第15話 洞窟へのバス
どれ程経ったか彼の視界を塞ぐ物があった・・・支度を終えた彼女が手の平を振っていた。
彼は全く気付く様子も見せないので彼女は彼の眼を覆った。
「御免、御免、ちょっと考え事をしていました。」
「私は集中するのに時間が掛かるけど貴方は直ぐに出来るのね、さぁ貴方の着替えの番よ」
「OK、直ぐに戻って来ますので、処でその服とても似合っていますね、女性販インディー・ジョーンズの様です」
彼はそう言うと着替えに寝室に消えた。
「全く、部屋の中とは言え彼は直ぐにぼぅ~となって危ないわ、私が守ってあげないとね」
彼女が椅子に座って集中する間も無く彼が探検家の様な服に着替えて戻って来た。
「まるでインディー・ジョーンズ夫婦ね」
「駄目ですか」
「とても良いと言う意味よ、さぁ行きましょう」
二人は部屋を出て一階に降りるとホテルの大勢のスタッフに見送られて街に出て行った。
「昨日の観光バス会社にしますか、それとも私が借りたレンタカーで行きますか」
「あれを見てください、あれではレンタカーで行くとは言えないでしょう」
ツアー会社の前には大勢の人達が二人の到着を待っている様に四方に視線をやっていた。
誰かが二人に気づくと大歓声が起こり、昨日会ったツアー会社のオーナーが安堵の顔をした。
「これでは、とてもレンタカーでとは言えませんね」
「おぉ~お待ちしておりました、お二人は先頭のバスの一番前にお席を用意して御座います、どうぞ、御乗り下さい」
「バスも席も良いのですが、乗るのは最初では無く最後にして下さい・・・客寄せパンダは遠慮します」
「解りました、一応言っておきますが、客寄せパンダなんてそんなつもりは有りませんでした」
「解っていますよ、只、ご理解いただきたいのですが、私たちはレンタカーを借りています、そちらを使っても良かったと言う事をね」
「はい、理解しています、ありがとう御座います」
彼は二人の希望通りに他のお客を先に乗せ他の二台のバスにもお客を乗せ最後に二人を乗せた。
二人が最後にバスに乗り込むと「おぉ」と言う声と共に大きな拍手が巻き起こった。
暫く拍手が続いたがバスが出発すると拍手は徐々に小さくなって行った。
バスの中はわいわいがやがやと騒がしく二人もいろいろと話し合っていたが突然大きな声を出した者がいた。
「一番前にお座りの綺麗なお嬢さんに確認させて下さい・・・貴方からプロポーズしたと言う噂があるのですが本当ですか」
「待った、そんな噂話よりも私は彼が言ったと言う重力の説を聞きたい」
「待って、私は寿命を延ばす方法を聞きたいわ、若返る方法があるのならぜひ聞きたいわ」
バスの中は騒めきを越して喧噪の域に達して行った。
その時、運転士が持っている無線機から声が聞こえた。
「どうした、何かあったのか、どうぞ」
「はい、こちらのバスの乗客がそちらに乗りたい、変われと言っています、二人が一緒では無いのは話が違うと言うのです」
「三号車ですが、こちらの客も同じ事を言っています、どうぞ」
「何を言っているんだ、このツアーは洞窟の案内で有って二人の事は含まれていない、どうぞ」
「そう言ったのですが、聞く耳を持っていません、どうぞ」
「こちらも同じです、どうぞ」
「私は、二人に合えるとも、話が出来るとも言っていないが、貴方たちは言ったのか、どうぞ」
「私は言っていません」
「私もそんな約束はしていません」
「約束が違うなどと言う人に誰と約束したのか聞いて下さい、どうぞ」
「運転中にそんな話はしたくない、どうぞ」
「解った、トイレ休憩を取るから付いて来てくれ、どうぞ」
「了解」
「了解」
「お客様にお知らせします、トイレ休憩を取ります、ご準備下さい」
運転手が乗客に通達した。
暫く走るとバスが土産物店と思われる大きな駐車場のある処に入って行き、後の二台も続いた。
バスが止まると念の為二人もトイレを利用し外で待つ彼の元へ彼女が寄り添い駐車場の隅でバスを見ながら待機していた。
その二人を遠巻きに大勢の人達が眺めていて注目の的だった。
ツアーに参加した人は勿論、たまたま居合わせた人達も何事かと二人に視線を送った。
二人も最初は気にしていたが話始めると話に夢中になり回りを忘れた。
暫くして運転手が出発すると二人を呼びに来たが、ここで一悶着が発生して仕舞った。
二人と違うバスの乗客が同じバスに乗りたいと騒ぎ出したのだ。
わいわいがやがやと騒ぎが暫く続いた時に彼が大きな声で言った。
「騒ぎが続いて出発が遅れるのなら私達はタクシーを呼ぶか、此処に居る誰かの車に載せて貰います」
「えぇ~」
「そんな~」
など落胆の声が聞かれたが二人が後ろを向き休憩所に向かうと運転手が二人を止め乗客の行動を見せた。
乗客達は二人を見つめながらしぶしぶと元のバスへと乗り始めていた。
二人は最後にバスに乗り込むと大きな拍手と喝采に迎えられた。
二人は何事だと後ろを振り返ったが当然何も無く自分達に向けられたものだと知り呆れ返って無言で座り込んだ。
「私は到底、芸能人には成れないわ、こんな事が毎日なんてとても耐えられないもの」
「僕も無理ですね」
「明日からは車にしましょう」
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