8日目 【感染源】

隔離部屋かくりべやにいるチャンの具合がだんだん悪くなっていた。コホコホとせきが出る。

胸の辺りが苦しい。たまにチクッと針がしたような痛みが走る。


このウイルスはどうやら肺炎を引き起こすらしい。


チャンは人工呼吸器をつけて、目が覚めてもボーッと天井をながめているだけだった。

隔離部屋かくりべやのドアが開く音がして、コツコツと足音が自分のほうへ近づいて来るのがわかる。きっと医療班のメンバーが食事を持ってきてくれたんだなとチャンは思った。

この数日間、3食の食事とトイレぐらいしかやることがない。


隔離されているが定期的に特別医療班とくべついりょうはんのメンバーが交代でチャンの様子を見に来ていた。ウイルスにおかされた体のデータ収集と食事の世話である。

どうやら医療班に所属している看護師のイーハンがトレーに載った食べ物を運んで来てくれたようだ。


特別医療班のメンバーがマスクとゴム手袋をしているだけで自分と接触してくれることに安心感を覚えるチャンだった。


本当に危険なウイルスの場合は、隔離部屋の中にさらに透明なビニールでおおわれたシェルターが設置され、特別医療班は化学防護服を着て、ウイルス感染者の対応に当たるように訓練されている。


中国では何度か生物兵器として開発したウイルスが世間に漏れ出したことがあり、

またたに街にひろがって収拾しゅうしゅうがつかないことがしばしばあった。


数年前に大きくテレビで報道されたニュースでは、突然現れた病原菌によって街外れの病院で集団感染したという事故が報道されていた。


そのニュースはあくまで表向きに情報操作されているだけで実際はチャンが所属している国家機密こっかきみつの研究所の別の部署で研究者がウイルス感染したのが原因だったとされている。


そのウイルス感染した研究者は自分の命が持たないことがわかり、YouTubeに国の陰謀を暴露した。

その動画を見た人たちの意見は賛否両論あり、動画の内容を信じる人と批判的な意見で信じない人やはなから否定している人がいた。


しかし、その動画をアップした後にウイルス感染者は消息を絶った。

研究所で働いている人たちはわかっていた。ウイルス感染者は政府が陰で動かしている特殊部隊によって連れ去られ抹殺されたのだと・・・・。


研究者からウイルス感染が拡がり、街外れの病院で集団感染した事故では、

結局、収拾がつかなくなり、病院にいる医師や看護師、患者のすべてがウイルスに感染した。

すべては手遅れだった。少しの手違いで研究者が研究所の隔離部屋ではなく、自宅待機を命じられ、何日か続いた自宅待機の間に病院におもむいてしまったのだ。


本当は誰にも悟られずに自宅で謎の病死にしたかったのではないかとチャンが所属する研究所のリーダーが言っていた。

それほど感染力が強いウイルスではなかったので十分その可能性は考えられた。


ウイルスに集団感染した病院は、晴れた日に病院の後ろの山で土砂崩どしゃくずれが起きて病院ごと埋まってしまったそうだ。

医師も看護師も患者も生き埋めである。それはニュースで報道されなかった。


研究所で働く誰もが不信感をつのらせながら、そのことは一切話すものはいなかった。


感染源は一体どこなのか?


それを一般人が知ることはない。

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