第19話 懇談会 後編
彼女の自信たっぷりの言動と内容に感銘を受けたかの様に会場は暫くの静寂に包まれた。
「へい」
会場の真ん中当たりで声が掛かった。
「質問のある方がいる様ですね、その前に司会の私の特権で私の現在の気持ちをお聞き下さい・・・私は彼女の言葉に感銘を受けました、ですが消化出来ていません、考える時間が欲しい・・・手を上げた貴方は彼女の言葉が理解出来たのでしょうか」
慣れたスタッフが既にマイクを渡していた。
「貴方と同じです、消化出来ていません、ですが、この様な機会は二度とないので逃したくは無いのです」
「なる程、そうですね、解りました、お二人次第ですが言ってみて下さい」
「私は彼女が誰かを知っています、お両親も知っています、大富豪のお嬢様です、だからこそお聞きしたい、彼は本当に彼女の財産狙いでは無いのでしょうか、先程から英語が得意では無いと一言も話していない、日本語で良いから彼の声を聞かせて下さい」
「貴方は私がお金持ちの娘だと言いました、その情報のせいで私が誘拐されるかも知れませんね・・・何度も言いましたが彼は私の素性を知りません、ある組織が私を狙って恋の相手を送り込んでくるのなら美男子を選ぶと思いませんか、彼の顔が悪いとは言いません、私には顔は関係ありません、日本にはこんな言葉があります、あばたもえくぼ、惚れて仕舞えば顔の傷も可愛いえくぼに見える、と言う意味です」
「ミス・エマ、貴方のご両親が彼との結婚に反対したらどうなさいますか」
「はっきり言って大きなお世話です、第一、父も母も反対しないでしょう、逆に私の旦那様はぜひ日本人にしろ、と以前から言っていますから喜ぶと思います、もし反対したら絶縁です、彼と暮らします」
会場に大きな拍手が起こった、当然、会場にいる女性たちからだった。
会場に静寂が戻った時に一人の女性が手を上げていた。
それはホテルのスタッフでセイジとエマを接客して女性だった。
「メアリーじゃ無いか、君が質問したいのか」
「はい、いけませんか」
支配人が会場中を見渡し異議が無い事を確かめると了承した。
「異議は無い様です、メアリー質問はなんですね」
「はい、質問と言うか、お願いと言うか・・・お二人はお金持ちとお聞きしました・・・私をお二人のお手伝いに雇って頂けないでしょうか、お願い致します、私は何でもします」
「メアリー、ホテルを辞めると言うのですか」
「お二人が雇って頂けるのでしたら辞めるつもりです」
会場がまた静寂に包まれた後に・・・。
「私も雇って下さ~い」
「僕も雇って下さい」
「私も~」
会場中が二人に雇って欲しいとの声で溢れた。
「待った、待った、待った~~、待った~~~」
支配人のステュアート・アトキンスがマイクで怒鳴った。
ホテル中に大音量で彼の怒鳴り声が響き渡った。
「メアリー、君の提案は狡いぞ、私がこの講演会の後で二人にお願いするつもりだったのだから」
会場中がブーイングに包まれ、立ち上がり叫ぶ者や舞台に駆け寄る者まで現れた。
会場中が騒然とする中、二人は平然と向き合い顔を近づけ話し合っていた。
「君はこの状況が怖いかい」
「それが全然怖くないの、何故かしら・・・貴方といるからかしら」
「えぇ~、それは無いよ、だって私は少し怖いから」
「嘘よ、だって笑っているもの」
「怖いのは本当でよ、でも笑っちゃうよね、僕らのせいで、この騒ぎだよ、当人の僕らをそっちのけでね」
「そっちのけってどう言う意味、何と無くは解るけど、蚊帳の外って事かなぁ~」
「まぁ~そんな処だね、う~ん・・・」
「どうしたの???」
「今、一瞬、ガイアと繋がった気がしたんだ」
「この状況で・・・」
「不思議だね」
二人が周りを見ると全員がいろいろな位置からいろいろな姿勢で二人を見つめ静まり返っていた。
「当人たちを蔑ろ(ないがしろ)にして我々し何をやっているのだろう」
支配人がマイクを持っている事を忘れてポツリと言った。
それを聞いた会場中の皆が自分の席へと静かに戻り静かに座り始めた。
「何故、我々は・・・私達は貴方たち二人にこれ程惹かれるのでしょうか・・・確かに、ミス・エマは稀な美人です、ですが、失礼ながら彼の方はどちらかと言えば目立たない背の低い東洋人です、ミス・エマ、そんなに睨まないで下さい、貴方の愛する人なのは解ります、最後まで聞いて下さい、私には、その目立たない彼が正直に言うと美人の貴方よりも気になるのです、彼には何か人を引き付けるものがある様です・・・何なのですか」
会場のあちらこちらから小さな賛同の拍手が起こった。
拍手の音がどんどん大きくなり暫く続いた後、徐々に小さくなり静寂が訪れた。
それを待っていたかの様に彼が立ち上がり、彼女も立ち上がる様に促した。
エマの前に据えられたマイクを持つと彼が話し出した。
「私達が何故貴方がたを引き付けるのか・・・その理由の見当はついています」
彼はエマが通訳する時間を与えた。
エマの話を聞いた観衆は驚きと歓声に満ち溢れ回答を期待して聞き入った。
「私が此処でその理由を言っても殆どの人は信じないでしょう、何人かし信じるでしょう、が、それが私達に何の特があるのでしょう」
エマが再度の通訳をした。
観衆からは戸惑いとブーイング、いろいろな反応が返って来た。
彼は静まるのを待って話を続けた。
「誰かの好奇心を満たす、喜びを与える、それは嬉しく幸せな事です、ですが今の私達にとって一番の幸せは二人だけになる事です、理由を言って一部の人が信じてくれて大多数の人が信じない、中には詐欺師と呼ぶ人もいる事でしょう、私達は貴方がたから何ら金銭も物も頂いていないのにです」
エマが通訳し観衆の騒ぎが激しくなった。
彼は辛抱強く静まるのを待った。
「自分の人生は他人から教わるものではありません、自分で決めて切り開くものです、私がここで理由を言った言わないで貴方がたの人生の何が変わるのでしょうか、逆に貴方がたの要求によって私達の人生は変えられて仕舞いました、正直に言って良い方へではありません、非常に迷惑な方向にです」
エマの通訳で今度はブーイングも歓声も起きず静かなままだった。
「貴方がたの多くは観光に来られた方達でしょう、それぞれ目的があっての訪問のはずです、その目的を果たして下さい、地元の方は観光客をもてなして下さい、本来の皆さんに戻る事をお勧めします。人は確かに好奇心があるから進歩しました、ですがそれは自分自身で解決したからで他人の力で解決した物では無いはずです、私達は只の人であって神ではありません、カルト教団の教祖でもありません」
エマの通訳で更に館内は静まり返った。
「貴方がたは私達に会ったと言うこの偶然の縁を、繋がりを失いたくは無いのでしょう、私はここでお約束します、私達の行動を記録する日記を記録するサイトをネットにつくります」
エマの通訳に歓声と拍手が起こった。
彼は静まるのを待った。
「私達は一般人です、この様な会には慣れていません、非常に疲れました、サイトの名称を言って閉会とさせて下さい」
エマの通訳に残念がる態度の人もいたがサイト名を聞き漏らすまいとする態度の人が多かった。
「サイト名はガイア・・・です」
彼は英語で言ったのでエマの通訳は無く彼が言い終わると二人は腕を組んで壇上から降りて会場から去って行った、先導したのは何故かメアリーと支配人だった。
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