第4話 鋼鉄の胃袋

あれから二日が経った。


その間、艶鬼えんきは俺の側をほとんど離れようとはしなかった。

そして眠っている時以外はひたすら会話を強要してくる。


艶鬼は非常に子供っぽい性格をしていて、それが外見の幼さと合致していた。


どうせ暇だからと話相手をしてやってるが、俺はそんな彼女と無駄に打ち解け合ってしまったのだった。



「もう傷が塞がりかけている…。これはやはり妖術のなせる技か…」


死の危険があったほどの傷は、たったの二日で動き回れるほどに回復していた。


「お主の傷に塗ったのは河童かっぱが作った薬じゃ。非常によく効く代物なんじゃが、河童の奴が出し渋りおったから、目を盗んでくすねてきたわ」


いたずらに笑う艶鬼は、俺の様子を確かめると、一人で納得したかの様に何度も頷いている。


「随分と元気になったようじゃな。根の外に出よ! 今晩は馳走ちそうを用意してやったぞ!」


「馳走?」


「ああ、もうかゆは飽きたじゃろう? 少しはまともなものを食わして、もてなさんとな」


確かに二日間、用意された粥しか口にしていなかった。

他の物が食べられることに期待を抱いた俺は、艶鬼のねぐらから外の広場に出て行くのだった。



「…なんだこれは」


ねぐらの外に出ると、大木の下には焚き火が起こされていた。


もてなしと聞いて、微かに期待を抱いていた俺は、そこで炙られている物を見て顔をしかめる。


「なにって、かえるにヤモリ、それから栄養価の高い昆虫などじゃな」


「…これが妖怪流のもてなしと言うわけか」


「なんじゃその顔は! これでも、人間のお主が食えそうなものを厳選したのじゃぞ!」


「まあ、俺にとっては、食えんと言うわけじゃ無いが…」


各地を放浪する旅で、食い物に困った時はどんな物でも食べた。

その俺からすれば、世の中食えない物の方が少ない。


俺は焚き火のそばに座り込むと、期待を裏切られた気持ちを払拭ふっしょくできないまま、艶鬼の用意した食事にかぶりついた。




「これは…うまい!」


見た目が悪く、喜んで食べたいとはあまり思えないそれらは、驚いたことにとてつも無く美味だった。


「そうじゃろう、そうじゃろう。だから馳走だと言うたのに、お主は気に食わなさそうな顔をしおってからに…」


俺は艶鬼の言葉もきかず、目の前の下手物げてものを食い漁る。


「おおっ、驚くほど夢中になっておるのう。好きなだけ食うがよいぞ!」


俺が食事をする様を、艶鬼は満足そうに微笑みながら眺めていた。

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