第5話 彼と彼女の遭遇
彼がアーケードの様な歩道を歩いていると前を歩いている人達が両側に別れ誰かに道を譲る様にした。
彼は誰か有名人でも来ているのかと思って歩きながら見ると正面からスタイル抜群な超美人な女性が歩いて来るのが見えた。
その女性は何気にジーンズ、Tシャツ姿で小さめのバックを肩に斜めに掛けた極普通の恰好なのだが歩きかたが優雅、優美で顔は天使の様に可愛いい。
だがか、だからか、男は誰も声を掛けず、同姓の女性さえも道を譲る程に圧倒していた。
彼も思わず歩道の隅に寄り道を空け彼女の全身を眺めていた。
彼が見つめている間に何度か目が合い、彼はドギマギし視線を逸らせた。
彼女が彼の前に来た時に突然、彼女が歩みを止め彼を驚かせた。
彼女が彼の方に向き、なお一層彼をドギマギさせた。
そして彼女が言った言葉でこれ以上無い程に彼をびっくりさせた。
「あなた、日本人」
日本語だった。
彼はとっさに答えられず「ポカーン」としていると彼女がまた聞いた。
「日本語が解らないのね、中国人それとも韓国人、チャイニーズ・オア・コリアン?」
そこで初めて彼は日本語だと気が付き、それでも言葉にできず首を横に振る事しかできなかった。
こんなに欧米人の代表の様な人のそれもこれ程の容姿端麗、超美人から、まさか日本語が出るとは予想を遥かに超えて奇跡にしか感じられなかった。
彼は一つ大きく息を吸い答えた。
「日本人です」
「あぁ~良かった、私、東洋の言葉は日本語しか出来ないから」
彼は余りの驚きにまだ立ち直れていず言葉が出なかった。
「少し先に美味しい朝食の店があるらしいの行きましょう」
10センチ近く背が高い彼女は彼の腕を掴んで歩き出した。
彼は掴まれた腕に彼女の大きな弾力のある胸が当たるのを感じながら引っ張られる様に歩いて行った。
その店は本当にちょっと歩いた処にあった。
その店の男性店員も彼女を見てビックリし店の日陰のテラスの一番良い席に案内した。
勿論、彼を見て何でこんな東洋のそれも中年の金も無さそうな男といるのだ・・・と言う様に彼を上から下まで、下から上まで品定めを何度も繰り返していた。
それはその店員だけでは無く店のお客と他の店員、店の前を歩く人達全員の視線も同様だった。
彼にはそんな視線が痛く感じられたが彼女には一切感じないらしく彼に話掛けた。
「それで日本の何処から」
「東京です」
東京と聞いて彼女の興奮度合いがヒートアップした。
「何処にすんでいるの? 皇居の近く?、浅草の近く?、東京タワーの近く?、スカイツリーの近く?
」
「窓からスカイツリーが見えます」
「おぉ~素晴らしい」
「タワーからの眺めは凄いわよね」
「すみません、私は登ったことが無いのです」
「えぇ~、ああ私もそう言えばエンパイアには無いわ~」
「ですよね」
「ですね」
「ところで貴方はどうしてそんなに日本語が上手なのですか」
「私は古い物、古ければ古い程良いのですが考古学が大好きなのです」
「世界にはエジプトやイタリア、ギリシャなど古い文明は一杯あるでしょう」
「そうですよね、それらも勉強しました、調べました、でも一番惹かれたのは日本の卑弥呼でした」
「卑弥呼ですか、日本人以外で卑弥呼を知っているのは非常に珍しいのではないですか? どうして、何故卑弥呼に辿りついたのですか?」
「世界で一番長い家系は日本の皇室です、文書になっている、記録されている、見つかっている文献では最古の家系です、それを調べている内にです」
「成程、でもクレオパトラでは無く卑弥呼ですか」
「卑弥呼・・・知ってます~?」
「どれ位知っていると知っていると言えるのか判りませんが・・・少しなら」
「う~ん、日本人の少しは当てになりません、可成り詳しいのですね? 貴方は九州説ですか、それとも畿内説ですか」
「・・・本当に調べたのですね~、私はどちらでもありません」
ここで彼女が少しびっくりした様に目が見開かれた。
「何処に邪馬台国が有ったと? 秘密ですか?」
「秘密な訳ではありません、きっと誰か同じ考えの人もいるでしょうが私は青森だと思っています、アメリカ人の貴方には青森なんて田舎はご存知無いでしょうね?」
彼の言葉に彼女の表情が驚きとも喜びとも着かぬ物になり次の瞬間に彼女の両手が彼の両頬を挟み頬にキスしていた。
二人の様子を興味深げに見ていた周りの人達から嫉妬の声と驚きの声が上がった。
彼は突然の事に嬉しさと幸福感に包まれ身体が固まった、が、周りの人達の声に周りを見渡し嫉妬に燃える男達の刺す様な視線にさらさられた。
「御免なさい」
自分の行動に驚いた彼女が彼に謝った。
そして周りを見回す彼の視線に気が付き彼女も回りを見渡し彼に対する威嚇の視線に対して「何か文句でもあるの」とでも言う様な視線を浴びせ返した。
だが、周りの男達には、そんな怒りを含んだ彼女の視線も好感にしかならなかった。
「いえいえ、こんなに嬉しい驚きなら何度でも良いですよ・・・でもその内、男どもに殺されるかも」
「何故、貴方が殺されるの、何か悪い事したの」
「あぁ~、貴方は自分の魅力をお判りでは無い様ですね」
「私の魅力・・・・・・ですか?」
「貴方は飛んでも無くスタイル抜群で物凄く飛んでも無い絶世の美女なのですよ」
「私がですか? まぁ~少しはスタイルに自信はありますが、顔は普通でしょ、私より美人は私の周りにも一杯いますよ」
「美人の中には自分が綺麗だと知っている人と気付いていない、知らない人がいる・・・と聞いた事が有りますが、どうも貴方は完全に後者のようだすね」
「私って、そんなに魅力があるのですか? 男の人たちから見て」
「途轍もなく魅力的ですよ、私も男ですから、いろいろな美人を綺麗な人を見てきましたが貴方がダントツで一番、桁違いの一番です・・・これまでに男の人に声を掛けられたり、跡を着けられたりとかは無かったのですか」
「そうですね・・・中学生の頃からでしょうか、知らない人から一杯声を掛けられる様になりました、それで父が心配して護身術にボクシングを勧めてきました、その次が空手で次が合気道でした」
「凄いですね、今も三つともやっているのですか」
「ボクシングは止めました、でも州のチャンピオンになったんですよ」
「えぇ~、それでどうして止めたのですか」
「当然ヘッド・ギアで顔の防御はしていましたが、それでも試合の後は顔が腫れました・・・それで・・・母が女の子が顔に傷を着けてはいけない・・・と」
「それで、次の空手ですか」
「そうです、でも空手も結局、足が腫れるし手も腫れますし時々顔も蹴られました・・・ので次でした」
「合気道ですか・・・それで男どもからの誘いはどうなりました、暴漢を撃退出来ましたか」
「撃退も何もボクシングで州のチャンピオンになった時点で誰も寄り付かなくなりました」
「アメリカは銃があるでしょう・・・銃で脅されたらお仕舞じゃないですか」
「その通りです、ですから銃の練習もさせられましたし携帯もさせられました、護身用なのに何故か遠距離のスナイパーの練習もしました、不思議でしょう?」
「不思議ですね、でも遠距離の射撃は面白かったでしょうね、私は大好きですよ」
「えぇ~日本は駄目でしょう」
「そうですよ、だから海外、私は主にグアムで射撃をしていました、私の趣味の一つがダイビングでそのついでに射撃をしていました、時々、ダイビングに国内に行ったのですが射撃が出来ないのが残念でしたね」
「えぇ~貴方もダイビングをなさるのですか、私もです、何処の団体のライセンスでどのクラスですか、私はPADIのダイブ・マスターです」
「それは凄いですね、残念ですが私はアドバンス・・・ド・・・です、ドがいるのでしたね」
「ドは要ります、けど無くても意味は通じるでしょ、世界中のダイバーには・・・でどうして次へ進まないのですか」
「職業にするつもりもありませんし年会費も掛かりますし、第一に私、泳げないのです」
「わぁ~それは致命的ですね、無理ですね・・・何だか貴方とは話が尽きないのですが・・・」
「そうですね、実は私の他の趣味に遺跡巡り、寺社仏閣巡り、世界遺産巡り、古代文明研究があるのです・・・趣味が貴方と重なっている様です」
「わぉ~凄い、一日や二日では話はきっと終わりませんね・・・でも確認させて下さい、まずは簡単な処でエジプトの三大ピラミッドは?」
「クフ、カウラー、メンカウラー」
「南米の天空都市?」
「マチュピチュ」
「塩の湖?」
「ウユニ塩湖」
「13日の金曜日と言えば?」
「テンプル騎士団」
「う~・・・・・・パリの中心は?」
「シテ島のノートルダム寺院前のゼロ地点、待って下さい、失礼ですがそんな質問では駄目ですね、このネット時代に・・・検索すれば直ぐに判ります、それよりもそのデータをどう受け取るかだとおもいますね」
「どう受け取る・・・か、と言うと」
「例えば、クフ王が建てたとされるピラミッドは・・・私はもっと古いと思いますしスフィンクスはそれよりももっと古いと思っています」
「おぉ~私も同じ意見です、実際にみましたか」
「えぇ~実際に見た感想です、貴方もですか」
「えぇそうです、石の風化から見て同年代とはとても思えませんでした・・・貴方は本当に考古学が好きなのですね、お仕事もその関係ですか」
「いえ残念ですが、コンピューターのエンジニアです、貴方は?」
「私はMITの学生です、でも考古学関連です、年代測定の新開発を行っています」
「それは凄い、今は有機物が見つからないと正確な年代が判りませんからね」
「そうなんです、それがもどかしくて選びました」
「貴方と話ていると話題に事欠かないのですが卑弥呼の続きは、空手、合気道の続きは・・・考古学、古代文明、ダイビング・・・切りがありません」
「本当に私も貴方の仕事の話も聞きたいし旅行先の話、特に遺跡とダイビングに何処にいったかとか・・・ちょっと待って下さい」
彼女は片手を前に出して話を暫く止めた。
彼は無言で回りも気にせず待った。
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