第12話 好機の喚問

明朝。


里に帰る討伐隊の足取りは重かった。

捕まえた鬼を取り逃してしまったことで、一団の士気が低くなっていたせいだ。


しかし、逃げられたことに関して、誰一人俺を責める者はいなかった。


「琥太郎。傷の具合はどうじゃ?」


荷車を引く男が、後ろの台で横になる俺に問いかける。


「大丈夫だ。傷は浅かったからな。それにしても、すまなかった。俺のせいで、鬼を逃してしもうた」


「気にするな。誰が見張りをしていても同じ結果だったじゃろう。むしろお主だったからこそ、その程度の傷で済んだのかもしれぬ」


男達は口々にそんなことを言って、俺を慰めるのだった。




里に到着した後、俺は幕府の派遣した医者にかかっていた。

森で七日間遭難していたこともあり、医者は俺の健康状態を入念に調べあげる。


腕の傷以外に特に問題は無く、一通りの検査を終えた俺が茶屋で一息ついていた時だった。


討伐隊にいた男が慌てた様子で、団子を食う俺の元へ駆けて寄って来る。


「琥太郎。役人がお前に話を聞きたいと言って探しておったぞ」


「役人? いったい誰が?」


百目鬼次門どうめき じもん殿だ」


「じもん…。知らぬ名だ」


俺はその仰々ぎょうぎょうしい名前を聞いて首をかしげる。


「俺も詳しくは知らないが、オオイタチの討伐を発案したのは、そのお方らしいぞ」


「ほう…」


オオイタチの討伐作戦にあたり、拠点となっていたこの里には、複数の役人が派遣されていた。

現地に送られるような人材は下っ端のような者が多く、そのほとんどが役に立たない者達だった。


だが、討伐作戦を発案することができるほどの発言権を持っているならば、その次門じもんという男はそれなりに位の高い役人なのだろう。


「そんな者がこの里まで来ているのか…」


その次門じもんとやらに呼び立てられるということは、おそらくただ事ではないだろう。

あの森について詳しく聞かれる可能性が高い。


しかし逆にこれは好機でもあった。

その次門という男を言いくるめれば、森へ人間が入ることを阻止できるかもしれない。

簡単にはいかないだろうが、試してみる価値は十分あるだろう。


そう考えた俺は、百目鬼次門の元を訪ねることにする。

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