第21話 三度目の洞窟
翌日も二人は洞窟へ行った。
但し、予定通りバスを避けてエマが借りているレンタカーで出掛けた。
以前の二回はバス・ツアーだったので、この洞窟は四番目に訪れる為、午後の訪問で時間も限られていた。
車が駐車場に入ると数十台の乗用車が見えるだけで団体のバスは見えなかった。
車の中、彼は町を数キロ離れた処で
「ガイア、聞こえます、日増しに貴方の話がし易くなります」
「セイジ、もうガイアと繋がったの」
「ええ、今言った様にどんどん話易く遠くまで届く様になって行きます」
「残念だけど私はまだ話せないわ」
「今の貴方は運転に意識を集中しているからでは無いでしょうか、ガイア、彼女と一緒に話がしたいので後にしましょう」
二人は疲れを取る為にまずカフェに入り珈琲とケーキを注文した。
珈琲を飲んでゆったりとしているとエマが呟いた。
「あら、ガイア、お久振りね、あぁ、昨日も話たのに何だか久し振りの様な気分だわ」
<貴方もガイアと話せる様に成りましたので声に出すのはやめましょう>
<そうですね、周りの人に怪しまれますものね>
<それに現代は盗撮、盗聴の時代ですからね>
<えぇ~此処も盗撮か盗聴されているのですか>
<私には解りません、ですが用心の為です>
<何だ、でも解りました>
<此処でもガイアと話せますが洞窟には入ります、何と無く近くに居る時間が長い程、我々とガイアとの繋がりが強くなる気がするのです」
<私もそんな気がします>
二人はゆったりと珈琲を飲みケーキを食べていたが、ガイアとは話をしていなかった。
二人の気持ちを察してガイアも話し掛ける事は無かった。
彼がカードで支払いを済ませ二人が洞窟を目指すとガイアとの繋がりを強く感じ始め、それがどんどん強くなって行った。
二人が奥の一番下に着くとまるでガイアが隣に立っているかの様に深い繋がりを感じた。
「君もガイアとの繋がりが昨日より深く感じていますか」
「ええ、昨日とは比べられない程の強い繋がりを感じるわ」
「ガイア、君はどうですか」
<私も昨日とは格段に違います、まるで貴方がた二人が私の一部になった様に感じます>
<そう、一体感、一体感を感じます、オーストラリアの地表、気候、天気、風、地震など自然現象を感じます>
<私はこの近辺だけだど感じます>
<観光バスは一つ目、二つ目の洞窟を回っている様です>
<えぇ~、貴方は人の存在も感じるのですか>
<この近くだけですが人だけでは無く動物も感じます>
<制御は出来ますか、セイジ、エマ>
<制御は出来ません、自信はありませんが、その内に出来る様になりそうな予感がします>
<私もです>
<嬉しいです、私の感覚を理解出来る人がいるのは非常に嬉しいです>
<ガイア、お願いがあります、将来、私達が制御出来る様になる様なら、それはとても大きな力を得る事に成ります、貴方は善と悪を理解していますか>
<人を殺す、傷付ける事は悪、泣かせる事は悪です>
<そうです、但し、嬉し泣きと言う善で人を泣かせる事もあります、貴方が私達二人を探した様に他にもいるかも知れません、が、その人が悪の心を持つ人の場合、その大きな力は人類に取って大きな脅威となります、貴方が我々に連絡を取った様に他の人と連絡を取る時にはその人が善か悪かを十分に観察し悪の人とは接触しないで欲しいのです>
<・・・???・・・はい、理解出来ました、お約束します、二人に相談する事にします>
<我々も今は自分が善だと思っています、ですが、将来、貴方の力の一部でも得られた時に善のままでいられるか自信はありません、それ程、魅力的な力なのです>
<完全に理解できたとき言えません、考えてみます、二人と話せるのなら寂しくはありません>
<もう一つお願いがあります、貴方は風を制御出来る様ですが、石を宙に浮かせられますか、飛ばす事は出来るでしょうが宙に、一か所に留めて置く事は出来ますか>
近くでカランと音がして小さな石が何かにぶつかる音がした。
<出来ません>
<練習して貰えますか、何の為かと言えば、私達を風に乗せて運んで貰いたいのです、でも今の貴方の能力では私達は大きな怪我をしてしまいます、私達が安全に貴方の風で移動出来る様に成りたいのです>
<解りました、練習します、他に練習しておく事はありますか>
<移動が世界中で出来れば最高です、練習して貰えますか、その時、雷雨の中では我々をその雷雨から防ぐ事が出ればより良いのですが、勿論、空気の呼吸も簡単である事が大事です>
<はい、練習します>
<空気の詰まった丸い玉の中に二人を入れてその玉を風に乗せて飛ばすのはどうですか、丸いと上下の反転がし易いから丸く無い方が良いでしょうか>
<形はいろいろと試してみます>
<お願いします、他に雷を正確な場所に・・・そうですね~10センチの誤差で落とせる様になって下さい、人を狙うつもりではありません>
<私は貴方をずっと見て来ました、貴方が思っている以上に貴方の事を知っています、貴方が他人を傷付けない人だと解っています、善の人でも時として悪に成ります、でも貴方は悪には成りません、成れない人です>
ガイアとセイジの心の話し合いをエマは隣で唖然と彼を見惚れる様に見詰めていた。
<エマ、・・・エマ・・・私は貴方の事も子供の頃から見守って来ました、貴方も悪ではありません、でも彼程の信念、幹がありません、誘惑に弱いのです、彼の側にいて信念を強くして下さい、育てて下さい>
<・・・解りました、よ~く解りました、確かに私・・・時々、悪魔の囁きに靡きそうになります、此れからは彼の側にいて心を強く清くする様に務めます>
<そうして下さい>
<待って下さい、私は言われる程に清くも強くも有りません、そう有りたいと務めているだけです>
<そう、その事です、常日頃からその様に務めて自分に言い聞かせている人は数少ないのです、その中でも私と話せる人は今の処一人だけなのです、そして少し努力の必要な人が一人だけなのです>
「セイジ、本当に貴方は何時も考えているの???」
「そうですね。私が時々考える様にしているのは自分に取って重要な人は誰かと自分の周りにいる人にお金を貸すとしたら幾ら貸せるか、ですかね」
「どうして、その二つを考えているの」
「重要な人と認めた人には何を言われても何をされても怒る事はありません、だって自分に重要と認識しているから、でも我が儘(まがまま)が過ぎると時々見直している訳ですから重要度が下がる事に成ります、金銭で考えるのは大事な友達だと思っていたのに貸しても良いと思う金額が低い時があるのです、それはその人が実は大事な友達では無いか信用度が低いと思っている事の証なのです、金銭的に考えると不思議ですよ」
「・・・面白い考え方ね、でも夫婦喧嘩は重要度を認識していないから起こるのかもね、金銭で考えるのは自分の財力と相手の財産や家庭環境も関連しますね」
「相手の財力や家庭環境が解らない人には低くなるでしょうね」
「成程、それを知っている程、仲が良いと言う事ですね」
「そうです」
「解りました、後でちょっと確認してみます」
「彼は本当に変わっているでしょう、私は何万、何億の人の行動と考えを知っていますが、彼は本当に珍しい人なんです」
「ガイア、貴方は人の考えが解るのに相手は貴方の存在が解らないのですね」
「そうです、エマ、失礼ですが、彼は一度目でそれを理解して居ました」
「えぇ~、そうなの、セイジ」
「はい」
「どうして、言ってくれなかったの」
「申し訳ありません、貴方も解ったと思ったのです」
「あぁ~、御免なさい、貴方が悪いんじゃ無いわね・・・貴方に取って私の重要度はどれ位なんですか」
「今の貴方は私に取って最重要人物です」
「・・・」
「・・・」
「本当に考えているのね」
「はい、昨日の夜が最新です」
「私も考えてみます、貴方が家族よりも上なのか、下なのか、親友とも比べてみます」
「お願いします、お互いに重要度が最高の二人は喧嘩なんかしないと思っています」
「でも、私は日本人じゃ無いわ、争いの嫌いな日本人じゃ無く、何方かと言うと争いの好きなアメリカ人よ」
「私は性格と言うか怒りの制御と言うかは言語が大いに関係していると思っています、誤解を生み易い言語、表現の少ない言語を話す人種は喧嘩が多いと思っています、その点から言えば日本語は表現が多彩で誤解が生み難いので無いかと思っています」
<素晴らしい、エマ、彼は私が思っていた以上に優れた頭脳の持ち主です、彼は日本語しか話せないのにです>
「攻撃性は言語に関係があるのね」
「はい、後は宗教と経済にも関係していますね」
「そうなんだ~、言語と宗教と経済ねぇ~」
<はい、将来、攻撃的な言語に統一されるか、宗教に支配されれば攻撃的な文明になります、いえ文明とは言えないかも知れません、本来は文明が高度に成れば攻撃性の無い言語に統一され、宗教も無く、労働は頭脳労働だけになります>
「貴方は此れまでに、その様な文明を見たのですか」
<はい、どちらも見ました>
「勿論、教えて貰えますね」
<はい>
「これは、何時間、何日有っても足りそうもありませんね」
「楽しみだわぁ~」
「今日は此れぐらいにしよう、何処まで繋がるかも楽しみだからね」
「そう、それって楽しみね」
<私も楽しみです>
「じゃあね、ガイア」
「またな、ガイア」
<ありがとう>
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