第7話 洞窟ツアー

<洞窟ツアー>-----#007


巨漢の運転手のバスで二人は二つの洞窟を見て回った。

二つの洞窟とは「マンモス・ケイブ」と「レイク・ケイブ」だった。

感動的な洞窟で美しくもあった・・・がそれ以上を期待していた二人には物足りなかった。

只二人にも何を期待していたのかは解らなかった。

旅行会社との提携先であろうレストランで昼食になった。

このツアーは通常はバスの半分も席が埋まれば多い方だったが、この日は二人の追っかけとも言うべき人達も参加すると言い出し二台目が必要になる程の人数だった。

そのレストランも人数の余りの多さに驚くやら嬉しいやらで店の厨房も大忙しだった。

二人は隅の席で回りの騒々しさも気にならない様に話し合っていた。

話は尽きる事も止まる事も無かった、話題は千差万別であちらに飛び、こちらに飛びと話題がころころと変わっていた、だがそれを二人は楽しんでいる様だった。

世界遺産の話をしているかと思えば遺跡の話になり、それが古代文明の話になり、天文学の話になり、恒星、惑星、衛星の話になり、物理学の話になり、量子物理学の話になりと言う風に変化していた、内容はお互いの知識を披露するだけでは無く、自分の考えが追加されている処が二人に共通していた。どうもそれが二人が会話を楽しく感じる理由の様だ・・・と二人ともに察し初めていた。もう一つ共通している事は相手の意見に疑問を持った時に自分に別の考えが無い時は異議を唱えず聞き手に周り反対しない事だった。主に彼女が尋ねる側で彼が知識を披露し説明し自分の考えを述べていた。それに対して彼女が日頃から疑問に思いもやもやとしていた事柄が消えて行った。例えば「宇宙の質量の大半は人類には未知の物質と何かで見たのですが」

「ダーク・マターとダーク・エネルギーですね」

「そう、それそれ、でもとうして未知と言うか解らないの」

「昔は分子も知られていませんでした、原子などもっての外、電子も論外です、大きな物では銀河もです、アンドロメダ星雲が最初で宇宙望遠鏡の名前にも付けられた「ハッブル」が星、つまり恒星の集団、アンドロメダを確認したのです、それまではアンドロメダ星雲も只の恒星と思われていたのです、この未知の物質も人類はその内に測定できる様になり存在を確認し分類命名するでしょう・・・私は既に名前が付いていると思っています」

「えぇ~、ダーク・マターでは無いのですか」

「はい、それは一度学会に寄って存在を否定されています・・・エーテルと言います」

「あぁ聞いた事が有ります、貴方は同じ物だと思っているのですか」

「はい、いろいろな科学雑誌にはそのような説は見た事がありませんけどね」

「エーテルって何だと言うのですか」

「人間は存在を確認できない、測定できないが宇宙中にあり、人体、物質をも通り抜けている小さな小さな粒子・・・と私は思っています」

「成程、そう言う事ですか、正確には判りませんが私の頭の中の霧が少し腫れた様な気がします、ありがとう」

「私もまだまだ理論の確立までに至っていませんし、式化など遠い事ですがね」

「もう一つ、ブラック・ホールについてなんですが、何でも取り込む大質量の星と言われているのにそれが出来る寸前にビームの様な物を放射しているのは何故ですか」

「これも学説はいろいろと在ります、在りますが・・・私は別の理論を持っています」

「ぜひ、聞かせて下さい」

「今は止めておきましょう・・・意地悪ではりません、失礼ですが貴方に基礎知識が不足しているからです、今、私の考えを頭に入れると他の人の理論を知る時に真っ白でと言う訳にはいきません、偏見を持って知る事になります」

「はい、解ります、まず、現在の専門家たちの学説を勉強します、そしたら貴方の説を聞かせて下さいね、約束ですよ」

「勿論、聞いて下さい、私も誰かに聞いて貰って不足点、不具合点を指摘してほしいのです」

「私に指摘なんてできるでしょうか」

「考えは千差万別です、100人居れば100通りですよ」

「はい、貴方は素晴らしい人ですね、貴方は人に対して怒りを感じた事が無いのではありませんか」

「良くお判りですね、その通りです、大体は「ほぉ~」「成程」「そう言う考えも在るのか」などと思いますね」

「やっぱりね、もっともっと早く貴方に会いたかった」

「私はそうは思いません」

「えぇ~私に合った事が嬉しくないのですか」

「違います、とても嬉しいです、貴方が思う以上に嬉しいです・・・そうでは無くて・・・今合った、もっとずっと後では無く今合った、もっと言えば生まれも育ちも遠く離れた二人が今合った・・・その幸運に私は感謝し倖せだと思います」

彼女が突然彼にしがみ付き彼の顔を両手で挟むとキスをした、その彼女の眼には涙が溢れていた。

その途端に大騒ぎになった。

二人に着いて来た二人に取っては迷惑な人達から驚きの声が響いた。

彼女は身体を離すと涙を拭って言った。

「御免なさい、私、貴方に合ってからちょっと可笑しいみたい・・・なの、先程、貴方が言われた誰かに操られている様な感覚がする・・・って言いましたよね、そんな感じがして来たわ」

彼女には全く周りの喧騒も耳に入って居なかった。

「僕も先程よりもその気持ちが強く感じられる様になりました・・・と言うよりも誰かが語り掛けている感じなのです、貴方もそんな感じですか」

「あぁ~成程、ふ~ん、誰かが語りかける感じ・・・ね、うん、そんな感じよ」

「我々二人だけなのだろうか」

二人はこの時初めて周りを眺めて喧騒に気付いた。

「何なのこの騒ぎは???」

「さぁ~、皆も誰かの声が聞こえたのかな~」

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