか、講演会と言うよりも私には質問回答会と言うべきだとはおもいましたが」
又、日本語の後、英語で言うと「イエス」と声を出す者、頷く者がいた。
「貴方は可成り長い間、日本にいた様ですね、日本人らしい気遣いが言葉に現れています・・・そうです、私達二人です」
彼の日本語の言葉を今度はエマが英語で言った。
「私も申し込んだのですがまさか定員オーバーとは思いませんでした、この中にもいる事でしょう」
日本語と英語で言った。
何人かが手を上げた。
「皆さんの質問に答える事は出来ませんが、日本語を理解している貴方の質問にはお答えしたいと思います」
彼女が彼の言葉を英語に訳すると残念そうにする人と嬉しそうにする人がいた。
何人もの人が日本語を話す人にいろいろと声を掛けた、無論、英語である。
彼が手を上げて皆を制した。
「最近、日本に戻ろうと思い始めた理由がこれです」
日本語だけで英語では言わなかった。
「私は貴方の質問に一つだけ答えましょう、但し、日本語です、訳する間を空けません、それで宜しければどうぞ」
彼の言葉を彼女が英語で言うと文句を言う者、怒りを表す者たちがいた。
日本語を話す人が静かな怒り込めた言葉を言った。
「貴方たちは自分が我が儘だとは思わないのですか、彼は答える必要など無いのですよ、このままこの場を離れても良いのですよ、私が彼ならばもうこの場にはいないでしょう」
彼の言葉を聞いてもまだ解らない者が何人もいた。
「ホテルに迷惑を掛けています、もう終りです、止めましょう」
彼がそう言って立ち上がった。
一人の大男が彼を止める様に立ち塞がったが1メートル位に近づいた処で風が彼の周りだけに吹き浮き上がりぐるぐると周り出し静かに床に足が着いた時には目が回りふらふらとして倒れてしまった。
皆が驚き、その中を彼とエマの二人は自分たちの部屋へと向かった。
二人が立ち去り暫くすると倒れた大男が立ち上がり回りを見渡し二人がいない事に気が付き唖然としていた。
その様子に回りの人達も何が起きたのか解らずに唖然としていた。
「今のは彼が何かしたの」
「それ以外に無いだろう」
「あれがテレキネシスと言う超能力か」
「彼は超能力者なのか、地球人なのか」
「警察に連絡した方が良いんじゃ無いのか」
日本語を理解する人が言った。
「彼が何か犯罪を犯したのかね、何方かと言えばこの大男が彼に乱暴しようとした事の方が犯罪だと私は思うがね、例え彼が超能力者でも、それを裁く法律は存在しない、彼がやった証拠も無い」
大男が彼に掴み掛かったが逆に優しく転がされてしまった。
大男は懲りずに何度も繰り返し、その都度優しく転がされた。
「いい加減にしないと私も何時までも優しくはありませんよ、正当防衛の証人はいっぱいいますしね」
大男は漸く諦めて聞いた。
「日本の武術をやるのか、今のは空手とは違うようだが、何だ」
「人に物を尋ねる態度では無い、まだ貴方は理解していない様だ、貴方が何処に住んでいるのかは知らないがトラブル・メーカーだろう」
「刑務所に何度も入った」
「大男に生まれた不幸ですね」
「不幸か」
「力にだけ頼る性格になった、それは大男の宿命のような物です」
「そうか~何か変えるには、変えるにはどうすれば良いかなぁ~」
「彼ならば一言で答えてくれるかも知れないが私には出来ない、只私は日本で武術をいろいろと学んだ、貴方の様な大きな人でも5人、6人でも勝てるでしょう、不思議ですが強くなればなる程に他人に優しくなりました、まぁ殆どの人が優しい日本ですかでしょうがね」
「・・・一度、日本に行く事にする、します、ありがとう」
「貴方は少し変わりましたね、貴方はまだ若い幾らでも人生を変えられます」
「はい」
「では、お休みなさい」
日本語を話す初老の人が自分の部屋へ戻って行った。
「話題の彼も日本人、今の人も日本語を理解し日本に長年住んでいたと言う、私も日本に行って見たくなった」
誰かがそう呟いた。
その言葉を心の中で呟いた人が何人もいた。
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