第12話 彼女のホテルへ

目的のホテルは近く10分と掛からずに着いた、料金にチップを含めてカードで彼が払った。

彼女が利用しているホテルの玄関を入りフロントへ向かうと若い係の者の横に立った中年の男が二人に気が付き係りの若い男の肩を叩き係りを変わった。

彼女が要件を言う前にその中年の男がカウンターの下から部屋のカード・キーを2枚出した。

「私は当ホテルの支配人で御座います、他に御用がありましたら何時でもお声をお掛け下さい」

「どうして~私がゲストを連れて来るってお判りなのですか」

彼女が事前対応に驚いて尋ねた、無論、英語である。

「ご本人はご存知無い様ですが、お二人は今やこの街では有名人なのです」

「えぇ~私達が有名人~何で、どうして」

「知り合って一日も経たずにご結婚を決められた、それも絶世の美女の方からプロポーズしたカップルとしてです」

「まぁ~、私が絶世の美女~ですか?」

「おぉ~世の中の綺麗な人の中には自覚の無い人がいるとは聞いた事が御座いますが本当の事なのでしたか・・・失礼では御座いますが、貴方は間違い無く綺麗な方です、美人です、それも飛び切りのです、お客様にこの様な事を言う従業員がいたら私は叱る立場なのですが、貴方なら私も許すでしょう・・・君はどう思うかね」

支配人と名乗った中年の紳士が受付の青年に尋ねた。

「支配人、それはもう私もいろいろなお客様、美しいお客様にお会いしましたが、この方以上の方にお会いした記憶が御座いません」

「と言う事です、お客様・・・どうぞ当ホテルでごゆっくりお寛ぎ下さい、それからお部屋は最上階のスィート・ルームに変更し荷物も移動して御座いますが、宜しいでしょうか」

「はい、勿論それで結構です、私からお願いしようと思っていました、ありがとう・・・支配人」

「ありがとう」

彼も礼を言って二人は鍵のカードを受け取りエレベーターへと向かった。

勿論、彼のスーツ・ケースはホテルの係り員が持っていた。

最上階の部屋に入り彼女がボーイにチップを渡し二人きりに本当に二人きりになった。

「今日は、とても疲れました、先にシャワーを良いですか」

彼女は照れた様にそう言うと彼の返事も聞かずにバス・ルームへ向かった。

彼は部屋を見回し他の部屋を見ようと思ったがテーブルの上に氷で冷やされたシャンパンが目に止まり考えを変えた。

彼がバス・ルームのドアをノックした、が、何の返事も無かった。

彼は3度試みた後に思い切ってドアを開けた。

彼が見た物は泡塗れのバスタブに首まで浸かった彼女だった。

彼は彼女を見ない様にしながらシャンパンの入ったグラスを彼女の方に差し出して言った。

「喉が渇いたでしょう、シャンパンでもどうですか」

「わぁ~ありがとう、喉が渇いていたの」

彼女が差し出されたグラスを受け取った。

「どうして、こっちを見ないの」

彼女がちょっと意地悪な質問をした。

「バス・ルームに入るのは失礼だと思ったのですが・・・きっと喉が渇いていると思いました・・・正直、貴方の裸に興味が無いかと言われれば、とってもある、と答えます・・・ですが、やっぱり見るのは失礼ですし・・・」

「失礼ですし、何???」

「失礼ですし・・・見ると自分が抑え難くなりそうで見ない様にしました」

「何故抑えるの? 何を抑えるの?」

何とも意地悪な問い掛けである・・・が彼は真面目に答えた。

「貴方の裸体を見たいと言う欲求と貴方と・・・」

「私と何?」

「貴方は意地悪な方だ」

彼はそう言ってシャンパンのボトルを置いてバスルームから出て行った。

彼女の「御免なさい」と言う声がバスルームの中から聞こえた。


彼女がバスローブを着てバスルームを出ると彼はベランダで外の景色を見ていた。

彼女は恐る恐る彼の側に寄った。

「御免なさい、怒っていますよね~」

彼は返事もせず景色を眺めていた。

「御免なさい、怒っていますよね~」

彼女がもう一度言うと彼が振り向き驚いた。

「あぁ、おぉ、えぇ」

「御免なさい、怒っていますよね~」

「いいえ、怒っていませんよ、貴方が可愛い方だとは思いましたがね」

「今、返事をしてくれないから怒っているのだと思いました」

「それは失礼しました、考え事をしていて気が付か無かった様です」

「何だ、びっくりしました・・・いや・・・待って下さい、皆は・・・以前の女性たちは貴方のその優しさに甘えてしまうのですね」

「・・・私は意識してそんな事をしている訳では無いのですが、そうかも知れませんね。

ありがとう、気を付けます。ところで夕食はこのホテルのレストランでと思うのですが、いかがですか? 私がシャワーを浴びてから行きたいのですが、良ければ予約をお願いできますか」

「勿論、予約しておきます、30分・・・45分後で良いですか」

「45分でお願いします、では」

彼はそう言ってバス・ルームへ向かった。

今度は彼女が椅子にバスローブ姿で椅子に座りシャンパンを飲みながら夜景を眺めていた。

彼女の頭の中は今日一日の不思議な体験を振り返っていた。

彼との出会い、ガイアとの出会い、ストーカーたちとの問答など。

彼女が物思いに耽っていると向かいの椅子に彼がバスローブ姿で座った。

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