第6話 彼女の決断
「ありがとう、一つ私のお願いを聞いて下さい」
「私の出来る事なら何なりと」
と答えたが次の彼女の願いがこの日何度目かの驚きの内で最大の物だった。
「お願いの前に確認させて下さい」
「何でしょう」
「唐突ですが貴方はご結婚は? 子供は?」
「残念ですが独身です」
「そうですか・・・あの~突然ですが・・・・・・私と結婚して下さい」
余りの言葉に彼の動きも思考も止まってしまった。
店の中で「ノー」、「嘘だろう」などの声が響いた、店の中の多くの人が聞き耳を立てていたようだったがその人たちの批難と驚きの声だった。
その声に彼女は立ち上がり叫んだ。
「シャーラップ、うるさい・・・私の人生よ」
英語と日本語とフランス語とイタリア語とスペイン語とドイツ語の彼女が喋る事が出来る全ての言語で回りに言った。
彼女は最後に英語で
「お店を騒がせて御免なさい、彼の返事を聞いたら出ますのでもう暫く時間を下さい」
そう言って席に座ろうとした。
すると一人の青年が立ち上がり英語で尋ねた。
「何故、貴方の様な綺麗な人がそんな冴えない中年と結婚したいのだ、彼は大金持ちか」
「貴方はハンサムね、きっと女性にモテるでしょうね、でも人は見た目じゃないわ、それはハンサムな貴方なら良く判っていると思うけど、それと彼がお金持ちなのかなんて知らないわ、だって彼に合ってまだ二時間も経っていないもの、でも彼は私の想像を超えているわ、きっとね、私には貴方を倒す自信はあるけれど、彼も貴方を倒せると思うわ、見た目じゃないのよ」
そう言うと彼女は彼の方を向き日本語に変えて聞いた。
「何か格闘技の経験は?」
「昔、柔道と空手を少々」
「帯は黒ですか?」
「いえ、白です」
「白? そうは見えないのだけど・・・」
「昔は私も腕白でしてね、黒帯では裁判の時に不利になるので試験を受けませんでした・・・只・・・柔道は初段の人に勝っていました、空手は二段の人に勝っていました」
「今も練習をしていますか」
「勿論、続けています」
彼女は青年の方を向いて英語に変えて言った。
「やはり、彼も武術に精通していました、貴方は武術をやらないので解らないのでしょうが、私の様に武術をやっている人から見ると判るのですよ、兎に角、私の人生は私の物ですから好きにさせてもらいます」
店の中の女性たちから拍手が発せられた。
彼女は「サンキュー」と言いながらその場で一周し席に着いた。
「それで貴方の答えは?」
「私は無神論者ですが、天は二物を与えず・・・と言う言葉をご存知ですか」
「ええ、知っています、それが?」
「貴方は容姿端麗、超絶美人、MITで頭も良い・・・では、天は貴方にどんな悪い処を・・・と考えました・・・が貴方にどんな悪い処があろうと私の答えはイエスしかありません」
「あぁ~良かった・・・では早速、教会に行きましょう」
「は~い???、ご両親の許可は要らないのですか」
「私は既に成人です、自分の判断で結婚できます、それに海外ですから簡易結婚です、正式にはアメリカに戻って行いましょう・・・さぁ早く」
彼女はそう言うと立ち上がり伝票を持つと会計に向かった。
彼は自分が払おうと急いで彼女に追い着き伝票を掴んだ、彼女が奪い返した。
「妻が会計係り、夫は妻に任せるものよ」
またまた店中の女性達から拍手と喝采が沸き起こり、男達は茫然としていた。
彼女は支払いを済ませると彼に腕を絡ませ出口に向いながら片手を上げて指をヒラヒラとさせ店中の声援に答えた。
彼女は店を出ると突然立ち止まり、店の前に彼を置いて店の中に顔だけを戻し店員に話し掛けた・・・教会の場所を聞いていた様だった。
彼の元に戻った彼女はまた彼の腕に自分の腕を絡ませると引っ張る様にして歩き出した。
彼は逆らう事も無く彼女に従っていたが、何かを感じて後を振り返ると十人以上の人達が後に着いて来ていた、店の中に居た人達が見物しようと付けている様だった。
暫く歩くと教会があり二人は階段を登り入口のドアを空け中に入った。
教会の中に入るとそこには信者が10人程が居て祈っており中央の祭壇の前に神父がいて祭壇に向かって祈っていた。丁度神父の話が終わった直後の様だった。
二人が入ると祈っていた信者の数人と神父が振り返り二人を見詰めた。
「お話は今終わったばかりです、何の御用でしょうか」
神父が優しく話かけたが神父の顔は彼女の容姿と美貌に驚愕している様だった。
「今直ぐに私達二人の結婚式をお願いしたいのですが、お願いできますか」
神父は彼女と隣にいる彼を見比べる様に見て信じられない様な様子だった。
「後にいらっしゃる方々はお二人の親族とご友人ですか」
二人が振り返ってみると大勢の人達がいた。
「いいえ、こちらにお伺いする前に立ち寄ったカフェのお客さんと店員さんですね」
「彼らに立会人をお願いしたのですか」
「いいえ、お願いしていません、勝手にくっ付いて来たようです、私には迷惑です」
「ここは万人に開かれた教会ですが、挙式を希望される本人が迷惑と言っています、出来れば退出をお願いします」
神父が皆に言った。
皆は只立ち尽くしていたが一人の青年が代表する様に言った。
「私は彼女の結婚に反対するつもりで着いてきました、のでお決まりの反対する人は居ませんかの問い掛けの時に反対するつもりです」
着いて来た全員が同意見の様に「イエス」と言った。
「皆さんは親族でも無い人達ですね」
「それでも反対なものは反対だ、結婚は周りの人達に祝福されるもの・・・だろう、違うか」
「・・・と言っていますが、それでも式を希望しますか」
神父が彼女に尋ねた。
「神父さんは・・・教会は嫌がらせやおふざけや悪戯で「ノー」と一人でも言えば結婚を認めないのですか、どうなのです」
彼女の語調はとても強く言い訳など認めない・・・と言う口調だった。
神父は一瞬たじろいだが開き直った様に言った。
「私は神父ですが一人の男でもあります、正直に言って貴方のその男勝りの性格を抜きにすれば貴方にこの男は似合わない・・・と私も思いますがね~」
彼女は神父を暫く睨み付けるとくるりと出口に身体を向け振り返ると神父に言った。
「貴方は神父に向いていません、神の使いでは決して無い、私は魔女にでも何にでもなってこの教会を呪ってやる」
そう捨て台詞を穿くと着いて来た群集を睨み付けて通り道を空けさせ教会を出て行った。
「別に今日じゃ無くても、ここじゃ無くても良いのでは無いですか」
「駄目~私は今直ぐに貴方の奥さんに成りたいの~」
二人は教会の前で立ち止まり話をしていて、それを教会の出入り口で大勢の人が見物していた。
彼女は感極まって涙を流し泣き出した。
「ありがとう、その言葉はとても嬉しく思います、落ち着いて下さい、実は私も貴方と結婚したいと思っています、思っていますが何だか誰かに操られている様な感覚なのです、貴方と話ていると話題が尽きないしとても楽しくてずっと話していたい気持ちは変わりません、でも何だか結婚については誰かに操られている感覚なのです、貴方はどうですか」
彼女は「はっ」として泣き止み自分の心を探る様に考え込んだ。
周りの人達も只彼女を見つめていて聞こえてくるのは遠くから響く車や人達の騒めきだけだった。
「・・・貴方の言う事が解りました、私も結婚をしろしろしろと切迫感が有り誰かに操られている感じがします、貴方かと思いましたが貴方が操っているのなら、ここで止めたりはしません・・・ので、はて誰なのでしょうか」
「解りません、只その人は我々二人に一緒になって貰いたいようですね」
「その様ですね・・・これからどうしますか」
「結婚式については今は止めておきましょう、とりあえず最初の予定通りに洞窟巡りをしませんか」
「はい、ではツアーの予約に行きましょう、場所は何処ですかね」
すると教会の前にいた人達の中の一人の巨漢の男性が手を上げて「オー」と言った。
皆の眼が巨漢の男性に集中した。
「私は洞窟ツアーのバスの運転手だ、乗車券はそこの案内所で買えるよ」
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