第18話 懇談会

最上階のハネムーン・スイートではベランダで男女の二人が夜景を眺めていた。

男はウォッカ・マティーニを片手に煙草を吸っていて、女はカシス・オレンジを飲んでいた。

「セイジさんは落ち着いていますね、此れから舞台に立つと言うのに」

「貴方も落ち着いている様にみえますが」

「女は物事が決まるまでが不安でこうと決まれば腹が座る生き物なんですよ」

「ほほう、若い方の言葉とは思えない」

「男の貴方はどうして、そんなに落ち着いているのですか」

「私はもっと若い頃には劣等感と将来の可能性の悪い予想ばかりを考えるネガティブ思考の人間でした、それで、ある日、これではいけないとポジティブ思考に変える事にしました、その一つが起きてもいない事の心配はしないと言う事でした、今回は皆さんの質問に答えるだけです、どんな質問が出るか解りません、考えても無駄でしょう、只、ガイアの話をするか・・・迷う処ですね」

「私もそれを考えました、私の結論は貴方に任せる、です」

「ありがとう、さて、どうしたものか、まぁ話した処で誰も信じませんけどね」

「ガイア、どう思いますか」

<私も誰も信じないと思いますよ>

「あら~、セイジさんはガイアとまだ話せるのですか」

「えぇ~、エマは切れましたか、そうですか・・・」

ジリン、ジリーンと電話が鳴った。

「さて、舞台の時間のようですね」

「はい、旦那様、楽しみましょうね」

「エマ、君に旦那様と言われるととても嬉しいし、ゾクゾクします、私はスケベですね」

「まぁ~、でもね、厭らしさは女の方が上ですよ、楽しみにしてて下さいね」

「少し怖い」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

「その笑いは色っぽいがもっと怖くなりました」

二人はフォーマルとカジュアルの中間の様な服装だった。

部屋の鍵カードを持ってドアを閉めエレベーターに向かった。

エレベーターにはボーイが居てずっと止めて待っていた様だった。

「ご苦労様です、凄い観客の人数です、これ程の員数は初めてです、立ち見も一杯です」

「貴方は私達を緊張させるつもりなの」

「いえ、申し訳ありませんでした、興奮して仕舞いました」

「エマ、許して上げなさい、人数など知ろうが知るまいが関係ありませんよ」

「貴方はやっぱり凄い人ね、私、少し緊張して来ました」

エレベーターが劇場がある階について「ポン」と音が鳴った。

「ありがとう」

エマがボーイにお礼を言いチップを渡した。

「サンキュー、マム」

そこには支配人自らが待っていた。

「本日はよろしくお願いします、彼にもお礼を言って下さい」

「彼も簡単な英語は解ります」

彼女は思った、ガイアは日本語も英語も理解出来る、ガイアが通訳をしているかも、と。

劇場の楽屋へのドアから舞台裏を通り舞台にいきなり上がった。

劇場中が拍手と歓声とどよめきに包まれた。

開幕の司会を務めるのか支配人が壇上の中央に置かれたマイクの前で会場が静まるのを待っていた。

中々会場が静まらず支配人は忍耐強く静まるのを待ち続けた。

それ程、今日のゲストの関心が高く人々の期待が高い事が伺われた。

「皆さん、ありがとう御座います、私は当ホテルの支配人・ステュアート・アトキンスで御座います。

皆さまの今日のゲストへの歓声と拍手は有難いのてすが、当ホテルの支配人としては、何時もの出し物よりも歓声が多いのは微妙です」

会場が笑いに包まれ、司会の支配人の話術の上手さが伺われた。

「まずは話題のお二人に美味しい当ホテル自慢の料理を食べて頂き皆さまの質問に答えて頂きたいと存じます。会食は約1時間を予定して居ります。皆さまには後程のお二人への質問をご準備頂く時間とお考え下さい。では会食の始まりです。ご堪能下さい」

支配人は振り向き二人を導き壇下のテーブルに案内した。

其処には専属の給仕がいて二人の椅子を引いてくれていた。

「ジムさんとメアリーさんでしたね」

エマが通訳したが名前を言っただけなので二人も既に覚えていてくれた事を喜んでいた。

「今夜の専属給仕です、名前を覚えて居られるとは流石です。改めてジムとメアリーです。当ホテル自慢の料理を堪能して下さい。まずはお二人にお礼を申します、この会場は定員300人です、ですが満員になった事は無いと聞いて居りますし、私が支配人になってからも有りません。ですが今夜は御覧の様に何と立ち見の方がいる程の入りです、ありがとう御座います。支配人が立ち上がり頭を下げて礼をした」

エマがセイジの方に傾き耳打ちした。

「セイジさん、まだガイアと繋がっていますか」

「いいえ、多分周りに人が多いからでしょうかね」

「残念だわ」


シャンパンの乾杯から始まり続いてスープ、前菜、メインのオージー・ビーフのヒレ・ステーキ、デザート、食後のコーヒーと続いた、因みに二人の珈琲は氷の入ったアイス珈琲だった。

そして何と彼の為だけに空気清浄機が横に置かれ煙草のマークに「OK」と書かれていた。


食事から1時間が過ぎ、彼が立ち上がり彼女が続いて立ち上がった。

気が付いた周りの人たちから小さな拍手が起こり始め徐々に大きくなっていった。

立ち見の人たちは飲み物と軽食だけだったのに飽きる事無く待っていた。

支配人のアトキンスが立ち上がり先導する様に壇に向かい壇上のマイクの前に立った。

「皆さま、お待たせ致しました、その前に当ホテル自慢の料理を堪能して下さったと思いたいものです、では、本題に入ります、二人にはリラックスして対応して貰いたいので椅子に座って対話方式で行います」

支配人は後ろに下がり椅子2脚と1脚が斜めに対面する様に置かれた1脚の方に立ち二人を2脚の方へ導いた。

「では、討論会、質疑応答会を始めます、質問のある方は挙手して頂き私が指名した方にマイクを当ホテルのスタッフが渡しますのでお話下さい、なお、一つお伝え致しますが、当ホテルは現在休業状態です、全ての出入り口は施錠され鎖で塞がれています、退席は出来ません、冗談ではありません、もし火災が有れば秩序正しく係の者に従って下さい、冗談ではありません、当ホテルのスタッフ全員もお二人のお話を聞きたいとの申し出により、この様な事態になりました、こうしないと臨時休職を申請すると全員に言われれば支配人としては、この手しか有りませんでした、ご了承下さい、私の指名した以外の方の会話は控えて下さい・・・では、挙手を」

支配人が話終えた瞬間にほぼ全員が手を上げた。

支配人は立ち上がり右手を上に上げ静まるのを待って上げた右手の人指し指を自分に向けた。

「えぇ~」

「うひゃ~」

「嘘~」

支配人はマイクを掴むと「静かに」と言うと椅子に座った。

「まずは個人情報保護の為ファースト・ネームかニックネームと年齢をお聞かせ下さい」

少しざわついた中で支配人の声が響き渡ると二人の返事を待つ様に会場が静まり返った。

「私はエマ、彼はセイジ、セイジは英語が余り得意では無いので私が通訳します」

「彼は日本人だと思うのですが・・・」

「はい、日本人です」

「貴方と彼の年齢をお聞きして良いでしょうか、無理にとは勿論言いません」

「私は20才、彼は42才です」

「おぉ~」「何と~」「うぉ~」などと驚きの声があちらこちらから上がった。

支配人が右手を上げた、途端に会場に静寂が戻った。

「貴方が彼にブロポーズをしたとの噂が有りますが本当ですか」

「本当です、因みにそれは彼に会って2,3時間の頃です」

又、会場に驚きの声が上がり支配人が右手を上げ静寂に戻した。

「彼の何が貴方をプロポーズさせたのですか」

「さぁ~、日本の言葉に恋は盲目と言うのがあります、恋する事に理由は無いと言う事です、でも彼とは趣味も合うし話が尽きないし彼は物知りだし、私の眼に狂いは無かったと今は思っています、もう私は彼の妻です」

又、又、会場に驚きの声が上がり支配人が右手を上げ静寂に戻した。

「では、皆さんからの質問をお受けします・・・はい、そちらの赤いドレスの女性の方」

スタッフがマイクを持って行った。

「恋いは盲目にも限度があります、貴方ほどの美人が何故冴えない東洋人を選んだのですか」

「貴方は恋の経験は無いのですか、本当の恋の経験は無いのでしょう、私は彼の外見などどうでも良いし資産も幾らあるのか、住まいも住所も知りません、でも私は彼の妻です」

エマはそれでも文句があるかとでも言う様に質問した女性を睨みつけた。

「彼の部屋の大きさを聞いて下さいますか」

エマが通訳して答えた。

「三つの部屋とバス、トイレがある部屋だそうです」

「ミズ・エマ、貴方はその部屋で彼と住めますか」

「勿論、私は日本に住んだ事があります、父が過保護ですし父も日本が大好き、父に輪を掛けて母も日本が大好き、父は最初はホテル、次はアパートの最上階のフロアの全室を買いました、私は家出して日本人が住む政府が一般人に提供するアパートに住みました、そこはバス・トイレはありましたが部屋は1つでした、まぁ其処も2日で父が雇った探偵に見つかり隣の部屋に護衛が住み始めました、日本中を家族と回りました、護衛も一緒でした、護衛なんて要らない程に安全な国でその護衛は最後に老後は日本に住むと明言していました、私は彼が何処に住もうが気にしません、だって彼の側に居て彼と話せればそれで良いのですから」

「そんなのは最初だけです、新婚だけです、半年、1年も経てば変わります、絶対に」

「それは貴方の場合です、私は違うでしょう、違うと思いたい、貴方は将来に夢のある者を否定する方ですか、卑劣な方なのですか、人生の先輩は夢を持たせる責務があると私は思います」

「・・・私の負けです、貴方の幸せを祈ります」

「ありがとう御座います、でも勝ち負けの問題ではありません、ご理解頂けて嬉しいです」

「貴方はお金持ち、それも大富豪のお嬢様の様ですね、彼は貴方の財産を狙っているとは考えませんか」

支配人が質問し、多くの観客も頷いていた。

「彼は私の生まれも育ちも何も知りませんでした、あれは演技ではありません、第一、声を掛けたのは私の方ですし、好きだと言ったのも私が先、プロポーズも私です、それに此れは私の想像ですが彼は本当はお金持ちだと思います」

「ミズ・エマ、それは私も感じました、私は言うまでも無くホテルマンです、一般の方よりは人の見方は確かだと自負しています、特に資産、財産を持っているかどうかのです、ホテルに務める者はお客様の差別をしてはいけません、最下級の部屋の方も上級の部屋の方も同様に丁寧に対応する事を習慣とします、ですが、上級と言いました、最上級とは言いませんでした、最上級の部屋のお客様には合えて格別な対応を致します、それが最上級の部屋の継続利用に繋がるからで、何処のホテルでも同様です、彼女はお一人の時は上級のお部屋でしたが現在は最上級です、私は彼女に初めてお会いした時から大富豪のお嬢様だと予想しておりました、そして、彼を見た時も大富豪かどうかは判断できませんでしたが少なくとも日々の生活に金銭的苦労は無いと感じました、私はここ何年も資産評価に迷った事がありませんでした、が彼の資産は解りません、私の好奇心は破裂しそうです」

「そうなんだ」

「なるほどね」

などと初めて知る超一流のホテルマンの生の声に感想が漏れた。

エマが彼に通訳し回答を聞いた。

「彼は日本人です、日本人は自慢話はしたくないし、しないそうです特に資産、財産の話はしないそうです、彼は旅が好きでいろいろな国に行った様ですがお金持ちに見られない様に意識しているそうです、ここまでが彼の言葉ですが、私が思うに彼は相当のお金持ちですね、世界中を旅している事実だけでも解りますが、彼の態度に予算の心配が感じられないのです、これは幾らだろう、この部屋は幾らだろう、などの心配が一切見られないのです、支配人の見方もその辺にあるのではないでしょうか」

「ミズ・エマ、貴方はお綺麗なだけでは無く頭脳も明晰な方です、神は不公平だ」

「おや、彼も同じ様な事を私に言いました、但し、最後に神は私にとんな悪い処を作ったのかと言う様な事を言い添えました」

「成程、彼は直ぐにでも支配人になれますね、英語が出来ればですが」

その時、会場に「ヒュー」と指笛が鳴り、一人の男が手を上げていた。

「そちらの男性の方、質問をどうぞ、但し、皆さんにお願いです、指笛はご遠慮下さい、どうぞ」

スタッフが女性からマイクを受け取り手を上げた男性にマイクを渡した。

「私は二人に興味は確かにありますが、それよりも彼が答えたと言う物理の回答に興味があります」

「彼は私のいろいろな物理の質問に答えてくれました、私は学生です、遺物の年代測定の新たな方法を研究しています、物理にもある程度一般の方よりは精通しているつもりでした、処が彼の説明は私が知るどの論文や雑誌でも見た事も聞いた事も無い物でした、私がいろいろな論文を読んで何か解りませんが矛盾と言うか何か納得できずにいた事を彼は払拭してくれました、私の頭の中の靄が晴れたのです、彼を好きになるのは当たり前です」

「私も私の靄を晴らしてくれれば彼に惚れるでしょうね、私はゲイではありませんが、まずは光が最速では無いと言う事、次にブラック・ホールまだまだ聞きたい事がありますがまずはこの二つです」

「前持って言っておきますが彼は私に全てを教えて居ません、何故なら私の知識が足りないからです、新たな彼の知識を入れるのに現行の理論の勉強は必要無い様に感じるでしょうがそうでは有りません、現行の知識不足は考えが足りないと言う事を意味するからです、彼は私の知識量に合わせて彼自信の理論を語ってくれました、私が理解出来ない処で終わりでした。

まずは光ですが、音の速度を音で測る事は出来るでしょうか・・・私には方法が解りません、ずっと考えていますが方法がありません、光で音の速度は測れます、いろいろな方法が有ります、では同様に光の速度を光で測れるでしょうか、世界中にいろいろな方法がある様です、ネットでも調べました、私にはそれがどうして出来るのか理解できません、貴方は方法がありますか」

「・・・考えた事がありません、論文、資料を読んではいますが・・・」

「彼はそれだけでは駄目だと言うのです、他人の説を知って何か可笑しい処や気付きがあり、自分の説を考える様になって初めて他人の理論が理解できたと言えるのだそうです、この意味解りますか・・・私は完全に納得しました、現代はネットの時代です、知識を得ようとすれば簡単に手に入ります、でもそれは知識で有って理解しているとは言えないのです、アインシュタインの公式は簡単ですね、E=MC二乗、非常に簡単です、でもその公式が示す意味は未だに世界中の研究対象です、知っていると理解しているとの違いはこう言う事です、彼は理解して居ない事の先は言ってくれません、私が理解した時に教えてくれる約束です、光についても同様です、彼は私に質問しました、光は波の特質と粒子の特質の両方を持っています、何故なのかとの問いでした、私は疑問にも思っていませんでした、へぇ~そうなんだ、でした、貴方はどうですか」

「・・・そうです、私も論文をネットで読んで科学雑誌で読んで、そうなのか、と思うだけでした、その先が必要なのですね、そうか~、う~ん、今の場合はどうなんだ???」

「そう、それです、その疑問です、その疑問を持つ姿勢が大切なのだそうです、私は全てのものの見方が変わりました、景色の見え方が変わりました、最初は疲れましたが今は自然になりつつあります、例えば何故貴方がたが私達に興味を持つのか、芸能人でも無いのにです、ある方は私が綺麗だからだと言いました、でも私から見ても綺麗な方はこの会場にも何人もいます、ある方は若い私が可成り年上の人にプロポーズしたからだと言いました、歳の差の結婚なんて昔から一杯あります、珍しい事ではありません、美女と野獣のカップルも時々見かけます、追っかける程珍しくはありません、では何故、貴方がたは私達に興味があるのでしょうか、誰か考えましたか」

「・・・私の理解度が解らないので答えて頂けないと言う事ですね」

「ご理解いただけたようですね」

「それでも良いです、理解出来なくても答えが知りたい、と言ったらどうですか」

「簡単です、本当にそれで良いのですか、何が何だか解りませんよ」

「良いです、お願いします」

「はい、光より早いものは存在しますし、貴方も名前は御存じに違いありません、名前はダーク・マター、ダーク・エネルギーと言われています、そして光は粒子です、これで良いですか」

「その証明はありますか」

「貴方が信じている理論に証明はありましたか」

「・・・ありませんでした」

「失礼ですが、貴方は成長された、証明を求める様になりました・・・ダーク・マターは測定出来ますか、現在の科学力では存在想定は出来ても測定は出来ません、昔は分子も原子も原子核も中性子もそうでした、ダーク・マターも同様でしょう」

「素晴らしい、貴方は先程から彼に全く問う事をしていませんが、それが理解した証しでしょうか」

「その様に思っています、もしも間違っていれば彼が注意をしてくれる事でしょう、英語は解りませんがね」

「では間違っている可能性もあるのですか」

「それは有りません、何故なら、此れまでの処は私が彼に質問した範囲を超えていませんから」

「貴方はどんな問いをしたのか非常に興味があります」

「それは秘密です、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

その時、支配人が立ち上がり会話を止め女性を指さした。

「物理の話は女性陣には退屈でしょう、そこの女性の方、質問をどうぞ」

マイクが男性からしぶしぶスタッフに渡され女性に回された。

「私は人の見た目の年齢について彼女が答えた事をもう一度聞きたいのです」

「その前に貴方の年齢は他の人からは38才から42才と言われる事が多い、が実際は32才で子供が二人かしらね」

「・・・とうして、私は31才で二人の子供がいます、でも老けて見られます、中学の同級生で独身の彼女は私から見ても25,26才にしか見えません、私の旦那さんはお金持ちなので私に一杯お金を掛けてくれます、アンチエイジングだけの為にです・・・残念ですが効果がありません、理由が知りたい、若返る方法はないでしょうか」

「以前の話を再度しましょう・・・結論から言いましょう、人類も生物・哺乳類です、生物の生存本能の一番は種の保存です、子孫を残す本能です。

子供が出来ればその本能が達成され生物としての生存意義が失われます。

つまり寿命が短くなります、老けるのです・・・これは何も女性だけに限った事ではありません、子供のいる男性も子供のいない男性より老けて見られます。

人間の欲求は金銭欲、物欲、性欲、食欲様々な欲求があります。

お金が無ければ物欲は満たされません、お金持ちでももっと多くの金銭を求め金銭欲には限りがありません、性欲のままに行動すれば犯罪です、食欲のままに行動すれば直ぐに肥満です。

人は日々様々な欲を抑えて生活しています。

欲求のままに行動すれば、それは人ではありません、獣です。

彼が言うにはネガティブ思考の人とポジティブ思考の人とではポジティブの人の方が顕著に若く見られるそうです、貴方はどちらですか」

「私は多分ネガティブ思考です」

「残念ですね、貴方は若い頃の写真を持っていますか、その写真を毎日見て、こんな時もあったなぁ、では無く、これに戻るぞ、と思って下さい、決意して下さい、何度も、何度も挫折する事でしょう」

「挫折しても良いのですか」

「はい、人は弱いものです、挫折して悲観せず、人である事を喜んで下さい、特に子供を産んだから老けて見えるでは無く、世の中には子供が欲しくても出来ない人が大勢います、貴方は二人も手にしたのです、その喜びを感じて下さい、子供たちと接して愛して下さい、その幸福感が貴方をポジティブに変え若返る事でしょう」

「・・・解りました、生活を変えてみます」

「貴方、先程と顔付が変わりましたよ、もう既に若返りましたね」

質問した女性が手鏡を出し驚きの声を上げた。

「今、私が言った事は彼から教えられた事の私なりの解釈を加えたものです、彼は私の水着の写真を見て僕の為にこの写真のままでいて下さい、と言いました・・・私は彼が大好きです、大好きな彼の為に私は体形を維持したいと思います」

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